第18話 みたらし団子好きの正体
「昨日の宴会はいろいろと大変だったな……」
俺は今、縁側でお茶を飲んでいる。桜はまだ綺麗に咲いていた。
「そういえば、昨日和菓子屋にいた人、結局だれだったんだろう?」
ふと昨日のことを思い出す。今日もいるかな? ちょっと人里に行ってみよう。
「——お、あったあった。例の和菓子屋だ」
俺は中へと入る。そこには、昨日見た人物の姿があった。
「おじさん、今日もみたらし団子お願いします」
「あいよ」
「……あれ? おじさん、一本多いよ?」
「これはいつも買いにきてくれるお礼さ。遠慮はいらんよ」
その人物は明るく礼を言って、外へと出ていった。
「おじさん、ちょっといいですか?」
「ん、なんだい?」
俺はさっきの人物について店主から話を聞く。
「ああ、彼かい? いつもみたらし団子を買いにきてくれてな〜。好物らしいぞ。それに……ここだけの話、どうやら彼は人間ではないらしい」
人間ではない? そういえば、獣の耳っぽいのが生えていたような……もしかして、妖怪か?
「その人の家とかわかりますか?」
「確実とは言えんが、山に住んでるらしいな」
山か……
「おじさん、ありがとう!」
「あいよ! 今度来るときは買いに来てくれよな!」
さて、もう少し情報を得るためにも阿求さんに話を聞きに行こうかな。
阿求さんの屋敷にて。
「獣の耳……もしかすると、狼さんですかね」
狼?
「天狗は天狗でも、白狼天狗でも黒狼天狗でもない……なにかというと、その間の種——狼天狗ですね」
ん〜、ややこしい……
「住んでる場所とか知ってます?」
「妖怪の山です。幻想郷のパワーバランスの一角を担っている場所で、山に住む妖怪たちは人間や麓の妖怪とは別の社会を築いています。近付くのは危険ですよ」
「大丈夫、上手くやりますから」
心配する彼女だったが、俺は意思を押し通して山に行くことを決意。阿求さんの家を出て、山が見える方に向かって飛ぶ。さて、行こうか。
数分の飛行時間を経て。ようやく妖怪の山へと到着する。ぱっと見た感じ、普通の山のようだが。
「よっと」
俺は山の麓に降り立つ。とりあえず、登ろうか。なにが出てきてもおかしくないから、注意して行かないとな。
登ること数分。
「ん、あれは……家?」
数分歩いていたら、一軒家を見つけた。ここはだいたい中腹辺りか。俺は試しに家の扉を叩く。
「……留守か?」
留守なら仕方ないな。俺は振り返り、もと来た道を戻ろうとしたその時——
「風符『辻斬』」
「なんだ⁉︎」
明らかに風圧がやばそうな風の斬撃が飛んでくる。俺は素早くその攻撃を避ける。
「ほう、なかなかやるね」
「おまえが狼か?」
そこには、獣の耳になにやら尻尾の生えた妖怪がいた。おそらく、彼こそが俺の探していた狼だろう。
「僕に何か用かな?」
「え、あ……いや、ちょっと気になって。挨拶だけでもしとこうかなと思って……」
俺はなにかされるかもしれないと、覚悟しながら俯く。
「そっか。別に僕は大丈夫。立ち話もなんだし、中に案内するよ」
驚いた俺だったが、言われるがまま彼に続いた。
先ほど見た一軒家の前へと着き、俺はさっそく中へ入れてもらう。
「お邪魔します。おぉ、綺麗……」
部屋はしっかり整理整頓されていた。
「そうだ。君、みたらし団子は好きかい?」
「え、ああ、まあ。嫌いではないけど」
「そっか。それじゃあどうぞ」
彼はみたらし団子を差し出す。
「ありがとう。あ、俺は幻真。気軽に幻真でいいよ」
「わかった、よろしく幻真」
俺は彼と握手した。
「狼は妖怪だろ?」
「うん、狼天狗っていう種でね」
阿求さんが言ってた通りだ。
「白狼天狗と黒狼天狗のハーフ?」
「ハーフ……? まあ、そんな感じなのかな」
それにしても、さっきのを見た感じ風を操れるのか?
「狼、質問ばかりで悪いけど能力は?」
「僕の能力は『自然を操る程度の能力』だよ。風とか、天候とか……と言ってもあまり使わないんだけどね」
だいぶ便利だな……
「それじゃあ狼、挨拶に来ただけだったし、早いけど帰るね。またみたらし団子を持って遊びに来るよ」
「ありがとう。いつでも待ってるよ」
俺は狼に別れを告げ、博麗神社の方へと飛び立った。
無事、博麗神社に到着。空はすでに橙色に染まっていた。
「おかえり。どこに行ってたの?」
縁側でお茶を飲んでいた霊夢が聞いてきた。
「妖怪の山。狼っていう人に会いにね」
霊夢が興味無さそうな様子でお茶を啜る。
「あんたが何も言わずに出て行くなんて、珍しいと思ってたのよ」
そういえば伝えるの忘れてたな。
「ごめんごめん。伝えるの忘れてた」
俺は頭を掻きながら苦笑いする。霊夢は呆れた様子で、またお茶を飲む。
「霊夢〜、幻真〜、ご飯できたわよ〜」
中から聞こえてきた霊妙さんの声に返事をし、俺たちは食堂へと向かった。
食事を終え、風呂へと入る。
「ふぅ〜」
いや〜、気持ちいい。疲れが取れる。それにしても、狼のような妖怪は初めて見たな。あの山には彼みたいな種族が住んでいるのかな?
〈狼〉
「初めてだ。和菓子屋のおじさんや阿求さんたち以外の人間と喋ったのは。いつもは人見知りな僕なんだけど」
僕は今、お風呂の湯船に浸かっている。
「幻真って人、なんだか親しみやすかったな……」
これからが楽しみだ。