彼との出会い《馴れ初め》は一冊の書物でした…【リムルside】
【リムル視点】
リムルが15歳の時にガルダの村に住み始めた。
そして住み始めて一月後に、のちに夫となる人間の男性と出会った。
この当時のリムルは正直、人間に対して友好的には見ていなかった。
自分達家族は静かに暮らしていたい。
自分は好きな文学を学び、沢山の書物を読みたい。ただただリムルが望んでいたのは平穏な生活でした。
しかし、人間達は、自分達が【獣人族】であると知ったり疑うと、虐げる様に自分達の平穏な暮らしを追いたてくる。
そんな人間に対して良い感情をこの当時は持っていなかった。
ガルダの麓の村に暮らし始めた頃は、何時また自分達に害が及ぶのではと怯えるように暮らしていた。
なるべく村の住人と関わらず、家に籠って本を読んだりする生活を送っていた。
そんなある日。
リムルは両親からある事を聞いた。
それは今日、商人がこの村にやって来て一冊の書物を置いて行ったそうだった。
どうしてこんな辺境に位置する村に持ってきたのだろうとリムルは不思議に思った。
その疑問を両親に尋ねてみた。
すると両親から帰ってきた答えはこうだった。
どうやらこの村には古代の時代を専門とする考古学を学んでいる人がいるかららしかった。
その人は1年程前まで帝国本土の有名な学院に通い優秀な成績を持っていたとのことだった。
(なぜそんな成績優秀な人物がここに?)
と、さらに不思議と疑問に思うリムル。その疑問は、その人間は、本土の騒がしい環境が肌に合わなかった、とのことで、故郷であるこの村に帰ってきたらしい。
ただ考古学者として優秀である事もあり、こうして発見された『古代の書物』を持って来ては解読の依頼をしてくるようだった。
今回のも古代の書物でその彼に解読依頼をするために持ってきた一冊でした。
(……古代の書物…。うぅ、興味があるわ…。私もその書物を見てみたいな…。一目でもいいから見てみたいな…)
昔の本と聞いてリムルは興味が湧いていた。
本好きであり、解読技能を持つ彼女は、一目でもいいからその『書物』に目を通してみたいと強く思うのだった。
(でも、その書物は、人間の手にあるのよね…。うぅ…)
人間に対して苦手意識が芽吹いており避ける様に暮らしていた彼女には、『書物』を持つ人間に会い『一目でいいので見せて』、なんてお願いをするのは難易度が高かった。
しかし見たい。
そうして数日間、見てみたいなぁ~とうずうずとしていた。
そんなある日。
リムルに会いたいと尋ねてきた人がいた。
その人物にリムル自身は面識はこれまでなかった。
なのにどうして会いに来たのだろうとリムルは思った。
面識のない、しかも信用のない人間に始めは会いたいとは思えなかったリムルだったが、なぜか両親が『会ってみなさい。リムルにとって必ず良いことだから』と説得する様に会うことを勧めてきたのでした。
人間に対してけっして良い感情を持っているとは言い難いはずの両親がこうまでして勧めてくるので、リムルは渋々と会うことにした。
会いに行くとその人は卓の席に付いていた。
その人はどこか緊張した表情をしているように見えた。
「…えっと、初めましてっ!ぼ、僕の名前はアルセンと言いますっ!」
リムルに気付きアルセンと名乗った男の人が挨拶をしてきた。
リムルも自分の名前を告げ返した。
多分物凄く素っ気無い態度と声色だったと思う。
「えっ、と…」
何だか言葉が詰まる目の前の人間。
リムルは目の前の人間を見る。
濃い青い髪に、どこかおろおろとしている髪と同じ青い瞳の男の人。
一目見てこの目の前の人は暴力が得意な人間と違うのが雰囲気から分かった。
戦いに向かない兎人の獣人としての危機回避能力がそう告げているようでした。
リムルは彼の――アルセンの瞳をじっと見ていた。
(うぅん…純粋な好奇心を秘めた良い瞳をしてるわ…)
その瞳はまるで自分と同じ様にとリムルは思った。
年齢は自分は一つ上の16歳であるそうでした。
「あぁ…えっと…」
言葉がさっきから詰まる彼。
どうやらあまり会話をするのが得意じゃないのね、と思い、此方から会話をリードすることにした。
何を目的に自分に会いに来たのか知らないと先に進めないからと。
「アルセンさんでしたか。今日はいったいどのような用件で私に会いに来られたのでしょうか?私の記憶が正しければ、私とアルセンさんとは初めて顔を合わせ言葉を交わすものと思うのですが?」
「あ…はいっ、僕とリムルさんがこうして話すのは初めてです。と言うより僕はこの村に帰って来て殆ど付き合いをしていないボッチなのですけどね」
あはは、と苦笑する彼。
この時リムルは気になる言葉があった。
『この村に帰って来て』
”帰って来て”、と言う事は、彼はこの村の住人であるが、村を離れていた期間があり、そして村に帰ってきたと言う事だと思った。
そして家に引き籠る様な暮らしをしていたリムルだったが、ある程度の村事情は把握していた。
そしてリムルは一つ思い出した。
そして思い出したと同時に心がワクワクと高まってくる。
目の前の少年は、どこかこの村の人間と違い理知的な面影がある。
気付いたのだが、彼が来ている服やローブはこの村の物と違い高い物だと気付いた。
そう…田舎の村でなく、都会――本土の街で売っているようなものだと。
あまり思い出したくない記憶だが、昔に住んだ経験があるのでそれが分かった。
そしてこの村の者で、ここ数年村を離れる者はある一人の人間以外いない、と。
「もしかしてですけども、アルセンさんは1年前に本土から帰ってらしたと言う方で間違いないのでしょうか?」
心臓の高鳴りを必死に隠しつつ尋ねていた。もしかしたら興奮から顔が赤くなっていたかもしれない、とあとあと恥ずかしくなるリムル。
勿論彼に好意を抱いて高鳴っているのではない。
理由はただ一つ。
彼がここ最近気になっていた『書物』を持っている人物だと分かったからだ。
リムルの確認に、アルセンは「そうです」と認めた。
この時、この瞬間にリムルの頭にあったのは、どう頼めば『書物』を見せてくれるだろうか?もしかしてここに持ってきているのではないか?と言う事でした。
それなら両親が会って良い事と言ったのにも納得がいく。
ここ数日間気になって落ち着かない様子だった。
当然両親は娘の事を誰より把握していた。
落ち着きのない娘を気遣い、彼―アルセンに何か話してこうした機会を作ってくれたのではないかと考えた。
その考えはあっていた。
彼はローブの懐から一冊の本を取り出し机に置いた。
リムルの視線はその置かれた本に向かう。
(わぁ!すごく古そうな本ねっ。…えっとタイトルは――)
「……黒の真実?」
「この本のタイトルが読めると言う事はご両親から聞いた通りのようですね」
「えっ?」
驚きと共に納得したらしい彼。
「この本のタイトルに使われている言語は数百年前に使われていたらしい古代言語を基にしているのです。当然ですが、一般の方はこの言語を見ても理解できないはずです」
「そうなのですか?」
「はい!間違いないです。実際この村や、そうですね、一番近い街のシェファードでもこれを読み解くこと難しいでしょうね!」
「そうなのですか…」
なんだか興奮した様に目をキラキラさせながら彼は言った。
リムルはその様子に引いていたが、両親がふと「似た者だな」「そうね」と言っていたのが聞こえてきた。
(えっ、私ってこんな感じになってるの?もしかしてさっきの私も?)
両親の言葉に内心落ち込むリムル。
「どうしました?」
「いえ、お気になさらずに。あははっ」
苦笑いで笑うリムル。そんなリムルに首を傾げ不思議そうなアルセン。
そんな二人の様子にリムルの両親は「あはは」と微笑み笑っていた。




