第34話 いきなり始まるお泊まり会
「ふぅ……美味い」
俺は今、霊夢と妖夢の二人といっしょににお茶を飲んでいる。このお茶は実に美味い。
「美味しいですね」
「そうでしょ?」
霊夢はドヤ顔で妖夢の言葉に反応する。おまえが作ったわけではないだろうに……
そのことを促すかのように、俺は彼女に質問を振る。
「どこで取り寄せてるんだ?」
まあ、予想はつくんだけどな。
「もちろん、外の世界よ。日本……だったかしら。紫が持ってきてくれるの」
紫さんか。んじゃ、この日本刀もそうなのかな? あ、日本刀で思い出した。もう使わないかもしれないんだよな〜。妖夢に返しておこうかな。
「妖夢、気付いてたかもしれないが、日本刀……」
「返さなくていいですよ。記念として持っておいてください」
まさかの返答。まあ妖夢がこう言うんだし、言葉通りに持っておこう。
「そういえばあんた、最初のころとずいぶん口調が変わったんじゃないかしら?」
そう言われてみると、たしかにそうだな。前までは敬語だったけど、今じゃけっこう馴れ馴れしいか。こっちの方がすぐに親しくなれるかなと思ったんだよな。幽々子さんとか紫さんとかの偉い人は除いて。
「そうだな」
彼女の言葉に返事をして、俺はお茶を飲む。ああ、美味い。
「あ、もうこんな時間……」
妖夢が思い出したかのように言った。空はすでに橙色に染まっていた。
「では、私はこれで……」
「妖夢、待って」
霊夢が引き留める。急に肩を持たれた妖夢は少し足がよろけたが、霊夢の方を見るなり首を傾げた。
「今夜、泊まっていかない?」
そう言われた妖夢は驚いた様子を見せた。そりゃそうだ。約束もなにもしてないのに、急に泊まっていけと言われたのだから。
「で、でも幽々子様が……」
「大丈夫よ。幽々子は私が面倒見るわ」
聞き覚えのある声がどこからか聞こえて来る。
「あら、紫……」
「紫様は今夜、幽々子様と大切なお話しをされるのだ。妖夢、食事のことなら任せてくれ」
藍さんがスキマの中から妖夢に言った。
「す、すみません、ありがとうございます。幽々子様をどうかよろしくお願いします」
そういって、妖夢は頭を下げた。
「ゆっくり休むといいわ。それじゃあ、行ってくるわね」
紫さんはそう言い残し、スキマを閉じた。
「今日はお母さんもいないし、お泊まり会みたいなもんよ」
お、お泊まり会……? まさか、魔理沙もか?
「もちろん、魔理沙もよ」
お、おい、マジかよ……イヤってわけじゃねぇけどよぉ……狼〜、助けてくれぇ……
俺は溜息を吐きながらも霊夢に続き、中へとあがった。
「——それじゃあ、幻真は料理を頼むわ。妖夢はお風呂を沸かしといて」
霊夢に言われた妖夢が風呂に行ったのを見て、俺も台所へと向かう。いっちょやりますか。魔理沙が起きることも願いつつ……
「やぁ〜霊夢〜」
ん? このタイミングで――
「あら、萃香じゃないの」
「萃香さん⁉︎」
こ、これはまさか……
「ん? その子はどうしたんだい?」
「いろいろあったのよね〜」
魔理沙の様子に疑問を持った萃香さんの質問に対して、霊夢は疲れ切った顔で答えた。俺はそちらの方を気にしつつ、料理をする。
「ふむ、幻真ともうひとりいるね?」
さすが萃香さん、お見通しか。まあ、隠すつもりなんてないんだけどな。
「ええ、いるわよ。妖夢が」
「妖夢……ああ、剣士の娘かい? なるほどねぇ……お泊まり会でもするのかな?」
い、いったいどこからそんな予想を……
「まあ、そうよ。あんたもどう?」
「……霊夢が誘うなんて驚いたな」
「ならいいわ。帰って」
「わかったわかった! 泊まっていくよ!」
萃香さんは焦った様子で言った。ということは、五人分作ることになるのか。材料足りるかねぇ。作れるだけ作るか……
「——お風呂湧いたよ〜。あれ、あなたは……」
「私は伊吹萃香。見ての通り鬼さ! 一度会ったことあったよな?」
「ああ、たしかあのとき……」
妖夢の言うあのときっていうのは、三日置きの宴会のときかな。
「なんか美味そうな匂いがするな」
「魔理沙、起きたならなにか言ってからその台詞を言いなさいよ」
よかったよかった、目が覚めたのか。一時はどうなることかと。
「幻真〜、次は手加減してくれよな〜」
「ごめんごめん」
俺は頭を掻きながら謝る。でも、俺は魔理沙より強くなったことになるのかな?
「……よし、料理できたしメシ食うか」
俺は作った料理を食卓に並べる。妖夢も並べるのを手伝ってくれた。まったく、霊夢たちも見習ってほしいものだ。
「それじゃあ、いただきます」
俺の挨拶のあとに皆も挨拶をし、料理へと箸を伸ばす。それらの料理を口に運ぶなり、各々が感想を言った。
「うん、美味しい」
「美味いんだぜ!」
「やっぱり美味しいですね」
「美味いねぇ! 次の宴会に出してくれよ〜!」
喜んでもらえて嬉しい。萃香さんの要望通り、次の宴会のときに俺の手料理を振る舞おうかね。
皆で食事後の挨拶をし、俺と妖夢は食器洗いを、魔理沙と萃香さんは食器を運んだ。霊夢はめんどくさいと言って寛いでいる。少しは手伝ってくれよな……
「それじゃあ、俺は妖夢と食器を洗っとくから先に風呂行ってきな」
「わかったぜ。萃香、霊夢、風呂に行くぞ〜!」
霊夢は魔理沙に風呂に行こうと誘われ、顔を赤らめた。なんでわかるかって? 霊夢が照れるんじゃないかと思って見ていたのさ! どうやら萃香さんは、そんなこと気にせずに風呂へ行ったようだ。
「霊夢? 早く行こうぜ」
「わ、わかったわ! それじゃあ、あんたたち片付け任せたわよ!」
霊夢はさっさと歩いて行った。
「……霊夢、恥ずかしがり屋さんですね」
「そうだな」
俺はそんなことを妖夢と話しながら、食器を洗う。ふと、妖夢が質問をしてきた。
「幻真さんは幻想入りしたんですよね?」
「ん? まあ、そうだな」
そういえば、幻想入りしてからかなりの時間が経ったな。まだ幻想郷で会ったことない人もいるんだろうなぁ。正直言って、幻想入りして良かったかも。前の記憶が無いからなんとでも言えるけど。
「ふふっ……」
妖夢はなぜか笑った。俺は彼女がなぜ笑ったのか、わからなかった。
〈博麗霊夢〉
「もう、幻真ったら! 私が照れることを見越して様子を見てたわね! 呆れたわ!」
私はそう言いながら脱衣する。
「でも、魔理沙から誘ってくるとは……」
魔理沙も狙ってたのかしら? イヤではないけど、慣れないわね〜こういうのも。
「は、入るわよ〜」
私は声をかけ、魔理沙と萃香が待っている浴室へと入る。
「遅いよ霊夢!」
「霊夢、早く早く!」
「はいはい、わかったわよ」
私は言われるがままに、湯船に浸かる。三人入ってることもあり、湯が溢れる。
「あったかいねぇ」
萃香は気持ちよさそうな顔で言った。
「そうねぇ」
私もうっかり癒される。すると、魔理沙が何やら提案してきた。
「なあ、洗いっこしないか?」
「え? ちょ、ちょっと魔理沙⁉︎」
「私はいいよ?」
す、萃香……あんたねぇ……
「れ〜む〜、やろうぜ〜」
「あーもう、わかったわよ……萃香が魔理沙を洗って、魔理沙が私を洗う。これでいい?」
「ああ! そんじゃさっそく……」
魔理沙は私の背中を洗う。私は顔が赤くなってしまった。
「交代しようよ!」
萃香に言われ、私が魔理沙の背中を洗い、魔理沙が萃香の背中を洗うことに。
「霊夢、気持ちいいな」
もう! 恥ずかしくなるなるじゃないの!
そんな気持ちになりつつも、一通り洗いっこを終えて湯をかける。
「もう一回浸かってから上がろうぜ」
魔理沙の再び湯船に浸かる。やっぱりあったかくて気持ちいい。私と萃香が端っこで、魔理沙が真ん中となっている。私はいまだに恥ずかしくて顔が赤くなっているのを隠すため、そっぽを向いていた。
チラッとふたりの方を見ると、萃香は上を見ながら、気持ちいいね〜と言っていた。魔理沙は、ふう……と溜息を吐いていた。私は相変わらずそっぽを向いていた。
「霊夢? どうしたんだ?」
心配した魔理沙が私に聞いてくる。
「だ、大丈夫よ! 気にしないで!」
やっぱり、なんだか恥ずかしい……
「そっか。そんじゃあ、のぼせちゃいけないから、そろそろ上がろうか」
魔理沙が上がり、萃香も続く。私も慌ててふたりに続いた。なんだろうか、ちょっとの一時だったけど……楽しかった。こういうのも……べつに悪くないわね。