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東方人獣妖鬼  作者: 狼天狗
第肆章 新たなチカラ
143/155

第138話 いつもの調子で

 鵺の退治から日が昇り翌朝。襖の隙間から差す光に、霊夢は眼を覚ます。


 彼女が欠伸をしながら伸びをしようとしたその時、襖が勢い良く開いた衝動により、驚いてそれを中断する。


「霊夢ぅー! 宴会すっるぞぉー!」


「朝から騒がしいわよ……」


 襖の先に現れた珍しい角を持った鬼、萃香。彼女は無邪気に笑いながら、瓢箪に入った酒を飲んでいた。


「それじゃあ、私は人を集めてくるよ!」


「全く……いつもどこから異変解決の情報を得ているのやら……」


 彼女に心当たりが無いわけでもないが、触れても仕方がないため、大人しく身支度をする事にした。




 普段着である巫女服に着替えた彼女は、早速宴会の買出しへ行こうと買い物カゴとお金の入った財布を取る。そして、いざ行こうとしたその時、又もや襖が勢い良く開いた事により驚いて尻餅を付いてしまう。


「いたたた……もう! 何なのよ一体!」


「おーっす霊夢! ん? どうしたんだ尻餅なんか付いて」


「あんたの所為よ」


 全く……と呆れながら立ち上がり、投げ飛ばしてしまった買い物カゴと財布を回収する。一方で彼女を脅かしてしまった魔理沙は、すまないと頭を掻きながら謝る。


「どこか行くのか?」


「ええ。毎度恒例の宴会の買出しに人里にね」


 嫌味混じりに答える彼女に、魔理沙は他人事の様にして大袈裟に笑う。霊夢は彼女を睨みつけた。


「悪い悪い。私も付いて行くから勘弁してくれ」


「態々言われなくてもそうするつもりだったわよ」


 彼女はそう簡単には機嫌を直してくれなさそうだ。魔理沙は頑固な彼女に対して、やれやれと呆れるように首を振った。




 人里へ向けて飛行する彼女らの目に、前方を飛ぶ緑髪の少女が映る。魔理沙は彼女の名を呼ぶ。


「おーい! 早苗ー!」


「この声は……」


 魔理沙に呼ばれた彼女は一度空中で停止し、彼女を呼んだ魔理沙達を待つ。


「やっぱり魔理沙さんでしたか。それに霊夢さんもご一緒で」


「あんたも買い出しかしら?」


 霊夢は早苗の持つ買い物カゴを横目に、彼女に問う。彼女は頷いて、説明を付け足す。


「今夜また宴会があるそうなので、お酒の買い出しにへと。それと、食材の在庫がなくなってきたので、その買い出しも兼ねて人里へ行こうと思いまして」


 彼女は笑顔で質問に答えるが、回答された霊夢は毎度の如く興味無さげにふーんと言っただけだった。


「あんたもって事は、霊夢さん達もですか?」


「ああ! それより聞いてくれよ早苗! 霊夢のやつ、私が来た時驚いて尻餅付いてたんだぜ! 霊夢は相変わらずおっちょこちょいだよなー!」


「あの……魔理沙さんそれ以上は……」


 面白おかしく笑いながら言う魔理沙の後ろを、早苗は体を震わして怯えながら指を指す。魔理沙は彼女が震えていたことに触れる事なく、笑いを止めずに後ろを振り向く。後ろを振り向いた瞬間、霊夢の怒りの圧に押し潰されそうになった。


「ま〜り〜さ〜?」


「わ、悪かったって。場を盛り上げようと思って……」


「だからって私のことじゃなくてもいいでしょうがー!」


 ひぇ〜! と、魔理沙は逃げるようにして人里の方へと飛んで行ってしまった。その様子を見た早苗は彼女に呆れつつも、霊夢を宥めて人里に向かう事にした。




 なんとか人里に着いた二人だが、相変わらず霊夢の機嫌は悪いままである。早苗はそんな彼女にどう声をかけていいか分からず、気まずそうにして里の中を進む。


 すると、彼女達の目の前を見覚えのある人物が通る。あの耳と尻尾、そして身体付きは……間違いない。


「狼さん!」


 その名を呼ばれた人物はピタリとその場に止まり、自身の名前を呼んだ早苗の方へと視線を向ける。そして向けられた彼女は、呼んだ人物の正体が狼に間違いない事を確認する。


「君は確か……」


「東風谷早苗です。狼さんが留守の際にこちらに来たみたいで、ちゃんと挨拶出来ていませんでしたよね。改めまして、守谷神社で巫女をやっている——」


「あっ、魔理沙! 待ちなさーい!」


 魔理沙を見つけた霊夢が早苗の自己紹介を遮り、彼女らの目の前を全速力で駆けて行く。彼女はその風に煽られ、自己紹介を続ける念が冷めてしまう。


「——えーっと……僕は狼。守谷神社って、妖怪の山の上の方にある神社だよね? そう言えばまだ挨拶に行ってなかったな。どうやら買い物に来たみたいだし、序でと言ってはなんだけど、雑談に付き合っていかない?」


 気持ちが冷めていた早苗だったが、彼の誘いを断る事なく、寧ろ気分を良くして返事した。




「——気になったんだけど、巫女さんって普段はどんな事をしているの?」


 狼に唐突に聞かれ、どう答えるべきかと悩む早苗。彼は少し難しい質問をしてしまったかと申し訳なさそうな顔をするが、考えが纏まったのか、彼女は頷いてから言った。


「私、厳密には巫女ではないんです」


「え?」


「私の役職は霊夢さんと同じ巫女では無く、厳密には風祝かぜほうりと言って、風を鎮めるために風の神を祭る行事を司る神職に就いてるんです」


 ほぇ〜と、彼は間抜けな返事を返す。それを見た早苗は微笑んで、付け加えるようにして言う。


「まあでも、表向きは巫女といっても間違いではないんですけどね」


 その言葉の直後、早苗達の元に一人の人物が全速力で逃げるようにしてやって来る。その正体は様子を見ただけで分かる。魔理沙であった。


 彼女は早苗達の元に着くなり膝に手を付いて、ぜぇぜぇと息を荒げる。そして息を整えた彼女は周りの目を気にせず、走ってきた方向を指差しながら言った。


「頼む、助けてくれ! もうすぐ霊夢が私を追って——」


 台詞の途中で魔理沙のやって来た方角の方から、全速力で怒気を纏った人物が走ってくるのが早苗達の眼に映る。そして何かを悟り、申し訳ないと言いつつも自業自得だと、早苗達はその場を去った。


「え? ちょっと早苗——」


「こらぁ魔理沙ぁ! 逃がさないわよ!」


「げっ! もう勘弁してくれ〜!」




 霊夢と魔理沙の茶飯事に触れる事なく、早苗達は会話をしつつ買い物を続ける。因みに、霊夢が魔理沙を追いかける際に買い物籠を置いていってしまったため、狼が仕方なく買い物をしていた。


「これでよしっと。一通り買えたし、甘味処でお茶でもしていかない?」


「いいですね! 行きましょう!」


 狼の誘いに賛成し、二人は早速甘味処へと向かう。その道中で、彼らは一人の人物と出会った。


「ん、お前達は確か……」


 その人物は二本の角のような帽子を被り、なんと言っても存在感湧き立たせる九つの尾を持った藍であった。早苗は何処か既視感を覚えつつも、自己紹介の挨拶を始める。


「守谷の東風谷早苗です」


「えっと、狼天狗の狼です」


「うむ。私は八雲藍、紫様の式神だ」


 お互いに頭を下げつつ挨拶を交わす。自己紹介を交えた挨拶を終えた後、ふと狼は藍が両腕で大事そうに抱えていた袋に視線を向ける。


「これが気になるか?」


「えっ……あっ、はい」


 それを聞いた藍は周囲の様子を気にしつつ、耳打ちする形で狼に言う。


「聞いて驚くでないぞ? これは私の大好物……油揚げだ」


「油……揚げ?」


 その回答にどう返事したらいいのか分からず、彼はきょとんとしてしまう。そんな彼を他所に、藍は様子を一変させて本当に油揚げが大好きだと言わんばりに袋を抱き締めて言う。


「これ程素晴らしい食べ物は無いだろう! 料理の過程で変わる食感と、その味わい。カリッとしたりフワッとしたりジュワ〜っとしたり! ああ……想像しただけでも食べるのが待ち遠しい……」


 涎を垂らしそうになりつつも熱く語る藍。その様子を見ていた早苗は苦笑いしつつ話を聞いていたが、対する狼は何故か燃えていた。


「お言葉ですが藍さん、僕は貴方にみたらし団子の素晴らしさについて是非とも知っていただきたい。団子の柔らかい食感に、更には伸びる餅。そして、なんと言ってもタレの絶品さ! その美しさはなんと言っても黄金そのもの! ああ……僕も早く食べたい……」


 彼もまた、涎を垂らしそうになりつつも熱く弁論。お互いの食の感性に火花を散らしていると、一回拍手をする音に気を取られる。


「はい、お二人共。そこまで言われるのでしたら、一度食べ比べしてみては? ちょうど甘味処に行こうとしていたので、藍さんも良ければどうです?」


「うむ、いいだろう。その勝負、受けて立つ。無論、負ける気はしないがな」


「僕も負けないよ。早速行こう」


 二人は食対決をするべく、甘味処へと早々と歩いていく。二人の様子を後ろから見ていた早苗は、またもや微笑するのであった。




 甘味処に着いたはいいものの、狼と藍の熱気に中に居た客や店員は引き目を感じていた。それを悟った早苗は諸々の和菓子を変え終えると、二人の背中を押して外へと出て行く。


 この空気で中で食べるのは周りに失礼だったため、外に赤い和傘と共に置いてある赤いベンチ、床几台に二人を座らせる。そして彼女は腰に手を当て、説教を始めた。


「お二人共、いくら勝負と言えど周りに迷惑をかけてはいけませんよ。好きなのは分かりますが、そこら辺は気にしていただかないと」


「すまん……」

「ごめんなさい……」


 二人はちゃんと反省した様子で彼女に謝る。そんな説教をしていた彼女だったが、その光景に又もや何処か既視感を覚える。


 と、そんな彼女の元に霊夢と魔理沙を捕まえた女性がやって来る。


「ん、早苗じゃないの。もしかして、この子達が迷惑かけたかしら?」


「霊妙さん! いえ、ご心配無く。私は彼女らなりの仲の良さだと思っていますから」


 霊妙に掴まれた状態のまま啀み合う二人の姿を見つつ、何処か寂しそうに彼女は言う。霊妙は何か声をかけるべきかと悩んでいたが、歪み合う霊夢と魔理沙が煩かった為、静かにしなさいと二人を黙らせた。


 怒鳴った霊妙を見て目を丸くした早苗だったが、再び微笑んで彼女達に誘いをかける。


「良ければ霊妙さん達もお茶していきませんか? せっかくここまで来られたんですし」


 誘われた霊妙は少し頭を悩ませた後、彼女に返事をする。


「そうね、そうさせて貰うわ。ほら、二人とも、さっさと仲直りしなさい」


「でもお母さん——」


「仲直り出来ない子には買ってあげないわよ?」


「むぅ……もう子供じゃないんだから……」


 ムスッとした顔をしつつも、霊妙に手を離された霊夢は魔理沙と対面し、照れ臭そうにしつつも謝る。


「えっと、その……私も少し起こり過ぎたわね。だからその……ごめんなさい」


「霊夢……悪かった。お前の気持ち、考えずに言っちまって。だからその……ごめん」


 二人は謝るなり、そのまま俯き数秒の沈黙が続く。そしてお互いが顔を見合わせるなり、笑い合ってすっかり仲直りしてしまった。


 彼女達の仲直りを見て、藍は思い出したかのように立ち上がって言う。


「しまった、そろそろ橙を迎えに行く時間だ。狼、勝負はまた今度だ」


 彼女はそれだけ言い残して、その場を早足で去って行く。約束された狼は注文したみたらし団子を頬張りながら、彼女へと手を振った。


「さて、私達も食べるとしようかしら」






 所変わって無縁塚。一人の青年と一匹の小さな龍が、今日も(・・・)無縁塚(ここ)で眼を覚ます。


 無縁塚は幻想郷の外れにある、縁者のいない者が弔われる共同墓地である。幻想郷の中でも最も危険な場所とされており、日頃訪れる者は少ないのに関わらず、彼はそれを良いことにここで寝泊りをしていた。さぞ寝心地が悪そうであるが。


 そんな彼は墓場の地面で横になった状態で両手のうち右手を頭から退けて軽く突き出し、人差し指を伸ばす。すると、子龍がその指に頬を擦り寄せる。


 いつもなら辞めることなく彼が止めるまで頰を擦り続ける子龍であったが、今日は様子が違う。まるで、周りの状況が変わった事による警戒……


「後ろに何かあるのか?」


 疑問に思った彼は体を起こし、ふと後ろを振り返る。するとそこには、一軒の小屋があった。子龍の反応、そして彼の驚き様から昨日からこの小屋があった訳ではない。少なくとも、彼らが眠りに着くまでの間は。


「一体誰が……」


 彼が疑問に思っていると、その小屋の扉が開く。直ぐに警戒した彼は背中に背負った剣を抜こうと構えたが、剣が無いことに彼は気がつく。


「起きたばっかだから剣置いたままじゃねえか!」


 直ぐ様地面に置かれた鞘に入った剣を手にかけるが、彼が拾う前に小屋から人が出てきてしまう。だが、出てきた人物を見た彼は眼を丸くして言った。


「ね、鼠……?」


 その言葉を聞いた人物が可愛げに首を傾げるが、その直後その者が見せた悪い笑みと共に、彼は激痛を覚える。


「いっでぇ⁉︎」


「悪いね、私のネズミは人肉を好むから。チーズなんて赤色の薄い食べ物は食べてらんないだとさ」


(まずいまずい、俺食い殺されるのか……⁉︎)


 だがその時、何モノかの雄叫びが響いたかと思うと、彼を食っていたネズミ達が次々と離れて行く。彼は状況を読めずに噛まれたところを摩っていたが、その理由は時期に分かった。


「へぇ……その生物は、()……かな?」


 彼を守ったのは、あの子龍であった。彼のピンチに危険を顧みず、威嚇と共にネズミ達を払い除けたのだ。それを知った彼は子龍の頭を撫でてやる。子龍は嬉しそうにして、彼の頰に擦り寄せた。


「人間、こんな所で何をしていた?」


 鼠少女は鋭い目付きで彼に問い掛ける。問われた彼は子龍から手を離し、少女の方に視線を向けて答える。


「何って、俺はただ眠っていただけさ。もしかして、気付かなかったのか?」


「むっ……もしやそこに寝っ転がっていた者か? てっきり死体かと思って無視しておったわ」


「勝手に殺すんじゃねぇー!」


 彼の言葉に悪い悪いとペコペコと頭を下げる彼女であったが、彼女もまた思い出したかのように彼に問う。


「君、まさか気付かなかったのか?」


「へ? 気付かなかったって?」


 そんな素っ頓狂な返事を聞いた彼女は、呆れたかのようにして首を振りながら言った。


「私がこの小屋を建てたのは昨晩の真夜中だ。そして、たった一時間程度で完成。その時周りに危害はないだろうと中々の騒音を立てて作業をしていたんだが……」


 どうやら彼は、あまりにも深すぎる眠りについていたらしい。彼女はその事を直接伝える事なく、彼に歩み寄って手を差し出す。


「私はナズーリン。まあ名前は気軽に呼んでくれ」


「俺は時龍ってんだ。この龍は俺の相棒ってところかな。よろしく!」


 彼は差し出された手を取ろうと手を伸ばしたが、何故か彼女と握手する事が出来ずに勢いのあまり倒れてしまう。痛みの言葉を漏らしつつも何故避けたかと彼女に問うが、当の彼女は子龍に興味津々だった。


「ふむ……龍の子とはこれまた珍しい。君、この龍とは一体どういう関係だ?」


「ったく、そうベラベラと喋らねえよ」


 彼女の対応から機嫌を損ねた彼は、そんな嫌味を込めた口調で言った。彼がそんな様子なので、彼女は仕方なく言及はせずに二つのダウジングロッドを取り出す。


 彼女の取り出したダウジングロッドに興味を示した彼は、彼女に何をしているのかと問う。問われた彼女は彼の先程の対応に腹を立てていたのか、愛想悪く返事をする。


「見れば分かるだろう。お宝探しだ」


 その答えに何を思ったのか、彼は大袈裟に笑い転げる。何が面白いのかと、彼女は彼を睨みつけたままその様子を見る。


「分かった、分かったぞ。お前が此処に小屋を建てた理由が! 此処で宝探しをしようっていう訳か! お前って身長だけじゃなく心も子供なんだな!」


 その言葉に遂にカチーンと来てしまった彼女は、そのままダウジングロッドを彼の頭に振り下ろす。普通のダウジングロッドと違うそれは針金よりも硬く、彼はその激痛に気絶してしまった。


 それを見た子龍は彼女に攻撃しようとするが、いくら龍でもまだ子供。そして体は小さいものの、子龍よりも遥かに大きいナズーリンに対して手も足も出すことが出来なかった。






 あれから甘味処で雑談を交えたお茶をし、霊夢達は早苗と狼にまた宴会の時に会おうと言い残して別れる。


 その帰りの途中で、魔理沙が思い出したかのように霊夢へと言う。


「そういや、肝心のアイツら誘ってないじゃんか」


 アイツら(・・・・)とは一体誰のことだろう。疑問に思う霊妙であったが、彼女とは反対に悟った霊夢は口元をニヤリと動かして、そのアイツらの元へと向かった。




 場所は上空。空を優雅に舞う宝船、聖輦船に彼女達はやってくる。訪れた際に星に迎え入れられて、白蓮のいる部屋への案内された。


 彼女達がとある一室へと案内されると、そこには大魔法使い白蓮が来るのが分かっていたかのように、行儀良く正座をして彼女達に頭を下げる。


「ようこそいらっしゃいました。どうぞお座りください」


 この船にはこんな部屋もあったのかと、興味深そうに辺りを見渡す魔理沙を他所に、霊夢と霊妙は言葉に甘えて惹かれた座布団の上へと座る。


 わざわざここまで迎え入れられなくても、ただの立ち話程度の内容なのにと、霊夢は思った。だが、相手の好意を受け取らないのも失礼な為、彼女は気持ちを押し殺した。


「こちらのお方は……?」


 白蓮は霊夢達が来た時から疑問に思っていた、もう一人の博麗の服装をした人物について尋ねる。尋ねられた霊夢は自分の母親だと、簡単に説明する。


「これは失礼しました。私、聖白蓮と申します」


「霊妙よ。そんなに畏まらなくてもいいわよ。気楽に話しましょ」


 彼女の言葉に礼をするかのように頭を下げ、体の向きを正面へと直す。そして思い出したかのように、白蓮は霊夢達に何をしに来たのかと聞いた。


「今夜の宴会に誘いに来たわ。もちろん、この船の連中全員にね」


 その言葉を聞いた白蓮は嬉しそうな表情を作って、彼女へと返事をした。


「それはどうも、わざわざ誘いに来ていただいてありがたい限りです。是非とも参加させていただきます」


 返事を返された霊夢は二度頷いてから、星によって運ばれてきたお茶を頂いて、早々に立ち上がる。


 その行動を見た魔理沙と白蓮は呆気に取られ、つい彼女に問いてしまう。


「なんだぁ霊夢、もう帰るのかよ?」


「もう少し、ゆっくりされていかれても……」


「悪いわね。本当は誘って直ぐに帰るつもりだったのよ。貴方の話なら、宴会の時にじっくり聞かせてもらうわ。日が沈んだ後、太陽と反対側にある神社に来てちょうだい」


 彼女はそれだけ言い残して外へと向かう。星が出口へ案内しようとしたが、彼女はそれを押し退けて断り、その場を去ってしまった。


 霊夢に置いていかれた魔理沙と霊妙であったが、魔理沙は彼女が何か不服でもあったのかと疑問符を浮かべていたが、一方の霊妙はまるで彼女の意図を分かりきったかのように悠々とお茶を啜った。






 人里で霊夢達と別れた早苗と狼は、妖怪の山に向けて飛行する。その道中、彼らの頭上を飛ぶ船を見た狼が思い出したかのように早苗へと話を振る。


「そう言えば、今回もまた異変があったみたいだけど。君も行ってきたの?」


 その話を聞かれ、待っていましたと言わんばかりに彼女は目を輝かせて言った。


「そうなんですよ! 神奈子様と諏訪子様が、幻想郷に慣れるためにも妖怪退治に行ってみればと薦めてくださったんです!」


 ウンウンと頷きながら話を聞く狼。彼女の笑顔と、その楽しそうな様子から彼女の言葉は紛れも無い真実、そして二人への愛さえも感じた。


「これは益々楽しみだな」


 語る事をやめない早苗に聞かれぬ程の声で、彼は呟いた。




 暫くして、妖怪の山にある守矢神社の境内へと二人は降り立つ。道中、厚意から狼に持ってもらっていた買い物カゴを受け取り、早苗は彼を待たせて早足で中へと入って行った。


 待っている間、彼は興味深さそうに周囲を見渡す。こんな神社が自分が留守にしていた短期間のうちに出来ていたとは、到底考えられなかった。


 そうこう思いながら待っていると、社殿の中から早苗が出てくる。それを見た彼は若干の緊張をしつつも、二人が出てくるのを待った。


 最初に出てきたのは、紫がかった青髪で、何よりも特徴的な大きな注連縄を輪にしたものを背中に装着した女性だった。


 彼女は腕を組みながら現れるなり、狼をまじまじと見回す。一通り見終えた彼女は、ニヤリと口を動かして早苗へと言う。


「へぇ〜、挨拶しに来た人がいるから出てくれと言われたから、一体どんな者が来たのかと見てみれば、男とはね〜。早苗、やるようになったねぇ」


「そ、そんなんじゃないですよ!」


 神奈子に揶揄われる早苗であったが、当の本人である狼は先程から意識を阻害するかのように神奈子の後ろで飛び跳ねていた少女に気を取られていた。


「あの……そちらの子は?」


 狼の質問にハッとする早苗。また思い出したかのように後ろを振り向く神奈子。彼女が振り向くと、頰を膨らませて怒るケロちゃん帽子を被った金髪の少女の姿があった。


「もぉ〜、いつまで待たせるんだい」


「悪い悪い。忘れてた」


 そんなストレートな言い訳をされ、更に機嫌を悪くしてしまった彼女は神奈子を無視して、そのまま呆然とする狼の目の前へと現れる。


「コホン……君が挨拶に来たお客さんかな? 私は洩矢諏訪子。こっちは馬鹿者のババア」


「誰がババアよ! このチビ助!」


「何を〜⁉︎」


 始まる口喧嘩。狼は彼女達の喧嘩を止めようとするが、一向に話を聞こうとしない。どうしようかと早苗の方に視線を向けると、彼女は怒りながら拳を握り締めて震えていた。


 狼はこれから起こるであろう事を全て悟り、いち早くその場から離れる。それに気付かない哀れな二人。そして彼女達が気付いた時には、時既に遅し。


「神奈子様、諏訪子様、仲が良いことは素晴らしいことですが、他人を困らせるようなことはしてはいけませんよ」


「さ、早苗! 諏訪子が悪いんだ! 諏訪子が先に悪口を言ってきたから……」


「違うよ! 神奈子が私に意地悪するから悪いんだよ! だから——」


「御託はいいです。さっ、中でゆっくりとお話でもしましょうか。狼さん、お騒がせして申し訳ありません。また夜にでもお会いしましょう」


 彼女は狼にそう言い残して、二人を引きずって社殿の中へと入って行ってしまった。


 彼女も大変だなと、彼は染み染みと思うのだった。

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