第121話 強欲との戦い
長らくお待たせして申し訳ありませんでした。
今回は強欲編です。
〈フランドール・スカーレット〉
暗がりの道を、天魔の悠飛と進んでいく。一体どんな敵が待ち受けているのか、期待と楽しみに溢れていた。
前線をどんどん進む私に対し、悠飛は後方と共に周囲の警戒をしながら付いてきていた。バケモノでもなんでもいいから早く出てこないかなー。
すると、突然天井から青い炎を纏ったバケモノが降ってくる。その途端、私は大きく腕を上げ、バケモノへと飛びかかる。私を止めようとした悠飛の声は、私の耳には届かない。
一匹のバケモノの体に手が貫通。後ろから迫っていた別のバケモノの胴体が一瞬で吹っ飛ぶ。。続いて、上から飛びかかってきたバケモノに対して腹部目掛けて拳を振るった。
しかし、数が予想以上に多かった。仕方なく手を横に伸ばして一本の剣を生成する。それは、邪神ロキが作ったとされる魔剣レーヴァテイン。私のスペルカードとは違う武器具。
「死んじゃえ〜っ!」
剣を大きく振り上げ、思いっきり一回転して薙ぎ払う。バケモノたちは焼き払われ、灰となった。風が吹くはずもないのに、それらは飛んでいき、そこには何も残らなかった。
「ふらーん! 大丈夫?」
後衛で戦っていた悠飛が走って追いかけてきた。私は剣を仕舞い、バケモノの血が付いた右手を上げて手を振った。悠飛は苦笑していた。
悠飛と合流した直後、背後にあったものに気が付く。それは、見上げるほどの大きな扉。
「ねぇ、コレって……」
悠飛が恐る恐る近付いていく。すると、松明に青い炎が灯っていく。確か、青色の炎は強欲。かつて私が飲まれた感情。今度は負けてたまるかと、強く拳を握った。
大きな扉を強く押して二人で開けると、再び暗闇を目にする。ゆっくり奥へ進むと、突然扉が勢いよく閉まる音が響く。
暗闇の中を見渡していると、一点の場所に青い炎が灯る。続いて飛び火のようにして青い炎が広がり、暗闇は青暗く照らされる。しかし、緊張感は増すばかり。
すると、突然目の前に大男が現れる。私は彼を知っている。以前、幻兄たちの脅威となった星弥兄弟の兄——和正。
「悠飛、気をつけて。あの人は肉体戦だから——」
悠飛に注意を促す前に、和正の拳が猛威を振るう。
「あぐっ!」
悠飛は腹部を殴られ、宙へと身が飛ばされる。私は彼に追撃させぬように高速で飛んで、カバーへと入り、攻撃を素手で受け止める。しかし、勢いが強すぎて腕が有り得ぬ方へと折れ曲がる。
「あ゛あ゛あぁ!」
悲鳴を上げ、腕を抑えながら降下。悠飛は上手く着地しており、天翔幻槍と呼ばれる特殊効果を持った槍を構えていた。私の方を申し訳なさそうに見てからそのまま助走を付け、和正の元へと走っていく。
「でぇやぁ!」
悠飛の槍は、なぜか対応しなかった和正の右肩へと突き刺さる。彼の右肩からは、血がゆっくりと噴出した。
その訳は、彼女悠飛の能力にあった。彼女は三つの能力を持っていて、その内の一つ"速度を操る程度の能力"による仕業だった。
その名の通り、全ての速さを操ることができる能力で、最大の妖力を込めれば、惑星や太陽系の自転・公転のスピードを止めることができたり、同様に速めることができるらしい。つまり、悠飛は和正の速度を遅くして、スロー状態にしていたのだ。
和正は呆気なく気絶。果たして、コレで終わりなのか。まだ悪魔がいる筈だが——
「やあやあやあ、君たち強いねぇ」
突然背後から声がしたかと思うと、一人の少年が立っていた。それも、青髪に青い瞳といった、一見変わった男の子。その子はニタニタ笑いながら、こちらへと近付いていく。
私たちは構えて警戒する。だが、その子の姿が突然消えて、いつの間にか悠飛の背後にいた。
「悠飛!」
「まずは君の力から」
その子が悠飛に触れたかと思うと、彼女の足は突然力を失ったかのように崩れて地面へと倒れた。それには私だけでなく、彼女も驚いていた。
「俺様は強欲を司りし悪魔、マンモン。君たちの力……俺様に寄越せ!」
マンモンと名乗る悪魔は大きく腕を振り上げてこちらへと飛びかかる。私は咄嗟に躱す。すると、私がいた場所には窪みができていた。あの攻撃をまともに喰らってはタダじゃ済まない。
「逃げても無駄だ」
その声は、上から聞こえてきた。見上げると、白い歯を見せてニヤリと笑うマンモンの姿があった。駄目だ、避けられない——
諦めかけたその時、彼の体が吹っ飛んでいった。壁に激突した彼の横腹は、抉られたかのように凹んでいた。それをして見せたのは、先程倒した和正だった。
「あ……」
私は思わず尻餅をついた。すると、彼が手を差し伸べてきた。
「危険を負わせて済まない。反省している。頼むようで悪いが、俺に力を貸してくれ」
その台詞に、私は思わず笑ってしまう。彼は機嫌が悪そうになったが、お構いなく笑う。そして、彼の手を取って握った。
「うん。もちろん!」
彼はフッと笑い、握った手を離して先程飛ばした悪魔の方に視線を向ける。ヨロヨロと立ち上がる悪魔、マンモン。しかし、彼は笑っていた。
「あははは! その女の子はともかく、力を奪われている君がどうやって俺様と戦うって言うんだ? ただの足手纏いじゃないか!」
「そうだな。だから、俺はこうする。鬼神解放」
その一言と共に、和正の犬歯と二本の角がみるみる伸びていく。そして、赤くなった瞳を光らせた。
「さあ、続きといこうか悪魔さんよぉ」
「どいつもこいつも——小癪な真似をォォ!」
マンモンは怒りに身を任せ、こちらに猛スピードで向かってくる。私が身構えると、和正が小声で私に話した。
「いいか。俺が奴の動きを封じる。その隙に、俺ごと何かで攻撃しろ。なに、大丈夫だ。俺は死なないからな」
そう淡々と説明され、迫ってくる悪魔の事を考えると、頷く事しかできなかった。
私は炎剣レーヴァテインを右手に出現させ、和正の合図を待つ。悪魔は既に目前だった。
「喰らえェェ!」
振り上げられた腕は、和正によって受け止められ、そのまま首を締め上げる。そして、私に声をかけた。こうなったらやるしかない。剣に真っ赤な炎を纏わせ、捕らえられた悪魔の元へと走る。
「待て、やめろォォ!」
そんな嘆きが聞こえたが、お構いなく一突きした——はずだった。そこには悪魔の姿はなく、剣尖は和正の腹部を刺していた。
私は目を疑った。まさか、逃げられたのかと。直ぐに和正の状態を伺うが、本当に大丈夫だったようだ。頑丈な肉体をしている。
そんな事より、今やるべき事は消えた悪魔を探し出すこと。しかし、それには時間はかからなかった。なんせ、彼は私たちの目の前にいたのだから。
彼は不愉快そうに笑い、そして睨んでくる。威圧をかけられるも、怯む訳にはいかない。それなりの覚悟を持って、私はここに来たのだから。
すると、どこからともなく悪魔に向かって多数のレーザーが撃たれる。あっという間に爆煙によってその姿は見えなくなる。一体何が起きているのか。
その正体は、和正の弟である喜響の仕業だった。彼が持つ銃——紅魔によるレーザー銃の攻撃、魔力弾を放っていた。
喜響は私たちの前に立つと、私に笑顔で手を振ってくる。一方で、兄の和正は大変機嫌が悪そうだった。
「なぜ来た!」
怒りを露わにして、喜響に問う。
「なぜって、君を助けにね」
彼はそんな偉そうな台詞を返す。和正は自分の情けさからか、舌打ちをして俯いてしまう。
「感動の再会ってかぁ? 人数が一人増えたところで、俺様の圧倒的な力には敵わねぇ!」
爆煙を振り払い、その中から突撃してくるマンモン。確かにそうかもしれない。だが、やってみないとわからない。
「頼むよ、兄貴」
「……チッ、気が狂う」
そう言いつつも、どこか笑みを漏らす和正。私はバレないように微笑んだ。剣を握り直し、マンモンへと視線を向ける。今の彼は最高潮。気は抜けない。
マンモンは地を蹴り、再びこちらへと飛んでくる。それに対して喜響は銃を二丁構えた。先程も使っていた紅魔と、もう一つの銃——妖桜だ。それらから、それぞれ赤いレーザーと弾幕が放たれる。そして、標的に向かって真っ直ぐ飛んでいった。
マンモンはそれらを薙ぎ払い、強行突破してくる。しかし、一点に集中し過ぎたのか、和正の一撃を腹部に喰らう。
「カハッ……!」
マンモンの体は宙に投げ出される。私も続いて応戦する。剣を振り上げると共に空を飛び、マンモンに向けて振り下ろして一刀両断する。彼の身は再び地面へと向かった。
下では喜響が構えていた。最後の一撃を決める為に。
「これで終わりだよ。妖魔『紅き月の夜桜』」
紅魔と妖桜が合成されてできた紅桜によって、紅色の光線の周りに桜型の弾幕を纏わせて攻撃する。その光線は真っ直ぐにマンモンへ向けて飛んでいく。それはそのまま直撃し、爆発が起こった。
「終わったか……」
呟く和正。ヒュ〜と口笛を吹く喜響。固唾を呑みこむ私。もし、まだマンモンが生きていたら……
そんな心配とは裏腹に、彼の姿はもうなかった。なんとか倒せたのだと、私は確信を持つ。ふと、思い出したかのように倒れ込む悠飛の元へと駆け寄った。
「うーん……」
彼女は無事だった。目を覚ました彼女は目を擦り、伸びをする。辺りを見渡し、思い出したかのように大声を出した。
「あの悪魔は⁉︎」
「安心しな。既に片付けた」
悠飛は和正の一言に、ホッと胸を撫で下ろした。今気付いたが、和正の姿が鬼神化から戻っていた。これ以上鬼神になっていても意味は無いが。と、銃を仕舞った喜響がこちらにやって来て話し始めた。
「どうやら数人で来たみたいだね。罪を背負う悪魔たちの力は計り知れない。だが、皆の力も信用していないわけでは無い。念には念を入れて、加勢に入れそうなところには入りたいと思ってる。二人はどうする?」
話を振られた私と悠飛。お互い顔を見合わせただけだったが、考えは同じだったらしく、加勢する事を決めた。
「兄貴は?」
続いて振られる和正。腕を組んでそっぽを向き、答えは返ってこなかった。
「何照れてんのさ。まあ、だいたい決まったし、行くとしよう——ん?」
彼の言葉を止めたのは、突如部屋の外から聞こえてきた爆発音だった。
魔導師のニックは、封印されていた部屋の中から出てきた小さな子供に追われていた。それは勿論、ただの子供では無い。悪魔の子である。
必死に逃げるニックの背後から飛んで来る、様々な刃物や武器具。それも、灰色の炎を纏ったもの。その灰色の炎を纏った刃物や武器具が触れた箇所は、虚無と化していた。
角を利用して必死に逃げるニック。その先の傍に見える大きな扉。止まない攻撃。その度に起こる爆発。扉を通過した後、そこから人が出てきた。
「なになに? 一体何事?」
発言者は喜響だった。彼はこの状況を見て、何が起こっているのか一瞬で理解した。彼はニックを追いかける者の後を追った。
ニックは喜響の作戦に気付き、足を止める。そして、ニックが先に術を繰り出した。
「『渦水弾』」
渦潮状の小さな弾幕を悪魔に向けていくつも飛ばす。それらが地面に触れると、突如渦潮を起こした。
「妖符『雷電』」
喜響の使用する妖桜から放たれた雷の弾幕が渦潮に向かって飛んでいき、触れると共に稲妻を走らせる。
その弾幕は上部へと巻き上げられ、天井まで達すると、天井を打ち壊して渦潮を脱出。それらが宙へと出ると、進行方向を悪魔へと変え、一気に降り注いだ。
弾幕は悪魔へと被弾。電撃が悪魔の全身へと走り、動きを封じる。二人のコンビネーションは、初めてと思えないほどの上出来だった。
「今の内に……」
ニックは動きを封じられている悪魔の前へと立ち、広げた両手の指を重ねてその悪魔へと照準を合わせた。
彼が何をしようとしているのか、喜響はわかっていた。悪魔の動きを封じているうちに、悪魔そのものを封印するというのだ。
ニックが封印の呪文を唱えようとしていたその時、天井の方から弾幕が飛んできて、彼を吹き飛ばした。
「邪魔はさせないわ」
弾幕が飛んできていた場所を見ていた喜響の目には、金色の炎を纏った別の悪魔の姿があった。傲慢の罪を背負うその悪魔は——
「反逆の堕天使……ルシファー……!」
彼女は裂けそうなほどに口を動かして笑みを浮かべた。




