第129話 追憶
原作キャラクターの過去については、この作品においてのものとします。
博麗神社の社にて。不貞腐れて中へと入った霊夢は、周囲が騒がしいながらも昼間に出会った三人組と再会していた。
「なるほどね。この為の山菜集めだったってわけ」
「その通り! 里の野菜も美味しいけど、山で採れた新鮮な野菜も美味しいからね!」
両手を広げて笑顔で言う悠飛。その話を聞いて頷く刹那と千代春。すると、近くで酒を飲みながら会話をしていた二人組のうち片方の人物が、彼女らの会話に入ってくる。
「霊夢さん、山にいらっしゃってたんですか?」
白い獣耳を動かしながら彼女に問いかける白狼天狗の少女。その隣にいた人物もまた、同様にして獣耳を持っていた。
「ええ。色々あってね。刹那とは会わなかったの?」
「どうやら僕たちの方が遅かったみたいだね。帰ってきた時には彼女の姿を見なかったから」
少女の隣にいた少年もまた、話に加わる。納得するように少女は頷いていた。
「まあでも、あんたたちには感謝しないとね。お酒のおつまみとしても好評みたいだし。楽しんでいってちょうだいね」
霊夢は彼らにそう言って、その場を急ぎ足で去っていく。彼らはその姿を見届けた。
「——ごめんなさいお母さん、任せっきりにしちゃってた?」
霊夢が急ぎ足で去ったのは、これが理由である。
「あら、お帰り。気にしないでいいわよ。母親として、最近貴方に気を使わせすぎだと思ってね。それに、あの子も手伝ってくれてるし」
霊妙はそう言って、片方の掌にお盆を乗せながら慌ただしくあちこち移動する緑の少女を指す。
「って、早苗じゃないの! 早苗はこの事を知っていたわけ?」
「いいえ。これを計画したのは幻真で、彼自身は人里で買い出しをしていたわ。それから、悠飛たち三人組が山菜集め。一番重要な役割を担っていたのが萃香。あの子たちの関連する人たちで他に知っていたのは、妖夢と幽々子ってところかしらね」
「ということは、早苗は自主的に……?」
「いいや。私の差し金ってところかしらね」
突然背後から聞こえた女性の声に驚いた霊夢は、一瞬ドキッとした。その様子を見て大げさに笑う女性を横目に、彼女の隣にいたケロちゃん帽子を被った少女が呆れながら言う。
「まあ本当の事を言うと、人里で信仰集めをしている際に、ある男に声をかけられてね。説明を受けた上で面白そうだったから彼に手を貸した。早苗には私たちが帰って来た後に、ここで手伝うようにと神奈子が話しただけ。だから神奈子は何もしていない」
「あっ、諏訪子! 私の事悪く言ってるわね? 痛い目見てもらおうかしら?」
「私とやるっての? 上等だよ。表行くよ」
仲がいいのか悪いのか。彼らはお互いの頰を引っ張り合いながら、本殿を出ていく。その数秒後、派手に大きな音が起こり始めたことは言うまでもない。
「はぁ……神奈子様と諏訪子様ったら……」
彼女らの様子を間に受けて、呆れることしかできない早苗であった。霊夢もまた面倒くささからか、苦笑して外を眺めていただけであった。
「って、そうじゃなくって。魔理沙は? なんで魔理沙も知っていたの? アリスの話だと幽香の所に行ってたって……」
「その通り! アリスのヤツ、ちゃんと伝えてくれたみたいだな!」
霊夢の言葉を否定する事なく、頭の後ろで手を組みながら話す魔理沙。霊夢はますます意味がわからず、彼女に改めて問いかける。
「で、あんたはどこで知ったわけ?」
「私もあいつら同様、幻真に聞いたって感じだな。上手くいったみたいで良かったぜ!」
「お陰で朝から飛び回る羽目になったがな」
魔理沙の後に続いて、幻真が溜息混じりに言う。それを聞いて、霊妙は彼に言った。
「私には教えてくれなかったの?」
「すみません。霊妙さんにも驚いてもらおうと思って。あまり迷惑をかけるわけにもいかなかったもので」
彼の言葉に呆れながらも許す霊妙。その話を聞きながら、思い出したかのように霊夢は問う。
「あんたはいったい何をしてたわけ? 幽香の所に行ってたんでしょ?」
「よくぞ聞いてくれた! 実は一芝居やろうと思ってな。師匠の所で試行錯誤してたって所だ!」
「はぁ?」
彼女の説明に思わず疑問の言葉を口に出してしまう霊夢。魔理沙は陽気に笑いながら、楽しみにしとけと言って外へと出ていく。
幻真がその様子を見届けて霊夢の方に向き直ると、彼女が何か知っているかと言わんばかりに顔をにじり寄せる。彼は彼女との距離を置いて、手を横に振った。
「霊夢は楽しみにしてたらいいよ」
するりと彼女の隣に立ち、囁く妖夢。霊夢は驚きながら耳を抑え、彼女と距離を取る。妖夢は霊夢にウィンクをしながら外へと出ていってしまった。
先程の出来事に頭を掻きながら困る様子を見せる幻真であったが、彼女に軽く謝って妖夢の後を追った。
「なんでこんな目に……あ、そういやお母さん。気になったんだけど、宴会に来るのはこれだけなの? 流石にもう少し来るとは思ってるんだけど」
「もちろんまだ来るわよ。今のところ妖怪の山の人たちに、鬼と……後はそこら辺の妖精やら妖怪やらってところかしらね」
「紅魔館の連中や地霊殿の連中も来るとは思うんだけど……」
彼女は考えていたことを呟いて、近くに座っていた雛の酒瓶を取ってそのまま飲んでしまった。彼女はあたふたしながら、霊夢の飲む様子を涙目で見ていた。
彼女が表へ出て行ったあと、さり気無く新しい酒瓶を置く霊妙であった。
しばらくして、更に人が集まりいよいよ魔理沙の言っていた芝居が始まろうとしていた。
「それで? あんたはなんの芝居をするつもり?」
霊夢の質問に得意そうに鼻を鳴らした彼女は、腰に手を当てて言う。
「芝居って言っても思い出話だけどな! まっ、取り敢えず私の話を聞いて当ててくれ! それじゃあ、霧雨魔理沙の昔話の、始まり始まり〜」
暑い夏が始まろうとする今日この頃。一人の少女はある問題を解決するべく、人里へ向かおうとしていた。
「初めての妖怪退治……! 頑張らなくちゃ!」
彼女の受け持った問題——それは妖怪退治の依頼である。当時まだ幼かった博麗霊夢は、博麗の巫女として初めての依頼を熟そうとしていたのだ。
「いい? 絶対に無理はしない事。危険だと思ったら直ぐに逃げるのよ?」
「も〜、お母さんは心配性なんだから! 心配しなくても大丈夫! チョチョイのチョイっと解決するんだから!」
霊夢は得意げに言う。彼女の様子に呆れながらも、どこか逞しさを感じた彼女の母親である霊妙は、この子の明るさとその陽気さから心配しなくても大丈夫だろう、そう信じていた。
こうして、霊夢は母親に見送れながら、依頼解決をするべく人里へと飛んで行くのであった。
彼女の姿が見えなくなった後、彼女を見送った霊妙はポツリと呟く。
「本当に、大丈夫だったのかしら……」
「あら、母親の貴方があの子を信じてあげないでどうするのよ」
そう言って彼女の独り言を拾った賢者、八雲紫。彼女はいつの間にか霊妙の隣に立っていた。
「そうだけど……貴方の調べだと妖怪は恐らく、数年前に現れた黒魂の生き残り。詳しい事は知らないけど、中々厄介だった相手だったらしいじゃないの。霊夢が倒せるかどうか、心配だわ……」
彼女は不安で胸を押しつぶされそうになる。それもそうだ。彼女のたった一人の娘である霊夢が、もしも負けてしまうような事があったら。きっと彼女は悲しみで立ち上がれなくなってしまうだろう。
しかし、彼女はその事を承知の上で娘に依頼を受けさせたのだ。娘の好奇心と期待するような瞳を見た彼女は、今更取り消すなんてことはできなかった。
その話を受け、紫は微笑む。その彼女の様子に疑問を持った霊妙は、彼女の様子をただ見つめる。そして、彼女は口元に当てていた扇子を離して口を動かした。
「心配しなくても大丈夫よ。あの子には良い"相棒"を呼んであるから。彼女たちなら、きっと大丈夫」
相棒とは、いったい誰のことなのか。その時の霊妙には、知る由もなかった。
人里に着いた霊夢は、里の人々に迎え入れられる。老若男女、様々な人たち。これだけ人が集まるという事は、さぞ大きな問題なのだろう。彼女は胸を躍らせた。
里の人たちによると、夜な夜な外を徘徊するような怪物がいるとの事。それは黒く、塊のような魂で出来たもの。
偶然その怪物と出くわした人間が、その怪物に食べられてしまったり、翌朝目を覚ますと畑が荒らされていたりと、状況はとても深刻であった。そして、奴等はどうやら魔法の森と呼ばれる原生林の中のどこかを住処としているらしい。
一通り話を聞いた霊夢が早速その場所に向かおうとしたが、ある者を紹介するとのことで呼び止められる。
「彼女もまた君と一緒に妖怪を退治してくれるパートナーだ。心強い仲間だよ」
そう言った里の人は、一人の少女を連れてくる。金髪に、大きな黒い三角帽子を被っていた。また、彼女の後ろには一人の少年と森近霖之助がいた。
霖之助は彼女の保護者のような感じで、そして少年は彼女と仲がいいためなのか、一緒に付いて来ていた。
霊夢が彼女の事をジッと見ていると、少年が彼女の背中を押す。突然押された彼女は、顔を赤らめながらも彼に怒る様子を見せる。おどおどした様子の彼女を見た霖之助は苦笑していた。一方で霊夢は、クスクスと笑っていた。
その様子を見た少女がムスッとした表情を浮かべ、機嫌悪そうにしていた。その様子を見た霊夢は、少し笑いながらも少女に手を伸ばす。
「ごめんなさい、つい笑っちゃった。私は博麗霊夢。貴方のお名前は?」
「霧雨……魔理沙……魔理沙だ、よろしく」
魔理沙は照れ臭そうにしながらも、差し伸べられた霊夢の手を取った。
お互いの自己紹介も終え、いよいよ彼女たちは魔法の森へと向かおうとしていた。そして、霊夢は馴染みのある少女に声をかけられる。
「霊夢ちゃん、大丈夫なの?」
鈴のついた髪留めを付けたツインテールの少女は、不安そうに言う。彼女を安心させるように、霊夢は胸を張って言った。
「心配しないで小鈴ちゃん! 私なら大丈夫だから!」
それを聞いて安心したのか、小鈴は笑みを漏らす。その様子を見ていた花の髪飾りをつけた少女は、誰にも見られぬところで安堵の様子を浮かべていた。
「それじゃあ、行ってきます!」
陽気な少女と緊張気味の少女は、魔法の森へと向かって行った。
魔法の森へ向かう道中にて。霊夢は上機嫌で森への道を進んでいく。一方の魔理沙は、彼女の背中を眺めながら付いて来ていた。
すると、突然前から声がした事に魔理沙は驚く。
「魔理沙って、私と同じくらいの歳よね。お父さんとお母さんと暮らしてるの?」
「え……あ、ああ。まあな」
動揺した様子で答える魔理沙。しかし、霊夢はその様子を特には気に留めなかった。そして、続けて博麗神社を出る前の話をする。
「お母さんったら、心配ばっかりなのよね〜。大丈夫って言ってるのに信じてくれないし」
「……それはきっと、霊夢の事を大切に思ってるからだと思う」
ボソッと呟く魔理沙。その言葉を聞き取れなかったのか、霊夢は彼女に何を言ったか聞き返すが、彼女は何も無いと誤魔化した。
すると、彼女らの目の前に森へと続く道が見えてくる。
「やっと森の入口に着いたね」
「なあ霊夢、ここまで来てからで悪いが、やめておかないか? なんだか、嫌な予感がする……」
不安そうにする魔理沙を見て、首を傾げる霊夢。彼女はそれを否定して、香霖堂を横切って早速森の中へと入って行ってしまう。その様子を見た魔理沙も、仕方なく彼女を追いかけた。
森の中を彷徨い続けること数分。彼女たちは注意深く森の中を進んでいた。しかし、魔理沙の様子に異変が生じる。それもその筈。なんせこの森には化け物茸の胞子が宙を舞っていて、普通の人間は息をするだけで体調を壊してしまうのだから。
「魔理沙? 大丈夫?」
ふと彼女の様子を見た霊夢が魔理沙に寄り添う形で状態を聞く。当の本人は口元に手を当てて、その場に膝を突く。霊夢自身は大丈夫であったが、至って普通の人間である魔理沙には厳しい環境だったか。
仕方なく引き返す事を決めた霊夢は、魔理沙に肩を貸して元来た道を戻ろうとする。しかし、その道を阻むモノがいた。
「なに……あれ……」
それは、黒い物体のようなモノであった。そして、彼女は悟る。これが里の人々を困らせていた元凶であると。
それに気付いた彼女は、魔理沙にどこかで隠れているように指示を促す。それを聞いた魔理沙は、ヨロヨロと近くの茂みに身を潜めた。その様子を見届けた霊夢は、右手にお祓い棒を構えて敵と対峙する。
「修行の成果、見せてやるんだから!」
彼女は勢いのある声で発した直後、瞬時にして左手にお札を持って投げる。それらは爆発を起こし、お互いの目を眩ませる。しかし、彼女はそんなことお構い無しに敵へと突撃して行く。
距離が僅か一メートル弱となった時、彼女はお祓い棒を薙ぎ払う。
お祓い棒は勢いよく黒魂の中心辺りを抉り、黒い血が飛び交う。その痛みに悲鳴を上げる黒魂。その奇声に、彼女は思わず耳を抑えた。
その奇声が止んだ後、休む暇も与えず黒魂は反撃に出る。両手が塞がった隙を狙うかのようにして黒魂は霊夢に飛びかかった。避けようとした彼女であったが、足元の部分だけ踏み潰されてしまう。
「重い重い! 潰れちゃう!」
彼女は痛みに対して叫びながら、黒魂の胴体を叩く。しかし、そんな痛みをモノともせず、黒魂は更に体重をかける。
「あああああああ!」
悲鳴を上げる霊夢。このままでは骨までもが潰されてしまう。どうにも脱出できそうになかった彼女は、絶望と苦痛から涙を流す。その様子を、魔理沙はビクビクしながら覗き込んでいた。
「私が助けなきゃ……!」
魔理沙の体は動く。霊夢を助けるべく、黒魂の前へと立ち、ある物を向けて叫ぶ。
「霊夢から離れろぉぉぉぉぉお!」
その八角形の物から放たれる極太のレーザー。それは勢いよく黒魂の身を吹き飛ばしてしまった。魔理沙はよろけながらも、倒れている霊夢の元へと近付く。
「れい……むぅ……」
魔理沙は残った力で霊夢の名を呼び、その場に倒れてしまう。自由の身となった霊夢は急いで魔理沙の元へと駆け寄る。
彼女は苦しそうに呼吸をしていた。急いで手当てをしなければ、彼女の身が危ない。そう思って出口を目指そうと歩き出すが、突然として体が倒れてしまう。
「なん……で……?」
それもそのはずである。彼女の足の骨は折れてしまっていた。まだ幼く、体もまだ頑丈とは言えない。それに女の子でもあるため尚更だ。彼女は成すすべなく、その場に倒れ込む。そして、ポツリと呟いた。
「おかあ……さん……」
彼女の意識は次第に遠のき、少女二人はその場で動けなくなってしまった。
「——やれやれ。困ったものだな」
突如開いたスキマから、一人の女性が出てくる。彼女は出てくるなり少女二人を緊急措置して回収し、再びスキマの中へと戻っていった。
「——はっ⁉︎ ここは……?」
とある一室で目を覚ます霊夢。彼女は辺りを見渡すが、知らない場所でだった。そして、隣に寝ていた少女へと声をかける。
「魔理沙! 起きて魔理沙!」
「——ん……お、霊夢。ここはどこだ?」
彼女の問いにわからないとしか答えることができなかった霊夢。すると、突然襖が開いて一人の少年が入ってくる。彼は二人から視線を浴びたため、一瞬言葉が詰まる。
「えっと……目が覚めたんだな。九尾のお姉さんがお前たちを運んできてな、ビックリしたよ。無事で何よりだったけどな」
照れ臭そうに鼻元に指を当てる少年。しかし、彼女らは彼の言葉の中にあった九尾のお姉さんについて疑問を持つ。
頭の中で思考を巡らせていると、少年の背後に一人の女性が現れる。
「霊夢……!」
彼女は急いで来た為か、息を切らしながら娘の名前を呼んだ。彼女に呼ばれた霊夢は、勢いよく母親の元へと走って行き、飛びついて泣き噦る。
その様子を見ていた魔理沙は気まずそうにしていたが、彼の頭を撫でる男性の姿があった。
「こーりん……」
彼は魔理沙に笑顔で頷いた。彼女は涙を拭い、強く頷いた。
「——いやぁ、本当に助かった! これで里の人々も安心して毎日を過ごせそうだ! しかし……本当に申し訳ない。こんな危険な目に合わせてしまったこと、深く反省している。依頼を熟してくれた礼と、心ばかりの粗品を受け取ってくれ」
そう言って、何人かの人々が請負人を含む関係者に幾らかの金銭や酒、野菜などを渡していく。もう少しマシな渡し方は無かったのかと、呆れる霊妙であった。
「それらはこちらで運んでおこう」
突如背後から声がしたかと思うと、そこには九つの尾を持った一人の女性が袖手をして立っていた。彼女の姿を見た時、霊夢と魔理沙は察する。彼女こそが少年が言っていた人物だと。そう分かった時、霊夢は女性に飛びついていた。
「お姉さん、助けてくれてありがとう!」
霊夢の様子に呆れつつも彼女を振り解こうとする女性だったが、彼女は中々離れない。終いには、彼女に一言注意を促す。
「わ、わかったから離れてくれ」
やっとの思いで離れた霊夢は母親に預けていた荷物を再び持って、女性の方へとまた戻って来た。霊夢の心遣いに、若干感謝する女性であった。
「ほら、君も」
「え……あ、ああ」
突然呼ばれた魔理沙は、重い荷物を持って女性の元へと寄っていく。そして荷物を渡して彼女がスキマにそれらを入れてる間、俯く魔理沙は女性に話しかける。
「あ、あの……その、さっきはどうも……」
「なんだ? ハッキリ言わないと物事は伝わらんぞ」
女性の言葉にややムッとした魔理沙は、声を張り上げて女性に言った。
「助けてくれてありがとう!」
「うむ。元気こそ一番だ」
女性はそう言って、魔理沙の頭を撫でてから一礼してスキマの中へと姿を消した。
「さて、私たちも帰ろうか」
娘に呼びかける霊妙。霊夢もまた、元気よく頷いて母親の元へと行こうとする。しかし、何を思ったのか急に進行方向を変えて、今日初めて会った友人の前まで走って行く。
「な、なんだ?」
彼女の行動に驚きと疑問を抱く魔理沙。だが、霊夢の行動の意味を彼女は直ぐに理解した。霊夢は感謝の意味を込めて、ハグをしていたのだ。
「あの時は助けてくれてありがとう。貴方がいなかったら、私は今ここにいなかったかもしれない」
彼女の言葉にドキッとする魔理沙。しかし、気付いた時には彼女はもうハグをやめていて、帰るべき場所へと戻ってしまっていた。
「感謝するのは私の方だ……」
誰にも聞かれぬようボソッと呟く魔理沙。彼女もまた、初めて会った友人の背中を見届けたので会った。
「——とまあ、こんな感じで私は霊夢と知り合ったわけだ」
「あんた……そんな昔の事よく覚えてたわね」
呆れながらも感心した様子を見せる霊夢。そして続けて、彼女は言葉を続けた。
「九尾の女性は藍よね?」
「ああ、その通り。幼い頃の霊夢は非常に明るくて、とても活気のある女の子だったぞ。可愛げもあってな——」
淡々と話す藍に耳を痛める霊夢。周りで聞いていた者たちは笑ったり驚いたりしながら彼女の話を聞いていた。
「霊夢と魔理沙がそんな風に知り合ったなんて、驚きだよ。それに、幼い頃の魔理沙は素っ気ない感じだったんだね」
狼の言葉に悩む素振りで彼女は答える。
「まあ、あの頃は色々あったからな。私も幼かったわけだし……と言うか、あの少年……確かに一緒に遊んでたりしていたはずなんだが、思い出せないんだよな〜。いったい誰だったんだろうか?」
語り部の彼女の言葉に疑問を持つ一同。しかし、その場にいた三名だけは違っていた。しかし、ある者が大袈裟に声を荒げて問う。
「いやいや、確かにそこも気にするかもしれないが、そこじゃないだろ? 俺は何より、黒魂の生き残りに対して一番驚いてるんだが」
その者、時龍は周囲の様子を伺いながら話した。この黒魂というのは、彼の師匠の影響によって出現したと考えていた。
しかし、実際はそうではなく元々黒魂とは自然に存在していた生物であり、それらを彼の師匠が操っていたことが発覚。
その意見に対して、一人の少女が述べる。
「実は私も違和感を感じてたの。私も昔に黒魂と同じ様な気を感じる生物と対峙した事があって。時龍と初めて会った時の黒魂とは、姿形が違ったけれども」
火御利の言葉に頭を悩ませる関係者一同。その空気の定か、一人の少女が元気よく挙手する。そんな彼女を魔理沙は指名する。
「つまり、あたいの推理によると何者かが黒魂っていう生物を送り込んでるってわけよ!」
氷の妖精——チルノは威勢良く述べた。いつもの彼女だと呆れる様子を見せる一同だったが、一人の男は彼女の意見を否定する事なく賛同の意思を示していた。
「その可能性はゼロでは無い。何にせよ、ありとあらゆる存在が絡み過ぎてて整理が追いついていない。この案件は俺自身で色々考えておく。だから、そんな気難しそうにしないで、気分を変えて宴を楽しもうじゃないか」
幻真の言葉にポカンと口を開ける数名。そんな彼に、勇儀が勢い良く肩を組む。
「よく言った! それでこそお前だ! あっはっはっはっは!」
その活気ある様子に影響され、皆もまた杯を手にして交わすのであった。
時間は進み、ほとんどの者が酔いで寝静まってしまった頃。一人の少女がある男を縁側へと呼び出していた。
呼ばれた男——幻真は、特に何も思わず彼女の隣へと座る。彼を呼び出した当の本人は一息吐いてから、彼へと話題を振った。
「私の能力は相手の心を読むといったもの。だから単刀直入に問います。なぜ貴方の心を読むことができないのでしょうか? いえ、正確には貴方の意思はどこへ行ってしまったのですか?」
訳の分からない事を話し出す彼女であったが、その問いを幻真は理解していた。そして、彼はゆっくりと口を開いて話し始める。
「今の俺の体は本体ではない——まあ、簡単に言えば肉体は存在しているけど、大部分の魂は別のところにあると言えばいいかな。なんにせよ、俺は力を持ち過ぎてしまったがために、己の力を封印したってわけ」
彼の淡々とした説明に対し、少女——さとりは納得した様子を見せていた。彼女はその場で腰を上げ、少し前進して夜の星空を見上げて彼に再び問いた。
「貴方の姿を久々に見たこいしは、貴方に対して疑問を持っていました。それもその筈。貴方があの空間へ行く以前より、保有する力が減っていたのですから」
彼女はそう言って、言葉を続ける。
「気というのは、感じ取るもの。そして、最後に問います。貴方は今もまだ——愛する者を守る力を持っているのですか?」
間は空くことなく、彼女の言葉に彼は答えた。
「もちろんだ」
彼の答えに満足したのか、彼女は社の中へと戻って行ってしまった。そして彼女と入れ替わるかのように、妖夢が現れ隣に座る。
「私の話、してました?」
彼女の問いに鼻で笑った彼は、勢い良く彼女を抱き寄せる。顔を赤らめながらも、彼の強い力と優しい力に身を委ねる。そして、彼は誓った。
「もうお前の事は離さない」
彼らは愛を分かち合った。
・黒魂
詳細はまだまだ不明である。
▫︎夢龍伝、魔理沙等の見解から
姿は真っ黒で黒い塊のような魂(物体)で出来たもの。人の足を踏み潰した事から、魂でありながらも体重は非常に重いとされている。
▫︎火御利の見解
上記とは違い、姿形は違うものの感じた気は同じ。全くの同体か、亜種なのかは不明。
▫︎時龍の推理
初めは彼の師匠が何らかの方法で出現させたと考えていた。しかし、魔理沙等の見解から自然にいたものであり、無理矢理操っていたと考える。
▫︎幻真、チルノの推理
これらの事から何者かによって生み出された生物ではないかと推理。幻真に関しては更に詳しい事は追々調べるとのこと。




