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東方人獣妖鬼  作者: 狼天狗
第参章 悪魔の目論見
135/155

番外編 地獄に堕ちた神々の神話

 ——エゼキエル書。


 あなたは全きものの典型であった。知恵に満ち、美の極みであった。


 私はあなたを油そそがれた守護者ケルブとともに、神の聖なる山に置いた。あなたは火の石の間を歩いていた。



 ——ペトラの手紙二。


 あなた方も、夜が明け、明星がのぼって、あなた方の心の中を照らすまで、この預言の言葉を暗やみに輝くともしびとして、それに目をとめているがよい。



 ——イザヤ書。


 黎明の子、明けの明星よ、あなたは天から落ちてしまった。もろもろの国を倒した者よ、あなたは切られて地に倒れてしまった。








「本当にやるのだな、ルシファーよ」


「私に二言は無い。そう言う貴方も、覚悟はいいかしら?」


 ルシファーに話を振り、そして返された男——サタナエルは鼻で笑って空に飛ぶ何人もの天使たちに向けて刃を向ける。そして士気を高めるべく、その場にいた仲間たちに掛け声をする。


「いくぞお前たち! 我らの願いを叶える為に!」


 その場に歓声が響き渡り、一斉に空に向かって彼らは飛んでいく。一方の天使たちも、それに反応するようにして彼らと対峙する。


 そんな中、一人の者が右手に炎の剣を持ってルシファーの元へと突撃して行く。それに対応するようにして、ルシファーも特に能力を持たない剣で攻撃を防いだ。


「ほう。実の姉に刃向かうか、ミカエルよ」


「貴方を倒せば、貴方の築き上げた地位は私の物となる。神に反逆した貴方には、もう必要の無い物。文句を言っても無駄だ」


 一度お互いの間合いを取り、双方は剣を構える。お互いが睨み合っていると、ミカエルが剣を横に薙ぎ払って炎の斬撃を放つ。その攻撃をルシファーは上昇して避けるが、その隙を狙ってミカエルが背後から剣を振るう。何か気味が悪い音と共に、ルシファーの体は地上へと落ちていった。


「ルシファー! おのれ、貴様ぁぁあ!」


 他の天使と対峙していたサタナエルが彼女たちの様子を見て、血相を変えた様子で己の剣を振りかぶりながらミカエルへと突進して行く。だが次の瞬間、彼の胸部が一本の槍によって撃ち抜かれてしまう。


「そん……な……」


 サタナエルは右手から剣を離し、血を吐きながら地上へと落ちていった。


「ごめんなさい、姉上——」






 地上に落とされたルシファーは、とある森で目を覚ます。闇に包まれたその森で、一人の人物が彼女へと近付いてきた。


「ベルゼブブ……」


「ルシファー様、申し訳ありません。このザマです。俺の残った力で貴方を回復させる事が出来ます。だから、それで——」


「構わない。そこまでしなくていい。だから、今すぐお前はここから離れ——」


 彼女が言葉を遮るようにして、上空から眩しい光が彼女たちを照らす。すると、一人の神が現れ、彼女たちを指差して言った。


「神に反逆した大罪人たちよ、自身の犯した罪について悔い改めよ。そして、地獄へと誘うがよい」


 その言葉の直後、景色が変化する。だが何を思ったのか、ルシファーはベルゼブブを押してその場から離れさせる。


「ルシファー様! いったい何を⁉︎」


「地獄に落ちるのは私だけでいい。お前はこれから堕天した仲間と共に力を付けるんだ。なに、地獄に落ちたからといって私が朽ち果てる訳ではない。いずれ私は帰ってくる。だからその時まで——頼んだぞ、ベルゼブブ」


 最後の言葉を言い終えた彼女は、暗闇の中へと姿が飲み込まれる。その様子を涙を拭き払って、ベルゼブブは見届けた。








 この様子を、雲を超えるほどの高さを持つ山の頂上から伺っていた者がいた。


「いったい何事だ?」


 渋い絵柄の布切れを羽織ったその者は、空の脅威と異変に驚きながらも状況を理解しようと試みる。そんな中、その者の目の前を一人の天使が落ちていく。


「あれは……サタナエルか!」


 その者は雲の中へと消えていった彼を飛んで追いかける。そして、厚い雲を掻き分けながら地上へと向かう。しかし、サタナエルの姿は周囲を見渡しても見つからなかった。


 すると、先程まで空を覆っていた厚い雲が晴れ、一点の光が地上を指す。その者——風魔神は、眩しい光を片手で遮りながら様子を伺う。


「この騒ぎはいったいなんなんだ」


 彼は理解の追いつかなさから若干の苛立ちを覚えるが、その感情も次に起こった出来事によって消し去られる。


「神に反逆した大罪人たちよ、自身の犯した罪について悔い改めよ。そして、地獄へと誘うがよい」


 一人の神によって発せられたその言葉に、風魔神はやっと理解する。天使が神に抗った。そして、抗った彼らは負けて、神による天罰を下されたのだと。



 ——まさか、サタナエルがそのような企みを? しかし、信じられない。彼はその様なことを企てる者には見えなかった。まさか、今までのこと全てが芝居だったと言うのか?



 彼が再び思考していると、近くから呻き声が聞こえてくる。彼が慌ててそちらに向かうと、今にも暗闇の中へと飲み込まれそうになっているサタナエルの姿があった。


「サタナエル! いったいこれはどう言う事なんだ! 説明してくれ!」


「うるせぇ! 俺は諦めねぇ! 絶対に! 絶対にぃぃぃいい!」


 彼の心は殺意と共に憤怒の感情に飲み込まれそうになっていた。風魔神は自分が加担するわけにもいかず、どうする事もできなかった。しかし、理性を完全に失っていたサタナエルは、残った力で風魔神へと襲いかかる。


「なっ⁉︎ 貴様何を⁉︎」


「俺は認めねぇ! 敗北なんて認める訳にはいかねぇんだ! だからお前の力を奪って俺のモノとし、戦うんだ!」


 風魔神は咄嗟の事に対応が出来ず、サタナエルの持っていた剣によって心臓を貫かれる。しかし、彼も黙って倒される訳にはいかず、サタナエルを突風によって吹き飛ばす。吹き飛ばされた彼は再び暗闇の中へと引きずり込まれ、そして姿を消した。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 彼は刺された胸を押さえながら、その様子を見届ける。そしてサタナエルの姿が消えた直後、彼は地面へと倒れ込んでしまう。


「治癒の魔法は……駄目か。呪いによって制御されている……」


 彼の胸部に纏う黒い炎。その呪いによって彼の治癒は不可能となり、そのまま命を落としてしまった。








 時は過ぎて幾万年。感情を司る八人の悪魔たちが、ある集会を開いていた。それは、大罪の改訂。八つの大罪のうち元々あった虚飾は傲慢へ、憂鬱は怠惰に統合され、そして嫉妬が追加された。


 無くなった虚飾と憂鬱に関してだが、憂鬱の悪魔は怠惰を司る悪魔ベルフェゴールによって吸収され、また虚飾の悪魔バニティーは傲慢を司る堕天使ルシファーによって、とある一室に封印。そして、嫉妬を司る悪魔レヴィアタンが新たに加わった。


 そんなある日の事。暴食の悪魔——蝿の王ベルゼブブが、突然ルシファーによって呼び出される。彼は最初、傲慢な彼女の事だから支持する権力を譲れとでも言われるのだろうと思っていたが、実際そんな下らない話なんかではなかった。


「ベルゼブブよ、お前がここまで成長しているとは思わなかった。覚えていないだろうが、お前は私によく支えてくれた。せっかく築き上げた地位だ。指揮、支持などの類はお前に任せる。だが、私はあくまでも傲慢の悪魔だ。私がやりたい事は自由にさせてもらう」


 彼女はそれだけ言い残し、その場を去ってしまう。一人残されたベルゼブブは、目に涙を浮かべて呟いた。


「覚えてない訳ないじゃないですか、ルシファー様。あれから俺は力を付けて、仲間もできた」



 ——強欲のマンモン、アイツは常に力を欲する悪魔で直ぐに俺について来た。俺といれば力を付けられるに違いないって。



 ——色欲のアスモデウス、彼女もまた大きな欲を持つ者。そんな彼女も面白そうだと言って俺に付いて来た。



 ——怠惰のベルフェゴール、正直コイツは一番の厄介者であり面倒のかかる奴だ。だけど、コイツはコイツで悪魔としての素質を持つ。何を考えているかよく分からないけど。



 ——憤怒のサタン、初め私が彼と会った時は見違えました。彼は神々への復讐心から怒りに心を飲まれていた。だが、彼はずっと貴方を探していた。そんな彼を仲間に向かい入れ、貴方を探しつつ勢力を高めた。



 ——嫉妬のレヴィアタン、彼女はまだ加わったばかりの仲間で、信頼性は他の者たちに比べて低いだろう。でも、仲間に向かい入れた以上は共に力を高め合う。



「そして——傲慢のルシファー、ようやく貴方と再会する事ができた。俺、嬉しかったんです。貴方に支えていた身であり、そして褒められた事を。貴方は俺にとっての誇りです」


 彼は背中を向けて歩き去っていくルシファーを眺めながら、そう話した。そんな彼の言葉を聞いた彼女は、彼に気付かれぬよう機嫌が良さそうに笑っていた。








 それからまた数年が経ち、彼らはある場所に目を付ける。それが幻想郷だった。


「こんな辺境の地があったとは……」


「どうするんです? 試しに風穴でも開けてみましょうか?」


「ああ、頼むぞベルフェゴール」


 こうして幻想郷のとある屋敷の近くに突如として出現した、悪魔たちの住む世界へと通じる空間の裂け目を作り出したのが、彼女ベルフェゴールの仕業である。彼女は、自分たちの世界と幻想郷を繋げる為にあのような穴を作ったのだ。


「ん〜、どうやら既に目をつけられちゃってるっぽいですねぇ。どうしますぅ?」


「気にするな。どうせ奴らが我々に干渉する事は不可能なのだからな。別世界から来た者かどうかは知らんが、我々にとっては関係のない者。直接関わることはできないはずだ。そのまま続けてくれ、頼んだぞ」


「はいはーい、お任せ下さいなベルゼブブさん」


 指揮を取るベルゼブブの命令に気楽な様子で返事をするベルフェゴール。そんな彼らがいた空間に、斧を担いだ一人の女性が入ってくる。


「ベル〜! あ、ベルゼブブの方ね。今日も修行付けてくれよ〜!」


「レヴィさん、今私たちは忙しいのですが……」


「構わん。ベルフェゴール、後は任せたぞ」


 彼はベルフェゴールの肩にポンッと手を置いてから、レヴィアタンと共にその部屋を出て行く。残された彼女は、溜息を吐いて呆れていた。


「全く。これでも私たちは悪魔なんですけどねぇ。暢気なものです。しかし……」


 彼女は表情を一転させ、引きつった顔で胸元を握り締めて苦しそうに言う。


「以前に私が吸収した憂鬱……最近までは大人しかったが、日に日に様子がおかしくなっている。まるで、私の体を乗っ取ろうとしているような……」


 彼女がしばらく黙っていると、部屋の中に一人の女性が入ってくる。それに気付いた彼女は、悟られないためにも誤魔化す。


「あら、ベルフェゴール。お疲れ様」


「これはこれはルシファーさん。わざわざこの部屋になんの御用で?」


「サタンを探しているのだけれども、貴方は見たかしら?」


「あ〜、サタンさんは見てないですね。そう言えば、ルシファーさんとサタンさんってあまり話されているところを見た事がないのですが、仲が悪かったりするんです? 見た感じ、昔からの仲ではありそうでしたが」


 彼女の問いに一瞬ポカンとしたルシファーであったが、急に笑い出す。ベルフェゴールはジト目で彼女を見ていた。


「ごめんなさい、そんなのじゃないのよ。彼、人一倍責任感が強くてね。大昔の事、ずっと気にしているのよ。お互い無事だったっていうのにね」


 納得する様子で頷いていたベルフェゴールであったが、ルシファーは部屋を出ようと扉を開ける。その際、彼女は思い出したかのようにベルフェゴールに言った。


「貴方、今のうちに覚悟を決めておきなさい。もうすぐここに人間たちが攻めてくる。それを迎え撃つ覚悟もそうだけれども、自分の命を絶つ覚悟も決めておきなさい。貴方の寿命は——否、貴方自身の寿命は長くない」


 彼女はその言葉を残して部屋を去る。再び一人残されてしまったベルフェゴールは、冷汗を額から流して、息を飲み込んだ。そして思う。彼女に隠し事は通じないと。








「あ、いたいた。サタナエルー!」


「おい、その名前で呼ぶな。今の俺はサタンという名があって——」


「はいはい、わかったわよ。もう……二人っきりの時ぐらい水臭さを捨てたらどうなのよ」


 彼の態度に機嫌を損ねてしまうルシファー。彼女の様子を気にも留めないサタン。果たして彼は、素の鈍感なのか。


 そんな他愛もない話をしていた彼女たちであったが、突如として彼女は真剣な表情で話をする。


「ねぇ、サタン。貴方に伝えたい事があるの」


「なんだ? 改まって……おい、まさか——」


「傲慢の悪魔……堕天使ルシファーの願いを聞いて」


 彼の言葉は遮られ、そしてルシファーは彼に寄り添う。突然の事で反応に困った彼だったが、彼女の背中に優しく触れる。そして、彼女は話し出す。


「虚飾の人形を使おうと思う」


「お前、やっぱり……」


「私は決めたの。今更やめる気は無い。彼らには悪いけど、私に協力してもらう。もちろん、貴方もよ、サタン」


 彼女の手が優しく彼の頰に触れる。彼は唖然とした表情をしていたが、首を横に振って我に帰る。


「だが、それには人間の器も必要となる。虚飾の人形に七つの感情を込め、その人形を器となる人間に宿す必要がある」


 彼は一旦口籠る。言うか言わないか葛藤した末、彼は言葉を続けた。


「しかし、あまりにも危険が高すぎる。万が一お前も別の感情に飲まれることがあったとしたら、永遠にその感情に飲まれて苦しむ事になる。俺はお前の為なら命なんて惜しく無い。協力はもちろんする。だが——」


 彼が言葉を続けようとした時、彼女の人差し指が彼の口を優しく抑える。その出来事に、彼は驚きながら彼女の顔を見る。彼女は笑みを浮かべていたが、どこか悲しそうな表情をしていた。


「貴方がそこまで私の事を考えてくれていたなんて思っていなかったわ。ごめんなさい。そして……ありがとう。とても嬉しい。でも、忘れないで。私の傲慢さに勝てるものがいないということを」


 彼女の最後の言葉に、歯を食いしばって泣くまいとするサタンであったが、ルシファーに優しく抱き締められた事によって涙を流してしまった。








 七人の者たちが悪魔の巣食う空間へと侵入。しかし、彼らのうち五人の人物が悪魔たちに敗れ、各々の感情に飲み込まれてしまう。そして、残った二人のうち一人はレヴィアタンによって撃破された。そして彼らは各々の計画を進める為に集会を終えた後、解散した。


 ベルゼブブ、レヴィアタンは幻想郷(地上)への進出。マンモン、アスモデウスは各々の暇を持て余しに。サタンは一人さっさと部屋を去る。ルシファーはその集会に出席していなかったため不在。そして、残されたベルフェゴールは暗い様子で俯いていた。



 ——私自身の命は長く無い。もし、まだ生きられたのなら何ができただろう。



 そんな悪魔らしく無い事を考えながら、一人涙を流す。そんな彼女にある者が声をかける。


『悲しい? 怠惰の悪魔』


「その声は……憂鬱の悪魔ですね?」


『如何にも。貴方に吸収された可哀想な悪魔である。故に、直接貴方の口から聞こうかしら。なぜ私を取り込んだ? 答えてみなさい』


「さぁ……なんででしょうかねぇ……過去の自分が考えていた事なんて、覚えてるわけないですよ」


『なら質問を変えましょう。過去の貴方は——強い力を欲する弱者だったか?』


 その問いに、彼女は全てを思い出す。七つの大罪が八つの大罪であった時のことを。




 八人の悪魔の中で、彼女は一番弱かった。それはなぜなのか。彼女は努力もした。己の罪に対応する感情も強めた。だが、それでも彼女は最弱であった。


 そんな彼女には憧れの存在があった。それが、八人の中で上位の力を誇る憂鬱の悪魔——アスタロトである。アスタロトもまた堕天した身であり、元々は豊穣の女神で、古代オリエントの地母神でもあった。


 ルシファー、ベルゼブブと並ぶ三人の支配者の一人であり、またアスタロトはベルゼブブの蝿騎士団の一員であり、側近でもあったのだ。


 そして、アスタロトの最大の武器は、有毒で猛毒を纏った剣である。攻撃を喰らうのはもちろんのこと。近くに寄るのさえ、使用者以外は危険であるとされていた。


 だが、ある日大罪の改訂がなされた。その中で一番喜びを見せたのが、怠惰の悪魔ベルフェゴールであった。それはもちろん、怠惰と憂鬱の統合である。そして怠惰に統合されるため、憂鬱は消える。


 虚飾と傲慢による統合では、傲慢の悪魔ルシファーは虚飾の悪魔バニティーを封印し、あくまでも生かすことを決めたが、力に飢えていたベルフェゴールは憂鬱の悪魔アスタロトの吸収、つまり命を奪う事を決めた。


 それを聞いたアスタロトであったが、反論する様子もなくベルフェゴールに殺され、力を吸収される結果となる。だが、これが彼女にとっての大きな過ちであったのだ。


 アスタロトは憂鬱の感情を司るが、同時に猛烈な有毒さえも操る事ができる。それがベルフェゴールにとって、凶と出たのである。


 長年に渡り彼女は憂鬱の毒によって侵され、そして間も無く体を奪われて命を失おうとしているのである。


「そうか……そういうことだったんですね……」


 全てを知った彼女は、ポツリと呟く。一方で、姿が見えずに声だけが聞こえるアスタロトは、不吉に笑いながら最後に言葉を残す。


『残り短い命。悪魔としての誇りを捨てずして命を絶つ事ね。それじゃあ、楽しみにしているわ』


 その言葉を聞いて彼女は考える。考えた末に、答えを導き出す。


「これが怠惰の悪魔としての宿命だ」


 彼女は怠惰の間へと向かった。








 一人さっさと部屋を去って行ったサタン。彼は仲間に自身とルシファーの行動がバレないよう、計画を進めようとする。


 彼が行おうとしていたのは、七つの感情を宿した虚飾の人形を移す人間の器の確保である。彼が目につけていたのは、侵入してきた七人のうちの一人、フードを被った人物である。


 実はその人物の行動はルシファーとサタンには特殊な能力によって筒抜けであり、又レヴィアタンに危害を加えられた事も知っていた。そして、彼は虚飾の悪魔が封印される部屋の扉に、ある術をかける。


 まずは人物を虚飾の悪魔が封印される部屋へと誘導。そして、その人物が術関連の技が使えると判断した彼は、封印が掛けられた扉の呪文の効果を弱める。それは、人物が新たに封印の術を施そうとすると予想したためである。


 実際にそれは実現し、人物は彼らの器に利用されてしまうのであった。








 怠惰の間を自身の墓に選び、現れた人間たちと交戦したベルフェゴールは、無念にも敗北してしまう。焼け朽ちた彼女の意思が思う。



 ——嗚呼、私は負けた。人間に負けた。そして自分自身の心にも負けた。結局、私はただの弱者なのだ。生まれ持っての運命だったのだ。



 彼女の意識は次第に遠ざかる。そしてそこに残されたのは——憂鬱の悪魔、アスタロトである。


「ふぅ……久々の外ね。ずーっと暗闇の中にいたから頭がおかしくなっちゃうかと思ったわ。それにしても、ベルゼブブ様が命を落とされたなんてね。まっ、忠誠を誓う者がいなくなってしまった事だし、適当に生きてみようか——ん?」


 突然アスタロトは言葉を止める。そして彼女の目の前には、瞳だけは確認できる仮面を付け、またその瞳は赤く、更に腰まで届く程の長い白髪を持つ少女が立っていた。


「ねぇ、キミ。ボクと一緒に来ない?」


 明らかに怪しい様子を見せる少女。しかし、アスタロトは何を思ったのか大笑いして彼女に答える。


「あははは! 貴方、面白いわね! いいわ、私は貴方について行くよ」


 こうして少女が出した手を取って、アスタロトは正体不明の少女の配下となった。








 そこは、この世ではないどこか。何も無い、ただ広がる地平線の上。そんな場所で美しい羽を持った二人の堕天使が、その地平線を眺めていた。



 そこが天国なのか、地獄なのか。死んだ者たちが誘われるという世界。夢の楽園か、悪夢の中なのか。



 否、彼らは境にいた。天国と地獄の境に。



 上は青く、下は赤い。



 そんな不思議な空間で、彼らは手を繋ぐ。



 そして歩む。



 自分たちの終着点へと。

これにて東方異界伝の幕を閉じます。

25話に渡る中々の長編。七つの大罪の要素を取り入れた東方と全く関係のないストーリーでしたが、いかがだったでしょうか。

しかし、物語はまだまだ続きます。これはまだ話の序章と中盤の間に過ぎない。

次回は久々の原作物語、東方星蓮船です。(ナズさん出てくるよ)


今後とも東方人獣妖鬼を宜しくお願い致します。

それでは…

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