第31話 不可解な人物
「さてと、着いた着いた」
俺は今、フランを鍛えるために紅魔館へやって来た。まあ、肝心の門番がねぇ……
「美鈴!」
「ひゃっ⁉︎ さ、咲夜さん! すみませんでした!」
美鈴は咲夜によって叩き起こされ、その勢いのまま謝る。
「妹様、お庭でよろしいでしょうか?」
「うん、いいよ! 幻兄、よろしくね!」
フランは笑顔で手を差し伸べる。俺は軽く彼女の手を握った。
「それじゃあ、フランのスペルカードを見せてもらってもいいかな」
フランはスペルカードを出して発動を繰り返す。どれも色鮮やかで、綺麗なものばかりだった。
「——なるほど、これで全部だな?」
フランは頷く。一通り見た感じ、杖のような形状をしたレーヴァテインが使えそうだな。俺はさっそく日本刀を鞘から抜く。
「幻兄、なにをするの?」
「フラン、レーヴァテインを使って特訓だ」
フランは呆然としていたが、何かを察して頷き、レーヴァテインを手に握る。
「いくよ、幻兄!」
俺とフランは同時に切りかかった。
「妹様は彼に任せておいて大丈夫そうね」
様子を見ていた咲夜だったが、特訓が始まるのを確認して館内へと入っていった。
〈狼〉
なんで僕なんだって思った? さっき目が覚めてね。魔理沙は帰ったのかな? 霊夢に事情を聞くと、幻真は紅魔館へ行ったらしい。
でも僕、紅魔館がどこにあるのか知らないんだよね。わざわざ行くのもなんだし、ここでくつろいでおこうかなと。霊夢は構わないって言ってたからね。
それにしても、みたらし団子食べたいな〜。
「欲求不満かな?」
え? 僕の心を読まれた? それに話しかけてきたし……
「どうしたの狼。なにかいるのかしら?」
キョロキョロしていた僕を不思議に思った霊夢が問い掛けてくる。僕の心が読まれて話しかけてきたことを彼女に伝えるが、気のせいじゃないかと言われた。
だが、どうも気になってしまった僕は、先ほど気配がした方へと走っていった。
「ちょ、ちょっと狼! はぁ、行っちゃったわね……」
霊夢も追いかけようとしてたっぽいけど、すぐにやめたみたい。
〈幻真〉
「よし、いい感じになってきたな。もう少し頑張ってみようか」
「フラン、頑張る!」
彼女の頑張り具合には心惹かれた。それだけやる気があるってことだ。
「あれ? どこいった?」
ん? この声は……
「なんだ狼か。紅魔館の場所知ってたのかよ」
「あ、幻真。ここが紅魔館なんだね。人を追いかけてたらこれちゃった」
なんかすごいな。んで、人を追いかけてるって……
「ストーカーか?」
「怪しい人を追うだけでストーカーって……」
まぁ、そうだな。追跡みたいな感じか。ってか、狼は目が覚めたんだな――
「ッ⁉︎ 殺気!」
俺は木々の方から殺気を感じ取り、戦闘態勢を取る。
「幻兄? どうかしたの?」
フランは気づいていないのか。
「だれかいる。警戒するんだ」
「う、うん」
フランは手に持っていたレーヴァテインを構える。すると、木々の方から赤、緑、黄の三色の弾幕が飛んできた。俺はそれらを刀で斬る。フランはレーヴァテインで薙ぎ払い、狼は風のカッターを飛ばして弾幕を防ぐ。
「ふむ、やるな」
「だれだ!」
木の後ろから人が出てくる。しかし、コートについているフードを被っていて顔が見えなかった。
「名乗るほどの者ではない。ただ、幻真——おまえと戦いに来た」
戦いに来た? 頼んだ覚えはないがな。
「さっき僕の心を読んだのは君?」
「心を? あぁ、読んだな」
コイツ、何者だ?
「とりあえず、おまえの実力を見せてもらおう」
その言葉と同時に大量の弾幕が飛んでくる。
「ちょ、多い。炎防『灼熱結界』」
灼熱の炎でできた結界――火之結界のグレードアップ版だ。いつの間にだって? いつの間にかだ。
その結界によって、俺に飛んできた弾幕は溶かされる。
「ほう、やるな。ならこれだ」
感心した謎の人物は飛び蹴りをしてくる。
「ぐっ、近接と遠距離か」
その蹴りを、俺は腕をクロスしてガードする。それにしても、格闘系も持ち合わせていたとは。
「これはどうだ?」
次は殴ってくる。俺は再び腕をクロスして攻撃を防ぐ。俺は近接は刀剣類でしか無理だ。格闘系はまともにできない。これは不利かもしれないな。俺は一度、身を引いた。
「どうやら超近接向きではないようだな。『弾砲』」
やつはそう言いながら、弾幕のレーザーをいくつか飛ばしてくる。今の俺じゃあ、先ほどの結界では熔かせないだろう。なら、迎え撃つだけだ!
「なにをする気だ?」
「まぁ見てな。炎砲『溶岩熱砲』」
能力を重視した溶岩の弾砲ってところかな。
「予想以上にやるな」
「いいやまだだ。 炎真『勾玉炎弾』」
炎之勾玉のグレードアップ版だな。
「……『結界』」
俺の放った弾幕は、結界によって防がれる。硬いぞ、あの結界。
「それなら次はこれだ。炎弾『苑炎弾』」
炎円弾のグレードアップ版。俺が使用してるスペルはグレードアップ版がほとんどだな。
「円形状か。しかし隙が——ッ⁉︎」
「へっ、今までのなら真ん中に穴が空いていたが……ターゲットに近づくに連れて大の字のように塞がれるんだ」
傑作だな。
「なるほど、隙をなくしたと。『大弾幕』」
なかなかしぶとい相手だ。しかし、あいつからは殺気を感じない。いったいなにがしたいんだ? 実力試し? なんのために戦いに来たって言うんだ?
「『連弾幕』」
連続で弾幕を飛ばしてきたか。だったら、俺は炎龍を召喚しよう。
「龍符『三方炎龍』」
「これは少々厄介……『衝撃』」
なっ⁉︎ 炎龍が!
「大丈夫だ。殺しはしていない。さぁ、続けよう」
くそっ、いい気になりやがって……
「炎符『炎散風』!」
散った炎が弾幕となり、風に吹かれるようにして飛んでいく。
「ほほう、『結界』」
またしても結界で防がれてしまう。なんでこんなに硬いんだよ。
「幻兄……」
心配した様子で俺の名前を呟くフラン。長続きさせるわけにはいかないな。
「消炎……龍符『闇龍』」
雨の中、霊夢と戦ったときに召喚した龍だ。
「龍符『散宝龍・暗』」
「グハッ……いったいなにが……」
「おまえの視界を奪って闇龍が攻撃したんだ」
状態異常とともに攻撃だ。
「次で終わりにさせてもらう。龍符『呉散闇龍』——なっ⁉︎ 消えた⁉︎」
やつがいない、いったいどこへ……
「幻兄! 後ろ!」
しまった、背後を取られ——
「おまえの力はよくわかった。これで終わりにしよう」
「ぐ、はぁ……」
俺は腹部をなにかで刺され、地面へ倒れ込む。
「くっそぉ……」
「もう眠ったらどうだ。今なら致命傷で済むが?」
いってえ……腹を大きく刺されている。出血量がヤバい。
「まだ立つ気か」
自分でも立ててるのがおかしいぐらいだ。このまま眠ってもよかったが……負けて終わりたくない。
「まあいい、好きにしろ。槍符『グラディの槍』」
「ぐっ……龍符『幻闇龍真泊』ッ!」
槍の攻撃を避け、巨大化した闇龍をその人物へと放つ。
「無駄だ。『貫通』」
「ぐふっ……」
俺は闇龍とともに突き刺され、再び地面へ倒れ込む。そして、まもなく意識を失った。