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東方人獣妖鬼  作者: 狼天狗
第参章 悪魔の目論見
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第130話 チカラの封印

 〈幻真〉



 時は少し巻き戻り、俺たちが悪魔たちとの決戦を終えて帰還した翌日の朝。俺はとある一室で目を覚ます。その部屋からは、どこか懐かしさを感じ取った。


 部屋の雰囲気、空気、そして——妖夢の姿。


「いい寝顔だ」


 彼女を起こさぬように静かに布団から出て、台所へと向かう。すると、そこにはある一枚の置き手紙が置かれていた。


「幽々子さんかな?」


 紙を一瞬拝見しただけで誰が著者なのか把握する。時刻は早朝頃。少し早い朝食を取るのもいいかもしれないが、無理矢理妖夢を起こすのも申し訳ない。一度伸びをしてから、庭園の方へと向かった。


 なぜ俺が庭園へやって来たのか。それはもちろん、修行をするためである。ある程度周囲との距離を取って位置に着く。そして、手を伸ばしてある一本の剣を出現させる。その名も、界龍剣。


 以前使用していた真神剣に龍の力を宿し、新たに生まれ変わった剣である。出現方法から察するように、実態を右手から左手に移動させて持ち替えたりと、応用が可能である。


「久々に、この方法でやってみるか」


 一人呟いた俺は界龍剣を構えてみせる。そして一つ目の技から叫ぶ。


「想符『アクセルモード』からのアクセルソード」


 全身に水色のオーラを纏わせ、更に剣に燃え上がる水色の炎を纏わせる。その勢いは滝の如く、止まることを知らない。剣を振るい、一連の動きをする。そして、炎を一度消して次の技を叫ぶ。


「感情解放『暴食』、感情爆破『暴食』……そして暴食剣」


 続けて言ったこの技は、己の心に最も関与する感情を解き放つと言ったもの。紫色の炎を身に纏い、更には眼が紫色になる。この暴食の炎に触れる者全てを喰らい、更には自分の魔力へと変え、恐ろしい事に炎が触れた場所は異様な音ともに消滅する。


 それに合わせての感情爆破と暴食剣だが、まず感情爆破は暴食の炎を撒き散らして触れた箇所を喰らうといったもの。それに加えて、暴食剣は紫炎を纏わせた全てを喰らい尽くす剣であり、振られた箇所は暴食の如く空間ごと抉り取られてしまう。これまた恐ろしい代物だ。


「さて、次は——」


 そう呟きながら剣を振って暴食剣を解くと、邸の方から一人の少女が姿を現す。


「起こしてしまったか?」


 俺の問いに彼女は眠そうな目を擦りながら、否定するように首を振る。界龍剣を仕舞ってから彼女の方へと向かい、小さい子を抱き上げるようにして軽い彼女を抱き上げる。


「げ、幻真さん⁉︎」


 その行動にハッとした彼女は、顔を赤めながら俺の名前を呼ぶ。俺はニッと笑って彼女に話した。


「おはよう妖夢。昨夜はぐっすり眠れたかな?」


「もう……ズルイですよ」


 彼女は照れながらも、怒って視線を逸らす。そんな彼女に謝りながら体を下ろし、邸の中へと入っていく。後ろから慌てて追いかけて来た妖夢は、そっと俺の腕を抱き締めた。






「——閻魔様の所にですか?」


 片手に茶碗と箸を持ったまま問う妖夢。この世界の閻魔——四季映姫の所へどんな用事かというと、俺の力についてである。どうも俺は、力を持ちすぎてしまったらしい。だから、その事に関して彼女から話があると、小野塚小町から聞かされていた。


「妖夢はどうする? 幽々子さんは留守にしてるけど、俺に付いて来るか?」


 味噌汁を丁寧に飲んでいた彼女は静かに茶碗を置いてから、その質問に答える。


「もちろんついていきます。えっと……今日やらなければならない庭師としての仕事があるのですが……」


「なら、俺が片付けている間に済ませておいてくれ。遠慮はいらない。俺も妖夢と出かけたいからな」


 彼女は照れくさそうに席を立ち、食器を持って台所へと向かって行った。そうと決まれば、後片付けをしよう。俺も彼女を追いかけるようにして、台所へと向かった。






 映姫のいる彼岸へ向かうには、妖怪の山の裏側にある中有の道を通って三途の川を渡らなければならない。というか、川を渡ることは不可能だ。いったいどうやって会いに行けというのだろうか。


「行けばなんとかなるか」


 そんなこんなで、まずは妖怪の山を目指す。白玉楼のある冥界を後にして、目的地へと飛んで行く。中有の道へ行くのには山を越えるか、それとも迂回するかと言った選択肢があるが、果たしてどちらが賢明なのだろうか。頭を悩ませながら飛行していると、右手に温もりを感じ取る。


「どうしたんですか? そんなに頭を悩ませて」


 彼女の問いに、苦笑いしながら答える。


「どうでもいいことかもしれないけど、山を越えて行くか迂回して行くか悩んでてな」


 その問いに、彼女は頭を悩む事なく答えた。


「私はどちらでも構いません。幻真さんの思う道を進めばいいと思います」


 しかし、彼女の回答に更に頭を悩ませてしまう結果に陥る。彼女はあたふたした様子を見せたが、俺は笑顔を作って彼女を落ち着かせる。


「決めた。山を越えよう。声をかけておきたい人がいるからな」


 俺の答えに安心したのか、彼女は明るい笑顔を見せて頷いた。






 山を目前にして、麓の方へと降りて行く。毎度の如く、巡回中の白狼天狗たちに見つかっては面倒であるため、山道を使う事にする。


 彼岸へ行く時間は今日中であればいつでも良いらしく、早くても遅くても俺に任せるといった状態。なぜ時間を指定しないのか疑問に思ったが、言葉に甘えて自由にさせてもらおう。


 その道中で、俺たちは声をかけておきたい人物の一人と出会う。


「やあ。悪魔たちの撃退、ご苦労様」


 頭に銀杏の髪飾りをつけた女の子っぽい見た目をした少年——桃花は笑顔で声をかけてくる。俺たちが他愛も無い話をしていると、後ろにいた妖夢が彼に問う。


「あの……貴方はなぜ、あの空間に一緒に来なかったんですか? 差し支えなければ、お聞きしたいのですが……」


 そういえばそうだった。俺は思い出したかのような素振りを見せて、彼の顔を覗く。一方の彼はというと、呆れた様子を見せながらも俺たちの疑問に答えた。


「簡単な事だよ。僕はこの地、つまりは幻想郷から離れる事ができないんだ。たったそれだけのことだよ」


 理解できていない様子を見せる妖夢であったが、俺は相槌しながら彼の話に納得した。彼に詳しい説明を聞こうとした妖夢であったが、彼が急ぐようにその場を去ってしまったので、それは叶わなかった。


「移動の際にでも説明してやるよ」


 俺の言葉に、彼女は渋々頷いた。






「——幻想郷から離れられない。詳しく言えば、彼は妖怪の山と契約した身であるという事。悪いように言うならば、彼は妖怪の山に縛られていると言う感じだな。役職を放棄する事は許されない。離れようとするならば、強制的に引き戻される」


「そんな大役を担っていたなんて……」


 悲しそうに俯く彼女の頭を、そっと撫でてやる。先程の説明に加えて、俺は小さな声で呟いた。


「そんな辛い役柄を背負っている者が皆、不幸であるとは限らない。そんな奴でも今を楽しんでいる奴だっているし、気にせず生きてる奴だっている。やろうと思えば、どんな奴だって普通の人と変わらない生活を送れる」


 要は意識によって変わると言う事だ。変えようと思えば変えられる。変えようとしないから変わらないだけである。


「何やら深い話をされてますね〜」


 一通り話終えた後、突然空から聞こえてきた声の方に視線を向ける。その正体は、烏天狗の文だった。


「なんだか、お久しぶりな気がしますね。以前より逞しくなりました?」


 揶揄うようにして問う彼女に、俺は首を振る。俺は大して変わっちゃいない。気付かされたんだ。大切な人がいるということに。


「それより、こんな所までなんの御用で?」


「ああ、実は——」


 淡々と文に説明していく。途中で映姫の名を出すと、彼女は身震いしていた。彼女にとって、あの時の説教はトラウマものだったのかもしれないな。と言っても、彼女は一度映姫に取材をしていたはずだが。


「そうでしたか。となると邪魔しちゃ悪いですね。お二人の時間を大切にしてください。それでは、私は取材へ行って参りますので」


 邪魔と言う言葉には二つの意味が込められていたと思うが、気にする事はない。飛び去っていく彼女の背中に手を振りながら、しばらくの間見送った。






 再び歩き続けること数分。大体山の中腹辺りに位置する、一軒家が見えてくる。そう、お馴染みの狼の家だ。そういえば、昨日までの異変に関わった人物たちは今頃何をしているのだろうか。


 その事で思い出したが、ルシファーに体を乗っ取られて俺と対峙したニックについてだが、彼は今、永遠亭で治療と共に体を休めている。


 昨日彼を永遠亭に運んでから容態を聞いた所、命に関して特に支障はなく、時期に目覚めるとの事。また、彼自身の魔力による治癒も行われているため、大して心配するほどでも無いらしい。


 狼の家の方へと進路を変えて歩いていると、聞き覚えのある人物の声が背後からする。


「半人半霊と龍使いか、奇遇だな」


 くるりと体を回転させてそちらへと視線を向ける。その人物の正体は、和正であった。彼とこんな所で会うとは珍しい。そう思いながら彼に話を振る。


「ああ。でも、どちらかと言うとあんたをここで見る方が数倍珍しいと思うんだが」


「ははっ、確かにな。俺自身、普段はあまり外を出歩かずに旧都にいるわけだが……まあ、単に外の空気を吸いたくなったようなもんだ」


「喜響さんと揉めたのでは無く?」


 煽るようにして問う妖夢。その質問に図星だったのか和正は顔を赤くして怒り、妖夢はヒョイっと俺の背中に隠れる。


「なんだよ。最近仲が深まってたように見えたけど」


「そ、それはこっちの話だろ! 他人の事情に首を突っ込むな。忘れてるかもしれないが、アイツはお前の命を狙ってる身だぞ? アイツが何をしようが俺には関係ない。そのことだけは覚えておけよ」


 彼がそう吐き捨てると、元来た道であろう場所を戻って行ってしまった。


「……正直じゃないんですから」


「まっ、それもアイツのいいところだな。さて、狼に挨拶でも——」


 そう話しながら家の扉を開けようとしたが、俺はその手を止める。と言うのも、今彼が留守にしていることを知ったからだ。そのことを妖夢には伝えずその場を去ろうとしたのだが……


「留守でしたか」


 彼女は考えを見透かしたかのように俺に言う。実際その通りであったため、否定する事なく彼女が隣に来るのを待ってから、その場を去った。






 その後、道中で誰かとすれ違う事なく守矢神社へと到着する。しかし、人気は無く神社に住んでいる三人の姿も無かった。


「ここも留守か。仕方ない、このまま中有の道に行こう。ここを迂回したら行けるかな?」


 妖夢に呼びかけ、続けて聞いてみる。しかし、彼女もわからなかったため、物は試しと道のない木々の間を通って行く。思えば、山の裏側をあまり知らない。少しは知っているが、月の裏側の謎みたいに少し楽しみである。


 だが、山はやはり山である。山の表側から見える景色とは一転し、あまり見慣れない景色を目の当たりにする。木々の間からで少し見にくかったが、ある程度整備が施された道が伺える。同時に移動するにつれて、ある屋台のようなものを発見した。


 疑問を抱いてはいたものの、悩んでいては仕方あるまいと、妖夢の気を使いつつ道無き道を進んで行った。






 山の裏側は、利用する人の多い表側よりは整備があまりされておらず、道と言えるかわからないほどの道を通って山を降りていく。


 利用する者が少ない事によって、この山の者たちが手を付けていない。わざわざ、大して意味の無いところに労力をかけるのも面倒であろう。その様な思考なのかもしれない。


「まあ、俺には関係のないことだが……っと」


 独り言を言いつつ、山の麓へ辿り着くところを飛んで着地する。少し楽をするためであったが、大して変わらない。チラリと後ろを振り向くと、俺と同じようにして妖夢が飛んで着地していた。


「よっと。着きましたね、中有の道に」


 ふぅと一汗かいたように腕で額を拭う妖夢。俺は苦笑しながら、ここへ辿り着いて思った事を口にした。


「それにしても……ここに並んでいる店は、いったいなんだろうな?」


 出店——それらの内容は金魚掬い屋や人魂ボンボン屋など、賑やかではあるのだが見たところ俺たち生きている者に対しての店ではなさそうだ。


 しかしまあ、なぜこんなに出店が並んでいるのか。たくさん並ぶ出店を見渡しながら考えていると、道の先から見覚えのある緑髪の少女と赤髪の大鎌を背負った女性が歩いて来る。


「三途の川の渡し賃だけでは足りなくて、地獄の財政状態がよろしくないためです。以前の異変である程度賄えていたのですが、そろそろ厳しくなりまして」


 右手に持った笏を体の前辺りで握って説明する緑髪の少女、映姫。なるほどと納得しながら聞いていると、妖夢が疑問に思った事を彼女に問う。


「閻魔様、ふと疑問に思ったのですが、お仕事の方はどうされたのですか?」


「四季様の仕事は二交代制で、四季様の他にももう一人、幻想郷を担当する閻魔様が存在している。まあ、所謂休暇ってところさ。ねっ、四季さ——」


 赤髪の女性——小町が映姫の名を呼ぼうとした時、彼女の顔元に笏が飛んでくる。そういえばそうだったなと、俺は過去に映姫から説明を聞いたことを思い出した。


「小町、私の台詞を取らないでいただけますか? 私の代わりに説明して頂いた事については感謝します。ですが、そこまで気を遣わなくて結構です」


「うぅ……すいません……」


 ションボリとする小町を見て、どうしたものかと頭を掻きながら映姫の方へと視線を戻す。


「それで、話というのは? なんでも、俺の力がなんとかで……」


「ええ。早速ですが、本題に入るとしましょうか」


 彼女は再び笏を先程の位置に戻して、大きく息を吸って吐く。そして、長い説明を始めた。


「話の整理を兼ねて説明します。まず、なぜ貴方をお呼びしたか。その内容は、単刀直入に言うと貴方の力について。じゃあ、なぜ貴方を呼びつけてまでその話をするのか。それは、貴方が力を持ちすぎたことによる、この幻想郷のパワーバランスの崩壊。ですから、貴方には幻想郷に滞在する事を制限してもらう必要があります」


 その説明を相槌を打ちながら聞いていた俺は、突然彼女の説明が止まった事にハッとする。滞在する事を制限する——つまり、この力を持っていると幻想郷にいる事は禁止されてしまう。ならばと、考えと共に俯いていた顔を上げて彼女にある提案をする。


「この力が無ければ、この幻想郷のパワーバランスは維持され、俺が滞在する事も制限されない訳か?」


「そうなりますね。ですが、何か案……秘策でもあると言うのですか?」


 彼女のその問いに、ニヤリと口を動かして答えた。


「ああ。俺は——この力を封印(・・)する」


 その言葉に驚きを見せた映姫と小町。だが、妖夢は考えを見透かしていたかのように表情を変えず、穏やかな笑みをこぼしていただけであった。


「それが貴方の答えですか」


 溜息混じりに言う映姫。呆れた様子も伺えたが、その直後に彼女の笏が目の前へと飛んでくる。そして、彼女は問う。


「貴方がその力を封印したとして、大切な人を絶対に守る誓えますか?」


 起こる沈黙と、額から流れる僅かな冷汗。その冷汗が顎に到達して落ちた時、俺は答えを述べた。


「ああ。死んでも守ってみせるさ。例え、この命に代えてでも」


 俺が答えを出した数秒後、目の前にあった笏が離れて映姫は元の位置に戻す。緊張が解けたせいか、その様子を見て一息吐いた。


 すると、後ろから妖夢が抱きついてくる。俺はクルリと体の向きを変えて彼女の方を見る。だが、彼女は泣いていた。思い浮かぶ理由が無かったため、恐る恐る彼女に問う。


「よ、妖夢? どうして泣いてるんだ?」


「ごめんなさい。せっかく幻真さんが決意を示してくれたというのに、こんな情け無い姿を見せてしまって……私、嬉しかったんです。貴方にそう言ってもらえて。だけど、これだけは約束して欲しいんです。幻真さんが私を守るためだけに——死なないで」


 彼女のその言葉を聞いて、俺はハッとさせられる。同時に後悔の念も押し寄せる。また彼女を悲しませるような事を言ってしまった。また彼女を不安にさせるような事を言ってしまった。その反省から、俺は彼女を優しく抱き締めた。


「コホン……話の続きをさせていただいても?」


 映姫の声に我に返りながらも、一度妖夢を離して話を聞くために映姫の方へと向き直る。そして彼女は言葉を続けた。


「それで、いったいどのようにして封印を?」


「封印をするという事は、どこかに閉じ込める必要がある。それは身近で管理ができるところ。だから俺の体の一部——そうだな、右眼に封印する」


 その言葉に驚きの表情を見せる小町。しかし、先程と違って映姫は至って冷静である。そして、彼女は述べた。


「わかりました。貴方の選択に、とやかく言う筋合いはありません。貴方の運命、見守らせていただきます」


 そう言って、僅かに俺との距離を取る映姫。小町も続くようにして数歩下がり、間隔をとった。同様に妖夢も下がろうとしたが、俺は彼女の手を握りその足を止めさせる。


「すまない、お願いがあるんだが……」


「構いません。貴方のお願いなら、喜んで聞きます」


 彼女に感謝の言葉を述べて、彼女の左手を俺の左手で握り、空いた右手で閉じた右眼を優しく抑える。その上から、彼女も右手を添える。そして、俺は願いと共に念じる。




 すまない、古龍(エンドラ)。どうやらこの力は、この幻想郷に悪影響を及ぼすらしい。だから、悪いが俺の体に封印させてもらう。


 もしかしたら、再びお前の力を借りるときが来るかもしれない。だけど、お前の力を借りるという事は、この世界の危機が訪れるという事。そんな事は起こってほしくないに決まっている。だが、運命と宿命には抗えないものもある。お前は受け入れてくれるか?



 ——嗚呼。その願望、受け入れよう。そして、我とも約束して欲しい。決して負けるな。救済の英雄、そして——永遠の正義となれ。



 その言葉の最後に、俺の全身から大きな力が抜けていくのを感じる。そして、その力は抑えた右眼へと一気に流れ込む。


 物凄い衝動に襲われながらも、その封印は無事に終了する。


「なんだか体が軽いや」


 そう言いながらピョンピョンとその場で跳ねる。ふと映姫たちのいた方を見るが、彼女たちの姿は無くなっていて、残ったのはズラリと並ぶ出店のみ。


 それらの出店を眺めていると、紫色の長髪に如何にも巫女服らしい巫女服を着用して赤いロングスカートを履いた見覚えのある顔立ちの少女を目撃する。どこか顔立ちが霊夢と似ているような……


 しばらく彼女の事を見ていると、妖夢が俺の服の裾を引っ張る。ハッとした俺は彼女から目を離し、妖夢と横に並んでその場を去った。




「——小町、貴方の知り合いの仙人にお願いがあります。彼女に監視を頼んでください。理由は言わずとも、分かりますね?」


「——御意」








「——とまあ、俺が帰ってきた翌日はこんな風に過ごしたな。それで力を封印した」


 幻真は自分の右眼を指差しながら言う。一方の彼の話し相手の霊奈は、呆れて溜息を吐く。


 場所は博麗神社の縁側。日は戻って宴会のあった翌朝である。何人か建物の中で眠る中、彼らは会話していた。因みに、彼女は昨夜の宴会に参加していない。


「なるほどね。それで、話は変わるけど貴方は覚えていないの? 私と昔会った事を」


 彼女の問いに首を傾げる幻真。暫く悩んでいた彼であったが、あまりにも長い思考に彼女は声をかける。


「覚えてないってわけね」


「すまない、過去は振り返らない男だから」


 カッコよく決めたつもりの彼であったが、彼女はまたもや溜息を吐いて呆れる様子を見せ、重い腰を上げる。そして数歩進んだ後、縁側に座る彼の方に振り返って指をさして彼に言う。


「その理由で決闘を拒否させないわよ。さっさとそこから立ち上がって、私と戦いなさい!」


 威厳に満ちた態度で彼を圧倒させる彼女であったが、彼はそれに怯まず立ち上がって彼女へと歩み近付き、顔を寄せる。


「ああ、受けて立つ。力を失ったからと言って、嘗めてもらっちゃ困るぜ?」


「ふん。そう言えるのも今のうちよ」


 彼は勝負を受け入れた。






 間合いを取り、彼らは自分の得物を手にする。幻真は界龍剣を手に出現させ、一方の霊奈は一見普通のお祓い棒を手に取った。


 沈黙の間に吹く風。お互いの髪を揺らし、緊張感を感じさせる。その緊張から、幻真は額から汗を流し、顎に到達したところで一滴が落ちる。それが勝負の幕開けを示し、次の瞬間にはお互いがお互いの得物をぶつけ合っていた。


「さすが、博麗の巫女さんだ」


「やっぱりあんた、覚えてるんじゃ——」


「さあ、何のことやら」


 そんな惚けた様子で話しを聞いていた幻真は、彼女の背後を取って剣を振り上げて斬ろうとする。しかし、彼女の能力である"防ぐ程度の能力"により攻撃が察知され、その行動は無意味と化す。


 しかし、彼はそんな事承知の上。更に斬撃を繰り出すが、霊奈は侮ることなく冷静に攻撃を察知して防御する。


 無意味に攻撃を繰り返す彼に疑問を持った霊奈であったが、その答えは直ぐに明らかになった。


「俺一人に集中し過ぎたようだな」


 気が付くと、周りには数十体の彼の複製体が立っていて、彼女を取り囲んでいた。


「幻力を駆使して発動させた超技術——幻影。以前から何度か使ってはいたが、そろそろこれを応用した技でも使ってみるとしようか」


 彼の分身のうちの一人がそう言って、彼らは一斉に左目に手をかざす。すると、その瞬間に彼等は砂のようにして崩れ落ちて姿を消す。


 完全に気配が読めなくなってしまった彼女は必死に辺りを見渡すが、やはり彼の姿はどこにもない。


「後ろがガラ空きだ」


 突如として発せられた彼の言葉と共に、彼女は蹴りを背中に入れられ地面へとうつ伏せになる。よく見ると、彼女の背後には先程姿を消した彼の姿があった。


「今のはいったい……」


「風砂……と言えばいいかな。風に吹かれる砂の如く姿を消し、気配も消す。そして相手の背後を悟られる事なく取る。まあこれも、幻力を駆使しているんだがな」


「ぐっ……! 私を……嘗めるなぁぁあ!」


 倒れた体を起こしてお祓い棒の先からビームソードを出し、彼へと斬りかかる。しかし、又もや彼の姿は砂へと変化し攻撃を与える事が不可能となる。


 だが、彼女は何を思ったのか深呼吸をして冷静さを取り戻す。そして、周囲に大きめの弾幕を展開した。


「なるほど、防御壁といったところか」


 砂が彼女の頭上へと集まり、幻真の姿を作り出す。そして、彼は左手を彼女へと翳して灼熱の炎を放った。


「い、今のって……」


 攻撃を躱しながら驚く様子を見せる彼女は、彼の様子を伺いながら自身の能力によって脳を活性化し、思考を張り巡らせる。


 すると、彼の攻撃は止まり、彼女は再び彼と対峙する。しかし、先程まで炎を放っていた彼の左腕が焼き焦げていた。


「今の俺には、まだ早いってわけか」


 彼は剣を一度右手から消して、焼き焦げた左腕に手を翳す。すると、徐々に治癒が施されて腕が元通りになる。


「いつの間に治癒の術を?」


「俺は元々回復術が使えなかったわけじゃないからな。それの応用といったところかな」


 確かに、彼は瞳の色を変える力で治癒の術を成していた。それの応用といったところだろう。


「それで思い出したけど、今のあんたは以前使っていた技は使えるの?」


「ん? ああ、使えない事はないが……属性の力は封印と共に少々失った」


 頷きながら話を聞いていた彼女であったが、何を思ったのか自身の武器を収めて彼の元へと飛んでいく。


「いい? 無理はし過ぎちゃダメよ? 今の貴方の体は不安定だったりするんだから、何が起こるか分からない。私も厄介ごとと面倒ごとを起こさせられるのはゴメンよ」


 彼女は忠告を伝えた後、その場を去ってしまった。残された彼は、呆れながら溜息を吐く。


「みんな心配し過ぎだよ。まあ、迷惑をかけない程度には加減するさ」


 呟きながら地面へと下りて行く彼は、縁側に立っていた少女を目にする。そして、彼の脳裏にある言葉が過ぎった。



 ——保有する力が減っていた。



 どれだけあの力が大きなものだったかを考えさせられる。なら、あの力に負けない程の更なる力を身に付ける。彼はそう誓いながら彼女へと近付き、帽子の上から頭を撫でてやる。


「すまないな、こいし。色々心配させてしまっていたらしい。だけどまあ、深い事は考えないでくれ。俺は俺だから」


 彼の優しい言葉に安心したのか、彼女は明るい笑顔で頷いた。


「さて、今日からまた修行開始だな」


 彼は青い空を眺めながら、そう呟いた。

幻真の得た超技術


《幻影》

幻真が編み出した幻力を行使した超技術。使用出来るのは、幻力を使い熟すもの。自身のいる半径5メートルの中に自分の幻影を作る事ができ、それもまたリアルで血などを出す。消える時は粒子となる。


《風砂》

幻真が編み出した幻力を行使した超技術。使用出来るのは、幻力を使い熟すもの。自身の姿、存在を幻へと変え、幻影による複製体と共に姿を砂へと変えて相手からの察知を一切遮断する。気配を感じることが不可能となるため、全くの予知が出来なくなる。砂を再構成させる事により存在を元に戻す。

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