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東方人獣妖鬼  作者: 狼天狗
第参章 悪魔の目論見
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第108話 怠惰を司りし悪魔

 〈想起〉



 ここは一体……俺はなぜ床に伏せていた。


「お目覚めですか」


 その声がした方に顔を上げると、赤髪の少女がしゃがんでコチラを見ていた。


 手を地面について起き上がると、素早く少女との距離を空けて腰に手を伸ばす。だが、あった筈の持ち武器が無くなっていた。


「貴方が探しているのは、コレですか?」


 少女はそう言うと、俺が持っていたはずの獄炎刀ニズヘグと幻夢剣を見せてくる。眠っていた間に取られていたか……クソッ!


「おっと、紹介が遅れましたね。私の名はベルフェゴール。七つの大罪……怠惰の悪魔です」


 ベルフェゴール……怠惰の悪魔だと……? もしかすると、あの怠惰の炎を纏った手はコイツだったのか? すると、彼女は一本の短剣を取り出す。それを舌で舐め、話しかけてきた。


「貴方……怠惰よりも、憤怒の方が強いですねぇ……ですが! 貴方はここで死ぬ運命なのです!」


「何が運命だ。ぐちぐち言いやがって」


 俺はそう言って身構えるが、実際武器を何も持っていない。戦うにしろ、こんな状況下では厳しすぎる。悔しがる俺を見た彼女は、哀れに思ったのか獄炎刀ニズヘグと幻夢剣を投げてくる。俺はそれを受け止めた。


「……何のつもりだ」


「実に怠いですが……そうですねぇ、真剣勝負……と言ったところでしょうか」


 彼女はそう言って、自身の短剣に怠惰の赤い炎を纏わせる。それを見た俺は、ニズヘグと幻夢剣を腰に備える。そして、幻夢剣を鞘から抜いて構える。相手がその気なら、自分自身もそれに応えるだけだ。


 相手が動こうとしたその瞬間を狙って、超技術の縮地で一気に距離を詰め、更に同じく超技術の斬術で最も攻撃の通る箇所を斬る。しかし、彼女は受け身もせず、ただ攻撃を受けているだけだった。


 一度間合いを空け、体勢を整える。荒い息をしながらも彼女の姿を見ると、見るに耐えない程の多量出血で、普通の人間だと既に死んでいる程の姿をしていた。


「ふふふ……気持ちいいですねぇ……」


 コイツ……狂ってやがる……!


「次はコチラから攻撃させていただきますよ!」


 怠惰の炎が噴出されたかと思うと、自身の腹部には彼女の使用する怠惰の炎を纏った短剣が刺さっていた。しかし、超技術による肉鎧でその攻撃を防いだ。


 彼女はそのまま下がらず、乱暴に短剣を振り回してくる。その速度はとても速く、防ぐのに苦戦を強いられる。


 肉鎧の耐久は減る一方。咄嗟に空中に逃げ込んだ俺は、幻夢剣の剣尖を彼女に向けた。


「『武器強化(ウェポンアップ)』」


 長さが二倍に伸びた幻夢剣。更に超技術——エンチャントの効果で幻力を纏わせて、ベルフェゴールに向けて落下する。しかし、赤く煌びやかに光ったその瞳は、怠さを呼び起こさせる。


「ガッ……な、に……」


「怠惰なる瞳には敵いませんよねぇ」


 高らかに笑うベルフェゴール。自分の体は怠惰によって支配されかけている。マズイ……このままでは奴の怠惰に飲み込まれてしまう。


「くそっ……感情解放『怠惰』」


 俺はそう唱え、赤い炎を身に纏って赤眼へと変化する。防御力が跳ね上がる為、ノーガードでも戦える。その様子を見ていたベルフェゴールは、興味深そうにコチラを見ていた。


「その力……怠惰ですね……」


 気味悪く笑う彼女に目もくれず、俺は地面へと寝転がる。


「あー怠い……いっそのこと戦いなんてやめないか?」


「ふふふ……それもありですねぇ。しかしながら、そうもいかないんですよ」


 次の瞬間、ベルフェゴールが一瞬で目の前に現れる。振り上げた短剣を持った手。それを瞬時に掴んでもう片方の拳で打撃を与える。吹き飛ばされた彼女は出血している口元を拭い、こちらを睨む。


「少女に対して手洗い真似をされますねぇ」


「少女だろうがなんだろうが、怠いんだよ。お前がその気なら、さっさと終わらせるだけだ」


 縮地を使って再び距離を縮め、連続で打撃を与えていく。ベルフェゴールは腕をクロスして防御するも、俺の方が推している。


 強烈な一撃を与え相手が怯んだ隙を狙って、距離を空けて技を発動する。


「怠惰『レイジネスシュート』」


 怠惰の赤色の細いレーザーをベルフェゴールに向けて放つ。その後爆発が起こり、俺は受け身の体勢を取る。


 しかし、彼女もしぶといヤツだ。大量出血しながらもまだケロッとしてやがる。これが怠惰の耐久力だと言うのか。


「いいですねぇ……是非とも貴方は我が隷になってほしいものです」


 ベルフェゴールはそう言い、人差し指をコチラに向けて唱えた。


「洗脳『怠惰』」


 その直後、俺は強烈な怠さに襲われる。感情が暴走しているのか? クソッ……どちらにせよ、このままでは、意識が……


「ふふふ……ようこそ、こちら側(・・・・)へ……」








 〈狼〉



 想起は大丈夫だろうか。勝手に行動している時龍たちの事も心配だ。一体どれを優先したらいいのかわからなくなってきた。


「狼さん、あまり深く考えないでください」


「ニック……気遣いありがとう」


「想起たちの事が心配のはわかるわ。いっそのこと、三人で分かれて探してもいいけど、どうする? そっちの方が効率的にいいけど、危険も増すかもしれない。でも、手間は省けるわよ」


 火御利の提案に頭を悩ます。確かにその通りだ。この見知らぬ空間、一体何が起こるか知れた事じゃない。だが、別行動している彼らに合流できたら運が良い。


「わかった、そうしよう。でも、さすがに連絡は取れないか……」


「そうでも無いですよ。私が通信(テレパシー)を付与します」


 次の瞬間、脳に何かが流れた。耳を抑えて研ぎ澄ます。ニックが少し離れて、口を動かす。


『聞こえますか?』


 それは対面的ではなく、脳内へと直接言葉が送られていた。僕と火御利は驚いた。


通信(テレパシー)は話したい相手の事を思い浮かべれば使えます。それでは、無事を祈ります』


 ニックはそれだけ言い残して去っていった。


「便利な機能ね。それじゃあ狼、私も行くわ。くれぐれも、気を付けてね」


「火御利も」


 こうして僕たちは、別々で行動する事になった。








 〈時龍〉



 勝手に行動している俺であるが、全く……なんなんだこの空間は。普通じゃないよな。かわい子ちゃんなんて到底いなさそうだ。


 そんなこんな考えながら進んでいると、突然目の前から巨大な桃色の弾幕が飛んでくる。俺は素早く躱してみせるが、小弾が追撃してくる。


「くそっ、一体なんだって言うんだ!」


 見えない敵の攻撃。死角から次々と飛んでくる弾幕。隙間から龍神剣を取り出し、弾幕を防ぐ。だが、俺はその言葉を聞いて確信した。


『貴様は既に我が()に嵌っているのだ』


 既に奴の術中だと言うことを。

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