第11話 紅霧異変解決
〈博麗霊夢〉
まったく……幻真と魔理沙はどこに行ったのかしら? ちなみに私は今、エントランスらしき場所にいる。
「紅魔館へようこそ——」
突然、上の方から声がした。そちらに視線を向けると、そこにはメイド服を着た少女が立っていた。
「——そしてさようなら、博麗の巫女」
そのメイドは突如としてナイフを投げてきた。私は素早く避ける。
「へぇ〜、あんた、ナイフ使いなのね」
私が確かめるようにしてそう言うと、目の前にいたはずのメイドがいつの間にか隣に移動していた。私は素早く彼女との距離を取る。
「申し遅れたわね。私は十六夜咲夜。当館のお嬢様に仕えるメイドよ。私の使命は、あなたをお嬢様のところへ行かせないこと」
お嬢様に仕えるメイドね……お嬢様ってところを聞くと、そいつがこの異変の元凶かしら?
「そのお嬢様に会わせてほしいんだけど」
しかし、彼女は何も答えず、いつの間にか持っていたナイフを投げてくる。
「無理に決まってるでしょ? お嬢様の計画の邪魔はさせないわ。幻世『ザ・ワールド』」
なっ……! 時が止まって……!
「——時を止めたのよ。まぁ、今のあなたに言っても聞こえていないだろうけど。解除——って、なに⁉︎ 今の攻撃を躱したって言うの⁉︎」
目の前に現れた大量のナイフを、私は躱す。そして、私は気づく。
彼女からしたら、止まっている時も彼女の歩んだ時。私からすれば、まるで時が飛んだような感覚に陥る。だけど、時が止まっているからってその間に攻撃を与えることは不可能。
――あなたの能力、見切ったわよ。
「あなたは時間を操れるのね」
「……そうよ。私の能力は『時間を操る程度の能力』。時間を止めたりすることができるわ」
やっぱりね。厄介な能力だわ。
彼女の元に瞬時に移動するとともに唱えておいた夢想封印を、彼女の目の前で発動した。鮮やかな弾幕が、彼女を襲う。
「お嬢様……すみません……」
〈幻真〉
チッ……この子、なかなか強いな。
「ぼーっとしてたら死んじゃうよ〜! 禁弾『スターボウブレイク』!」
フランが色とりどりの中ぐらいの弾幕を飛ばしてくる。俺も反撃するようにスペルカードを発動させる。
「炎符『炎之勾玉』」
彼女が飛ばしてきた弾幕と、俺が放った勾玉形の弾幕が互いにぶつかり合う。魔力は大丈夫そうかな。霊力を変換して補えば大丈夫だろう。
「むぅ、なかなかやるわね! それなら、次はこれよ! 禁忌『カゴメカゴメ』!」
彼女はライン状に並んだ丸弾を飛ばし、大玉をぶつけては崩して拡散する。俺はそれらの弾幕を素早く避ける。
「さすが、ここの館主のお嬢様とやらの妹様だな」
「ふふ、なあに? 改まっちゃって」
手を後ろに組んで可愛げに言うフラン。さて、どうしたものか。魔力は大丈夫なんだが……というか、ここは館のどこなんだろうか。気にしながらも、フランに視線を向け直して言った。
「さあて、妹様……続きをしましょうか」
〈博麗霊夢〉
「ここかしらね」
扉を開けると、上品な雰囲気を出す部屋があった。そして目の前には、ひとりの少女の姿もあった。
「よくここまで辿りついたわね、博麗の巫女」
私に声をかけてきた少女は、玉座のような椅子に足を組んで座っていた。水色の髪に白と赤が混じった帽子をかぶっており、背中には何かの生物のモノであろう羽が付いていた。
「ふーん、あんたが噂のお嬢様ね」
「悪いけど、幻想郷は私が支配させてもらうわよ。阻止しようとするなら問答無用で倒すだけ。天罰『スターオブダビデ』」
彼女は丸弾とリング弾を飛ばしてくる。
「夢符『二重結界』」
私は攻撃を防ぐために、結界を展開する。
「ふーん、思ったより楽しめそう。それならこれよ。紅符『スカーレットシュート』」
今度は中弾と小弾を大弾に付随させ、連続で飛ばしてくる。
「迎え撃つ! 霊符『夢想封印』!」
弾幕はぶつかり合い、爆発を起こした。
〈幻真〉
「なかなか……やるわね……」
はぁ、はぁ……クソッ、しぶといな。こうなったら次で決めてやる!
「魔力最大!」
「ふーん、次で決める気ね!」
ありったけの霊力を魔力に変換。炎龍、頼むぞ!
「龍符『炎龍』!」
俺は炎龍を召喚する。魔力を最大限に引き出しているため、いつもより炎を纏っていた。
「行くぞ! 龍符『七方神炎龍』!」
「禁弾『過去を刻む時計』!」
フランは青い回転十字レーザーと、赤弾が組み合わされたスペルカードを唱える。俺は七匹の炎龍を七方に放つ。七匹の龍は彼女の弾幕を打ち消し、そのまま彼女に直行した。
「そんなっ……! 私の、負け……」
〈博麗霊夢〉
場所は変わって外。
「霊夢〜、頑張れ〜」
紅魔館は、現在行われている弾幕ごっこによってボロボロになっており、下のほ方では魔理沙が応援していた。その近くに赤い髪の少女と、魔法使いらしき少女、そしてメイドの咲夜が倒れていた。
「博麗の巫女、なかなかやるわね」
「それで呼ぶのやめてくれる? 霊夢で良いわよ」
私が名乗ったことによって思い出したのか、彼女はいまさら自己紹介をしてきた。名前はレミリア・スカーレット。純粋なる吸血鬼だとか言ってたけど、私には関係ない。
「さて、次で終わりにしましょうか。覚悟しなさい。紅符『スカーレットマイスタ』」
彼女はさきほどのスペルより強化されたものを唱える。
「霊符『夢想封印』!」
私は霊力を最大限に引き出し、スペルカードを唱える。結果、私のスペルが一枚上手だったことにより、弾幕はレミリアに直撃した。
「私が……負けるだなんて……!」
〈幻真〉
「はぁ、はぁ……ヤバ……」
俺が倒れかけたところに、霊夢が肩を貸す。
「霊夢か……サンキュー……」
「あんた、無茶しすぎよ」
すると、魔理沙が駆け足で寄ってきた。
「空を見ろ! 霧が晴れていくんだぜ!」
空は先ほどのおぞましい景色とは一変し、雲の隙間からは日が差し込んでいた。
「紅魔館……ボロボロになってしまったな」
「そうね、修復でも手伝ってあげようかしら」
「そうしてもらえると……ありがたいわ……」
メイド服を着た少女が立ち上がって言った。
「あら、メイドじゃないの。目を覚ましたのね」
「なんとかね……それで、手伝ってくれるのかしら?」
「俺は、いいですよ……たぶん、すぐに回復すると思うので——」
「幻真!」
俺は意識を失った。。