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東方人獣妖鬼  作者: 狼天狗
第参章 悪魔の目論見
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第128話 少女逃走曲

 来訪者があった数日後。祝勝会でもある宴会を開こうと、毎度の如く博麗神社に押し寄せる者がいた。


「霊夢〜! 霊夢はいないのか〜!」


 朝早くから響き渡る、二本の不釣り合いに長く伸びた角を生やした少女の声。彼女は瓢箪に入った無限に沸く酒を飲んでは、博麗神社の敷地の周りを同じように叫びながら徘徊していた。


「朝から騒がしいわね。いったいなんのようかしら?」


 本殿の縁側に繋がる障子を勢いよく開けた霊夢は、腹を立てた様子で自分の名前を呼んでいた萃香を睨み付ける。


「私が来る理由なんて、一つしかないじゃないか〜」


 三種類の分銅をジャラジャラと鳴らしながら、ふらふらした様子で言う彼女であったが、霊夢は不機嫌そうな様子で開けた障子を勢いよく閉じた。


 それならばと言わんばかりに、彼女は建物の方へと勢いよく走って縁側の上に飛び乗り、霊夢同様障子を勢いよく開けてみせる。


「あんたねぇ……!」


 遂に痺れを切らした霊夢は彼女に向けてスペルカードを放とうとするが、ここは建物の中。万が一建物を壊してしまう事があってはならないと、潔く外へと飛び出し、彼女から逃れるようにして空へと消えていった。その様子を見ていた鬼は、彼女に鋭い視線を送った。


「今日は逃がさないよ、霊夢」






 霊夢は息を切らしながら湖の畔で休むようにして座り込んでいた。もちろん、鬼から逃げるために。しかし、そんな彼女に一人の妖精の影が迫る。


「げっ、あれは春告精……厄介な事になったわね……」


 彼女の言う春告精とは、リリーホワイトの事である。しかし、一体何が厄介なのか。それは、今の季節が春であり、この時期の彼女は興奮状態であるため、無差別に弾幕を飛ばして襲われる可能性があるからだ。


 霊夢は一度草叢に身を潜め、彼女の様子を伺う。距離は遠くとも、彼女が春を告げる台詞を言っているのが耳に入り、今近付いては面倒だと、霊夢はその場に留まる事にした。しかし、彼女は生い茂る草叢の方からある人物に声をかけられる。


「貴方はこんなところで何をしているの?」


 その声の主は、レティ・ホワイトロック。冬の妖怪であり、寧ろ彼女がこんなところで何をしているのか聞きたい霊夢であった。


「あの妖精、好き放題やっちゃって。ねえ貴方、退治してきなさいよ」


「嫌よ。ただでさえ春告精が興奮状態だって言うのに、面倒くさい極まりないわよ。それに、私は今追われているの。こんなところで暴れたら直ぐに見つかっちゃうわ。あんたこそ、季節妖精同士戦って来なさいよ」


 その話を聞いたレティは自分が妖精扱いされた事に怒り、隠れていた草叢から飛び出てリリーホワイトの目の前へと現れて彼女に宣戦布告を申す。


「リリーホワイト! 私と戦いなさ——」


 彼女が台詞を言い終える前にリリーホワイトの放った弾幕に被弾して台詞を遮られてしまう。彼女はふらふらと地面に落ちていった。


「はーるでーすよー!」


 その様子を見ていた霊夢はリリーホワイトが去って行ったのを確認してから、倒れたレティに文句を吐いて霧の湖を後にした。






「——お嬢様、紅茶を淹れました。どうぞお召し上がりください」


「ありがとう、咲夜」


 ある紅い屋敷のバルコニーにて、屋敷の主人でありお嬢様であるレミリアは、従者に注いでもらった紅茶の香りを匂いで口に運んでいた。


「偶には別のお茶も飲んでみたいものね」


 レミリアが紅茶の水面を覗き込みながら呟いた時、遠くから微かに爆発音がしたのを聞き取る。


 それと同時に、彼女は片目だけを開いたウィンクの状態で、自身の紅い目に一人の少女を映した。


「御機嫌よう。今日は随分と大変そうね」


 そんな上品な挨拶をし、疲れ果てた様子を見せる霊夢は、じと目で目の前の吸血鬼を見る。


「貴方は暢気そうでいいわね。私の身にもなってほしいものだわ」


「あら、そうでもないわよ? 私は私で忙しかったりするのよ?」


 ふふんと得意そうに鼻を鳴らすレミリアだったが、霊夢は本当かと疑いをかける。しかし、そんな事をしてる間に追っ手が館の門前へと現れる。


「い、いったい何事ですか⁉︎」


 咲夜の目を盗んで立ちながら居眠りをしていた門番の美鈴が飛び跳ねるようにして目を覚まし、周囲を見渡す。すると、彼女の丁度前方向には、先程の衝撃で作られたクレーターの真ん中に立つ鬼がいた。


「霊夢み〜つけた〜!」


「げっ、しつこいわね! これでも喰らいなさい! 霊符『夢想封印』!」


 彼女はスペルカードを発動し、色とりどりの弾幕を萃香の方へと放つ。しかし、彼女はそれらを簡単に避けてしまい、また巻き込まれた美鈴も霊夢の放った弾幕をギリギリ避ける。


「クッ、こうなったら……」


 彼女は意を決して正々堂々戦う事なく、妖怪の山へと進行方向を変えてそちらへと飛んでいく。萃香もまた、彼女を追いかけて地を蹴って走り去る。


 残された紅魔館の住人たちは、レミリアを除いて理解が追いつかず目を点にしていた。






「——おやおや〜? あの姿は……」


 妖怪の山の麓にて。一人の妖怪が空を飛んでいる霊夢に向けて手を振っていた。それに気付いた霊夢は、その妖怪の元へと向かった。


「あら、貴方は確か……えーっと……誰だっけ?」


「……って覚えてないんかい! 私は悠飛だよ! 覚えておいてね巫女さん!」


 関西弁混じりに名前を覚えていなかった霊夢にツッコミを入れる悠飛。霊夢は彼女の明るさに、少し気分が晴れた。


「それで、あんたはここで何を?」


 悠飛は霊夢の質問に答えようと、右手に下げていた籠を見せる。


「山菜集めってところかな。ちょっとある人に頼まれててね。それで私たちはこうして集めてるってところ」


「私たちってことは、あんた以外にもそういう人がいるって事ね。それで、ある人って誰かしら?」


「ごめんね〜。それには答えられないかな」


 何か怪しいと思う霊夢だったが、彼女に追求する事はなく周囲を見渡してから彼女に事情を話した。


「え? 追われている? それだったら、この山を登って守矢神社に向かったらどうかな。木々が生い茂ってるお陰で簡単には見つからないだろうし。もしかしたら道中に千代たちとも会えるかもしれないから、出会ったら声を掛けてあげてね!」


 霊夢は守矢神社に向かう事に気が進まないでいたが、仕方なく悠飛に別れを告げて山を登った。






 道中にて、霊夢は回転する一人の少女を目撃する。


「ねえ、そこのあんた」


 彼女は少女に声をかけると、回転を止めて霊夢の方へと視線を向ける。


「珍しいわね。貴方がここにいるなんて」


 そんな素っ気ない様子で話す少女——雛であったが、霊夢は何を思ったのか彼女の事を無視する。


「ちょ、ちょっと! 貴方から話しかけておいてその態度は何よ! あ、待ちなさ〜い!」


 彼女はそう言って回転しながら霊夢を追いかけるが、わざわざ回転しているため移動速度は遅く、遂には霊夢の姿は見えなくなってしまった。


 彼女は雛の様子に呆れていると、木々を分けたその先にある一軒家が見えてくる。更に近付いて見ると、その家の近くで何かを探す人の姿が見えた。その人物が霊夢の落ち葉を踏む足音に気が付くと、振り向いてお互いの目が合う。


「あ! な〜んだ、霊夢だったんだ。どうしたの? 酷く疲れてるみたいだけど」


 その少女はそう言って、霊夢に駆け寄る。少女が先程も見たような籠を片手に下げていたことから、彼女は悠飛の言っていた人物の一人だと霊夢は考えた。


「って、あんたは確か刹那じゃなかったかしら? まともな自己紹介もしてないから、記憶があやふやね……」


 霊夢の言葉に頷きながらも、首を傾げる刹那。すると、彼女は思い出したかのようにして霊夢に問う。


「そういえば、こんな所で何してるの?」


「鬼ごっこ……かしらね」


 その回答に目を輝かせながら興味を示す刹那であったが、霊夢は参加させる事を止めておいた。なんせ、鬼は本当の鬼なのだから。


「ここって確か、狼の家じゃなかったかしら?」


「そうだよ! 今さっき出会ったところでね。確か、九天の滝に椛と一緒に出かけるって言ってたよ」


 霊夢はあまり興味なさげに頷き、もと来た道を戻る。


「あ、もう行っちゃうの?」


「のんびりしてると鬼が来ちゃうからね。それじゃあ、狼たちによろしく伝えておいてちょうだい」


 彼女はそう言って、その場を去ってしまった。刹那はその様子を見届け、彼女の背中に手を振った。






 間も無く守矢神社に到着しようとした少し手前にて、霊夢は着物を着た少女に出会う。


「む、お主は霊夢! こんな所でいったい何を?」


「私がここにいるのがそんなに珍しいのかしら」


「普段は神社でゴロゴロしているイメージなのでな」


 大げさに笑いながら言う彼女に、睨みつけながら顔をにじり寄せる霊夢。少女は冗談だと言って、両掌を向けて彼女に謝った。


「私だって外にぐらい出歩くわよ。私がゴロゴロしているのは異変がなくて暇だからよ」


 溜息を吐きながら説明する霊夢の顔を、覗き込むようにして怪しい表情で見る少女。霊夢はムスッとした顔で機嫌を損ねた。


「揶揄うのもここら辺にして。私の名前、お主に言ったかの?」


「私の記憶が正しければ、あんたの名前は千代春。どう? 正解?」


 自分の名前を当ててもらえた千代春は、満足気に頷いて霊夢に飛びつこうとする。しかし、彼女はそれをするりと避けて千代春は地面に倒れる。


「あたたた……なんで避けるんじゃ!」


「身の危険を感じたからよ。いきなり飛び付くなんて何を考えているのかしら。全く」


 呆れながら千代春を見下ろす霊夢。彼女はそうして千代春に手を伸ばし、彼女の体を起こす。彼女は着物の汚れた箇所を払いながら、霊夢に本題を話した。


「結局、お主は何をしていたんじゃ?」


「鬼ごっこよ。相手は正真正銘の鬼だけど」


 溜息混じりに説明する霊夢だったが、千代春がまたもや彼女を揶揄おうと何かを言おうとしたため、守矢神社の方へと向かって行ってしまう。


「あ! ちょっと!」


「何よ、足止めのつもり? 悪いけど話してる暇はないの。また今度にしてちょうだい」


 彼女は素っ気ない態度でその場を去ろうとする。しかし、そんな彼女に向けて千代春は大声で叫ぶ。


「精々襲われんようにな〜!」


 疲れのせいか、霊夢はあまり反応する事なくその場を去って行った。






 守矢神社にて。緑髪の少女が参道に落ちた落ち葉を箒を使って掃いていた。その少女は鳥居の方から誰かが来るのを感じると、そちらへと視線を向けた。


「あ、霊夢さん! 参拝にでも来てくれたんですか?」


「馬鹿ねぇ。ライバルの神社なんかに参拝しに来るわけないじゃないの」


 彼女は呆れた様子で社へと向かい、その階段へと腰を掛ける。彼女はまるでお年寄りのようにして腰を摩った。


「今お茶をお持ちしますね〜」


 まるで店員のようにして言った早苗は、掃除を一旦止めて社の中へと入っていった。


 時は既にお昼を過ぎていた。何か人里でお昼でも食べようかと考えていると、お盆に二人分のお茶と和菓子を乗せた早苗が戻ってくる。


「よかったらどうぞ」


 彼女の心遣いに表には出さずとも感謝しながら、茶托に乗った茶碗を両手で持って頂く。思えば彼女は、一服の休みもせずに山を登って来たのだ。雑談と言っても、大した休みにもなっていない。さぞ疲れており、同時に後悔もしていた。


「それで、何か御用でしたか? 神奈子様と諏訪子様は留守にしてますけど」


「あんたたちに用は無いんだけど、訳ありでね……」


 苦い表情で説明する霊夢。早苗は相槌を打ちながら話を聞いていた。


「——なるほど、そんな事があったんですね。と言っても、私たちもずっと待っていたんですよ? 宴会はいつ開かれるのか。皆さんの状態もあると思いますが、霊夢さんは特に何もせずにダラダラしていただけなんじゃないんですか?」


「これ……私、説教されてるわよね……」


 早苗の長々とした説教話に耳を痛めながらも、無理して聞いていた霊夢。しかし、その話を聞いてる場合ではなかったため、彼女の話の途中でその場を逃げるようにして去って行った。


「おや〜? 一足遅かったか〜」


 空へと飛んでいった霊夢に聞こえないはずの声を上げていた怒鳴っていた早苗は、鳥居から聞こえてきたその声の方に目をやる。彼女の目には、一人の鬼が映った。


「貴方は確か……」


「追いかける役の鬼さ。もう少し早く来ていたら捕まえられたんだが……嘆いていても仕方ない。私は霊夢を追いかけるよ」


 萃香はそう言って、くるりと体を半回転させて来た道を飛んで戻る。強靭な脚力によって山の麓まで。


「え……えぇ⁉︎」


 早苗は一瞬状況が分からなかったが、直ぐにそれを理解し、驚きのあまりに可笑しな声を上げた。






 所変わって人里。霊夢は空腹のあまりお昼を食べる事を決め、和食店の端っこで定食が来るのを待っていた。向かい側に座る一人の人物と一緒に。


「こうしてお話しするのも久しぶりですね。霊夢さん」


「そうね。慌ただしい中で申し訳ないわ。でもいいの? その、払ってもらっても……」


「お気になさらず。私もお世話になっているので」


 笑顔で言う阿求に申し訳なくなる霊夢だったが、彼女の言葉に甘えた。


 阿求とは和食店に入る前に出会い、彼女も今からお昼を食べるという事で一緒に入店した霊夢であった。しかし、彼女はゆっくりもしていられなかった。


「ご馳走様。ごめんなさい、お先に失礼するわね。またゆっくりお茶でもしましょ」


 彼女は阿求との約束を交わし、店を後にした。阿求もまた、彼女に手を振りながらその背中を見届けた。




 店を出て直ぐ、彼女は小さいながらも頑丈な何かにぶつかって尻餅をつく。見上げると、そこには鬼がいた。


「もうここまで……!」


 もうおしまいだと諦めかけた彼女であったが、おかしな事に気がつく。目の前にいたはずの萃香が辺りをキョロキョロと見渡していたからだ。その様子に呆気にとられてた霊夢であったが、肩を叩いて呼びかける声を耳にする。


「お姉さん、大丈夫? 私の能力で周りを無意識にさせたんだけど……取り敢えず、こっちこっち」


 そう言って、起き上がった霊夢の腕を引っ張る少女。建物の裏まで来た後に、霊夢は息を吐きながら少女に礼を言う。少女は笑顔で首を振り、霊夢から事情を聞いた。


「なっるほど〜。でも、私の能力をこれ以上使う事はできないね。反則になっちゃうし、鬼さんも困っちゃうからね。それじゃあ、私はここで。お姉さんも頑張ってね〜」


 少女——こいしは陽気にその場を去って行った。一人残された霊夢は降参しようかと考えたが、ここまできたなら逃げ切ろうと珍しくやる気になっていた。


 霊夢は様子を伺いながら、恐る恐る人通りに出る。周りから見て明らかに異質だった彼女だったが、当の本人は真剣である。彼女の中にある何かが彼女の心に火を点けたのだ。その様子を見ていた一人の少女が、異質な彼女に話しかけた。


 その少女は赤いモンペのようなズボンのポケットに片手を突っ込んで、また煙草を吹かしていた。


「霊夢じゃないか。お前さん、こんな所でいったい何してるんだ?」


「あら妹紅、奇遇ね。あんた、寺子屋の仕事はどうしたの? まさか辞めちゃった?」


 冗談混じりに言う霊夢だったが、その言葉を妹紅は断固否定する。それはある人に対する愛情からか、それともその仕事を好んでしているからか。霊夢にとって理由など必要なかった。


「いんや、ただのお昼休憩だ。それより、私はお前さんが何をしていたのか気になるんだが」


 迫って聞かれた霊夢は仕方なく、本日何度目かの鬼ごっこについての説明をする。その話を聞いた妹紅は大げさに笑いながら話す。


「あっはっは! それは大変だな。でも手を出すわけにもいかないし、私は健闘を祈るよ」


 寺子屋の付近で妹紅と別れを告げ、またもや一人になった霊夢は空を見上げながら今後どうするかを決める。すると、彼女は何か思い付いたのか両手をパンっと叩いて、ある場所へと向かって行った。






「それで僕の店に来たと……」


「そうなのよ霖之助さん。というわけで、しばらくいせてもらうわね」


 霊夢はそう言ってガラクタだらけの店内を進み、座れるところを探す。ようやく彼女が見つけた場所に座り込むと、出入口の扉が勢いよく開く。そこには、朱鷺色の羽を持った少女が息を切らしながら立っていた。そして一度深呼吸をし、霊夢を指差しながら叫ぶ。


「さっきの赤いの! ヒトの本勝手に持ってったでしょう! 私の大事なものなのよ! 返しなさい!」


「げっ……追ってきてたのね……」


 実は先程、彼女が香霖堂に向かう際に、道端で楽しそうに本を読んでいた少女を目にした。通りすがりだった霊夢はなんとなく不意打ちで攻撃して少女を退治し、更には少女が持っていた三冊の本を全て奪ってしまったのだ。霊夢はその本を覗いてから霖之助に売るつもりをしていたが、その前に持ち主が来てしまったのだ。


「因みに、そのお金はどうするつもりだったんだい?」


「私の服の修繕費と、阿求への借りを返そうとしたんだけどね。まあでも、ただでは返さないわ。力尽くで取り返してみなさい!」


 外道極まりない彼女であったが、そんなことも束の間。外から恐れていた気配を感じ取り、体が固まってしまう。そして、彼女は我に返って奪った三冊の本を近くにあった机に置いて、外へと飛び出す。彼女の目の前には、鬼が迫っていた。


「霊夢み〜っけ!」


「私はまだ捕まるわけにはいかないのよ!」


 彼女はそう言って、目晦ましの為にお札を萃香に投げ付ける。彼女がお札を薙ぎ払った後、霊夢の姿はそこにはなく、魔法の森へと入っていくのを目に捉えた。


「逃がさないよ〜!」


 その鬼もまた、霊夢を追いかけるようにしてその場を去っていく。なんの事情も知らなかった霊夢に襲われた少女は、目を点にしながらも状況を理解しようとしていた。


「な、なんだったのかしら……」


「えっと……君の名前、教えてもらってもいいかな?」


 二人残ったその空間で、霖之助は思い出したかのように少女に名を聞く。しかし、彼女に名は無く、適当に呼んでくれと言われる。また、彼女は自分が元々トキであると説明する。すると、霖之助は思い付く。


「そうだな……そしたら、君の名前は朱鷺子ときこだ。この三冊の本は返しておこう。呉々も、霊夢のような人に盗られないようにね」


 霖之助は注意をしてから、彼女の所有物であった三冊の本を手渡す。彼女は笑顔で受け取り、また感謝してから香霖堂を後にした。






 魔法の森にて。霊夢はある人物の元を訪れようと、霧雨魔法店の戸を叩く。いつもなら彼女自ら訪れるのではなく、その家の住人である魔理沙が彼女の元を訪れるのだが……


「魔理沙だったら幽香のところに行ってるわよ。何かあったの?」


 声の主であるアリスは、普段出歩く事があまりない霊夢が魔理沙の家を訪ねている事から、心配な様子を見せる。その様子にお節介を感じた霊夢は、呆れた様子で手を立てて横に振る。


「別に。大した事じゃないわよ。お騒がせしました……って、何かしら?」


「せっかくここまで来たんだから、私の家に寄って行きなさいよ」


 アリスが霊夢の背中を押していこうと彼女の背後に回った直後、突如として霧雨魔法店の戸が開く。


 すると、そこには黄色い太陽が描かれた青い三角帽を被り、全体的に青色の装飾がされた服装に青いマントを羽織っている女性が現れる。


「あら、アリスじゃないの。それにそちらの子は、いつも魔理沙と仲良くしてくれる子だったかしら?」


 そんな母親のように話す女性を見て目が点になる霊夢。本来ならアリスの家に行くつもりであったが、成り行きで長話を外でするのもという事で、魔理沙の留守にする霧雨魔法店へと上がった。






「——なるほどね。つまりあんたは魔理沙の義母ってところかしら」


「そんな感じね。それにしてもあの子、私の事全然話してくれてないみたいね〜。一番仲のいい貴方が知らないのも、無理もないわね。あ、私は魅魔みまよ。気軽に呼んでちょうだいね。それにしても……」


 魅魔はそう言いかけて、人形を触っていたアリスに突然ちょっかいをかける。もちろんアリスは驚き、悲鳴を上げた。その後恥ずかしそうに顔を赤らめて、魅魔に対して怒る。


「アリスのメイド服は可愛かったわね〜。貴方にも見せてあげたかったわ〜」


「なんで今その話をするのよ!」


 暢気にアリスを弄る魅魔と、顔を赤らめながら怒るアリス。その様子を霊夢は苦笑いしながら眺めていた。


「さてと。そろそろ私は帰るわね。お邪魔したわ」


 魔法の森は木々が生い茂っていながらも、時刻がわからないほどではない。時は既に夕刻を指し、夕焼けが空を赤く染めていた。そして忘れた頃に、鬼が彼女を捕まえる。


「にっしっし。霊夢つっかまえた〜」


 背後から抱きつくようにして萃香は霊夢を捕まえる。捕まえられた彼女も抵抗する事なく、負けを受け入れた。そして当初の萃香の目的を思い出し、霊夢は言う。


「宴会をやろうたって、今からじゃ無理よ? 料理やらお酒やら、参加する人だって集めてないし……」


「それなら心配ないよ。騙されたと思って付いて来て」


 目的地は博麗神社。彼女は萃香に引っ張られ、自分の住処とする神社へと向かって行った。






 萃香に頼まれ、鳥居から神社に行くことに。ある程度近道をした上で、鳥居のある階段の下へと辿り着く。萃香がいったい何を企んでいるのか分からず終いで、霊夢は目を閉じながら萃香に手を引っ張られて階段を上っていく。


「いいよ。目を開けて」


 萃香に言われ、ゆっくりと目を開ける霊夢。どうせ何もなかったとかそう言うオチなのだろうと思っていた彼女だったが、その考えは一瞬にして否定される。


 彼女の目の前には、宴会の為に華やかに飾り付けがされた境内が映った。また、何人かの人々や妖怪たちが杯を交わしていた。


「これはいったい……」


 彼女が唖然として周囲を見渡していると、一人の人物が彼女に肩を組む。


「よう霊夢! 驚いたか?」


 その人物は彼女の一番の友人であり、また相棒でもある魔理沙であった。それにまたもや驚いた彼女は、魔理沙に見られぬよう顔を伏せる。


「お? なんだなんだ? 照れ臭そうにしやがって〜」


「う、煩いわね! こっち見たら怒るわよ!」


 そんなツンデレな霊夢を揶揄う魔理沙。それを安堵の表情で見守っていた者が萃香に礼を言っていた。


「喜んでくれたみたいだな。ありがとう、萃香さん」


「いいってことよ。霊夢への借りをチャラにしただけのようなもんだしさ」


 腕を頭の後ろで組みながら、彼女はその場を去っていく。それを見届けた男は、仲良さそうにする二人の元へと行く。


「おっす、霊夢。どうやらいい事でもあったみたいだな——って……わ、わるい……」


 男は彼女に挨拶するも、突然顔を伏せてしまう。どうしたのかと疑問に思う霊夢であったが、彼女の顔を見た魔理沙は直ぐに理解する。


「ははーん。霊夢のこの照れ顔に心打たれたな〜? わかるわかる。こんな可愛い表情見たら私だって惚れちまう——ってあいた⁉︎」


「なによ! 別に嬉しくないんだから!」


 益々ツンデレを発揮する霊夢は、機嫌を損ねて神社の中へと行ってしまう。取り残された魔理沙と男は、お互い顔を見合わせながら首を傾げるのであった。直後、男に強烈な一撃が加わるとも知らずに。


「いてっ! いででで! 妖夢! ごめんごめん! 軽い冗談だって!」


 嫉妬からか、男の頰を引っ張る妖夢。その時の表情は、笑顔ながらも怒った様子だった。


「な、なんか妖夢も乱暴になったな……」


 その様子を見ていた魔理沙は、ボソッと呟いた。妖夢が男の頰を引っ張るのを止めた後、先程の妬んでいた心とは一転し、拗ねた様子で誘惑しながら男に言う。


「私じゃダメですか? 幻真さん……」


 そんな彼女に心を打たれた幻真は、勢いよく彼女に抱き付く。その光景を目の前で見せられていた魔理沙は、じと目でその様子を見ていた。


「お熱いことね」


「あっ、師匠。私はいったい何を見せられているんでしょうかね?」


 敬語混じりに言う魔理沙。一方の幽香も、ただその様子を横目で見ているだけであった。

何気に名無しの本読み妖怪こと朱鷺子と魅魔様登場。

次回宴会編。


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