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東方人獣妖鬼  作者: 狼天狗
第参章 悪魔の目論見
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第123話 決心

「反逆の堕天使……ルシファー……!」


 なぜ彼女がここにいるのか、その場にいた者たちが知る由は無かった。寧ろ、知りようが無かったのだ。そして、気にかかる点として、彼女が放った言葉である邪魔をさせない(・・・・・・・)


 この言葉だけを聞くと、どうも気にかかる。そして、関係するであろうと予想される虚飾の存在。確かに傲慢と虚飾の関係性がないことはなく、寧ろ深い。その目的であろう理由が、喜響の脳内を過ぎる。


「馬鹿な真似はやめろ……」


 彼は、二種の武器を合成したことによりできた銃——紅桜の銃口を悪魔に落ちた天使へと向ける。彼女はその威嚇に怯えることなく、不敵に笑う。そして、右手にあるモノを浮かべる。



 ——アレはいったい?



 そのあるモノとは、それぞれ感情を象徴する炎を纏った魂であった。一つは、赤色の怠惰の魂。一つは、桃色の色欲の魂。一つは、青色の強欲の魂。そしてもう一つは、紫色の暴食の魂。


「残念ながら嫉妬の魂は回収できなかったけど、問題ないわ」


「一体何を企んでいる!」


「今にわかるわ。でも、時間が足りない。ここは任せたわよ。サタン」


 それだけを言い残し、虚飾の悪魔を回収して飛び去るルシファー。追いかけようと試みた喜響だったが、ある者が行く手を阻む。そう、最後に彼女が言ったサタン(・・・)と言う名の悪魔だった。


「彼女の邪魔はさせんぞ。死に去らせ!」


 喜響に向かって振り下ろされる、悪魔サタンの剣。しかし、それは喜響ではなく別の何者かによって受け止められた。


「なっ……お前は……! 確かに俺がこの手でお前を葬ったはず……!」


「うん。確かに、君に殺された。僕に宿る風魔神(・・・)がね」


 一体それはどういうことなのか。無事である狼を目の当たりにした喜響は、思考を巡らせ理解を試みる。しかし、それは叶わず、理由は例の外にあった。


「確かに僕は殺された。だけど、それは表面上だけであって、当時表に出ていたのは僕に宿る風魔神。だから殺されたのは彼であり、僕ではない」


 サタンは彼を睨みつけながら、その説明を聞く。喜響はどうにかその事を理解しようとした。そして、狼は右手に持つピアンブローに風を纏わせ、説明を続ける。


「つまりだ。風魔神は僕の肉体を守った。そして事実上、僕の中にいる風魔神は死んではいない。死ぬ間際に、彼の一部が僕に合成された。そして彼の力だけ、僕の中で生きている」


「実質両方生きている……と?」


 サタンの問いに答えるかのように風を纏わせた刀を握り締め、圧をかける狼。なんとなく理解した喜響は距離を開け、その様子を見守る。


「だが、所詮は俺に負けた雑魚だ。もう一度俺と戦って勝てる訳が——」


「あるんだよ。こうして彼の力が制御できた今なら。『武器郷華(ウェポンバースト)』」


 その掛け声とともに、狼が持っていた刀に赤色のオーラが纏う。更には風をも巻き起こし、彼らの髪や衣類を揺らす。


 その様子に、冷汗を流す堕天使サタン。その汗が額を流れ顎に到達し、落下した時、狼は素早く距離を開ける。悪魔に堕ちた天使は、対抗する相手の右目に宿る緑の炎を目の当たりにした。


 そして、狼は風をも超える速さで一度開けた間合いを詰める。サタンは攻撃を受け止めるために剣で防ごうとするが、それは間に合う事なく彼の体は二つに分離する。


「なっ——」


 サタンの上半身は吹き飛び、また、下半身は力無く倒れた。狼は吹き飛んだ悪魔の上半身の方へと向かって行く。そして、剣尖を彼の目の前に突き付け、問い掛けた。


「最後に一つ、言い残したい事を聞いといてやろう」


 サタンは、今から自身の最後を告げようとする者の右目を見つめ、静かに話し出す。


「ふっ……俺の最後……か。俺は悪魔に堕ちた、哀れな天使サタン。七つの大罪の憤怒を背負いし者。悔いは——お前を道連れにする事だ」


 不敵な笑みを浮かべたサタンは最後の力を振り絞り、目の前に立つ者に向かって手を伸ばす。しかし、その手を斬り落とされ、彼が行おうとしたことは失敗に終わる。


「ああ——」


 悪魔は灰となり、静かに朽ちていった。






 しばらくして、この空間に潜入した者たちが集合した。三名を除いて(・・・・・・)


「ねぇ、幻真と妖夢は?」


 その場にいた者たちに問い掛けたのは、博麗の巫女——霊夢だった。彼女は彼らと共にこの空間へとやってきている。それは彼女と来た者たち——即ち、後から来た者たちも同様である。


 その問いに対して、答えるものはいなかった。否、答えることができなかった。解散してから彼らを見た者は、誰一人もいなかったからだ。


「心配だな。ここは戦える者だけでルシファーを追う者と、幻真たちの捜索を行う者に別れよう。戦えない者には、この空間の入り口の守備を当たってもらいたい」


 想起の提案に、賛同する一同。ルシファーを追う要員が多い方が良いと考えた彼は、幻真たちの捜索に当たる者を吸血鬼のフランドールと、狼天狗の狼に任せた。


 非戦闘員となった白黒魔法使いの魔理沙と白狼天狗の椛、ナイフの使い魔の火御利、そして、万が一の時に備え、短気な鬼神の和正と水虎の刹那が守備隊となった。あくまで決戦は、この空間で決めるとのこと。


「あの……サタンとの戦闘の後で疑問に思ったことがあったんだけど……」


 挙手しながら呟いたのは、狼だった。彼は恐る恐る、皆がいるところとは反対側を指し、皆の視線を促す。それを目にした喜響は顔色を変え、叫んだ。


「今すぐそいつを消せッ!」


 僅か一瞬の出来事だった。その浮かぶ黒い憤怒の魂に向かって黒い影が飛んでいき、次に見た時には既にその魂は無くなっていた。


 焦った喜響は、その黒い影を追いかけていく。何かを察した者たちもまた、喜響の後を追う。フランドールと狼は、言われた通りに幻真と妖夢の捜索を開始。しかし、狼は彼らだけを捜索するつもりではなかった。


 守備隊も各々配置に着くため、空間の出口に向かっていった。








 こちらは、妥当ルシファーチーム。黒い影を追いかける喜響を先頭に、他の者たちも後に続く。やがてその影は、ある者へと飛びついた。


「良くやったわ」


 声の主であるその者こそ、彼らが探していた悪魔に堕ちた傲慢の大罪を背負う天使——ルシファー。そこにいた者たちは、彼女を睨みつける。


「これはこれは、また大勢ね。どうせなら、半分ぐらいに減らしちゃおうかしら」


 彼女はそう言って、自身の右手に金色の炎を纏わせる。それを目視した喜響は、背後に立つ仲間に叫ぶ。


「避け——」


 その声が届く前に、ルシファーの腕が振られる。直後、爆発が連続して起こり、その場にいた者を飲み込んだ。






 しばらくして、まだ止まない爆煙の中に立っていたのは、一番先頭にいた喜響だった。彼は膝を震わせ、ゆっくりと立ち上がる。しかし、振り向いた彼は言葉を失った。


 彼が見た無事だった仲間は、結界で攻撃を防いだ霊夢と早苗、そして超技術の超直感によって回避した時龍だけだった。他の者は、力無く倒れていた。


 霊夢は手に持っていたお祓い棒を握り締め、怒りと共にルシファーを睨みつけた。また、衣服の汚れを払った時龍も本気で彼女を睨みつけた。


 時龍は右手を横に伸ばし、現れたスキマの中から一本の剣——龍神剣を取り出す。その剣は、彼が宿す龍の力により更なる力を発揮する。彼はその剣に、超技術——エンチャントを使って『漆硬』を発動。剣は柄側の刃から剣尖に向かって黒色に染まっていく。


 彼は地を踏みしめ、己の敵に向かって歩いて行く。剣を構える時龍に対して、ルシファーは周囲に大量の弾幕を出現させて歯向かう者へと飛ばす。それらは全て時龍へと被弾した。


 ふっ、と笑みを浮かべる悪魔。しかし、彼女は表情を急変させた。


 それもそのはず。明らかに攻撃を受けていた者が、無傷で走り続けていたからだ。その理由は、直ぐに明らかになった。それは、彼の周囲に結界が張られていたからだ。だが、それは彼が行ったものではなかった。


 走りながら後方へとグッドサインをする時龍。悪魔は全てを理解した。これは後方にいた奴の仕業だと。巫女による仕業(・・・・・・・)だと。


「おのれぇぇえ!」


 叫ぶ悪魔に向け、猛威の剣を振るう時龍。しかし、その攻撃は当たらずに剣尖が地へと当たる。舌打ちをした彼は、直ぐに背後へと視線を向ける。


 悪魔は瞬間移動を行い、霊夢たちの目前へと移動していた。直ぐに攻撃しようとした早苗だったが、死角からの攻撃に意識を失う。


 霊夢に猛威が降りかかろうとしていたその時、何者かが悪魔を切り刻んだ。


「ぬあぁぁぁあ!」


 悲鳴をあげる傲慢の悪魔——ルシファー。その者は情けをかける事なく、トドメを刺す。


「怨念『散りゆく桜』」


 ばつ印に刈り込まれたルシファーは、力無く倒れる。そして、灰へと化した。


 剣を収めた人物は、その場に崩れ落ちる。近くにいた霊夢は直ぐに駆け寄り、時龍もまた走って行った。


「大丈夫——って、妖夢⁉︎」


 名前を呼ばれた彼女は、自身の名前を呼んだ者の顔を見る。それは、よく知る者の顔だった。また、走ってくる人物も彼女が知る者だった。


 直ぐに立ち去ろうとした妖夢。しかし、その腕を掴まれ、振り返る。彼女を止めた時龍の顔は、真剣だった。


「その剣は、幻真のだよな。何があった? 詳しく話を聞かせてくれ」


 迷う様子を見せた彼女だったが、静かに話し始めた。








 〈魂魄妖夢〉



「つい、先程のことです……」


 ハッキリとは覚えていないが、確かに覚えている。私の意思が操られ、愛する人を殺してしまったことを。


 彼の最後の一言——愛してるの言葉を聞いた時、私は激しい頭痛を覚えた。自分が幻真さんを刺し殺した。彼を油断させ、私が彼を殺した。例えそれが自分の意思でなくとも、自分自身が殺したことに嘘偽りなんてない。それらが記憶となって、私の脳を刺激する。


 目の前に映る、真っ赤な血の池。私は理性を失い、酷く震えた。寒気がした。吐き気も催した。そして理解した。私が彼を殺したんだと。


 そして、襲いかかる激しい後悔。自身の醜さ、非情。理性を失っていた私は、暴れ狂う。自分ではわかっていた。もう元に戻れないと。


 しかし、ふと耳に聞き覚えのある声がした。



 ——生きろ。



 その一言に、私の動きが止まる。しかし、幻聴かと思い、更には自殺を試みようとする。どうせなら、彼を刺し殺したのが私の剣なら、彼の剣で私の命を絶とうか。そう思って、彼の腰に収められている剣に手を伸ばす。


 剣を抜き、その剣尖を自身の胸に向ける。これで楽になれる。勢いよく剣を刺そうとしたその時、済んでのところで手が止まる。一体どうして? 行きたいと思う気持ちが死を拒んでいるのか?



 ——妖夢、お前は生きるんだ。



 さっきの声が、脳内に響き渡る。どうして? なんで私を止めるの?



 ——お前が死ぬ必要なんてない。



 ある! 私は……私は愛する人を殺した! 私を愛してくれる人を殺した! この罪は死んでじゃないと償えない!



 ——だからと言って、お前に命を絶って欲しくはない。それが例え、どんな形の罪だとしても、死でどうこうしようと考えてはならない。



 貴方は一体誰⁉︎ 何も知らないくせに! 私は死んで罪を償って、彼を追いかける! 彼が望まなくても、私はそうしたい!



 ——そうか。お前の気持ちはよくわかった。だけどな、俺の望みを聞いてくれ——強く生きると。



 その言葉と共に、私は自我を取り戻す。そして手に持った真神剣を目にする。幻真さんの形見。私が彼の意思を受け継ぐ。

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