第32話 狼の怒りと憎しみ
〈狼〉
「幻真、しっかりして!」
「幻兄、起きて!」
僕とフランは返事のない幻真を必死に揺さぶり起こす。だが、彼は反応を示さない。
「くそっ……おまえは……僕が許さない!」
「心配しなくても、そいつは死んで——」
「おまえを殺す!」
「……そうか。それなら私も、本気で戦わせてもらおう」
僕は妖力を最大に引き出す。相手もまた、魔力を引き出していた。
「風魔神! 僕に力を!」
「風魔神だと? おまえ、いったい何者だ?」
「ただの妖怪さ。怒りと憎しみで力を制御できないんだよ。君のせいでね……」
幻真を……大事な友人をこんな目に合わせた怒り、そして憎しみ……僕はコイツを許さない。
「暴符『風魔之嵐』」
「ぐっ、なんと強烈……」
「キャッ!」
僕が風魔神を呼んだとき、能力は変わる。『風魔を操る程度の能力』へと。
「妹様! あ、あの人はいったい?」
「咲夜、幻兄を運んで!」
「はっ……承知しました」
ナイスだよ、フラン、咲夜さん。
「余所見をするな」
相手は蹴りを入れて殴りかかってくる。僕はその蹴りを片腕で受け止め、パンチを手で受け止める。
「格闘には自信があるようだな」
「まあね。一応近接でも戦えるよ」
それを聞いた奴は、ほうと呟くなり大量の弾幕を飛ばしてきた。
「『風魔壁』」
その弾幕を防ぐために、僕は結界を展開する。大量の弾幕は防がないと対処しきれないからね。
「……風魔使いか」
「それがどうかした?」
「おもしろい。だったらこれはどうだ?」
飛んでくる銀色のナイフを弾く。しかし……
「ぐはっ……なん、で……」
弾いたはずのナイフは腹部に命中。スピードはそこそこだった。咲夜さんより少し早いぐらいか。だけど、弾いたはずなんだ。どうしてナイフが刺さっているんだ……?
僕は刺さったナイフを抜く。刺さった腹部からは血が出てくる。痛みからそこを抑え、膝をつく。
「おまえはもう戦えまい。おとなしく負けを認めろ」
敵を取れないまま、僕は負けるのか? 情けなさに涙が出る。だがそのとき、なにかが頭を痛めた。
「ッ⁉︎ 頭が……」
僕は頭を抑える。そしてまもなく、意識が途絶えた。
「——おまえ、さっきと様子が変だぞ?」
いったいなにが……
「切り裂く」
「……風魔神の身というわけか」
その狼という人物は狂気に満ちて瞳は赤く染まっており、自我はなさそうだった。
「まあいい。相手をしてやる」
私はプラチナのナイフを彼に向かって投げた。彼にナイフが刺さったはいいものの、痛みを感じる様子もなくそのナイフを抜いてしまう。
「どうなっている?」
「確かに刺さったよ。でも今の僕じゃ痛くない。むしろ、なにも感じないね」
とんでもない奴だな。
「幻真にも使った技だ、『弾砲』」
これをまともに食らったら、立ってはいられまい。
「風符『辻斬』。こんなもの、簡単に切り裂いてあげるよ」
ほう、まさかあの技を切るとは……なかなかやる。
「風符『竜巻嵐』」
「ぐっ……」
これまた強烈な技だ。まともに食らってしまった。
「なんで避けなかったんだい? そんなにダメージを食らってないのに。おもしろくないよ」
コイツ、壊れているのか……?
「ふっ、あまりいい気になるなよ。『七星弾幕』」
この技は威力もあり、スピードもある。そして弾幕の数も多い。
「結界で防ぐだけじゃあ、おもしろくないなぁ……風符『緑風弾』」
「嘗めるなよ。『属色派弾』」
弾幕がぶつかり合っている中で、私と狼は拳をぶつける。
「すまないが、これで終わりにさせてもらうよ。唱符『精霊の誓い』」
私はそう唱え、狼に放つ。
「あ、ぐはっ……」
「正直、ここまでやるとは思っていなかった。風魔神のおかげかもしれないが。しかし、今のおまえでは私を倒せない。またいつでも相手になろう」
私は倒れた狼にそう言い残し、その場を立ち去った。
〈幻真〉
くそっ、あいつはいったい何者だ! ただ者ではなさそうだし、フードを被っていて決定的な性別はわからなかったが、声的には女っぽかったよな。それにしても、なんていう強さだ。なんのために俺と戦いに来たって言うんだ?
「クソッ……」
「あっ、幻兄! 起きたんだね!」
フランに咲夜、レミリア、パチュリー、そしてこあが俺を心配そうに見ていた。美鈴がいないことに疑問を持つ。
「美鈴? そういや美鈴は……」
あの謎の人物が簡単に庭に侵入してきたってことは、美鈴は寝ていたのか? あのすざましい爆発音が聞こえたはずなのに……
「狼は……って隣に⁉︎」
なんで狼がこんなに傷を⁉︎ まさか戦ったのか? 彼は俺以上に包帯が多く巻かれており、まるで死んだかのように眠っていた。
「俺と同じく腹がやられているな……」
俺は自分の腹を抑える。痛みはもうマシだった。
「狼はかなりの重症よ。当分目を覚まさないかもね」
くっ、俺があいつを倒していれば……
「それにしても、風魔神……」
風魔神? そういや、魔理沙と手合わせしたときに狼が使っていたような……
「なるほど、あの感じはそういうことか」
一同は首を傾げる……が、咲夜とフランはわかっていたかのようにこちらを見ていた。
「とりあえず、俺は少し修行をさせてもらうよ。怪我のことなら心配ない。狼を頼んだ」
「わ、わかったわ」
俺は服を着て鞘に入った日本刀を左手に持ち、紅魔館を後にした。
「——修行といっても、自主練になるのか」
誰かに頼んで教えてもらうってのもなぁ……
「とりあえず、博麗神社に戻って自主練だ」
「——あら、おかえり。狼は?」
「あぁ、いろいろとあってな」
俺は霊夢に紅魔館で起こったできごとを軽く話した。
「ふーん、異変ではなさそう。修行なら勝手にしてくれていいわよ。だけど、あんまりやり過ぎないこと、いいわね?」
「わかってる」
俺は日本刀を縁側に置き、自主練を始めた。




