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東方人獣妖鬼  作者: 狼天狗
第参章 悪魔の目論見
129/155

第125話 大罪との決着

平成最後の更新です。

「これで全員か?」


 冷静ながらも、落ち着きのない様子で皆に問いかける和正。彼はこの空間の出口に待機していた時、時龍からこの場を離脱するとの伝達を受け、この空間に来た者を数えていた。


 既に和正、時龍、喜響、妖夢、霊夢以外の人物は幻想郷へと戻っていた。四人の人物を除いて。


「おい、あいつはどうした」


「幻真は残るってよ。かなり真剣なご様子でな」


 心名残のある様子で答える時龍。その様子を見ていた妖夢も、自分の胸を抑える。


「それで? 狼とフランはどこに?」


 博麗の巫女、霊夢がそこにいる皆へと問いかける。しかし、答える者はいなかった。彼らの行方は、誰も把握できていなかったからだ。


「くそッ、やっぱり探しに——」


「ダメだよ兄さん。今は無闇に行動しちゃいけない。彼らを信じよう」


 和正は喜響に腕を掴まれて行動を阻止されるが、不満げにその手を振り払って舌打ちする。彼の気持ちは、そこにいた皆が思っていた事でもあった。


 すると、こちらに二つの気配が近付いてくるのを彼らは感じ取る。その方向を見ると、二つの人影が目に映った。


「あれはもしや……」


 幸運にも、その二人は狼とフランドールであった。彼らはある者に伝えられ、ここへと来れたとのこと。その人物は自身のやるべき事を果たす為にも、この空間へ残るとのこと。それらを伝えられ、彼らはここからの脱出を優先した。


「幻真さん、どうかご無事で……!」








 〈幻真〉



 さて、これでこの戦いが最後になるといいんだが……


「ア゛ァ゛ァァ……」


 聞こえてくる虚無の悪魔の断末魔。俺はただ静かに、その様子を見つめる。段々と変形していく悪魔の実態。それらは次第に完成しつつあるように見えた。


 しかし、やはり嫉妬の感情が取り込めなかったせいか、悪魔の形は不完全そのもの。不可解な事が起きる前に、攻撃を仕掛けるとしよう。


「『龍之陣』」


 その掛け声とともに、俺の右目に龍の紋章が浮かび上がる。古龍(エンドラ)の力を解放した状態となり、集中力、判断力、瞬発力を向上させる。できれば一気に仕留めたいところだが——


「——おっと、危ない危ない。油断も隙も無いってか」


 背後から迫っていた怠惰なる手の気配を感じ取って躱し、空中へと逃げる。しかし、無防備となった空中での体を狙うように、先程の無数の手が俺へと向かい、その大きな手に握り締められてしまう。


「それで捕らえたつもりか?」


 動かぬはずのこの体で、内側から手を斬り裂く。その手はバラバラに斬り裂かれ、地面へと落ちていく。その様子を横目に、虚無の悪魔へと視線を向ける。


「オ゛ノ゛レ゛ェェェエ!」


 その叫び声と共に、怠惰に続いて色欲の効果である魅了によって行動を制御される。しかし、こんなモノは感情を押し殺せばいい。


 その効果をいとも容易く破った俺は、地を一歩踏みしめただけで虚無の悪魔の背後へと一瞬で移動し、移動中に抜いた界龍剣を薙ぎ払って斬撃と共に悪魔を一刀両断する。


「グガガガガァ゛!」


 斬られた場所から噴出する青い血。次第に悪魔の血液が広がっていく。無駄な抵抗をさせない為にも、ここで楽にした方がいいと界龍剣の剣尖を奴の心部に定める。


「終わりだ——」




「——すまないが、それは叶わない」


 その声が聞こえた時、いつの間にか目の前にフードを被った人物が界龍剣で刺すのを止めるように俺の手を握っていた。


「なんの真似だ——ニック」


「折角の機会を逃さまいと来ただけですよ」


「一体何故——あがっ⁉︎」


 急激に走る腹部への激痛。そして、腹部に刺さる一本の杖——光杖ラルクアンシエル。


「便利な物を頂いたものです。コレは貴方の生命エネルギーを、微量ではありますが吸収しています。素材はユグドラシルの枝の欠片でもありますからね。私も流石に貴方の命までは奪いたくありません。回復は施しますから、どうかここから立ち去っては頂けませんかね?」


「……それは無理なお願いだな。お前が何を考えているかは聞かないでおくが、例えどんな理由だとしても、良くないことが起こるに違いない。だから、願いは聞けない」


 少しずつ抜けていく気力。脱力感に襲われつつも、ニックへと呼びかけるが——


「そうですか。できれば貴方とは戦いたくなかった」


「それは酷いな。先に戦いを申し立てたのは俺の方なんだがな。覚えているか? あの時のことを」


「……貴方と初めて出会った時、丁度貴方は博麗の巫女と手合わせしていた。その時の貴方は既に、その巫女の力を当に超えていた。彼女が本調子でなかった可能性もありますが」


 そうだ。俺も忘れてなんていない。なんせ俺は戦闘狂(・・・)と呼ばれていたんだからな。一度挑んだ戦いは放棄しない。正々堂々、ぶつかり合うだけだ。


「どうやら、意思は変わらなさそうですね。いいでしょう。貴方の決意、しっかりと受け止めました」


 ニックはそう言って、俺の腹部を刺していた杖を抜き、背後にいる虚無の悪魔に手を翳す。すると、悪魔の体は徐々に光の粒子となり、ニックの体へと吸収されていく。


 虚無の悪魔同様、光の粒子へと変わりゆくニックはこちらへと振り返り、その様子を俺は目の当たりにする。


「"龍使い"幻真——否、"救済の英雄"幻真よ、コレは試練だ。悪魔の力と七つの感情を取り込んだ私に、打ち勝って見せよ」


 その言葉を機に爆発が起こり、強烈な爆風によって体が吹き飛ばされそうになる。しかし、足を地に埋めてその爆風を凌ぎ、爆発が起こったニックの方へと視線を向ける。眩い光に飲み込まれながらも、その様子をただ見守る。


 そして、光が消えて変わり果てたニックの姿が露わになる。その姿はかつての姿も儘ならず、変わり果てていた。


「俺の適合する感情は暴食のように、ニックに適合していた感情は嫉妬。つまりは、全ての感情を取り込んだ事に違いは無い。言わば、完全体(パーフェクトボディー)ってわけか」


 体の大きさは、元のニックと変わらない。しかし、明らかに雰囲気が違っていた。彼の着ていた服のフードがなくなり、短髪の白髪が露わになっていた。また、彼の背中には二つの羽が生えていた。


「天使の羽……と言ったところか。堕天使ルシファー、そして堕天使サタン。あの感情の炎には、悪魔の力も有されていたって訳か」


 彼はゆっくりと顔を上げ、目線が同じ位置になったところで、彼は瞼を開ける。その瞳は、悪魔の血を連想するかのような青い瞳。その眼の周囲には、青い血管が浮きが上がっていた。


「さあて、ひと勝負と行こうか。怪物さんよぉ」








 場所は幻想郷。暴食の悪魔ベルゼブブの計画により、送られた悪魔たちの残りを倒すべく動いていた一人の巫女——霊奈は、空間を超えて不穏な気配を感じ取っていた。



 ——何かしら、この歪な予感は。あの龍使い、無茶してないといいんだけど……って、なんであんな奴のこと心配してるのかしら。



「……私との約束、必ず守ってもらうわよ」








 場所は戻り異空間。そこには、真なる力を有した一人の人間と、悪魔の力を手にした白髪の男が対等していた。人間——幻真は右目に龍の紋章を有していた。一方の白髪の男——ニックは青い瞳に血管を浮き上がらせていた。


 幻真は古龍(エンドラ)を出現させて右手に界龍剣を持ち、一方でニックは周囲に八つの感情が込められた八つの剣を展開する。


 先制攻撃を仕掛けたのは幻真であった。集中力、判断力、瞬発力が向上した彼は超技術——縮地を使用して一瞬でニックの懐へと潜り込む。しかし、彼の攻撃はニックによって操られた一本の剣により防がれてしまう。


 更に追い討ちをかけるようにして他の剣を背後から放って幻真の背中を撃たんとするが、超技術——朧月によって攻撃は回避され、ニックは背後を取られる。


 しかし、一筋縄とは行かず、残していたもう一本の剣で背後を守り、幻真の攻撃を受け止めた。それを受け、幻真は一度バク宙で間合いを取る。


 その様子を見たニックは、虚飾の灰色の炎を纏った一本の剣を片手に持ち、改めて他の剣を扇型に展開する。そして、それらを操って勢い良く幻真へと飛ばした。


 まず、飛んできた憤怒の黒い炎を纏った剣と怠惰の赤い炎を纏った剣からの攻撃を防ぐ。そして、ある技を発動した。


「『物質破壊(マターブレイク)』」


 その発動と同時に二本の剣の感情の炎は消え去り、それらは内側から木っ端微塵に砕け散る。


 続いて飛んでくる三本の剣。色欲の桃色の炎を纏った剣に、強欲の青色の炎を纏った剣、そして暴食の紫色の炎を纏った剣。しかし、それらの剣は幻真の手と重なったと同時に、先程の二本の剣同様内側から破壊されてしまう。


 残った二本の剣である嫉妬の緑色の炎を纏った剣と、傲慢の金色の炎を纏った剣が同じように飛んでいくが、またもや内側から破壊されてしまう。


 その光景を見たニックであったが、然程驚きもせずに自分自身で幻真へと剣を降りかかる。その攻撃を簡単に躱した幻真は、横からニックの脇腹に向けて剣を刺す。


「あっ——ゴフッ……」


 今まで表情を変えてこなかったニックであったが、その攻撃が効いたのか青い血を吐いて幻真が剣を抜くと同時にその場に崩れ落ち、ドサっという音と共にその場に倒れ込む。


 幻真は剣を鞘に納め、その場に膝を突いてニックの手に触れる。


「ああ……合格だよ、文句無し……」


「喋るんじゃない。傷が酷くなる。今回復するから——あがッ⁉︎」


「善者気取りの者ほど油断大敵」


 いつの間にか背後にあった一本の剣によって、幻真の腹部が刺され真っ赤な血を口と腹部から吐き出す。しかし、彼はこの現状ながらも違和感を抱いていた。


「お前は、ニックじゃないな……?」


「御名答。いい器を手に入れたものね。例を言うわ、器の主よ。——あら、貴方怒っているの?」


「ああ……猛烈にな」


 幻真は刺された剣を抜き、刺された腹部に左手を翳して回復しながら、右手の拳を握りしめる。


「何かがおかしいと思った。ニックは操られていたんだ。傲慢さ故に、他人の体を乗っ取るほど力を欲したか……堕天使ルシファー!」


「全ては計算通り。他の感情を取り込み、私は完全に覚醒した。今の私に敵は無し‼︎」


 更に怒り、憎しみ、拳を強く握る幻真。しかし、彼の知らぬ者たちが突如として現れる。


「貴様の陰謀もそこまでだ。ルシファーよ」


 声の主は幼く見える少女であり、赤髪に水色のノースリーブの天神服を着用し、茶色のスカートを履いていて、更に背中に二つの白い羽を所持していた。また、彼女の右手には燃え盛る豪華の剣、左手には秤を持っていた。


 そして、もう一人は同じく幼い少女であり、水色の髪を持ち前者に比べて二枚ほど多い白い羽を有し、右手に白百合の形をしたラッパを持っていた。


「お前たちはいったい……?」


「天使に向かってお前とはお口が悪いですよ、龍使いさん」


 水色髪の少女が発した言葉に驚きを持つ幻真。しかし、敢えて表情には出さなかった。それとも、出すほどの余力がなかったのか。


 一方でルシファーと赤髪の少女は睨み合っていた。まるで、因縁の相手と対峙しているかのように。


「なぜ貴方がここに?」


「貴様ほどの実力を持つ者なら薄々気付いていると思うのだが?」


「——わざわざ言わせるな。小賢しい天使ども」


 ルシファーの殺気が怒りと共に溢れ出す。その威圧に押し潰されそうになる幻真だったが、二人の天使は何一つ微動だにしなかった。


「私を嘗めるなぁぁあ!」


 再び出現させた七つの剣を桃色髪の少女に飛ばすルシファーだったが、その陰謀は叶わず、背後を取られてしまう。


「邪悪なる魂よ、この者の体から浄化せよ」


 その掛け声とともに、燃え盛る豪華の剣によってルシファーの体は斜め一線に斬られてしまう。すると、体の持ち主であるニックの体から禍々しい金色の炎を纏った黒い魂が徐々に抜けていく。それが全て抜け切った後、ニックの体は地面へと倒れた。


 直ぐに彼に寄り添った幻真は、彼の容態を確認する。その様子を見た水色髪の少女が話しかける。


「どうやら気を失っているだけのようですの」


「……君たちは、天使なのか?」


「如何にも。四大天使が一人、ミカエルだ」


「私はガブリエルですの。お口には気をつけるですよ」


 注意された幻真は、少し項垂れて頭を下げる。そして、彼は思い出したかのようにして彼女らに問う。


「四大天使ってことは、あと二人いるんですか?」


「ああ。今は別行動でいないがな」


「別行動? 何か野暮用でも?」


 その問いに、ミカエルはガブリエルの方へと視線を向ける。ガブリエルが笑みを浮かべて頷くと、一度大きく息を吸って吐いたミカエルが口を動かした。


「実は今、私たちはある人物を追っている。地位は神に値する者だ。だが、その人物はこの世界の均衡を揺るがしかねない。奴は強欲に溺れ、更には禁忌をも犯している。そのような人物を野放しにするわけにはいかない。それに、恥ずかしながら我々四大天使の力をも奪われ、今このような幼き姿になってしまっている」


「でも、龍使いさんのお陰で弱ったルシファーを倒せたですの。感謝するの」


 二人に軽く頭を下げられ、ペコペコするしかなかった幻真。しかし、彼の頭の中で引っかかる事があった。


「その人物って、もしかして——」


 幻真が話そうとしたが、突如何処からともなく地鳴りのような音がこの空間に鳴り響く。


「すまない、あまり時間がなさそうだ。取り敢えず、君たちを元の世界へと送り返そう。さあ、私の手を取るんだ」


 ニックを担いだ幻真は言われるがままにミカエルの手を取り、また彼女の反対の手でガブリエルの手を取る。そして、ガブリエルの所持していたラッパが鳴らされると、彼らは光に包まれ、その場から姿を消した。






 恐る恐る目を開ける幻真。すると、彼の瞳には見慣れた景色が映っていた。


「ここは確か、別荘……だったか」


 最初に映った丘の景色を見た彼は、確認する様に振り返る。場所は間違いなくそこであった。


 取り敢えず、彼は担いでいたニックを縁側に寝かせ、あたりを散策する。特に変わった様子はないかと、用心して見回る。


「あの二人、送るだけ送ってくれたのか。それにしても、彼女らが話していた人物って……」


 顎に手を当てて考える仕草を取る幻真。すると、彼は聞き慣れた女性の声を耳にする。


「幻真さーん!」


 空から声がしたかと思うと同時に、彼の腕の中には彼の愛する人がいた。それに気付くと、彼は彼女を優しく抱きしめる。


「帰ってくるって、信じてました」


「ああ……迷惑、掛けたな」


 夕暮れの中、彼らはお互いの感情を分かち合った。

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