第16話 幻想郷の春を取り戻せ
「くっ……!」
俺は今、魂魄妖夢と剣を交えての戦闘をしている。
「なかなかやりますね。なら、これはどうでしょう。幽鬼剣『妖童餓鬼の断食』」
彼女は左右に移動しつつ、横一文字の斬撃を繰り出してくる。その剣閃からはいくつもの放射状の楔弾の一団が発射され、俺に襲い掛かる。
その攻撃を、俺は上手いこと避けたり食い止めたりする。
「やるね。なら、これはどうかな? 斬符『炎斬』」
炎を剣に纏わせ、妖夢に斬り放つ。
「遅いですよ!」
だが、呆気なく避けられてしまう。俺には難しいか。
「次はこれです! 餓王剣『餓鬼十王の報い』!」
さっきと似ているが、それを強化したかのようなスペルを発動してくる。
「なっ⁉︎」
そのスペルは速度変化を起こした。
「ぐあっ!」
命中した。攻撃を受けた腹部を見ると、赤い血が流れていた。俺は傷口を抑えながら立ち上がる。
「どうしますか? 降参しますか?」
妖夢が刃を向けて聞いてくる。
ここで降参するか? それは霊夢たちの足手纏いになるということだ。俺は負けるのか? ここで終わるのか?
——いいや、自分はまだやれる!
「悪いが、まだ終わらん」
俺はふっと笑って彼女に返答した。
「そうですか。しかし、今のあなたの体では極めて不利。次で決めます! 断霊剣『成仏得脱斬』!」
妖夢が二本の刀を同時に振り、 目の前に上空へと伸びる巨大な桜色の剣気を作り出す。
「斬真『炎真斬』!」
俺は剣を真っ直ぐ振り下ろした。
「——ふぅ、終わったか」
傷口を抑えながら呟く。
「うぅ……ゆゆこさまぁ……」
彼女は倒れながらも、誰かの名前を呟いたのが聞こえた。
「さてと、霊夢たちのところに急ぐか」
〈博麗霊夢〉
「長かったわね……」
ようやく頂上に着いた。飛んできたものの、あまりにも長かったから疲れてしまったわ。
「これはなにかしら?」
そこには、咲きかけの綺麗な桜の木があった。
「あらあら、お客さん?」
声とともに、桃色の髪の少女が現れる。
「あなたはだれかしら?」
「私は西行寺幽々子よ」
咲夜の問い掛けに答えた幽々子という名の少女。なんだか、この人の考えてることが読めないわね。
「とりあえず、あんたを異変の元凶と見なすわ。それで、幻想郷の春を返してもらおうかしら」
「それは無理なお願いね。『西行妖』の封印を解くために、春を集めて花を咲かせようとしているんだから」
この桜のことかしら?
「ほお? なんのために封印を解くんだ?」
魔理沙が問う。
「何者かが封印されているらしいのよ。それで、この西行妖が咲かないのはその封印のせいだと思って、幻想郷中の春を集めたの」
何者かが封印されている……? いったいなにが……
「……とにかく、春は返してもらうわよ。あんたたちは下がってて」
私は手で合図する。言われた通り、咲夜と魔理沙は下がる。
「春は返さないわ」
幽々子は弾幕を飛ばしてくる。その弾幕を、私は素早く避ける。
「喰らいなさい! 霊符『夢想封印』!」
私はスペルカードを発動する。しかし、彼女には当たらず、私の放った弾幕が、どこからか飛んできた別の弾幕で相殺された。
「霊夢! 桜が咲き始めたんだぜ!」
なっ⁉︎ 西行妖が⁉︎
「ふふふ……もうちょっとよ。もうちょっとで!」
彼女を倒せばなんとかなるかしら……
反魂蝶 -一分咲-
「魔理沙! 咲夜! なんとかして西行妖の放つ弾幕を除去してちょうだい!」
つまり、私の援護をして欲しいってこと。
二人が返事をしたことを確認し、再び戦闘態勢を取る。
「これはどうかしら! 夢符『封魔陣』!」
「そんなのが通用するわけ——」
弾幕は直撃。呆気なかった気もする。とりあえず、なんとか幽々子を倒したが……
「霊夢! 西行妖が放つ弾幕が止まないんだぜ! それに咲き続けてる!」
なんで⁉︎ 幽々子を倒したはずなのに!
「ふぅ、着いた着いた……って、うわぁ!」
声の主、幻真は驚いてその場に尻餅をつく。
「この木はなんだ? それに、なんで弾幕を飛ばしてきてんだ?」
幻真が問う。
「わからない! それよりも、早くなんとかしないと!」
反魂蝶 -参分咲-
「すでに三分経ってる。急がないと……」
〈幻真〉
反魂蝶 -伍分咲-
くそっ、いったいどうすれば……
「幻真! 危ない!」
しまった! 弾幕が――
「式弾『ユーニラタルコンタクト』」
時計回りに回転する青針弾と、反時計回りに回転する赤針弾が交互に展開され、俺に飛んできた弾幕へとぶつかる。
「これはいったい——って、藍さん⁉︎」
「間に合ったか。幻真、こっちに」
俺は手招きする藍さんのいたスキマへと入る。そこには、紫さんの姿があった。
「紫さん、どうしてここに?」
「話は後。それよりも、私と藍と霊夢の三人で西行妖を封印するわ。協力してくれるかしら?」
俺は大きく頷いた。
「助かるわ。さあ、行きなさい!」
紫さんに言われ、俺は勢い良くスキマから飛び出した。
「咲夜、魔理沙! 西行妖を封印するから手伝ってくれ!」
俺の呼びかけに二人は同時に返事をし、俺たちは西行妖の周りを回り始めた。
反魂蝶 -八分咲-
「霊夢、藍、急ぐわよ!」
「わかってるわよ! 幻真、頼んだわよ!」
霊夢の言葉に、俺は威勢良く叫ぶ。そして、スペルカードを発動した。
「夢符『勾玉弾幕』!」
俺は西行妖が放つ弾幕に弾幕をぶつける。
「恋符『マスタースパーク』!」
魔理沙は極大レーザーを撃ち、正面の弾幕を一掃する。
「幻符『殺人ドール』!」
咲夜は周りに巨大なナイフを大量に出現させた後、それらを弾幕に向かって飛ばした。
「——終わったわよ!」
激闘のすえ、なんとか封印できたみたいだ。
「うーん……」
すると、幽々子らしき人物が唸りながら目を覚ました。
「幽々子、目が覚めたのね」
紫さんはホッと安心する。
「藍さん。その……紫さんと幽々子さんは知り合いなんですか?」
「ああ、何年もの昔からの友人だ。幽々子様はそこまでの記憶を無くされておられるが、今でも二人は仲のいい友人同士だよ」
そうだったのか。ついでに霊夢から聞いた話も聞いておこう。
「西行妖には誰が封印されてたんですか?」
藍さんは表情を暗くして言った。
「——幽々子様だ」
「……え?」
俺は彼女の言っていることがわからなかった。
「でも、幽々子さんはここに……」
「ここにおられる幽々子様は亡霊だ」
ぼ、亡霊? ということは、この人が亡霊姫……でも、なんで手足が?
「幽々子様! ご無事ですか⁉︎」
先ほど戦った妖夢が、階段の方から声を荒げて走ってくる。
「妖夢、幽々子さんなら大丈夫だよ」
「そうですか、よかったです!」
彼女は安堵の表情を浮かべ、微笑んだ。
こうして、春雪異変は幕を閉じたのであった。