第96話 最悪の事態
博麗神社に到着。本当に久しぶりだな、霊夢と弾幕ごっこをするのは。約数ヵ月前ぐらい……丁度アクセルモードを習得し始めた辺り以来だもんな。
それにしても、もうそんなに月日が経つのか。俺が幻想入りしてから色々な事があったけど、未だ自分の真相が掴めない。まあ、また今度考えるとするか。
「弾幕ごっこと言っても、弾幕戦闘だな。本気で来い」
「言われなくてもそのつもりよ」
ニヤリと口を動かすと同時に、霊夢はお札を投げてくる。恐らく、爆発するのだろう。すんなりと躱して真神剣を抜き、縮地で距離を縮めて斬りかかる。しかし、お祓い棒で防がれ、反動によって距離を開ける。そして、霊夢はスペルカードを取り出す。
「霊符『夢想封印』」
霊夢は光の玉をホーミングさせ、俺を叩きつけるように集めて来る。俺は以前不完全であった結界を展開させてみる。
「無符『二重結界』」
ワイヤーは出ないが、結界だけを展開させ、ホーミング弾を防ぐ。霊夢は少し表情を変え、あるモノを出現させる。
それは勾玉の形をしたモノであり、上手いこと操って俺に体当たりさせてくる。その度に、超技術の一つである肉鎧によって霊力を全身に張り巡らせ、見えない鎧を着る。
少しのダメージしか受けてない俺に違和感を覚えた霊夢は、四つの陰陽玉を一気に飛ばして来る。そして、俺はアレを出す。
「感情爆発『絶望』」
黒い鱗に大きな羽、巨大な前脚を持つ滅神龍ラグメルリアを召喚すると同時に、飛んで来ていた陰陽玉が地面に落ちて、霊夢の顔色が変わる。
ラグメルリアは暗黒の色をした瘴気を纏い、その濃度によってフィールドに立つ者や歴戦の勇士、勇者さえも吐き気を及ぼしたり、狂気に飲まれてしまう。だが、精神力の高い者は例外となる。
縁側で観戦していた魔理沙は、心配そうな表情をしている。恐らく、濃度が低いため向こうには拡散していないのだろう。その方が、ここら一帯は安全で助かるのだが。
霊夢は口元を抑え、吐き気に耐える。ラグメルリアは俺と霊夢の周りをグルグルと周り、様子を伺っている。やはり、今の霊夢の精神力ではこの濃度に耐えられないようだ。
俺は指を鳴らしてラグメルリアの姿を消す。ここら一帯の瘴気は無くなり、霊夢は正気を取り戻した。
「今のは……?」
「滅神龍ラグメルリア」
そこまで言うと、霊夢が弾幕を飛ばして来た。俺は素早く躱し、霊夢に顔を向ける。その手には、スペルカードがあった。
「夢符『封魔陣』」
霊夢は赤お札弾に加え、小弾を撃ち、ワンクッション置いて鱗弾も撃って来る。流石にこの量の弾幕を避けるのはキツイ。だが、さっきと同じで防ぐのもどうかと思う。そして、俺は解を出す。
「感情爆発『希望』」
白い鱗を持ち、足の無いワイバーンのような姿をした展望龍アルカリオスを召喚する。それと同時に強力な隕石が降り、弾幕を一掃する。霊夢は苦い表情をしていた。
そして、アルカリオスが操れる"極寒"により、周囲を凍結させる。辺り一帯は凍える程の寒さとなり、特に霊夢の格好からして耐えられない程の寒さであろう。
霊夢が震える中、俺は炎と雷が描かれたスペルカードを取り出し、唱える。
「焔雷『墳雷砲』」
炎と雷を纏った極太レーザーを掌から放出し、霊夢に飛ばす。しかし、判断を間違えた。なぜこの寒さの中、暖かいレーザーを放ったのだろうか。
「残念。夢境『二重大結界』」
霊夢は強化された結界を展開し、レーザーを防ぐ。恐らく、さっきと同じ二重結界だったら結界を突破してただろうな。この大結界でも、霊夢はキツそうだった。
「反撃開始よ。『夢想天生』」
無敵になった霊夢は再び陰陽玉を展開し、更にはお札弾ワイヤーを赤お札弾に変化させて来る。段々展開が早くなり、考える猶予を与えられなくなる。
喰らうかわからないが、超技術の一つ衝撃玉砕を使い、霊夢の体の内部に衝撃を与える。その衝撃に苦しむ霊夢。さすが防御貫通攻撃だ。
「今のは一体……」
「超技術の一つだよ。まさか今の状態の霊夢にも効くとは思わなかった」
笑いながら話す俺に、霊夢は驚きを隠せていなかった。すると、下の方から声が聞こえて来た。声の主は魔理沙だ。
「そろそろ変わってくれよ〜」
「ええ。私もちょうど疲れて来たところだったから」
霊夢は先に降りて行き、社の中へと入ってしまった。俺も地面に降り、一呼吸して次の手合わせに備えた。
俺は再び位置に着き、魔理沙と向かい合う。風が吹き荒れ、砂煙を巻き起こす。空では鳥が囀り、緊張感を出させる。魔理沙はミニ八卦炉を取り出し、俺に向ける。
「スペルカード発動。恋符『マスタースパーク』!」
ミニ八卦炉から白い極太レーザーが飛び出し、俺の目の前までやって来る。俺はほぼギリギリの所で躱し、短刀を抜いて魔理沙に斬りかかる。しかし、彼女は箒に乗って空へと逃げた。俺も飛行して、彼女を追いかける。
彼女の真上まで移動し、超技術の一つ斬脚で剣を使わず脚で斬撃を起こす。魔理沙は驚いて斬撃を避け、叫ぶ。
「今のはなんだ⁉︎」
「これも超技術さ」
そう教えた後、俺は竜巻によって舞い上がる氷が描かれたスペルカードを取り出す。
「凍風『氷獄嵐』」
急に風が巻き起こったかと思うと、直径約三メートル程の竜巻が起こり、更に氷の粒も舞い上がる。その氷の粒は鋭く尖って降り注ぎ、この竜巻に飲み込まれたら一溜まりも無いだろう。
「ぐっ、頰が……!」
「出しといてアレだが、飲み込まれたら死ぬからな」
「それを早く言えよ!」
自分は肉鎧によってこの竜巻は防げる。いざとなったら竜巻を消して突撃する。魔理沙はミニ八卦炉をこちらに向け、どうやらスペルカードを唱えるようだ。
「恋心『ダブルスパーク』!」
空を飛んでいて揺れを感知しないと思っていたが、急に視界が揺れてレーザーを避けるのに苦戦する。俺は直ぐに竜巻を消し、結界を展開する。なんとか防げて一安心しようとしたが、魔理沙の姿は前になく、背後にあった。
「空きあり! 魔砲『ファイナルスパーク』!」
肉鎧による霊力の消費が激しかったのか、このままじゃ防げない。俺は終わったと思ったが、一か八かアレをやることにした。
「幻符『幻重結界』」
言わば、幻力によって出来た結界を具現化させたのである。それ以前に幻力を開放していた。周りからは直撃したように見えただろうが、実際は防がれている。魔理沙は驚いていた。
「今のは……?」
「幻重結界……まあ、幻の結界を展開させたってところだな。さて……勝負はまだ終わっていない。幻符『春幻冥』」
俺はスペルカードを唱え、見えない何かを放つ。その見えない何かとは、一体何か。それは、マスタースパーク並みの大きさをした、終末之光線ぐらいの絶対的威力を持つレーザー。
魔理沙にはそれが見えていない。もちろん、霊夢にもだ。このままだと直撃して一溜まりも無い為、魔理沙の目の前に結界を貼り、そのレーザーを防いだ。
「な、何をしたんだ……?」
「見えないレーザーを撃った」
魔理沙は訳が分からないでいた。無理もない。幻力を解禁したのは初めてだ。俺自身も体に負担をかけすぎたのはわかっている。だから——
「お、おい! 幻真!」
そこで意識は途絶えた。
〈霧雨魔理沙〉
幻真と訳のわからない手合わせをしていたら、地面に急降下して急に倒れた。私は直ぐに駆け寄り、揺すり起こそうとするがビクともしない。それに、良く見ると吐血していた。霊夢も慌てて駆け寄ってくる。私たちは至急、永遠亭に向かった。
幻真はグッタリしていた。まるで死んだかのように。私たちは焦っていた。
「永琳はいるか⁉︎」
「どうしたの、そんなに慌てて——」
幻真の様子を見た永琳の表情が曇り始める。永琳は鈴仙を呼び、診察室まで運ばせる。私たちは容体がわかるまで、診察室の外で待っていた。
待っていると、ある者がやって来た。輝夜だ。彼女もまた、心配な表情をしていた。幻真の状態をわかっているように。
暫く口籠っていると、霊夢が話し始めた。
「……最近、無理し過ぎじゃないかしら」
一理あると私は思った。ゆっくり休んでいる日が幻真には無い。疲労なのか……それだったらまだいい。何にしろ、彼は"吐血"したのだから。
「吐血の理由ねぇ……」
輝夜も考え込む。第一、幻真については幾月経った今でも謎のまま。記憶喪失で殆どの記憶が無いらしいが、その記憶が未だ掴めずにいる。もしかしたら、元々記憶が無かったのではないか……?
私は怯える。それを心配して、霊夢が背中を揺する。
数分間静まり返っていると、一人の少女が来た。幻真の恋人、妖夢だ。
彼女もまた、表情が強張っていた。要件は誰に聞いたのか、そこがまた謎だが、恐らくどこかで誰かが見ていたのを聞いたのだろう。更に、後ろから幽々子も来ていた。あの幽々子でさえ、表情が曇っていた。なんだ? そんなに深刻なのか? 私が何したってんだ……
そして、時は来た。診察室から鈴仙が出て来て、幻真を病室に連れて行くと同時に、永琳も出てくる。私は息を飲み込んだ。
「幻真は……」
「……安心して、彼なら大丈夫。どうやら、使い慣れない力に拒絶反応を起こしたみたいなの。命に異常はないから」
崩れ落ちる私。それだけ責任感が強かった。妖夢に手を差し伸べられ、立ち上がる。
「彼は当分起きないわ。妖夢、何かあったらまた連絡するわね」
妖夢は頷く。取り敢えず一安心だ。一大事にならずに済んだからだ。
その後、輝夜は自室に戻り、妖夢と幽々子も帰って行く。霊夢に帰ろうと言われ、一緒に永遠亭を後にした。
とある異空間にて。だが、これはまた別の異空間で裂け目の入った方ではない。また別の者が所有する異空間だ。
その者は観ていた。ある者の動きを。そして、ある男の意識に直接語りかける。
『任務を遂行しろ』
監視されていた男、幻真は体を震わす。寒気と目眩が彼を襲う。幻真は暗黒の中で倒れ込み、謎の人物に言葉を吹き込まれる。それを必死に抵抗するが、監視していた者はそんな事どうでも良かった。そして、モニターが出現し、脅しをしてくる。
『次に犬走椛のようになるのはコイツだ』
そこで、幻真は分かった。裏組織の親玉は此奴だと。だが、実際その者の声しか聞こえない。彼はただ、話を聞くことしかできなかった。
『以前は妖怪の山にあった裏組織の基地。次は地底だ。そこでまたアイツと出会うだろう』
幻真は察した。アイツの存在を。
『では……』
そこで、声は聞こえなくなった。幻真は叫ぼうにも意味がなく、暗黒世界でその意識は途絶えた。
次回から地霊殿スタートです…が、主人公幻真は数話出ず、"彼女"達に前半出てもらいます。