第122話 傲慢と絶望
シリアス濃いめです。
〈東風谷早苗〉
皆さんと別れてから数分が経つ。暗闇の中を奇跡の力で出した光る球体で照らし、パートナーである千代春さんと歩いていた。ここがどういった場所なのか、辺りを見渡しながら考えていた。
すると、先頭を歩いていた千代春さんが急に足を止め、体を彼女にぶつけてしまい、思わず尻餅をついてしまった。
「いたたた……一体どうしたんで——」
「狐符『天災』」
彼女が一言放った直後、嵐のような暴風が吹き付け、私たちの体を揺らした。一体どうしたのか。それは直ぐにわかった。
暴風が吹き付けた後、空から魔物たちが降ってきたからだ。彼女はこの事にいち早く気付いていた。
その魔物たちは金色の炎を宿しており、それらから七つの大罪の傲慢の炎であると理解した。それと同時に、彼女はお札をいくつか飛ばした。それらは魔物たちの付近まで近付くと、爆発して彼らの体を粉砕した。
「つ、強い……」
彼女の強さを間に受けて言葉を失った私だったが、彼女に差し伸べられた手を取って起き上がった。すると、千代春さんの背後に新手の魔物たちが現れた。それも、先程とは比にならないほどの数だった。
「時間稼ぎか……」
呟く彼女は、先程も使っていた術式が込められているというお札を両手に持って構えていた。私もお祓い棒を持って戦闘態勢に入る。
だが、悪魔たちがなかなか攻撃を仕掛けてこない。どうしたものかと、決して気を緩める事なく睨みつけていると、その奥から大きな影が近付いてくるのが見えた。
その影の大きさは、実に五メートル以上の高さがあった。更に大きな金棒を持っており、あれを食らってしまっては元も子もないだろう。
その魔物たちの親玉らしき巨大な魔物が金棒をこちらに向け、魔物たちに大きな声で叫んだ。
「さぁ、ゆけぇ!」
迫り来る悪魔たちの猛威。私は周囲に弾幕を配置し、悪魔たちを迎撃。千代春さんも同様に、爆発や冷凍化などといったお札による術を繰り出していた。
しかし、悪魔たちの数は一向に減らない。このままでは、ただの消耗戦になってしまう。すると、千代春さんが私に向けて叫んだ。
「今から使うスペルカードの後に、渾身の一撃をあの親玉に向けて放つのじゃ! 良いな⁉︎」
私は言われるがままに頷き、少し後方に下がって彼女との距離を取る。そして、スペルカードを手に持ち、その時を待つ。
「よし、行くぞよ! 九十九『世界九化』!」
その宣言の後、彼女の周りに大量の槍が現れ、それらは一直線に悪魔たちを貫く。そして道が切り開けた時、合図が出された。
「今じゃ!」
「奇跡『白昼の客星』!」
全方位に花のような配置で交差弾を発射しつつ、私の左右に灯る光源から星明かりを思わせるレーザーを発射。それは魔物の親玉の体を貫いた——はずだった。
レーザーは金棒によって跳ね返され、何もない空間へと飛んで行く。私は驚きつつも、悔しい思いをした。
「グハハハ! 俺様が直々に相手をしてやろう」
そう言って親玉は金棒を振り上げ、こちらに向けて投げつける。しかし、その金棒は先程までとは違い、金色の炎を纏っていた。あの金棒もそうだが、炎に触れても危険だ。
「小癪な……!」
千代春さんは苛立ちながら、スペルカードを取り出す。
「狐符『天地開闢』」
そのスペルカードが唱えられた後、景色が一変した。正確には、先程まで空だったところが地面となり、地面だったところが空になっていた。即ち、これは幻術によるものだという事。
「面白い小娘だ!」
親玉はひるむ事なく、幻術などもろともせずにこちらへ向かって走って来る。私はスペルカードを取り出し迎撃しようとするが、千代春さんはそれを止めた。よく見ると、彼女の手には先程も使用したスペルカードがあった。
「狐符『天災』」
災いを起こす事が可能とされるそのスペルカードの効果は、大津波を起こすというものだった。
親玉は抗う術なく、その波に飲まれていった。私は彼女の強さに感心した。
「先を急ぐぞ」
「あ、待ってくださ〜い!」
「——この先に傲慢の気を感じる」
あれから数分歩き、辿り着いたのは聳え立つ大きな扉の前。近付いて見ると、松明に金色の炎が灯った。ここはいわゆる、傲慢の間なのだろうか。
二人でそれぞれ左右の扉を押し開ける。中は、真っ暗な暗闇。危険を顧みず、中へと入って行く。すると、間も無く入ってきた扉が勢いよく閉まり、閉じ込められてしまった。そのような気はしていたが、少々驚いた。
真っ暗な闇の中を見渡していると、ボウッという火が付く音が聞こえた。そちらに目をやると、入り口で見た同じような松明に金色の炎が灯っていた。それは連鎖的に他の松明にも炎が点いていき、暗闇を金色の炎が照らした。
取り敢えず、中心へと進んで行く。すると、何か大きな音がしたと共に、背後に傲慢の感情と殺気を感じ取った。
いち早く気付いた千代春さんは、そちらに向かっていくつかのお札を投げる。それらは命中し、爆発する。しかし、爆煙が止んで殺気のする方に視線を向けたが、傷は見られなかった。そのわけは、その人物が出した盾による防御のせいだったからだ。
すると、その人物は何かを唱えた。
「唱符『亡霊の名残』」
宣言後、辺りに霧が立ち込み始める。徐々に視界が奪われていく中、千代春さんが咄嗟にお札を地面に投げつけた。
そのお札は光り輝き、直ぐに霧を晴らしてしまった。相手がフードの下で口元を歪ましたのが見えた。しかし、攻撃は止まない。
相手は二本のナイフを両手に、ダガーナイフのような持ち方をする。そして一瞬で間合いを詰め、千代春さんに斬りかかった。
だが、彼女は軽やかに避けて相手の攻撃の隙を突いてフードの上から額辺りにお札を貼った。自身に影響が及ばないように瞬時に間合いを開けると、同時にお札の効果を発揮させた。
「うあぁぁ!」
その効果は、先程霧を止ませるために使ったお札と同じだった。あの至近距離でその光を見てしまっては、視界が戻るのに時間が掛かってしまう。視界を奪い、千代春さんが私に号令をかける。
「今じゃ!」
「開海『海が割れる日』!」
海をイメージしたレーザーを発生させ、波を描く様に凹凸して相手へと飛ばす。それは吸い込まれていくかのように飛び、遂には相手に直撃して爆発を起こした。
しばらくして、爆煙が止む。しかし、そこには先程の人物は立っておらず、倒れていた。直ぐに駆け寄り、状態を確認する。
「気絶しているようじゃな。どうやら女子のようじゃ。すまんが、運んでやっとくれ」
「あ、はい! それにしても、ここに悪魔はいないんですかね?」
「気は感じ取れん。何しろ、ここは傲慢の間であり、あの堕天使ルシファーがいた部屋じゃろう。良からぬことを考えているに違いない。ほれ、急ぐぞ」
クルッと回転し、入ってきた方へ歩いていく千代春さん。私は頼まれた通りに少女を担ぎ、待ってとばかりに走って追いかけた。扉はなぜか開いており、平然としてこの部屋を後にした。なんにせよ、彼女の言う通り急がなければならないだろう。
〈幻真〉
暗がりの道を進んで行く。まるで、無理矢理かのように組まされてしまった俺と妖夢。だが、仲直りをするチャンスだと思えばいい。俺が彼女を傷つけてしまったのだから……この思い、しっかり伝えなければ。
「なあ、妖夢。実は話したい事が——」
「奇遇ですね。私も話したい事があったんです。貴方と——二人きりで」
なんだ……? 妖夢の様子がおかしい気がする。そっと剣に手を掛け、彼女との間合いを取る。彼女は不吉に笑いながら俺に歩み寄ってくる。明らかにおかしい。
「どうしちまったんだよ……妖夢!」
『薄々気付いてるんじゃないかい? No.003』
突如脳内に話しかけてくるニュクスの声。まさか、お前の仕業だと言うのか!
『御名答。感情が不安定になった彼女を弄らせてもらったよ。いや〜、すごく掛けやすかった。感情が不安定な子ほど、この効果は覿面だからね』
お前……! 妖夢に一体何をしたんだ!
『キミもご存知の通り、洗脳だよ。でも、今回は違う。そう、今回は醜い悪魔どもの感情が入っていない。つまり、僕の力によるものだということさ!』
効果が強いって事か。お前の目的は俺の力を奪うことじゃなかったのか! 妖夢は何も関係ないだろ!
『あるよ、寧ろ大ありだね。キミの選択は大いに間違っていた。キミがもし本当の事を彼女に告げなければ、彼女が絶望に陥ることは無かった。落ち込むことは無かった』
黙れ……
『それはキミも同様。あの時、本当の事を告げずに隠していたら、キミは今も彼女と幸せに過ごせていただろう』
黙れ黙れ……
『そう、隠し事と言う辛いものを抱えながらねぇ!』
黙れ黙れ黙れ黙れ黙れだまれダマレぇ! 俺の中から出て行け悪魔! このバケモノ!
「やめて! これ以上自分の体を傷つけないで!」
妖……夢……?
「幻真さんは幻真さんです。貴方がどんな人であろうと、私が愛すと決めた人は貴方という人なんです。どんな事情を抱えていようと、貴方を愛している事に変わりはありません」
妖夢……!
「これ以上自分を責めないで……だから——」
「ああ……ありがとう、妖夢……!」
「——共に堕ちましょう!」
腹部に走る、痛みという名の刺激。そこから滲み出る真っ赤な血。直ぐに広がる真っ赤な血の海。耳に響き渡る狂気に満ちた笑い声。力無く跪く自分。ああ……俺は、死ぬのか……愛する人に殺されて……
瞳に映る、狂い笑い、叫び、涙を流し、座り込む妖夢。俺はなんてことをしてしまったのだろうか。後戻りなど、決してできぬ選択を。
叫びながら俺を指した剣で彼女自身の腹部を刺そうとする妖夢の手を掴み、力を失いつつある俺は彼女を止め、引き寄せた。
「妖、夢……お前は、生きるんだ……お前が、命を絶つ理由なんて……ない……だから……生きてくれ……」
指をそっと彼女の額へと当て、力を流し込む。彼女は瞳に光を取り戻し、大粒の涙を浮かべていた。
「泣くんじゃない……可愛い顔が台無しだ……あぐっ……!」
「幻真さん!」
「最後にこれだけ……言わせてくれ——」
「——愛してる」
その一言を最後に俺の意識は遠退き、視界は霞み、そして意識が途絶えた——
安心してください、最終回じゃないですから。
幻真君カッコつけてますが、続きますので。




