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東方人獣妖鬼  作者: 狼天狗
第肆章 新たなチカラ
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第146話 兄妹の過去(承)-それは唐突に-

 あれから数年、妹七歳。その日も森で遊んで帰ってきた私たちは、いつものように夕飯を食べて風呂に入り、眠りにつこうとしていた。


 だが、事件は起こった。


 魔法の勉強を終えた私がそろそろ寝ようと布団に潜ろうとしたその時、外から大きな爆発音が響き渡った。


 その衝撃に驚いた私は、慌てて両親の部屋へと向かった。部屋に着いた私は、息を切らしながらも両親にさきほどの爆発のことを話そうとするが、出かける準備をする父が話した。


「おまえはあの子と一緒にいるんだ。私たちは村の様子を見てくる」


「で、でも……」


「ニック、あなたはお兄ちゃんとして、あの子を守ってあげて」


 母の言葉を聞いて、私はそれ以上なにも言えず、ただ頷くことしかできなかった。






 両親を見送った私と妹は、とりあえず私の部屋で過ごすことにした。


 不思議なことに妹は怖がる様子を見せず、むしろ黙り込んだままだった。父が出かける前にいい子にしているようにと言われて頭を撫でられていたが、反応を示さなかった。


 心配だった私は妹におとなしく待っておくように言って、食料を確保するために食料庫へと向かった。


 明かりは光の魔法で確保し、暗がりの廊下を進んでいく。食料庫は裏口にあり、距離もなかなかある。夜だったこともあって、さらに不気味さを感じさせられた。


 そんなこんなで食料庫へと辿り着いた私は、簡単に持ち運びできそうな果物類をもっていくことにした。


 帰りも特に問題なく妹のもとへと戻ってこれた。彼女は相変わらず三角座りで縮こまっていた。


 どうも様子がおかしい。彼女の隣に座ってリンゴを渡すが、反応がない。ますます心配になってきていた、その時——


 突然、妹が天井に指を差す。その行動に疑問を持った私だったが、その真相は刹那にして明らかになった。




 ——怪物が降ってきた。


 私は反射的に妹を庇うようにしてその怪物に潰されないように避け、なんとか襲撃を防ぐ。家屋は半壊。私たちは外へと放り出された。そして、絶望(・・)を目にすることになる。




 ——村が燃えている。


 私の住んでいた村が……帰ってくるまで普通だった村が……私の愛するみんなが……


 燃える村を見つめる私の前に、さきほどの黒い怪物が再び現れる。ヤツらはただ、人を襲うことだけを考えているようだった。


 その怪物は姿を変え、鎧を着た騎士のような姿になる。そしてその右手には、槍のようなものが握られていた。


 絶望のあまり動けずにいた私のもとに、ゆっくりと歩み寄ってくる真っ黒な騎士。


 やがてその騎士は、私の目の前で歩みを止める。私がその騎士に視線を移すと、ヤツは私を見下ろしていた。


 振り上げられる槍。私は妹を庇い、死を確信するとともに目を閉じた。




 ——だが、その槍は一向に私たちを襲わなかった。恐る恐る目を開けて騎士のほうへと視線を向けると、そこには見慣れた人物の姿があった。


「ッ⁉︎ 父さん⁉︎」


「間に合って……よかった……」


 父はそう言うと、騎士へと魔法攻撃をし、その場に倒れてしまった。騎士は姿を消し、かわりにそこに残ったのは、私たちを庇って槍を刺された跡が残る、父の姿だけだった。


 すぐに父のもとへと駆け寄り、覚えたての治癒魔法をかけるが、なぜか効果を成さない。


 傷口をよく見ると、そこから黒い瘴気が出ていた。おそらく呪いの一種なのだろうと、私は解釈した。


 治癒魔法が効かず、施す手がないとその場で涙を流す私。そんな私の頭を、父が残ったチカラで撫でてくれた。


「泣くな……お兄ちゃんだろう……母さんに森で隠れるように……言ってある……そこなら安全——ぐふっ……」


「父さん!」


「ニック……あの子と母さんを……頼んだぞ……」


 父がそう言い終えると、傷口にあった瘴気が父を包み込み、黒い粒子となって消えてしまった。消えてゆく父を掴むように粒子に手を伸ばすも、意味はない。その別れに私は涙を拭い、妹の手を取って森へと走った。






 森へと向かう道中、何度も何度も振り返っては、離れていく家と燃え盛る村を見ていた。突如として奪われてしまった日常。村の人たちは大丈夫なのだろうか。母はすでに森へ着いているのだろうか。


 そんな考えで頭の中がいっぱいになるなか、行く手を阻むようにしてまたもや私たちの目の前に黒い怪物が現れた。


 さきほどは自分の弱い心のせいで情けなくも戦えなかったが、今度は違う。妹を後ろに隠し、怪物と対峙する。


 すると、その怪物が姿を変え始める。さきほどのような騎士になるのかと様子を見ていたが、どうやらその姿はイノシシのようだった。



 ——変幻自在か。



 イノシシは、今にも突進せんとばかりに後ろ足で地面を蹴っていた。私は迎え撃たんと、身を構える。


 突進してきたイノシシに対して、前方方向に結界を数枚展開。攻撃を受け止めてから反撃を試みようと考えた。


 しかし、甘かった。怪物に対してではなく、イノシシという動物に対して甘く見てしまっていた。


 次々と破られる結界。気づけば、イノシシは最後の結界へと向かってきていた。


 父と約束したというのに……自分の力を過信してしまった。後悔の念とともに、また目を閉じる。


 だが、私の身にはなにも起こらなかった。目を開けると、目の前でイノシシの猛進を受け止める女性の姿があった。


「……か、母さん⁉︎」


「間に合って……よかったわ……」


 骨が折れる、イヤな音が鳴る。その音源は間違いなく、猛進を受け止める母のものだった。


「強化魔法をもってしてもこの勢い……いい? ニック。今すぐその子を連れて森へ逃げなさい」


「そんな……母さんまで!」


 またしても家族を失ってしまう。そんな思いをよそに、母は言葉を続ける。


「私の産んだ子供を残してしまうのは心許ないけど……こればかりはどうしようもないの。辛いだろうけど、受け入れるのよ。大丈夫。あなたたちなら、きっと——」


 母の言葉はそこで途絶えた。俯いていた私が顔を上げると、目の前では亡骸となった母を貪るバケモノの姿があった。私の知る母の姿は、もうそこには無い。


 言葉を失った私は、妹の手を引いて森へと急ぐ。そして、私は誓った。絶対に、両親が託してくれた思いを裏切らないと。






 私たちは、やっとの思いでいつも遊んでいた森へと辿り着く。これで一安心だと、膝に手を付いて息をする私だったが、森の奥へと視線を移したとき、その先には謎の男が立っていた。


 村の人——ではない。私はその人物に心当たりなんて無かった。


 疲れ果てている私のもとにゆっくりと歩いてくる謎の男。当時の私にとってその男は、とても大きく見えた。


 私の目の前で止まった男に声をかけようとしたが、息苦しさとともに声が出なかった。


 それもそのはず。私は片手で首を絞めあげられていたのだから。


 わけもわからぬまま踠き苦しむ私。私の首を絞めあげる男の表情は、笑ってはおらず、どこか不満な表情を浮かべていた。


 私が苦しむ姿に見飽きたのか、男は舌打ちして私の首を掴む手と反対の手を構える。私は悟った——殺されるのだと。


 なんだ、呆気ないじゃないか。両親との約束はどうした。もう、なにもかもがよくなった私は、そんな後悔すらない気持ちで死を待った。


「だめー!」


 突然それを止めるかのようにして、少女の声が響き渡った。そう、妹だ。いままで黙り込んでいた妹が、やっと声を出したのだ。


「お兄ちゃんを殺すなら、私を殺しなさい!」


 声を出したかと思いきや、妹は私のかわりに殺せと言い出した。首を絞められている私は、まともに声が出せなかった。


 それを聞いた男は黙ったままだったが、その直後に私は強い衝撃を背中に覚え、気付けば地面に倒れて息を荒げていた。


 顔を上げると、さきほど私がいた場所に妹と視線の高さをしゃがんで合わせる男と、鋭い目つきで男を見つめる妹の姿があった。


 しばらく睨み合うふたりだったが、男が突然妹の頭をポンポンと叩いた。


「いいだろう。だが、条件がある。おまえの兄を殺さないかわりに、おまえを連れていく。いいな?」


 男は私の命と引き換えに、妹を連れ去ることにしたのだ。それを聞いた妹は、小さく頷く。私は残ったチカラで腕を伸ばし、掠れた声でふたりを引き止める。


「待て……」


 男には声が聞こえなかったのか、妹だけが私の声に反応して足を止める。私が妹に説得しようと、必死の思いで話そうとするが、声は出ず。そんな私を見かねた妹は、話し始めた。


「お兄ちゃん、ごめんね。私のせいで、こんなことになっちゃって」


 彼女は謝るなり、意味のわからないことを言い出す。なにが彼女のせいだと言うのだろうか。声が出ない私は、ただ聞いていることしかできなかった。


「でもね、私には不満があった。こんな素晴らしいチカラを持って生まれたっていうのに、毎日がただ平凡で退屈だった。みんなには悪いけど、つまらなかった」


 彼女の言葉が本心なのかは、私にはわからなかった。かと言って、その気持ちを否定することはできない。いままでの日常は、彼女にとって平凡すぎたのかもしれない。


 彼女は言葉を続ける。


「だからね、お兄ちゃん。そういうのはもう、迷惑だから。引き止めなくていい。私を……自由にさせて」


 彼女はその言葉を最後に、男の後を走って追いかけた。どこか遠くに行ってしまう彼女を掴もうと、必死に手を伸ばす私だったが、当然その手は届きやしない。私は後悔の念に押しつぶされながら、意識が遠退いた。






「——実の兄にあんなこと言ってよかったのか?」


「いいの。お兄ちゃんのためだから。それで、あなたの目的はいったいなに?」


「最初からおまえが目的だ。否、おまえの能力(・・)がだ」

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