第132話 空飛ぶ宝船に乗り込んで
「なあ、本当にこっちにあるのか?」
「君は静かにしてて。私は集中しているから」
幻想郷の地上を歩き回るナズーリンと、彼女に連れ回されている幻真。先程からダウジングの示す先を探しては、外れてばかり。その連鎖から、幻真は彼女の能力に危機感と不満を抱いていた。
それに対する彼女もまた、焦りを感じていた。だがその焦りは責任感より、自身の能力の不正確さにである。そんな事も知らずに、幻真はただ彼女の後を追っていた。すると、ある古道具屋の目の前で彼女は足を止めて言う。
「ここから反応しているようだ。行くよ」
「今度こそ大丈夫だよな……」
そんな不安な思いと共に店内へと入る幻真。中には色々な道具が置かれていて、どれも興味を引くものばかりであった。だが、店員らしき人影は無かった。
そんな彼を他所に、先に入っていたナズーリンは淡々と散策をする。そして、彼女は声を上げた。
「あ! あったぞ!」
そう言って棚の上に乗っている宝塔を、背伸びをして取ろうとする。だが、どうしても届かず息を切らすと共に顔を赤くして苛立ちを覚える。その様子を見た幻真が簡単に宝塔を取り、彼女の掌の上へと乗せてやる。
「ほら。努力の結晶ってな」
「うるさいよ。さっさと買い戻すから。ほら、退いた退いた」
「全く。可愛げのない奴」
そんな彼を横目にレジの方へと向かう彼女。だが、店員の姿が無かったため仕方なく部屋の奥にいるであろう店員へと声をかけようとする。だが、幻真が割って入って代わりに声をかける。
「余計なお世話を……」
そんな彼の余計な気遣いに腹を立てながらも、こちらに向かってくる人影を目にする。
「いやぁ、すまないねお客さん。何か御処方で?」
この古道具屋——香霖堂の店主である霖之助が、眼鏡をかけながら客人が待つレジカウンターへと来る。そして、その上に置かれた宝塔を見ながら彼は問う。
「これに目を付けたって事は、君が持ち主って事かな?」
「いいや、これは私のご主人様のブツだ。時間がない。早く買い取らせてくれ」
彼は急かされながらも、渡された代金を確認する。その確認が終わると、彼女は店を飛び出して例の飛行船に向かって行った。残された幻真は溜息混じりに彼女の後を追おうとする。しかし、出入口で一人の少女と出会う。
「あ、お客さんお帰り? 今宝船が空を飛んでるみたいだけど、興味本位で近付かないようにしてよ。まあ、貴方がタダの人間じゃないって言うなら別だけど」
少女——朱鷺子の最後の言葉に、彼はニヤリと笑って表へ飛び出して行き叫ぶ。
「その忠告は無意味だぜ。俺はタダの人間じゃないからな!」
彼のその行動に驚き尻餅をついた彼女は、目を丸くして呟いた。
「な、なんなのよいったい……人間って、馬鹿ばっかりなのかしら」
「あはは……それが人間のいいところかもしれないけどね」
一方、音速で飛行する宝船を追う三人。すると、彼女らの目の前に一人の少女が現れる。
その少女の髪色は空色で、目の色は灰色がかった黒眼をしていた。
頭には尼を思わせる紺色で裾にギザギザの切れ込みが入った頭巾を被っていて、この頭巾が彼女の最大の特徴とも言えるであろう。頭巾の下からは髪が左右に覗いていた。
上着は主張の少ない雲のように白い長袖の上着であり、スカートは、上は白、下は藍色の二色に分かれていて、境目は富士山を思わせる様な紋様が施されていた。そして、灰色の靴下に黒い靴を履いている。 また、右手には金の輪を持っていた。
「妖精やら人間やら、有象無象が寄ってたかって……宝物庫狙いなの?」
呆れた様子で言う少女の質問に、魔理沙は首を傾げて問い返す。
「宝物庫だと? 宝物庫がなぜ空を飛ぶ?」
「問答無用! 賊の類に掛ける情けは無し!」
彼女のそんな遠慮の無い叫びと共に、どこからとも無く桃色をした大きな雲の拳が彼女たちを襲う。しかし、彼女たちは何とか回避して少女の方へと向き直る。一方で、その少女は驚きながらも感心していた。
「いやはや、あの拳を見て逃げ出さない人間がおったとは……」
「この船、外からずっと見てたけど入り口が一切見つからないんだが。連れて行ってくれないか——って、逃げたな」
魔理沙が話しているうちに少女の姿は無くっており、彼女は軽く舌打ちをして二人を置いて雲の中へと消えてしまった。
「——何が目的なのかしら。宝物? それとも姐さんの力が目的?」
少女は雲の中に姿を隠し、そう呟く。だが、その疑問に答えるようにしてある者の声が聞こえてくる。
「おいおい、宝物なんて見当たらないじゃないか」
「あら、貴方は……そう、見ての通り宝は全て失われてしまった。多くの宝は、欲深き賊に奪われ、姐御を復活させる為の最後の飛宝も妖精たちに持ち去られてしまったよ」
彼女に直ぐに見つかってしまった事に驚きながらも、残念そうに答える少女。魔理沙もまた、彼女の事を思ってか暗い表情ながらも怪しげな笑みを浮かべて言う。
「それは残念だ。だが……宝物より面白そうなもんが眠ってそうだねぇ」
「そう眠っているわ。まだ。姐さんの飛宝が全て集まらないと復活はできないの」
「ふーん、手伝ってやろうか? 面白そうだし」
彼女は何気無く言う。だが、その少女は雲で覆われた人間の老人男性のような頭をした雲と会話を始める。その話の途中で、彼女は魔理沙の方を見て言った。
「……え? なんだって、この黒いのが?」
「何? どうした? 突然独り言を始めて」
「貴方が飛宝の破片を集めているって雲山が言っているわ。ネズミに捜させても埒が空かなかったのに……」
その言葉に首を傾げる魔理沙。そして、彼女は疑問に思った事を少女へ問おうとする。
「なんと、既に手伝っていたと言うのか? なんなんだ、秘宝って——」
「集めてくれてありがとう! 後は、それを渡してくれれば良いのよ!」
そんな問答無用な台詞を吐き捨て、再び魔理沙に巨大な雲の拳が襲いかかる。だが、一度受けた攻撃。彼女は簡単に躱し、スペルカードを取り出した。
「そっちがその気だって言うなら! 魔符『アルティメットショートウェーブ』!」
紫と黄の交差した波が、後方から前方にかけて相手を薙ぎ払おうとする。だが、硬質化された雲山と呼ばれる雲によって攻撃は防がれてしまう。その様子を間に受けた魔理沙は、心の中で決意する。
——こうなったら頭脳戦だ。お前たちの攻撃、見切ってやるぜ。
雲山の硬質化が解除され、女性は再びスペルカードを発動させる。そこで、魔理沙は気付いた。先程から攻撃してきているのは、あの雲山と呼ばれる桃色の雲である事を。
そして、もう一つ気が付く。雲山の形態変化は、即座にできるものでは無いということ。こうして、彼女の頭には一つの作戦が思い浮かぷ。
「拳符『天網サンドバッグ』」
巨大化した雲山が無数の拳で空中を殴り、更に空から大量の光弾を降らせる。その攻撃を見た魔理沙は、しめたと言わんばかりに攻撃を躱しつつ、無防備な少女の方へと接近する。
「甘いわよ!」
流石に攻撃手段を持っていないわけでは無く、ある程度彼女たちの距離が縮まった辺りで少女が細いレーザーを放つ。だが、魔理沙は躱すことなく、寧ろ迎え撃とうとした。ミニ八卦炉を取り出して。
「そんな貧相なレーザー、効かないぜ! 恋符『マスタースパーク』!」
少女の放ったレーザーは魔理沙の放ったレーザーによって飲み込まれ、攻撃を防ぐ手立てを持っていなかった少女は、レーザーに直撃して爆発を起こした。
しばらくして爆煙が止み、体の一部分が吹き飛んだ雲山と、若干黒焦げになった少女の姿が現れる。酷い目にあったのにも関わらず、彼女は嬉しそうに言った。
「素晴らしいわ。今の世にも、こんな人間がいたなんて!」
彼女の様子に呆れながらも、魔理沙は問う。
「それで、秘宝ってなんなんだ?」
「飛宝は姐さんの力が一番籠もった宝なの。貴方も見てきたでしょう」
その言葉に、首を傾げる魔理沙。だが、明確な答えが見つからずにボソッと呟く。
「何か見たっけなぁ」
「妖精たちがたまに持っていた、飛行する破片を」
「もしかして、円盤UFOの事かなぁ」
心当たりのあった魔理沙であったが、とある人物に声をかけられ、その思考は中断される。
「ちょっと魔理沙、一人で勝手に行かないでよ」
「悪い悪い——って、集めすぎだろ!」
霊夢に謝りつつ彼女が大量に所持していたUFOを見てツッコミを入れる魔理沙であったが、先程の少女が集まった三人に向けて言う。
「私の名前は雲居一輪。こっちは見越入道の雲山。貴方たちは私たちの同志に違いない。だから、中へ案内するわ」
そう言って、宝船の扉が開かれる。それに魔理沙は驚いた。自分が探していた扉が呆気なく開かれてしまったからだ。だが、思い出したようにして彼女は問う。
「そういや、姐さんとか言っていたが、いったい誰の事なんだ?」
なんの話をしているのかと言わんばかりに魔理沙の顔を見る霊夢と早苗。一方で、問われた一輪は答える事なく、無理矢理彼女たちを中へと入れてしまった。
何とか中に入った三人の少女。この船の内装は暗がりの中に、赤い壁と金の襖で出来た煌びやかな内壁や、桜柄で彩られた青い畳がある純和風の作りであるが、彼女たちの感想は古くさい廃屋のようであり、装飾が古風で地味な幽霊船そのものであるとのことだった。
「うーん。妖精ばっかで他に誰もいないですね……妖怪のアジトって、もっと伏魔殿みたいなものを想像していたんですけど」
船に乗り込んだ三人のうちの一人である早苗は、周囲の妖精を撃退しつつ、辺りを見渡しながら呟く。そんな彼女の言葉を聞き、宝船でないことにガッカリした霊夢は、表情を一転させて呆れた様子を見せる。そんな彼女を気にも留めず、早苗は言葉を続ける。
「何か装飾も古風で地味だし……誰かいませんかー」
「——誰かいるの?」
彼女の言葉に返事をすると共に、一人の少女が姿を現す。
少女の髪はウェーブのかかった黒のショートヘアーで、サイドヘアーの長さは耳が見えるくらい短い。目は青緑色の瞳である。
服装は白の布地に青緑色の縁取りがされていて、尚且つ青緑の生地には各所それぞれに三本の白いラインが引かれたセーラー服を着ており、また今の時期は春先なのだが半袖である。
下にはセーラー服に合わせたデザインの膝上までの穿き物を穿いているが、その形はキュロットスカートと普通のスカートの両方があった。
そして、その頭には普通の帽子よりもかなり小さい船長帽を被っていた。
「いた。言ってみるもんですね」
「どちら様?」
「妖怪退治に来ました。東風谷早苗という者です」
問われた早苗は胸を張って答える。その元気の良さには特に触れず、少女もまた自己紹介をする。
「私は村紗、この聖輦船の船長です。妖怪退治は間に合っています」
そんな丁寧な口調と共にお辞儀をする村紗。そんな彼女に早苗の後ろにいた魔理沙が問う。
「船長がこんな所にいてて良いのか? 船なら操縦しなければならないと思うんだが」
「ご心配なく。自動的に目的地に向かうようになっていますから。実は船長っていっても、やることは殆ど無いのです」
そのハイテクさに驚く魔理沙と呆れる霊夢。一方で、早苗も驚きながらスペルカードを取り出す。
「そうですか、まるで新幹線みたいですね。それでは早速……」
「早速?」
その言葉の意味がわからず問い返す村紗。だが早苗は不吉な笑みを浮かべながら言った。
「嫌ですねぇ、妖怪退治ですよ。貴方、妖怪ですよね?」
「妖怪でーす。でも、その煩わしい妖怪退治ももうすぐ終わる」
「へ?」
「どういうことよ?」
間抜けな返事をする早苗と、思わず問い返してしまう霊夢。先程不吉に笑っていた早苗を真似るようにして、村紗もまた不吉に笑って言う。
「聖が望む未来——それは、争いのない美しい妖怪世界。貴方が持ってきた宝で、聖の封印を解く事ができるのですから」
彼女の台詞に疑問を持つ魔理沙。彼女の話した世界の話ではなく、聖という人物名らしき言葉に疑問を持ったのだ。そして、推理する。
——さっき一輪の言っていた姐さんとコイツが言っている聖は、恐らく同一人物……
そんな彼女を他所に、早苗たちは会話を続ける。
「ええっ? 妖怪退治の無い世界? それは困ります」
「貴方と貴方の持っている宝。この船に乗っていれば、私は魔界に連れて行くだけ。さあ、もうすぐ目的地ですよ。逃がしません!」
彼女はそう言ってスペルカードを取り出す。霊夢が対抗しようとした所を、早苗が腕を伸ばして阻止する。そんな彼女の手には、先程取り出していたスペルカードがあった。
「霊夢さんは下がっていてください。ここは私が戦います」
「ちょっと、そろそろ私が——」
「私は待たないですよ! 転覆『道連れアンカー』!」
霊夢がそれを拒もうとした時、村紗がスペルカードを発動する。それに対して、無理矢理押し通すようにして早苗もスペルカードを唱えた。
「蛇符『神代大蛇』!」
相手を狙った彼女専用の特大アンカー弾を飛ばす村紗の豪快な技に対して、巨大な蛇を召喚する早苗。それらは相殺され、広くもない通路に爆煙が押し寄せる。
「うぐっ……あーもうわかったわよ! 負けたら承知しないからね!」
不貞腐れた様子で、まるで子供のように頰を膨らませながらその場を離れる霊夢。彼女の様子には目もくれなかったモノの、フッと笑って早苗は再びスペルカードを取り出す。
一方で、爆煙の中から投擲された錨が縦に回転しながら彼女に迫り来る。彼女は僅か一歩動くだけで躱し、錨は横スレスレを通過。柄杓で振り払いながら爆煙の中を進んでくる村紗を目にする。
「さすが船長さん。まさか錨を投げてくるとは。それに……その柄杓、底が抜けてますけど水が撒けないんじゃないですか?」
「ふふふ……そんな事はありません。貴方の思っている事が事実とは限らない。まあ、私の目的はあくまで貴方たちの足止め。まだ付き合っていただきますよ。幽霊『シンカーゴースト』」
再びスペルカードを唱えた村紗は、半透明の無敵状態となって全方位に波紋のような弾幕を放っては消え、早苗の近辺に出没してまた弾幕を放つという動作を繰り返す。
早苗はなんとか振り払おうと走ってみるが、ブーンという不気味な音と共に村紗は出現を辞めない。
だが、彼女ばかり気にしてはならないのがこの技の特徴である。気付いた時には既に遅し。早苗の周りには幾多もの弾幕が配置されていた。
「しまった、囲まれた」
取り乱すことは無かったものの、少々焦った様子で言う早苗。そして、配置された弾幕が彼女に襲い掛かり、爆煙が起こる。
勝利を確信した村紗であったが、ここであっさり退場する早苗ではない。爆煙の中から現れた彼女は弾幕の集中攻撃を、上へ飛ぶ事によって躱し、更に彼女はあるスペルカードを発動させた。
「蛙符『手管の蝦蟇』」
自身を中心にチャージされていたエネルギーが爆発を起こし、その場を飲み込む。そして、勝負は彼女の勝利となった。
「だてに妖怪退治をしている訳じゃないのね……」
「それで、私の持っている宝とは?」
彼女の問いに、衣服の汚れを払いながら村紗は答える。
「勝手に浮遊している物体です。元々は穀倉の一部でしたが……」
「ああ、これってUFO型のおもちゃじゃないんですか?」
「UFO?」
首を傾げながら問い返す村紗。早苗は懐から一つ、そのUFOを取り出して見せる。
「えーっと、なんでしたっけ? 空飛ぶ謎の物体……って、あれ?」
「ええ、そのものですね。それが飛宝、飛倉の破片なのです」
そこで、霊夢が会話に割って入ってくる。
「UFOの正体は穀倉の一部だったのね」
「伝説の弟様が残した唯一の宝物ですよ。さあ、目的地が見えて来ました」
村紗の言葉に興味を示し、外を覗き込む三人。そして、彼女らは先程までいた幻想郷の上空とは全く違う、禍々しい空間の中を飛んでいるのを目にした。
「ひぇー。こりゃ落ちたらひとたまりもなさそうですね」
「でも、所々に建物が見えるわよ。妖怪でも住んでるのかしら」
「私は、何も無い退屈な地獄にしか思わないけどな」
三人はそれぞれの感想を述べる。そんな中、霊夢がある物を見つける。
「ねぇ。あの光の玉、何かしら?」
彼女の言葉に反応するようにして、魔理沙と早苗が覗き込む。しばらく考えながら見つめていると、その光はぐるぐると回りながら飛んで行ってしまった。
「いったいなんだったんだ?」
「気にすることは無いわ。それにしても魔界にはとっくに到着しているけど……ムラサ船長、どこに向かってるの?」
霊夢の不安げな問いに対し、船長帽を被りなおして村紗は答える。
「法界です」
「法界だと? なんだそれは」
続いて問い返したのは魔理沙。村紗もまた、先程の台詞に続くかのようにして説明を始める。
「無限の広さを持つ魔界の、ほんの一角です。そこに聖が封印されているのです」
そして船は法界の上空にて止まり、彼女らは待ち構えていたある者と対峙する事になるのであった。
シャイな雲山さん。




