第26話 永遠亭
〈幻真〉
俺たちは今、先ほど魔理沙とアリスといっしょに話していた怪しい竹林に向かっている。それにしても、時間が進んでない気がするんだが……原因は紫さんの能力だったりして。
「待ちなさい!」
突然後ろから声を掛けられた俺たちは、そちらへと振り向く。そこには、声の主である霊夢と彼女といっしょに行動していたであろう紫さんの姿があった。
「なんだ霊夢とスキマ妖怪か。おまえたちたちは何か見つけたのか?」
「ええ、あの竹林よ」
魔理沙に問われた紫さんは、俺たちが向かおうとしていた竹林を指す。
「奇遇だな。私たちもその竹林が怪しいと思ってな」
「本当かしら?」
霊夢が魔理沙の顔を覗き込む。
「ほ、本当だぜ! なっ、アリス!」
「ええ、本当よ。信じてあげて」
「あんたがそこまで言うなら……」
「とにかく、あの竹林に行こう。時間はないんだろうし」
「そうね。さっさと行くわよ」
俺たちは竹林へと向かった。
〈狼〉
僕たちは今、てゐにとある場所へと案内してもらってる。
「つ、着いたよ! ここが永遠亭! も、もういいよね⁉︎ なにもしないよね⁉︎」
「ご苦労、行っていいわ」
レミリアさんに許可をもらったてゐは、逃げるかのようにしてその場を去っていった。
「さてと、行こ——」
「危ない!」
歩こうとしたその時、進もうとしていた地面に穴が空いた。だが、咲夜さんの声に助けられ、穴には落ちずに済んだ。
「犯人はあの兎だったのかしら〜」
幽々子さんの予想を聞き、てゐはいたずらっ子なのかもしれないと考えた。
「おや、あなたたちは……」
そこには、足元に届きそうなほど長い薄紫色の髪と紅い瞳、さらには頭にヨレヨレのうさ耳があり、その根元に謎のボタンをつけている少女がいた。
「兎? それにしてはさっきの子と違いすぎる」
「私は鈴仙・優曇華院・イナバ。鈴仙で構わないわ。それで、あなたたちはここへ何をしに?」
彼女、鈴仙は自己紹介を終え、キッパリとした表情でこちらを見た。
「何しにって、異変解決よ。あなたこそ何者よ?」
「吸血鬼と、それに仕えているであろうメイド。隣にいる彼女は……どうやら亡霊みたい。その亡霊を守るようにして前に出ている剣士。彼女も従者みたいね。そして獣の風格を持つ男……」
彼女はレミリアさんの質問に答えることなく、僕たちを順番に見ながら分析するようにしてそう言った。
「なるほど。まあいいわ。それで、だれから相手をしてくれるのかしら?」
「へぇ……ずいぶん自信があるようね」
レミリアさんが犬歯を見せながら高揚感に駆られた様子で構える。
「お嬢様、ここは私が」
「では、私も」
咲夜さんはナイフを数本持って構え、妖夢さんは一本の長い刀を鞘から抜いて構える。
「あらあら、妖夢もずいぶんとやる気じゃないの」
幽々子さんが楽しそうに言う。
「二人がかりで来るか。まあいいわ。覚悟はいいかしら?」
鈴仙が手を銃のようにして構える。
「まずはこれよ。波符『赤眼催眠』」
鈴仙は弾幕を全方位に発射させた後、何かで弾幕を分裂させ再拡散させた。
「どうやら、彼女の能力によって再拡散させてるみたいね」
なるほど、それで再拡散したんだ。
「幻世『ザ・ワールド』」
咲夜さんは一瞬にして大量のナイフを出現させ、それらを飛ばす。ナイフは弾幕へと当たり、相殺された。
「まだ終わらないわよ。幻象『ルナクロック』」
彼女は米粒弾を波紋状に飛ばした後、青ナイフとばらまき用の緑ナイフを配置させて再稼働させた。
「ぐっ、散符『真実の月』」
一方の鈴仙は波紋状に弾幕を発射した後、一瞬だけ全ての弾を消失させてから再拡散を繰り返す。
「動きを読まないとマズいわね」
「うん。なんとか斬ってるけど、いつまでもつか……」
僕も行ったほうが……
「僕も応戦しに……」
「待ちなさい。あのふたりなら大丈夫よ」
レミリアさんに腕を捕まれ、そう言われる。幽々子さんの方に視線を移した僕だったが、彼女の従者を信じるその眼差しに、余計な心配をしてしまったと気づかされた。
「……そうですね。つい先走ってしまいました」
下がった僕は、戦いに視線を戻す。勝負はすでに大詰めだった。
「ぐっ……」
「咲夜!」
弾幕に被弾した咲夜さんの名前を、妖夢さんが叫ぶ。
「これで決める! 断迷剣『迷津慈航斬』!」
妖夢さんは楼観剣に妖力をつぎ込み、巨大な青色の光の刀へ変換して相手を叩き斬る。長い刀の楼観剣と、鞘に収められたままの小刀、白楼剣については幽々子さんに教えてもらった。
「師匠……すみません、油断しました……」
〈博麗霊夢〉
私たちがその竹林に着いたころ。
「こんな所に建物があったとはね」
その建物は永遠亭というらしい。紫も気づいていなかったのかしら。
「あっちにだれかいるっぽいな」
魔理沙が指す方に行くと、五つの人影があった。レミリアに幽々子、その従者の咲夜と妖夢。そしてもうひとり、見覚えのない男。
「狼、おまえも来てたのか」
「やあ、幻真。君も来てたんだね」
なるほど、この男が幻真の言っていた狼なのね。
「その娘は?」
「鈴仙だったかしら。名前長いから省略したわよ」
私が聞くと、レミリアが答えた。すると、幻真が注目を集めて皆に言った。
「なあ、俺に提案があるんだが。ここからは俺と霊夢と魔理沙の三人で行かないか?」
彼の提案に皆が首を傾げる。
「大勢で行ってもあれだし……俺たちの帰りが遅いと思ったら他の人たちは助けに来てくれ」
その意見に一同は賛成し、レミリアが言った。
「わかった。私たちはここで待ってるわ」
〈幻真〉
俺と霊夢と魔理沙の三人は、永遠亭へと足を踏み入れる。
「何か御用かしら?」
突然現れた女性は長い銀髪を三つ編みにしていて、前髪は真ん中分け。左右で色の分かれる特殊な配色の服を着ていた。
具体的には青と赤から成るツートンカラーであり、上の服は右が赤で左が青、スカートは上の服の左右逆の配色となっている。袖はフリルの付いた半袖。全体的に色合い以外はやや中華的な装いであった。
「あんたがこの異変の元凶かしら?」
「ここまで辿り着いたその実力、認めるわ。あなたたち、覚悟しなさい」
彼女は右手に弓を持ち、左手にはリボン付きの矢を持った。
「私は八意永琳、医者よ。私の能力……いや、技術と言ったほうがいいかしら。『あらゆる薬を作る程度の能力』で日々薬品の研究をしているわ」
薬か。なんだかヤバそうだ。
「さあ、覚悟しなさい!」
彼女は矢を放つ。
「くっ……霊符『夢想封印』」
「蘇生『ライジングゲーム』」
霊夢に対抗するようにして発動した彼女のスペルは、緑色の様々な弾幕を渦状に全方位へ放ちつつ、俺たちを囲むように青弾の大群を生み出す。青弾の大群は動くことはなく、一瞬で出現と消滅を繰り返している。
「防符『火之結界』」
俺は結界を展開する。
「夢境『二重大結界』」
霊夢も結界を展開し、弾幕を防ぐ。
「防御サンキュー! 恋符『マスタースパーク』!」
魔理沙が隙を狙い、スペルを発動。
「ふふ、残念。あなたたちはこれで終わりよ。『天網蜘網捕蝶の法』」
魔理沙の放ったレーザーに臆することなく発動されたそのスペルは、隙間なく埋めつくすレーザーと上下に移動する弾幕を組み合わされたものだった。その迫力に、思わず目を閉じてしまった。
しばらくして目を開けた俺は、霊夢と魔理沙が倒れていることに衝撃を受ける。そして、俺の中で何かが切れたような気がした。
「霊夢! 魔理沙! くっ……よくもふたりを!」
「いくらあなたたちでも、この私には及ばなかったわけね。おとなしく降参することを勧めるわ」
降参……? するわけないだろ。ふたりの意思を、俺が成し遂げてみせる!
「全魔力解放! 龍符『七方神炎龍』!」
「この魔力はいったい……! そんな! 私が負けるだなんて――」
「——それで、永琳さんはどうしてそんなことを?」
「すべて話すわ」
永琳さんは、かつて蓬莱山輝夜という人の教育係を務めていたらしい。
そのころ輝夜さんの能力により蓬莱の薬を作るが、その薬を飲んだ罪として彼女は月から追放されてしまう。
月の使者のリーダーも務めていた永琳さんは地上へと輝夜さんを迎えに行くが、その際に他の使者を皆殺しにして月から逃げる道を選んだらしい。
やがて輝夜さんと共に逃亡生活を続けるうちに幻想郷の迷いの竹林に行き着き、それ以降、永遠亭に輝夜さんの能力を応用した魔法を施して誰も入り込まないようにして隠れ住んでいたらしい。
その計画に、てゐという人物も協力していたらしい。
「なにはともあれ、異変解決ね」
「遅かったから様子を見に来たわよ〜」
レミリアと幽々子さん、その後ろにはアリスとスキマから顔を覗かせる紫さんがいた。
「狼たちは?」
「外で待ってるわよ〜。あらあら、このふたりやられちゃったのかしら〜」
「霊夢もまだまだね」
「魔理沙、大丈夫?」
煽る紫さんと心配するアリス。
「大丈夫よ、時期に目を覚ますと思うわ」
「あなたが異変の犯人ね。言っておくけど、隠れて過ごす必要はないわよ」
「それはどういうこと?」
その言葉とともに現れたその少女はストレートで腰より長い程の黒髪を持ち、前髪は眉を覆う程度の長さのぱっつん系。服は上がピンクで大き目の白いリボンが胸元にあしらわれており、服の前を留めるていたのは複数の小さな白いリボンだった。
袖は長く、手を隠すほどであり、左袖には月とそれを隠す雲が、右袖には月と山が黄色で描かれていた。また、ピンクの服の下にもう一枚白い服を着ているようだ。
そして下は、赤い生地に月、桜、竹、紅葉、梅と、日本情緒を連想させる模様が金色で描かれているスカートを履いていて、その下に白いスカート、更にその下に半透明のスカートを重ねて履いているようである。スカートは非常に長く、地面に着いてなお横に広がるほどであった。
「姫様……すみません。このザマです」
「あなたはよくやってくれたわ。それで、あなたが言ったことは本当かしら?」
「私は幻想郷の管理者よ?」
輝夜さんはニコッと笑って言った。
「これで隠れて住む必要がなくなったのね!」
永琳さんも笑顔になって頷いた。
こうして、異変は解決されたのであった。