第114話 嫉妬に飲まれし者
〈博麗霊夢〉
作戦会議を終えた後、私とレミリアとさとりの三人で紅魔館へ移動中。その途中、私たちは歩みを止める。
「……来るわ」
その一言の後、空から一人の人物が降って来る。その人物の特徴として、黒髪をショートボブまで伸ばした美少女で、服装は迷彩柄。背中にスナイパーライフルと思われる銃。腰には短剣と二丁の拳銃が備えられていた。
俯いた状態の人物——夕霧刹那は、ゆっくりと顔を上げる。閉じた瞳が開いた時、彼女の瞳は緑色に染まっていた。
「七つの大罪の一つ、嫉妬……と言ったところでしょうか」
さとりがポツリと、解析した事を呟く。
「彼女の感情が、何者かによって嫉妬に飲み込まれてる。なんとも妬ましい気持ち。苦しんでる」
相手の心を読むことができるさとり。彼女自身も気難しそうにして言う。そして、レミリアが武器——神槍グングニルを手にして言った。
「躊躇してる暇は無いわ。早く倒すわよ」
彼女の吸血鬼としての紅き瞳が光ったかと思うと、その場には既に彼女の姿は無く、彼女のグングニルと刹那の二本の短剣を交わらせていた。
レミリアは自身の吸血鬼の牙を剥き出して、戦うのが楽しそうな、闘争本能を露わにした様な、そんな様子を見せる。一方の刹那は嫉妬によるせいなのか否かわからないが、歯をギリギリと鳴らし、妬んでいる様子を見せた。
「久しぶりに吸血鬼の血が騒ぐわね。貴方の血は、一体何色かしら?」
更にレミリアの攻撃速度が加速していく。それに対応するかのように、槍での攻撃に対して刹那も防御を入れつつ反撃していた。
両者共にダメージを負う中、刹那が数メートルほど距離を空けてスペルカードを唱える。
「虎符『氷砲』」
氷で出来たガトリングガンが出現し、レミリアに対して撃ち出す。その威力と速度はかなりのものであり、レミリアは躱しながらも被弾していた。
同様に、レミリアもスペルカードを唱えて反撃に出た。
「紅符『スカーレットマイスタ』」
中弾と小弾を大弾に付随させ時計回り、反時計回りに放つ。それも高密度で、とても避けにくいものだった。
刹那もまた、それに負けじとスペルカードを唱えた。
「水符『全てを飲み込む渦潮』」
巨大な渦潮を創り出し、その中にレミリアを閉じ込めようと試みる。その様子を見た私は、即座に叫んだ。
「レミリア! 逃げて!」
「言われなくてもわかってるわよ!」
「ふふ……これに閉じ込められたら最後、私の怪力で体を捻り殺されてしまうからね〜」
可愛げを出して、そんな恐ろしい事を言う刹那。もはや彼女は正気では無いだろう。だからこそ、彼女を倒して助けなければならない。
すると、背後でスペルカードを唱える声が聞こえた。
「想起『恐怖催眠術』」
唱えたさとりは、レーザーの発射と同時にその場所を境界に大弾と中弾を別個に発射する。その弾幕やレーザーは巨大な渦潮に当たるものの、尽く弾かれてしまう。
こうなったらと、私もスペルカードを唱えた。
「霊符『博麗幻影』」
刹那に対して自身の幻影を送り込み、赤御札弾を放射状に多重に放ち、赤粒弾と赤御札弾を相手を照準にして放った。更に白御札弾を放って一旦停止。その後は標的を狙い続ける。だが、これだけでは終わらない。赤粒弾と白粒弾の交差弾を繰り広げ、最後に陰陽玉をばら撒いた。
これには当然、刹那も苦戦を強いられる。同時に巨大な渦潮の威力も弱まっていった。
「うぐっ……私は……まだやれる!」
「早くケリをつけるわよ。霊符『夢想封印』」
私から色とりどりの大きな光弾が次々と飛び出して、彼女目掛けて飛んでいく。彼女は避ける動きすら見せずに被弾。そして、視界は光に包まれた。
「——うぅ、頭が……痛い……ここは、一体……」
ある一つの部屋で、一人の少女が眼を覚ます。見覚えのない天井。なぜかベッドの上で寝ている。そんな事よりも、隣に彼女の知人が寝ていた事に驚いていた。
ベッドから飛び出した少女は、知人を揺さぶり起こそうとする。しかし、それをやめる。その者は気持ち良さそうに寝ていたからだ。起こしてしまっては可哀想。彼女はそう思った。
すると、部屋の扉をノックする音が聞こえる。何も答えずにいると、一人の少女が入ってきた。彼女は銀髪に、メイド服を着ていた。この建物のメイドなのだろうと、少女は察する。
「目が覚めたのね。その様子だと、隣の人は知り合い?」
少女は声を出す事なく、首を縦に振るだけだった。
「私はこの館のメイド長を務めている、十六夜咲夜よ。気軽に咲夜とでも呼んでちょうだい」
「私は……夕霧刹那……」
少女、刹那はそれだけ言うと再び黙ってしまう。その様子を見た咲夜は、笑みをこぼした。
「ごめんなさい。それよりも、お腹が空いてる事でしょう」
咲夜は問いて聞かせる。すると、部屋にお腹が鳴る音が響く。咲夜はクスクスと笑い、刹那は顔を真っ赤にした。
「今からご飯を持ってくるから、待っててね。ああ、それと……ある人を呼ぶわね」
そう言い残した咲夜は、その場から音も無く消えた。まるで、時間を操ったかのようにして。
部屋の中は静まり返る。それも数秒の間だけであり、再び誰かが部屋の扉をノックした。
「失礼……目が覚めたみたいだね、刹那」
顔を知っている人物。刹那はそう思いながら、その男を見つめる。そして、彼女は声を漏らした。
「幻真……」
「覚えててくれたか。なんだか嬉しいな——おっと、そんな悠長な話はしていられないんだったな」
真剣な表情になった幻真は、彼女へと質問を投げかけた。
「起きて早々で悪いが、覚えている事でいい。質問に答えてほしい。まずは——なぜあんな風になったのか。あんな風にってのは、簡単に言えば洗脳か」
刹那は必死に記憶を探る。確かあれは、悠飛と千代春と地底から地霊が湧いた異変の真相を調べるべく、共に行動していた時。突如フードを被った謎の人物と出会って、拘束されてから……それで……
「眼を合わされて、洗脳を受けた……」
ポツンと、そう言う。幻真は耳を疑った。同時に、安心感も持つ。奴は関与していないと。
「なるほどな。情報提供ありがとう。ゆっくり休んでくれ」
「幻真はこれからどうするの?」
刹那は彼に質問をする。彼のこれからの行動。もしかしたら、自分も何か手伝えるかもしれないという思いから。
「取り敢えず、これから来たる悪魔を迎え撃つ準備をする。ああ、悪魔については後で霊夢たちから聞いてくれ。んで、悠飛にも伝えておいてくれ」
彼はそれだけ言って部屋を去ろうとしたが、何かを思い出したのか立ち止まる。
「おっと……一番重要なことを伝えるのを忘れるところだった。お前の友人、悠飛ともう一人の……千代春だったか。彼女も無事だ。椛たちと交戦したらしいが、博麗を名乗る何者かの参戦によって助かったみたいだ。これは文に聞いた話だけどな。んじゃ、俺は行く」
彼はそう言い残して、部屋を後にした。残された刹那は、流すまいとしていた涙を流した。大切な友人が無事だった喜びから、その涙は流れた。泣いても泣いても、涙が止まらない。
そんな彼女に、いつの間にか食事を持って戻って来ていた咲夜が、優しく彼女に声を掛けた。
「ふむ……この世界の者たちは思っていたよりもやるようだな」
「そうだね〜。ルシが言ってた、この世界で洗脳した隷の内三人は倒された。ねぇベル、そろそろ魔物たちを召喚しない?」
「そうだな、そろそろ潮時か……いいだろう。レヴィ、やれ」
悪魔たちは新たなる脅威を齎そうとしていた。




