表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東方人獣妖鬼  作者: 狼天狗
第参章 悪魔の目論見
109/155

第105話 波乱の日常

お待たせ致しました。

今年も二ヶ月を切りましたね。

 〈幻真〉



 見知らぬ天井……ではない。知っている。それも永遠亭ではない。どこか懐かしく、温かい……


 ゆっくりと体を起こし、辺りを見渡す。寝かされていたのは、引き布団の上。そして和室。間違いない。ここは白玉楼だ。


「あっ、目が覚めたんですね」


 開いた襖の奥に立つ、銀髪の少女。妖夢……俺の愛する人。


 すると、妖夢は目に大粒の涙を浮かべて俺に抱き着いてくる。それも強く、意思を籠めて。


「心配したんですよっ……戦ってばっかりで、自分の体の事は、自分自身しかわからないんですからっ……」


 優しく妖夢の頭を撫でる。俺はなんてことをしてしまったんだ。皆の為だと思っていた事が、愛する人を心配させ、泣かせてしまった。


 俺も妖夢を優しく抱き締める。しばらくこの状態だった。






「——さて、朝御飯にしましょう。幻真さん、何も食べていないでしょうからね」


 思えばそうだった。永遠亭で目覚めた時から何も口にしていない。ましてや、そんな事これっぽっちも考えていなかった。空腹に思考が行かなかった。


「朝食は幻真さんの好きな和食。お味噌汁、ありますからね?」


 最高だ。俺たちは席に着き、手を合わせて挨拶をする。そして箸を手に取り、白飯を口に運ぶ。


「そういや、幽々子さんは?」


「紫様と一緒におられます。冬になる前に話しておきたいことがあるらしく」


 一体なんなのだろうか。まあ、他人の話に首を突っ込むのは辞めておこう。


 妖夢に白飯と味噌汁のお代わりを頼む。体は正直だ。もっと食いたい欲を隠せない。


 そんなこんなで朝食を食べ終え、食器を洗っている最中、妖夢が話し出す。


「こうしていると、懐かしいですね。以前に私を手伝いに来てもらった時のこと」


 確かに懐かしい。今はもう、随分昔のことに思えてしまう。忘れるもんか。あの時、俺は妖夢に剣術を教えてもらったんだ。


 食器の後片付けを終え、縁側でお茶を飲みながら一服する。それにしても、色々な事があり過ぎた。


 まずは、俺がニュクスと言う少女に作られたと言う事。正直な所、自分でもよくわかっていない。俺は現代人では無いと言うのだろうか。


 そしてもう一つは、謎の空間の先に行った狼たち。それと、洗脳の悪用による暴走化。その事で一番気になる事が、暴走化状態だった緑髪の少女に飲まされた液体だ。一応、常に幻力を使って無効化しているが、いつまで保つかわからない。


 悩む俺に顔を、心配そうに覗き込む妖夢。


「どうしたんですか? 難しい顔して」


「ああ、いや。まだ疲れてるみたいだ」


「私には隠し事しないで下さいよ? それより、あのとき渡した日本刀はどうなされたんですか?」


 日本刀……剣術を習った時に使ってた刀か。ほとんど未使用だったから、もしかすると博麗神社に置きっ放しかもな。すっかり忘れていた。妖夢に借りずとも、それと雷刀ゼニシアを使えば良かった。


「あの、幻真さん……」


 妖夢は顔を赤らめながら、俺の腕に抱き着く。そして、彼女のつぶらな瞳と俺の目が合う。


「本当は毎日ずっと一緒にいたいんですが……今日限りは、一緒に過ごしてくれませんか?」


 妖夢は更に抱き着くのを強め、逃さないかのようにする。本当は日本刀を取りに行って妖怪の山へ修行しに行こうと思っていたが、休暇も必要だろうし、妖夢にこれ以上寂しい思いをさせない為にも彼女の望みを叶えるべきだと決心する。


 今度は俺が妖夢を胸元に抱き寄せる。彼女は一瞬驚いていたが、安心して身を委ねた。


 さて、何をするかとなるが、結局は暇であることに変わりはない。取り敢えず、人里にでも遊びに行くことになった。






 恥ずかしいが、妖夢と手を繋ぎながら里中を歩く。すると、以前見たことある少女が突然目の前に現れる。彼女が突然現れた理由はわかっているのだが。


「貴方があの時私を助けてくれたお兄さんだね! 私は古明地こいし。お姉ちゃんや巫女さんからも聞いたよ。それにしても……」


 こいしは俺と妖夢の顔を交互に見て、そして繋いだ手を目にやる。俺は空いている片手で頭を掻きながら、事情を説明した。


「へぇ〜、お似合いだね! また地霊殿にも遊びに来てね!」


 こいしは俺たちに手を振りながら、この場を去って行った。


「元気な子でしたね」


「ああ。無事に助けられて本当に良かった」


 喜びもあるが、悔しさ、哀れさも同時に感情に表れる。これ以上被害が及ぶ前に、この愛する幻想郷の為に、今倒すべき存在を消しておかなければならない。


 その為にも、この事は妖夢に話しておかなければ。一番信頼できるのは、彼女なのだから。


「……妖夢、そろそろ昼食にしないか? 腹が減った」


「そうですね。そこの和食店にでもしましょうか」


 朝と同じだが、気にしない。美味ければなんでもいいし、栄養も取れればそれで構わない。俺と妖夢はその店で、店主に和食定食を注文した。


 待っている間適当に雑談していると、店の戸が開いて見覚えのある人物が入ってくる。


「やっぱり。妹紅じゃないか」


「ん? おや、幻真だったのか。久しぶりだな。それに、その子と一緒にいるということは……」


 やっぱり察するよな。まあ、問われるよりは楽だし、別に恥ずかしくはない。本当に彼女を愛しているんだ。ただそれだけじゃないか。


「妹紅はお昼休憩か?」


「ああ。ここの和食は美味くてねえ。店主、いつもの頼むよ」


 威勢良く返事する店主。それと同時に、店員さんが二人分の和食定食を運んできた。


 妹紅にお先と言ってから箸を取り、挨拶をして味噌汁を飲む。体が温まる。最近寒くなってきていて、俺にとって味噌汁は欠かせない。


 味わないがら食べていると、またしても知人が店内に入ってきた。


「あら、幻真に妖夢、それに妹紅も」


「どうも。霊妙さん、阿求さん」


 その知人とは、彼女ら二人。やはり二人はとても仲が良い。


 彼女たちは妹紅の前の席に座り、店主に注文をした。俺は飯を食べ進める。やっぱり美味い。


 俺はふと日本刀の事を思い出し、後で博麗神社に寄らせてもらうことを霊妙さんに伝える。一応了承は得たが、霊夢の様子を見て欲しいとのこと。また寝てたりしないよな……


 異変解決後ってのもあるが、叱るだけ叱りに行くか。






 和食店を後にし、博麗神社に向けて飛行する。妖夢の手を握りながら。


「ごめんな妖夢。せっかくだから日本刀だけでも取りに行っとこうと思って」


「いえ、それは大丈夫なんですが。霊夢さんに睨まれません?」


 あ、そのことか。まあ、なんとかなるだろうと、笑って誤魔化した。






 博麗神社の境内に降り立ち、社を覗き込む。中には誰もおらず、もしかするとと思って縁側へと向かう。


 案の定、霊夢は空を見上げながらお茶を飲んでいた。俺は妖夢に待っててもらい、霊夢の横に座る。


「……何? お茶は出さないわよ」


「いや、大丈夫。ここに忘れ物してたから、それを取りに来ただけさ」


 何処か不貞腐れている霊夢だったが、返事が何も帰ってこなかったため、仕方なく勝手に上がらせてもらった。


 一体どこに置いてたかと思いながら、部屋のあちこちを回る。一通り回っても無かったので、霊夢に聞いてみる。


「なあ霊夢、聞きたいことがあるんだが……」


 霊夢の反応は無い。俺が一体何をしたって言うんだ。頰をポリポリと掻いていると、空から聞き覚えのある声が聞こえてくる。


 魔理沙だ。彼女が降りて来た瞬間、腕を引っ張って霊夢のあの様子の原因を尋ねる。


「えっとだな……私たちと別れた後、おまえ一人でフランを助けに行ったんだろ? その事で不貞腐れてて……」


「よくわからないんだが……」


「つまり、貴方一人だけに無理をしてほしくないってわけよ」


 ん? どこからか聞き覚えのある声が……振り返ると、背後には紫さんが笑って此方を見ていた。驚いた俺は、つい腰を抜かして尻餅を付いてしまった。


「あの時となんら変わらないわね。それが貴方の良いところかしら」


「急に現れたらビックリするじゃないですか」


「私はそう言う人なのよ」


 溜息を吐く俺。そんな事より、霊夢の事だが……確かに、やっぱり一人で抱え込みすぎているのか。もっと友人を……仲間を頼っても良いのかな。


「悪いけど、私は貴方の隠し事はお見通しよ。安心なさい、私は口が硬いから。打ち明けるのは、自分の口から、ね」


 紫さんは扇子で口元を隠しながら、スキマの中へと消えていった。


 参ったな。紫さんに、こうも隠していた事をバラされると、困ると言うか、焦ると言うか。


 よりによって今いるメンバーは、妖夢を除いて霊夢と魔理沙。だが、彼女たちとは昔ながらの仲。打ち明けるのは、対して拒まない。


 彼女たちを信じよう。俺は妖夢を呼んで、三人を縁側に座らせた。






 まず、何から話そう。そう悩んでいると、霊夢が何かを呟く。


「この前のフランのことについて……もしかして、こいしと関係あるの?」


 霊夢がこいしの事を知っていると言う事は、魔理沙も知っている事になる。なら話は早い。妖夢は理解するのに時間がかかるかもしれないが、わかりやすく説明していけば大丈夫だろう。




 まず、こいしの症状とフランの症状は一緒で、起源も一緒である事。初めは洗脳だけだったのが、それを利用して暴走化させられてしまった。


 その暴走化の特徴——それは、いくつかある。一つ目は、青の血が混じっている事。フランの目から青の血が流れていた。そして、こいしは第三の目(サードアイ)と呼ばれるモノと自身の目から流れていた。


 何より驚いている事は、こいしと戦った時、フランの能力である"破壊"を使っていたこと。これは青の血が関係しているのかもしれない。そして、俺はそれを飲まされた。


 この話はまだ序の口。今から話す事が、皆に動揺を起こしかねない真実だ。本当に、今この話をしてもいいのか? もちろん、自分自身も信じたくないし、信じてもいない。一体どうすれば——


「幻真さん」


「お、おう。何かわからなかったか?」


 妖夢はそうじゃないと首を振る。なら、聞かれる事は一つ。


「そんなに悩まないで、一度吐き出して見ては如何ですか?」


 妖夢の鋭い目付き。彼女だけでない。霊夢と魔理沙もだ。彼女たちは何を言われようが受け止めようとしてくれている。それなのに、俺は話さない……それは相手に失礼だ。


 覚悟を決めた俺は、息を飲み込み、大きく深呼吸してから口を開いた。


「落ち着いて聞いてほしい。自分でも信じていないし、信じたくは無いんだが、俺は——造られた」


 その言葉を最後に、その場には数秒間の沈黙が流れた。誰かが口を開くまで、俺は黙って俯いていた。


 初めに口を開いたのは、魔理沙だった。


「おいおい、冗談……だよな?」


「この空気で冗談を言うと思うかしら?」


 驚きを隠せなかった魔理沙。霊夢も驚きを隠しつつも、魔理沙に言う。霊夢たちのいる方向じゃない所から、ドサッという音が聞こえる。


「そんな……嘘ですよね……」


 俺は妖夢の側に寄り添って、優しく抱き締める。耳元で囁く。


「俺も初めは驚いた。だが、現代での記憶を失ったのでは無く、元々持っていず、だから名前もわからなかった。そうでは無いのかと、俺は思う」


 次の瞬間、頰に叩かれたような痛みが走る。俺は頰を抑えながら妖夢を見る。彼女の目には、大粒の涙が溜まっていた。声を啜り、話すにも話せない状態だった。


 涙を拭った妖夢は、思いっきり地面を蹴り飛ばしてその場を去った。


 再び沈黙が流れる。何も考えられなかった。頭が真っ白だ。もう——どうでも良かった。






 その後、日が暮れるまでその状態で、魔理沙はもうおらず、霊夢も中に入って夕食の支度をしていた。俺は無言で妖怪の山へ向かった。








 〈魂魄妖夢〉



 幻真さんの頰を叩いてしまった。深く反省している。嫌われただろうか。もう会えないのだろうか。白玉楼に戻ってから、ずっと大泣きだった私を幽々子様は優しく抱き締めてくれた。


「ご飯は私が作っておくから、お風呂に行ってなさい」


 幽々子様は料理ができるのだろうか。不安と心配ながらも、頭を下げて脱衣所へと向かった。






 衣服を脱ぎ、半妖を抱き締めて浴室へと入る。一度体に湯を流し、再び半妖を抱いて浴槽へと浸かった。


 今でも信じられない。幻真さんが造られた人間だなんて。それに、あの人はそれを認めるかのような口振りだった。でも、やり過ぎたかもしれない。何もあそこまでする必要はなかった。冷静さを失ってしまっていた。


 ……彼は今、どこにいるのだろう。




 浴槽から上がって体を一通り洗い、もう一度浸かってから浴室を出た。寝巻を着用し、脱衣所から出て台所へと向かった。


 着くと、だいたい半分ほどの料理が出来上がっていた。私は驚いた。幽々子様の隠し特技だろうか。


「幽々子様、お料理変わりますので先にお召し上がりください」


「そう? ありがとうね〜。それと妖夢——」


 幽々子様は私の顔が胸に埋まるほど抱き締め、優しく呟いた。


「どんな辛い事があっても、抱え込まない事よ。思い立ったら行動しなさい。決して、後悔がないように……」


 その後、幽々子様は鼻歌を歌いながら食卓へと向かって行った。


「幻真さん……私は——」




 ——覚悟を決めました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ