第13話 二日酔いはキツい
「ん……うえっ……なんか、キモチワルイ……」
布団の上で目を覚ました俺は、気分が悪かったため水を飲みに台所へ向かった。たしか、昨日は宴会があったんだよな。それで、酒を飲みまくって……いや、正確には飲まされたんだったな。
時は遡ること昨日の夜。
「あっはっは! ほら、幻真! もっと飲みな!」
勇儀さんにまたもや捕まり、むりやり酒を飲まされていた。
「勇儀、さん……俺、もう無理っす……」
「そうはいかないよ! ほら、飲め飲め!」
ヤバ、イ……意識が……
「ちょっと勇儀? 酔いすぎじゃないかしら?」
霊夢が勇儀さんを止めてくれると思ったのだが……
「まあ、飲まないとね!」
彼女もすでに酔っていた。だいぶ酒を飲んでいたけど、強いのかな?
「はぁ……あなたたち、愉快ね」
レミリアさんが呆れた顔でこちらの様子を伺っている。
「レミリア、さん……助けて……」
「まあ、頑張りなさいね」
レミリアさーん! 俺は心の中で叫んだ。
「幻兄、頑張ってね」
フランまで! 姉妹の考えは同じだったか……
「ほらほら! よそ見すんじゃないよ!」
俺はまたもや酒を飲まされる。俺の意識はそこで途絶えた。
——まあ、こんなふうになったんだったな。全くもって悪夢だった。
「二日酔いってこんなにキツいのか……いや、酒を飲まされすぎたからか? 一理あるな……」
とりあえず、キツい。
「あら、幻真。その様子だと二日酔いかしら?」
「そうなんですよ……」
声をかけてきたのは霊妙さんだった。そういえば、昨日は姿が見えなかったな。
「霊妙さん、昨日はどこに?」
「昨日なら阿求のところよ」
阿求さんのところ……あれ? 昨日行ったときは留守じゃなかったっけ?
「留守だった? ああ、いっしょに出かけてたのよ。それから夜は泊まっていったの」
なるほど。それならしっくりくる。
「霊夢にしては珍しいわね。お酒に強いあの子が、あんなにべろべろになっていたんだから」
やっぱり霊夢はお酒に強いんだ。
「あなたは気絶していたわ。勇儀が爆笑していたわね」
勇儀さん……もう宴会なんてゴメンだ!
それにしても、今日はすることがない。修行をしたいところだけど、この体調でまともにできる気がしない。紅魔館にでも遊びに行こうかな。
「幻真、どこに行くの?」
「ちょっと紅魔館へ。暇なんで」
「あらそう。気をつけていってらっしゃい」
さて、紅魔館に到着っと。
「あ、幻真さん!」
「やあ美鈴。ひまだから遊びに来たよ」
「そうでしたか。それでは、中へどうぞ。案内は咲夜さんがしてくれると思います」
俺は美鈴に礼を言い、門を通って入り口の扉を開けた。
中へと入ると、いち早く察知した咲夜さんが待っていた。
「紅魔館へようこそ」
迎え入れられた俺は、彼女に挨拶をした。
「どうも、咲夜さん」
「咲夜で構わないわ。それで、今日はどういった御用で?」
彼女に問われた俺は、暇だから来たということを思い出す。すると、だれかが俺のことを「幻兄」と呼ぶ声が聞こえてくる。
兄呼びといえばフランだが——
「ちょ、フラン? そんなに俺が気に入った?」
フランは突然、俺に飛びついてきた。恥ずかしくなった俺は顔を赤らめる。
「妹様、幻真が大変気に入られたのですね」
嬉しいな。なんだか本当の妹を持った気分だ。
飛びついてきたフランを地面に下ろし、何かないかと考える。
「ん〜、そうだな〜。能力とか、もう一度詳しく知りたいんだけど」
「それなら、パチュリー様に見てもらったらどうかしら」
パチュリーってたしか、魔理沙から本を貸してほしいって頼まれてた人だったか。
「わかった。咲夜、案内を頼めるかな?」
「もちろんよ。ついてきて」
俺は咲夜についていく。どうやら、フランもいっしょに行くようだ。
その道中、フランが健気に話した。
「幻兄ってスゴいよね! 普通の人間なのに炎を扱うんだもん! しかも龍も! もしかしたら、咲夜より強いかもね!」
なんか口調変わってないか? そんな元気な彼女に、俺は微笑した。
案内されてついていくこと数分。俺たちは、ある大きな扉の前に辿り着く。
「着いたわよ。パチュリー様、失礼します」
「わあ……」
そこには、たくさんの本がずっしりと並べられていた。
「スゴい……こんなに本があるなんて……全部パチュリーさんが集めたのかな? スゴいとしか言いようがないな」
俺は感激した。
「あら、咲夜。それと、幻真だったかしら? フランがいるのは察するとして、何か用かしら?」
「彼の能力を見てあげてほしいのです」
パチュリーさんは承知し、なにやら準備といって水晶玉を取り出す。その水晶玉を覗き込んだ後、しばらく悩んでいる様子だった彼女だが、まもなく俺の能力を発表した。
「そうね。あなたの能力は『炎を扱い龍を操る程度の能力』と言ったところかしら」
龍もなのか。なんか、我ながらスゴいな。
「幻兄スゴいね! 龍を操れるなんて!」
フランは目を輝かせ、こちらを見る。俺は照れ臭さから頭を掻いた。
「パチュリーさん、ありがとう」
「お安い御用よ。それと、パチュリーでいいわ。私も呼び捨てで呼ばせてもらうわね」
俺は頷いた。
「パチュリー様、資料を持ってきましたよ〜。あ、幻真さん、どうもです!」
「やあ、こあ。お疲れ様」
たくさんの資料を持ってきたこあに、挨拶をした。
「じゃあ、俺はそろそろお引き取らせてもらおうかな。長居しちゃ悪いだろうし」
俺はパチュリーに挨拶をして、咲夜とフランのふたりといっしょに部屋を出た。
「さてと。咲夜、レミリアさんに会えないかな? 一度ちゃんとした挨拶をしておきたくて」
「わかったわ。こっちよ」
またまた咲夜に館内を案内してもらった。
「——ここよ。お嬢様、お入りしてもよろしいでしょうか?」
咲夜は扉を二度叩いた後、中にいるであろうレミリアさんに尋ねる。
「いいわよ。入りなさい」
中から聞こえてきたレミリアさんの返事を聞いた咲夜は扉を開け、俺とフランを先に中へ入れる。最後に咲夜も入室し、扉を閉めた。
「幻真だったかしら。なぜフランがいるかは察したけれども。私に何か用?」
さすがレミリアさん。フランがいる理由を瞬時に把握するとは。パチュリーも普通に察してたし。まあ、昨日の宴会でもそれなりの理由を言ってたからわからなくもないか。
「いえ、特に喋ることはないのですが、せっかく来たのでちゃんとした挨拶をしておこうと思いまして」
「あらそう。なら都合がいいわ。あと、レミリアでいいわよ。なんだか堅苦しくてね。気楽に話してちょうだい。理由は同じ」
へぇ〜、なんだかお嬢様相手に無礼な気がするけど、本人が言ってるし大丈夫だよな。
「じゃあ、レミリアで。都合がいいって、俺にも話が?」
「ええ、あなたのことを詳しく教えてほしいと思ってね」
そう言われた俺は、俺自身のことについて彼女に話した。
「――なるほどね。恐らく幻想入りしたと。しかも、不運にも名前などの重要な記憶を失った」
名前の話からか、それに関係することをレミリアが言った。
「ちなみに、咲夜の名前は私が付けたのよ」
「えっ、レミリアが⁉︎」
へぇ〜、ネーミングセンスいいね。名前を付けたこともない俺が言うのもなんだが。
「はい。とても気に入っています」
咲夜は嬉しそうな表情で言う。霊夢のネーミングセンスも悪くないと思うけどね。
「それじゃあ、俺はこの辺で帰るよ。また今度」
俺はレミリアに挨拶をして、部屋を出る。そして、咲夜とフランのふたりといっしょにエントランスへと戻った。
「——それでは、また」
「幻兄、また来てね!」
「うん。ふたりとも、またね」
俺はふたりに手を振って、入り口の扉を閉めた。
「さてと、帰るか。すっかり忘れてたけど、二日酔いはキツい。帰って寝かせてもらうとするか……」