第20話 剣術指南
「ふあ〜、よく寝た……」
昨日は食器の後片付けをした後、そのまま睡眠を取った。
「さてと、朝飯でも作ろうかな」
俺は台所へと向かう。妖夢と幽々子さんは睡眠中。起こさないようにしないとな。
「また五人前か」
材料あるかな? ——よし、あるな。昨日あんなに買ったんだし。
そういや今日、妖夢に剣術を教えてもらえるんだよな。楽しみだな〜。
「さーてと、作っていくか」
作り始めて数分後。
「できた!」
やっぱり五人前は多いな。
「あら、ごはんができたのかしら?」
匂いに誘われたのか、幽々子さんが台所へとやって来た。
「今ちょうどできたところです。食事の準備をしますね」
俺は料理を持っていく。
「幻真さん、私もお手伝いします。任せっきりは失礼なので」
起きてきた妖夢も料理を持っていく。
「妖夢、ありがとう」
妖夢は少し顔を赤め、小さく頷いた。
席について、一息吐く。
「ふぅ……よし、じゃあ食べようか」
俺たちは手を合わせ、挨拶をする。
「やっぱり幻真の料理は美味しいわ〜」
幽々子さんは相変わらずよく食べる。といっても、大食いは亡霊になってかららしいけど。ちなみに、この話は藍さんから聞いた。
「じゃあ妖夢、例の話、食器の後片付けが終わった後でいいか?」
「はい、大丈夫です」
終わった後に剣術を教えてもらう。魔力ばかり使うのも、戦術的によくなさそうだしな。
「でも幻真さん、私と剣を交えたとき、素人にしてはなかなかの腕前でしたよ? 実はやってたんじゃないですか? 炎龍でしたっけ。剣に変わるとは驚きです」
「俺もわからないんだよな〜。なんか、妖夢といい感じの勝負になってたみたいだけど」
まあ、妖夢に剣術を教えてもらえるから、もうちょっと扱えるようにはなると思うけど。
「ごちそうさま」
雑談していたら幽々子さんがご飯を食べ終えた。
「幽々子様、早いですね」
「そうなのよ〜、やけにお腹が空いてね」
俺も早く食べるか。
「幻真さん、そんなに慌てなくてもしっかり教えますよ?」
妖夢に注意されてしまった。そうだな、ちゃんと味わって食べよう。
しばらくして、俺と妖夢は手を合わせて挨拶をする。
「それじゃあ、片付けましょうか」
食器を台所へ運ぶ。量が多くて重かったが、剣術を教えてもらえるなら苦じゃなかった。
「——これで最後っと。ふぅー、よっしゃ〜! 片付け終わった〜!」
「お疲れさまです。それでは、さっそく稽古を始めましょう」
ついに教えてもらえる。わくわくが止まらない俺は、妖夢に続いて外へと出る。すると、妖夢が竹で作られた刀――竹刀を渡してきた。
「妖夢って、だれかに剣術を教えてもらったのか?」
「……私の祖父からです。白玉楼の先代庭師でもあります」
妖夢、おじいさんがいたんだ。
「そのおじいさんは、今どこに?」
妖夢は悲しい表情を浮かべて答えた。
「突然失踪したんです。いまだ消息不明ですが……」
これはマズいことを聞いてしまったと後悔する。
「妖夢、すまない……」
「幻真さんが謝ることなんてありません。さあ、この話はやめて稽古を始めますよ!」
妖夢は暗い表情を振り払い、笑顔で言った。俺は威勢よく返事をした。
「まずは素振りです!」
竹刀を縦に真っ直ぐ振る。竹刀とはいえ、少し重いため上手く真っ直ぐ振れない。
「やっぱり難しいですよね。私も最初は手こずりました。懐かしいです」
妖夢は小さいころから教えてもらっていたらしい。
「諦めん!」
俺は素振りを続ける。工夫をしてやり続けるうちに、安定してきた。そしてついに、真っ直ぐ振れるようになった。
「やりましたね! これは真剣斬りといいます!」
なるほど、これが真剣斬りか。これで炎を灯したら……あ、竹刀燃えるか。やめとこう。
「では、次です」
妖夢は斜め右下から斜め一線に刀を振り上げる。
「これは切り上げです」
これまた難しそうだ。俺は構えて素振りする。だが、これも繰り返しやっていたらできるようになった。
「幻真さん、上達が早いですね。次はこれです」
その後、いくつか剣術を教えてもらった。
「——それでは、本番ですよ」
本番だということで、妖夢は刀を渡してくる。
「これは?」
「日本刀です」
日本……たしか紫さんが言ってたけど、俺が現代にいたときに住んでいたであろう場所だよな。というか、なんでこんなところに日本刀が? 流れ着いたのか? まあ、いいか。
「ほう、なかなかの重量」
その刀は、予想以上に重たかった。
「重くて安定しにくいと思います。なので、さっきと同じように素振りを……」
「こうか?」
さっきのように、真剣斬りをする。
「幻真さん、スゴいですね!」
初めのころは、本物の刀でやっても中々上手くいかないらしい。
「それでは、これを斬ってください」
俺の前に、竹のようなものが置かれた。それは、孟宗竹と言うらしい。俺は真剣斬りを試す。
「この刀はよく斬れるんだな」
斬った竹は、綺麗に二つに分かれた。
「それでは、先ほど教えた技でこの竹を斬ってください」
俺は教えられた通り斬っていった。
「——よーし、いっちょ上がり」
「上出来ですね。もしかしたら、私よりも強い剣士になれるかもしれませんよ」
妖夢に褒められた。俺は彼女に感謝の言葉を伝える。
「妖夢〜、お腹減ったわ〜」
「はーい、ただいま〜!」
「あ! 妖夢、この刀は……」
「どうぞもらってください! 私には大事な二刀があるので!」
妖夢はそう言い、屋敷へと入っていった。もらってくださいって言われてもな〜。まあでも、武器が増えることに越したことはないか。
こうして、俺は妖夢に剣術を教わったのであった。