第103話 暴走する閉じた恋の瞳
〈幻真〉
霊夢を背負いながら、守矢神社のある妖怪の山へと飛行する。その道中で、魔理沙は二つの質問をしてした。
「なあ、なんでそんなに慌てているんだ? どうせ霊夢の説教で終わるだろ?」
「守矢の連中は任せる。だが、その連中とは関係無い、嫌な気がしてな」
何か、ただ事じゃない出来事が起こりそうな気がする。そう、あいつら絡みの出来事が……
「そうか。それじゃあ、あともう一つ。おりんと何を話していたんだ?」
「その事か。なに、さとりさんの事を任せると伝えただけだ」
無論、それは事実。魔理沙は疑問が解決したためか、モヤモヤがスッキリした表情になっていた。だが、そんなリラックスもしてられない。この先、嫌な予感しかしないのだから。
妖怪の山を警備する白狼天狗に見つからないように登山して行く。友好関係を結べていない以上、余計な動きは見せられない。
その時、近くの草叢から音がする。警戒して楼観剣を抜いて臨戦態勢を取る。
「はあっ!」
飛んで来る刀を受け止め、そのまま流す。その正体は、以前会った事のある椛だった。
「なんだ、椛か」
「む、貴方たちは……あまり無断で足を踏み入れるのは止めておいた方がいいですよ。見つかったのが顔見しりの私で良かったですけどね」
どうやら、通報はしないみたいだ。要件を話し、椛に状況を把握してもらう。そして、なぜか彼女も付いてくることになった。
守矢神社に向かって進んでいる道中、再び会話が起こる。と言っても、俺からなのだが。
「その刀は一体?」
「ああ、コレですか。色々あって、今は此方を使ってます。それにしても、守矢の方たちに用があるとの事ですが……」
「ああ。この異変の本当の首謀者なんだよ。と言っても、俺自身は彼女たちに用は無い」
疑問符を浮かべる椛。その話を聞いていた魔理沙も同様に、首を傾げていた。俺は表情を変えず、ただ守矢神社を目指して歩き続けた。
ようやく目的地に辿り着く。だが、目を見張る光景を目の当たりにする。そこでは、見知らぬ少女と守矢の巫女である早苗が戦っていた。
状況は非常に悪い。早苗は既にボロボロで、今にでもやられてもおかしく無い。そして、最後の一撃が決まりそうになった時、何者かがその攻撃を受け止めに行った。
——椛だ。
「やめろ椛! その子は正気を持っていない! 敵う相手かわからないぞ!」
「心配しないでください。こう見えても私、あれから強くなっているんです。なので、任せてくれませんか?」
「……危険になったら下がってくれ」
彼女はそのことを承知して頷き、俺は二人の交戦を見守る事にした。
〈犬走椛〉
その少女は薄く緑がかった癖のある灰色のセミロングで、鴉羽色の帽子に薄い黄色のリボンをつけている。結び目は左前辺りだった。
上の服は黄色い生地に、二本白い線が入った緑の襟、鎖骨の間と胸元と鳩尾辺りに一つずつ付いたひし形の水色のボタン、そして黒い袖。下のスカートは、緑の生地に白線が二本入っている。
また、スカートには薄く"ラナンキュラス"というキンポウゲ科の花の柄が描かれている。
靴は黒で、紫色のハートが両足に付いている。そして、左胸に閉じた目があり、そこから二本の管が伸びていた。一本は右肩を通って左足のハートへ繋がり、もう片方は一度顔の左でハートマークを形作り、そのまま右足のハートへ繋がっていた。
しかし、彼女の瞳には光が無かった。まるで、あの時の私と同じように。
少女は無感情で弾幕を出現させる。その弾幕を、手に持つこの刀、天狗式・秋松月で斬り払う。そして、振ったと同時に弾幕が出現し、少女へとホーミングする。
「あの刀、特殊だな」
幻真さんが呟く声を耳にする。そう、この刀を振るとホーミングする弾幕が出現。この刀は、彼に頂いた特別な一品なのだから。
続いて、私が先行して地を蹴って少女に斬りかかる。しかし、その攻撃は難なく躱され、同時に出現したホーミング弾も弾幕で相殺される。操られているからって、手は抜けない。
再び距離を開け、薙ぎ払いによるホーミング弾を出現させようとした時、少女の姿がなかった。でも、不思議な事にまだここにいる気がする。砂利の中にある小石のような感覚を感じ取る。いる筈なのに、いない……もしかして——
「お、おい椛! 私たちに向けて撃ったら……!」
刀を振って出現した弾幕は、魔理沙さんたちに当たる事はなく、見えない壁のようなモノにぶつかった。その後、そこに先程の少女の姿が現れた。と言うよりは、彼女を意識したと言うべきだろうか。
攻撃をしようと刀を振りかぶった時、異変は起こった。彼女は突然苦しみ出し、左胸にある閉じた目から青い液体が流れてきた。それもただの液体ではなく、青色に染まった血液だったのだ。
同時に、彼女自身の瞳も青色に染まり、同色の液体——即ち、血液を目から流す。その直後、私は腹部に強い衝撃を覚える。更には背中に強い衝撃を受け、私は気を失った。
「椛! くっ……早苗! 俺が彼女を弱らせた直後に奇跡の力で彼女の暴走を抑えてくれ! 魔理沙は霊夢と椛を頼んだ!」
〈幻真〉
やはり嫌な予感は当たっていた。それも、とても深刻な状態で。裏組織が絡んでいる事は予想していたが、以前の椛よりも状況が悪化している。
正直、奇跡の力が通用するかはわからない。それ以前に、俺が彼女を止められるのかすら不安でもある。だが、やるしかない。
楼観剣を右手で構え、相手の様子を伺う。彼女は無表情で此方を見ていたが、気付いた時には背後にいた。
超技術——肉鎧で即座に霊力を全身に張り巡らせる。どうやら、青い炎を纏った弾幕が飛んできていたようだ。しかし、それも束の間。肉鎧が破壊され、先程の弾幕が直撃する。
なんだ、今の破壊の力は? 見た事がない力……恐らくあの力は、彼女自身の物ではない。洗脳と共に付与された特殊能力か? だとすると厄介だ。
距離を空け、再び楼観剣を構える。相手が消えたと同時に、超技術の空歩を使用する。空を歩き、空中で回転して神風によって彼女の腹部を斬り込む。
通った道には風による斬撃が発生し、飛んで来ていた弾幕を切り落とす。しかし、その直後に想定外の事態が起こった。
少女に顔を抑えられ、口移しで何かを飲まされる。一体何を飲まされた……?
「うっ……!」
「幻真さん、どうしたんですか⁉︎」
急に激しい痛みが襲い掛かり、俺は呻きながらその場に倒れ込む。その状況を打開しようと、アクセルモードを展開しようと試みるが、体が言うことを聞かない。このままでは、マズイ……
「う、あぁ……うああああ!」
必死の思いで幻力を解放する。そして、俺の目の前に一匹の龍が現れた。
幻力を根源とした龍、幻龍。彼の力を体内に取り込み、俺の右目には灰色の炎が燃え上がる。幻力によって、飲まされた物質を無効化する。と言っても、完全に無効化することはできなかった。
少女は両手を広げ、大きな球体の弾幕を出現させる。そして、それを放って急接近してくる。俺は左手で白楼剣を抜いて、弾幕を八つ裂きにする。しかし、その弾幕が個体となって俺を総攻撃する。
だが、それは効かない。幻符『幻重結界』によってそれらの弾幕は防がれる。先程飲まされたもののせいで身体が悲鳴をあげる中、俺は最後の技を撃とうと構える。
「はぁ、はぁ……」
荒い息をしながらも、狙いを定めて構える。右目の炎が強くなり、俺はスペルカードを放った。
「幻符『春幻冥』」
透明な色をした極太レーザーが少女に襲い掛かる。決して避けれることのないその技は、彼女に直撃した。
攻撃後、幻力を解いて少女に駆け寄る。見ると、洗脳は解かれていた。ダメージによる解除と、早苗による奇跡の力。何はともあれ、成功した。
恐らく、彼女が洗脳されたのはここに来る道中。裏組織の野郎共に何かされたのだろう。とにかく、この子を地霊殿に返してあげよう。さとりさんの元へ。
「幻真、その子は任せて」
「霊夢、目が覚めたか。てっきり明日まで眠り続けるのではないかと——いっでっ!」
「失礼ね。少しの休息を取れば元通りよ。そう言う事だから、気を使わないで」
結局背負ったのは魔理沙だった。まあ、あの子は霊夢たちに任せて……というか、まさか霊夢に面倒な事を押し付けられてしまったか? まあ、取り敢えず事情を聞くとするか。
「神様方?」
俺は神奈子と諏訪子の二人に話を振る。
「そこの縁側で話を聞いてもいいか?」
二人は頷く。取り敢えず、彼女たちにこの異変を起こした理由を問わないとな。一度ならず二度も起こしたんだ。それなりの反省をしてもらわなければ。
と言っても、俺は神より下の存在だ。あまり上から目線は止そう。
神様で思い出したが、ニュクス……奴はなぜあのような願望を抱くのだろうか。それは直接本人に聞かなくてはならないのだが。なんにしろ、奴の野望は止めなくてはならない。例え、この身が朽ち果てようとも。
神様二人との話は終わり、冥界に向けて飛行中。霊夢たちは無事に帰れただろうか。まあ、俺より彼女たちの方がしっかりしているから心配することでもないだろう。
そういや思ったが、俺は両腰に備えて剣を抜いているが、妖夢は片側だけに備えていたなだったな。まあ、剣士としてなのか分からないが、人それぞれだろう。
忘れていたが、止むを得ず幻力を使ってしまったんだよな。拒絶反応を起こすとか言われてたけど、今は大丈夫そうだ。だが、この先起こすかもしれない。
その恐れもあるが、今は俺の体内で幻力を使用している。洗脳されていた彼女に飲まされた物質の効果を打ち消すためにな。なんにせよ、取り除かないとマズイ。永遠亭に寄っておこうかな。
竹林の入口に降り立った俺は、鈴仙と会う。どうやら、人里で薬を売ってきた帰りらしい。ついでなので、迷わない様に彼女に案内してもらう事になった。
永琳さんに言う前に、鈴仙に幻力を使ってしまった事を告げる。案の定、こうして今は何も起こっていない事に驚いていた。向こうに着いたら直ぐ診察をするとの事。俺は承知した。
永遠亭に到着した時、あのイタズラ好きの兎、てゐが話しかけて来た。
「お師匠様なら紅魔館へ行っちゃったけど?」
「えっ? どうしてなの?」
「何やら緊急事態らしくてね。あそこの妹さんに何かあったみたいで。無理に行けとは言わないけど——」
なんだと! フランの身に……フランの身に何があったと言うんだ! 繋がる話といえば……もしかすると、あの破壊の能力!
一刻の猶予を争う。急がなくては! 何か……何か特別イヤな予感がする!




