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東方人獣妖鬼  作者: 狼天狗
第肆章 新たなチカラ
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第139話 救出祝いの宴会

 日は沈み、辺りは暗闇に染まる。それを合図にするかのように幻想郷東端にある建物へと、あらゆる者達が集まり始める。


 小鬼に誘われやって来た者達。一方で、霊夢直々に誘いを受けた聖輦船組の白蓮、星、村沙、一輪の四人もまた神社へとやって来る。


「これは凄い数の人ですね」


 鳥居をくぐる手前にて、率直に感想を述べた星。その言葉を聞いた白蓮もまた、楽しそうな表情を浮かべて彼女に賛同する。一方で、底の抜けた柄杓を右肩に担ぎながら周囲を見渡す村沙と、袖頭巾の下部分を上げ、口元を隠して周囲の様子を伺う一輪。


 あまり乗り気ではない二人であったが、突然背後から背中を押されて、つい驚いてしまう。彼女達が振り返ると、そこには鴉羽色の帽子に薄い黄色のリボンをつけている少女が立っていた。


 その少女は二人の顔をまじまじと見つめ回し、何かを確認する様子を見せる。そして一通り見終えたのか、一度顔を離して笑顔を見せて言った。


「やっぱり! 水蜜みなみつと一輪だ! 今日は見越入道のおじさんは一緒じゃないの?」


 一方的に詮索され、名前を呼ばれた二人もまた、少女の事を思い出す。二人が挨拶をしようとした時、少女が誰かに引っ張られて後ろへと下げられる。すると、先程の少女と同身長ぐらいでやや癖のある桃色髪の少女が出て来る。


 そしてその少女は出て来るなり、頭を下げて謝る。二人はそれ見て、自分達は大丈夫だと彼女の頭を上げさせる。そして彼女の胸元に浮いた第三の目(サードアイ)を見て、曖昧から確信へと変わる。


「やっぱり、さとりじゃないですか。となると、さっきの子はこいしだね?」


「お久しぶりです。今回の騒動、そして彼女の姿を見た限り、救出は成功したようですね」


 その少女、さとりは白蓮の後ろ姿に視線を向けながらそう言う。彼女自身、心を除いてしまえば聞かずとも分かるのだろうが。


 そんな会話をしていると、先程話しかけて来たこいしが乱入して来る。彼女は乱入して来るなり村沙へと飛び付いて、顔を埋める。


「ぷはぁ! 間違いないね、水蜜だ。それで、見越入道のおじさんは一緒じゃないの?」


 彼女、こいしは先程も問いた見越入道のおじさんこと雲山について一輪に尋ねる。尋ねられた彼女は首を振り、一緒じゃない事を伝える。


「そっか〜。でもでも、計画は成功したんでしょ? 魔法使いのお姉さんの救出は成功したみたいだし!」


 無邪気に話すこいし。村沙は彼女の頭を撫でて、そのまま白蓮達の方へと歩いて行ってしまった。


 残った一輪もまた、彼女とその姉に挨拶をして村沙の後を追った。




 白蓮達は賑わう道中を進み、社殿の前まで辿り着く。そこには彼女達を招待した人物、霊夢が待っていた。


「待っていたわよ。さあ、始めましょ」


 今から団欒すると言うのに、何処か真剣な表情でいる彼女。その様子を見た星は不思議そうに首を傾げたが、白蓮もまた霊夢と同様に真剣な表情をしていた為、更なる困惑をせざるを得なかった。


 そんな彼女達であったが、社殿内に入って席に着くなり、霊夢は聖輦船乗員の顔を一人ずつ見ていく。一体どうしたのかと彼女の行動を見守る一同であったが、一通り見終えた彼女は質問を投げ掛ける。


「あのネズミは来てないの?」


 その質問に一早く反応したのは星だった。


「ナズーリンでしたら、魔界から幻想郷(こちら)に戻って来た直後に何処かへ行ってしまいまして。それっきり連絡が着かない状態で……捜すにも当てが無く、今夜の宴会まで待ったのですが……」


「結局帰って来ずと」


 心配する心情に口籠った星の台詞の後に言葉を付け足す霊夢。だが、杯に入ったお酒を一杯飲み干した後、口を拭ってから更に言葉を添える。


「まあでも、あいつは賢い奴だから心配いらないと思うわよ。それに、人の多い所は苦手そうだし」


 自身の目で確かめたこと、そして偏見でナズーリンに対する評価を述べる。それを聞いた星は、彼女の言葉に頷きながら賛同した。


「そうですよね。私があの子を信じないでどうするって言うんですか。すみません、私もお酒頂きますね!」


 彼女はそう言って机に置いてあった杯に酒を注いでは、まるで自棄酒やけざけの様にして飲み干す。それを見た白蓮が彼女を宥めていると、金の長髪の少女が頭の後ろに手を組んで彼女らの元へとやって来る。


 一体誰なのかと疑問に思う星蓮船の乗員達だったが、霊夢が彼女の名を呼んだことによってそれは明らかになる。


「あら魔理沙、やけに来るのが遅かったわね」


「悪い悪い。魅魔の奴に面倒事任されてよ」


「えっと、もしかして魔理沙さん……ですか? 帽子を取られると随分と雰囲気が変わりますね」


 畏った様子で名前を確認する白蓮。それに対して魔理沙はヘヘッと鼻を鳴らして霊夢の隣へと座る。そして彼女は白蓮の方へと視線を向け、興味津々に問い詰める。


「なあ白蓮! お前は私の同業者、つまりは私と同じ魔法使い。そんな訳で話があるんだけど——」


「はーい、その話は後にしてちょーだい。今は聞きたい事だらけなんだから」


 ブーと不服そうに頬を膨らませる魔理沙であったが、霊夢は彼女を他所にし、咳払いをして何から話を聞こうかと頭を悩ませる。すると、そんな彼女の元に二人の人物がやってくる。


「何について聞くか悩んでいらっしゃる様でしたら、まずは白蓮さんが魔界に封印されてしまった経緯をお聞きしませんか?」


「おっ、早苗に狼じゃないか。お前達も話を聞きに来たのか?」


「どうも魔理沙さん。僕も興味がありまして。一緒にお伺い出来ないものかと」


 彼の望みを聞いた白蓮は、快く認めると共に席へと座るように促す。それを受けた彼は礼を言って、早苗の隣へと座った。


 彼らが席に着いたことを確認した白蓮は軽く咳払いし、皆の注目を集める。そして、彼女は語り始めた——






 まず最初に、彼女には一人の弟がいた。名を命蓮みょうれんといい、法力の強い霊験あらたかな高僧であったとされている伝説の僧侶である。


 彼女は年老いてから弟に法力の手ほどきを受けていたが、彼は姉である彼女より早くこの世を去ってしまう。このことをきっかけに死を恐れた彼女は、若返りの術を身につけ魔法使いとなった。


 若返りの術は法術ではなく妖力、魔力の類の術によって不老長寿の力を手に入れたのである。



 そんな彼女だが、最初は自分の魔力を維持するため、と言っても自分の欲のために妖怪を助けていたのだが、人間からの不当な迫害を受ける妖怪達を目にするうち、次第に本心から妖怪を守らねばならないと思うようになっていった。


 彼女の人柄ゆえに人間からの人望も非常に厚かったが、妖怪との共存を望み加担していたことが露見すると一転、悪魔扱いされ魔界に封印されてしまったのである。


 この内容だけを見ると、妖怪のみを救済し人間は救わないのではという印象を受けるかもしれないが、実際のところ彼女は人間の味方でもあると主張している。




 続いて、魔界に封印された彼女を救出するべく動いていた星達についてである。


 まずは、寅丸星について。


 彼女は元々、白蓮の住む山の妖怪であったが、白蓮より推薦を受け、黙認という形ではあるが毘沙門天の代理となった。


 非常に優秀な妖怪で、毘沙門天の代理としての業務も問題なくこなしていたため、人間からも妖怪からも信仰を一身に受けていた。


 彼女が代理となった際、毘沙門天は念のため監視役としてナズーリンを付けているが、それすら必要ないほど非の打ち所がない働きをしている。


 その役目と人間からの信仰を受けていた事もあって、魔界に封印される白蓮を結果的(・・・)に見殺しにした過去がある。星はそのことを後悔しており、一輪や村沙が地底から開放された際、白蓮の復活に協力したのである。


 彼女の種族は財宝の妖怪、元妖獣、毘沙門天の化身と様々に言われており、かつては人間達の日本にはいない虎への想像から生まれた、虎の姿をした妖獣だった。 今では過去の姿を覚えている者はおらず、本人もかつて人間を喰っていた昔の姿には戻れないとのことである。



 因みにナズーリンについてだが、本来は毘沙門天の弟子である強力な妖怪で、毘沙門天から遣わされて星の監視役になっている。主従関係は星の方が上であり、ナズーリンは一応星の部下という位置付けである。


 元々星の監視目的でやってきているため、星達とは違って白蓮を特別慕っている訳でなければ恩義がある訳でもない。




 次に、雲居一輪についてである。


 彼女は千年前に白蓮が人間によって魔界に封印されてしまった際に、白蓮に味方していた妖怪である。


 彼女は村紗、雲山と共に白蓮に関わる物品や空飛ぶ船「聖輦船」ごと地底世界に封印されてしまう。


 彼女達は血の池地獄などがある環境から抜け出す事が叶わず、ひたすら地底世界で千年間を過ごして来た。その際、現在の地底世界である旧地獄の旧都に縁があったらしく、旧都に建つ地霊殿に棲んでいる古明地こいしとは面識があったのだ。


 こいしの記憶には「入道のおじさん」、「水蜜」と並んで「一輪が最近まで旧地獄に居た」という事柄が残っていた。



 間欠泉騒ぎで偶然にも打ち上げられた聖輦船に乗って地底世界を運良く抜け出すことができた一輪は、仲間と共に魔界に封印されている白蓮復活に乗り出し、幻想郷中に散ってしまった封印解除に必要な飛倉の破片を集め始めた。


 一輪は旧地獄のことを「我々にとって屈辱の地」と言っており戻りたくないと意識しているが、必要とあらばこの地に出向くことは可能との事。



 彼女に関連して、見越し入道の雲山について。


 彼の正確な種族は、数ある入道の中の見越入道である。最初は足元だけ見える僧侶として現れ、顔を見ようとして見上げようとするとどんどん巨大化し、最後には相手の首を切り落としてしまうという恐ろしい妖怪である。


 彼は一輪と出会うまで普通の見越入道として人間を喰らっていた。その頃人間でありながら肝の座っていた少女一輪は、人喰い妖怪の雲山に一泡吹かせてやろうと考え、彼に会いに行った。


 足元しか見えない僧侶が現れると「ははーん。出たわね?」と余裕たっぷりに構え、顔を見上げないよう用心しながら「見越入道、見越したぞ!」と見越入道を撃退する呪文を叫ばれ、雲山は敗北してしまう。


 本来はこれで妖怪退治は解決、入道は消える筈なのだが、完敗したショックと肝の座った少女に感服した雲山は、彼女を一生守っていくと覚悟したのだった。そして雲山が傍にいることで一輪は妖怪を怖れなくなり、時に人間に嫌われ、いつしか彼女自身も妖怪になる波乱万丈の人生を歩ませる事となったのである。




 最後に、村沙についてである。


 彼女の下の名は水蜜であり、先程こいしにこの名前で呼ばれていたが、殆どの者達は彼女を上の名前で呼んでいる。


 そんな彼女もまた千年前から聖白蓮を慕う妖怪の一人であり、一輪と雲山の二人と同じ様に聖輦船と共に地底世界に封印され、永らく地底で暮らしていた。


 それから間欠泉騒ぎのドサクサに紛れて脱出し幻想郷へとやってきて、魔界の一角である法界に封印されている白蓮復活の為にかつての仲間達と行動を開始したのである。


 異変時は聖輦船に乗り込んで来た霊夢達が持っていた飛倉の欠片を持ち逃げされないよう魔界に輸送するため、船内に足止めする目的で現れて戦った。


 村紗が白蓮を復活させる理由は「妖力を自由に発揮できる開放的な未来、争いの無い美しい妖怪世界、排除される者が居ないこの世の楽園」という新たな世界を作る……と、白蓮が過去に理想としていたのを叶えて、皆で悩みを忘れて生きるためとの事である。



 そんな村沙だが、昔は水難事故に遭って亡くなった霊であり、通りかかった船を転覆させる毎日を送っているうちに人間から恐れられ、その恐怖の念により妖怪となった。その妖怪は、彼女個人の名前から取って「ムラサ」と呼ばれていた。


 ある日、ムラサの元に彼女を退治して欲しい、と依頼された大層名のある僧侶、白蓮がやってきた。もうただの人間を乗せた舟を沈めても、妖怪としての力は上がらないと思っていた彼女にとっては、願ったり叶ったりであった。


 そんな高僧を乗せた舟を沈めれば、妖怪としての格が上がり、自身を縛る海から離れて人間を襲う事も出来るかも知れないと思ったからだ。



 数日後、ムラサは彼女を退治しにやって来たと思われる白蓮の乗った船を全力で沈めに掛かった。だが、船は思いのほかあっけなく一瞬で沈み、白蓮と乗り合わせていた数名の人間は全員海に投げ出された。


 こんな手応えの無い相手を倒しても何の自慢にもならない、と落胆した彼女の前には倒したはずの白蓮が居た。なんと彼女は転覆させた船とは違う、法力で創りだした光り輝く船に乗っていたのだ。しかも、その光る船はムラサが昔乗っていた船そのものの形であった。


 ムラサは白蓮によってその船を与えられた事で、念縛霊から解放された。白蓮から聖輦船の船長を任されたのは、この時である。






 一通り自分達の事を語り終えた白蓮は一息吐く。彼女達からの説明を受けた魔理沙と狼は、頭を悩ませながら情報を整理していた。一方で霊夢と早苗の二人は特に頭を悩ませている様子もなく、今の説明を理解しているようにも見えたが……


「なるほどねぇ。色々知れたわ」


「霊夢さん、本当に分かってるんでしょうか……」


 早苗の呟いた言葉が霊夢の耳に入り睨まれてしまったが、彼女は睨んだだけで白蓮の方へと向き直り、ある事について尋ねた。


「あんた、あいつには会ったの?」


「あいつ……とは、一体誰の事で?」


 全く心当たりの無い白蓮であったが、外から聞こえて来る騒ぎ声に意識を取られる。それを聞いた霊夢は、ニヤリと口を動かして言った。


「どうやら、来たみたいね」


 その言葉の意味を理解させる時間も与えず、一人の妖怪が障子を勢いよく開けて中へと入ってくる。中にいた霊夢を除いた者は皆、突然の出来事に驚きを隠せないでいた。


 突然押しかけて来た妖怪、ぬえは息を切らせてその場に佇む。暫く彼女の息を整える音だけが聞こえていたが、ぬえの記憶を思い出した村沙が彼女を指差しながら言った。


「貴方はぬえ! こんな所に一体何しに来たの?」


 質問を投げかけられる彼女であったが、その問いに答える事はなく、勢い良く頭を下げて反省の言葉を述べ始める。


「ごめんなさい! 飛倉の破片をばら撒いたのは私で、飛倉の破片に対する認識を撹乱させたのも、全部私がやったの。


地下で知り合った村沙達が地上で白蓮を助けようとしているのを見て、邪魔をしてやろうと思っちゃって……でも、白蓮の救出を邪魔した事は私にも非でしかなかった。


こんな勝手な事して許されるとは思ってない。でも、謝らせて欲しい……だから——」


 もう一度頭を下げようとした彼女を止めた白蓮は、彼女に言葉を投げかけた。


「もう過ぎてしまった話、今更とやかく言うつもりはないですよ。結果的に私はこうして今ここにいる。それだけで、良いではないですか。貴方がそんなに責任を感じる必要はありません。ですから、もう謝らないで」


 彼女の言葉とその笑顔に、ぬえは心取られ涙を浮かべる。白蓮は彼女を優しく抱いてやる。それを腕を組みながら見ていた霊夢もまた、満足した様子であった。


「霊夢さん、一体何をご存じで? もしや、こちらに帰って来た際に——」


「さあね、私には何のことやら」


「ちょっと、霊夢さん!」


「さあみんな! 宴会はまだまだ続くわよ! たくさん飲んで騒ぐわよ〜!」


 霊夢は質問を迫る早苗を押し除けて、酒の入った杯を天井に向けて周囲の皆に言う。それに乗った皆もまた声を上げ、早苗は問い詰めるにも出来なくなってしまったのであった。

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