第24話 終わらぬ夜と蛍の妖怪
永夜異変、始動。
平和な夜だった。 何事も起きていなかった。少なくとも人間にはそう見えていたのだ。
そんな人間のもとに妖怪が訪れる。 いつもなら妖怪退治は人間の役目だ。だが、こんな異変が起きていると言うのに、人間は一向に動こうとしないので痺れを切らしたと言う。 だが人間は、そのとき初めて異変に気が付いたのだ。
妖怪退治が役目の人間は、 異変を夜が明ける前に解決できるだろうか、と言った。 だが妖怪は言う。異変は夜を止めてでも今夜中に解決させる、と。
妖怪は月の欠片を求めて夜の幻想郷を翔け出した。 後を追うように人間も飛び出す。
魔を感じ、幻を打ち破る人間。
魔を遣い、幻を無効化する妖怪。
彼女たちは、夜を止める。
幻想郷の境に住む妖怪——八雲紫は、月の異変に気づいていたが、自分から行動するのは面倒であった。そこで、同じく幻想郷の境に住む人間——博麗霊夢のもとを訪れた。このふたりは「幻想の結界チーム」を結成した。
魔法の森に住む魔法使い——アリス・マーガトロイドは、みんなが異変に無関心だったため調査に乗り出てみたが行き詰まる。協力を仰ぐために、同じくこの森に住む人間——霧雨魔理沙のところへ向かうことにした。このふたりは「禁呪の詠唱チーム」を結成した。
紅魔館の主——レミリア・スカーレットは、メイドの十六夜咲夜に家のことを任せて出発しようとしていた。しかし結局、咲夜もお守り役としてついて行かざるを得なくなった。このふたりは「夢幻の紅魔チーム」を結成した。
白玉楼の主——西行寺幽々子は「その辺を飛んでいるのを落とせばいつかは当たる」と言いながら、庭師の魂魄妖夢と共にふらふらと出発した。このふたりは「幽冥の住人チーム」を結成するのであった。
〈幻真〉
このまま俺が出ないと思ったか! とまあ、そんなことは置いといて……
「どうやら、霊夢は紫さんとどこかに行ったようだな」
どうしようか。主人公である俺が出ないと話が続かん……わけでもないが。
「と言ってもな〜、俺ひとりで行くのも気まずいし……いっしょに行く人もいないし……霊妙さんは留守だし……」
仕方ない。ひとりで行くか……
〈狼〉
なんだか妙ですね。まるで時が止まったような……
「僕も動こうかな」
とりあえず、行動開始だ。
〈博麗霊夢〉
「意外ね。あんたから訪ねてくるなんて」
紫は動かないと思ってたけど、彼女から訪ねて来た。
「今回はちょっと特殊なのよね」
紫がいったその言葉に疑問を感じたが、それよりも気になることがあったため、そっちについて聞いてみた。
「ねえ、チームって何よ?」
「あら、気づいてないの? 私たち以外にも動いてる者がいるってことを」
魔理沙たちのことかしら……
「時間がないわ。急ぐわよ」
〈霧雨魔理沙〉
「まさかアリスから来るとは思わなかったな」
小鬼のときもそうだったが、今回も動くなんてな。
「あなたも、ひとりよりふたりのほうが心強いでしょ?」
「ああ。アリス、サンキューな!」
〈レミリア・スカーレット〉
「やっぱりあなたも来るのね」
「もちろんです。お嬢様ひとりでは危険ですから」
ほんと、お節介さんね。でも……
「ここがまた嬉しいところなのよ……」
「お嬢様? どうかされましたか?」
「な、なんでもないわ! さっさと行くわよ!」
〈魂魄妖夢〉
こんなにゆっくりしてていいのでしょうか……
「幽々子様〜、なんの宛てもなく出ましたが、本当に大丈夫なのでしょうか?」
「そう心配しなくても、なんとかなるわよ〜」
はあ……相変わらず幽々子様は暢気です……
〈幻真〉
なーんか走り回ってたら変な森に着いたな。
「ん? だれだあれ?」
目線の先には人間の子供くらいの体格で、首元にかかりそうなほどの長さの緑色のショートカットヘア、カブトムシの外羽を表したような燕尾状に分かれたマント、白シャツに紺のキュロットパンツを履いた——
「男?」
「女だよ!」
ありゃ、女か。それにしても、男に見えるが……待てよ? 昆虫の翼……ということは——
「虫の妖怪か?」
「そうだよ。私は蛍の妖怪、リグル・ナイトバグ」
「俺は幻真だ」
なんか、さっきからぶんぶん音が聞こえるんだが……虫かな?
「なあ、リグル。君の能力は——」
「『蟲を操る程度の能力』だよ」
んなっ⁉︎ 蟲だと!
「私、今むしゃくしゃしててね。だから……ね?」
なんか怖え……
「食らえ! リグルキーック!」
リグルが勢いよく蹴りかかってくる。だが、俺はするりと躱す。
「あ、あれっ?」
「手短に終わらせる。炎符『炎之勾玉』」
俺はそう言って、スペルを発動する。
「わわわっ……ちょっと! 危ないよ!」
「いやいや、おまえが最初に蹴りかかってきたんだよ」
「むう〜。もういいよ! 蠢符『リトルバグストーム』!」
機嫌を損ねた彼女はスペルを宣言する。それなら俺も。
「夢符『勾玉弾幕』」
俺もスペルを発動し、迎え撃つ。結果、俺の弾幕が押し勝ち、リグルに迫る。
「あっ——」
彼……いや、彼女は呆気なく敗れた。