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『恩恵』…”再生”の力

「もぉ~オウマのバカぁ~、何も置いていく事ないじゃない!」

「何か見つけたのかもだけど……むぅなの、ご主人様…」


マナとカナは、自分達を置いてさっさとこれから赴く予定だった村に走り去った惶真を追い駆けつつ不満を呟いていた。

必死になってトコトコ走り追い駆ける。

2人の今の姿は幼女の状態だ。

子供の足では走っても早く走る事は出来ない。

ならば、幼女の姿から“覚醒”を使い少女の姿となれば良いのだ。“覚醒"すれば身体能力も向上する。当然走りも良くなる。

しかし、マナとカナはこの後に訪れる迷宮『ガルダ』での事を考え、少しでも魔力を温存しようと”覚醒”を控えていたのだ。

"覚醒“時には多少の魔力を消費するからだ。

しかも、2人の持つそれぞれの【固有技能】である“恩恵”と呼ばれる固有魔法を使う際には膨大な魔力を消費するのだ。


マナとカナは、息を乱しながら村の入口の前に到着した。

惶真がこの村に着いて約10分遅れで辿り着く。

ハァ、ハァ~と息を整えている時だった。


(ハァ…ん?何なの?)


カナは、突如何か違和感の様なものを感じ取った。

どうやらマナは気付いていない様だ。

カナは、マナより魔法適正が高いのである。


カナは違和感を感じた空を見上げ驚いた。それは村を覆う規模の巨大な魔方陣が形成されていたのだった。しかもその魔方陣が攻撃用の魔法陣ことにも気付いたから。


「なに…この大きな魔法?……」

「はぁ、ん?どうしたの、カナ?」

「アレを見てマナ!凄く大きな魔方陣が出来てるの、ほらっあそこに!」


カナはマナに村の空を見る様に、空に向かって指を指しながら促した。

促され見上げたマナは茫然とした。


「ん?…な、なに、あれ!?」

「多分だけど、“黒”の魔法なの……使ったのは…」

「うん。私、魔法はあまり得意じゃないけど分かるよ。あれ、オウマだよ、絶対!」

「うん、私もそう思うの」


2人が目の前で発生した事象が惶真のした事だと認識した瞬間だった。

その魔方陣から黒い何かが村目掛けて射出されたのだった。そして村の中から、恐らく村の人と思われる者達の悲鳴が響いたのだった。


その悲鳴にマナとカナは「きゃっ!?」と驚きビクッとなった。


「なによ、この…」

「ううっなの…」


しばらくして悲鳴が止んだ。それと同時に空に存在していた巨大な魔方陣も消えていた。


「…カナ」

「…マナ」


2人は御互いに見つめ合い頷くと、惶真のいるであろう場所に向かって走り出した。

走っている最中に、絶命している村の住人を尻目に。


+++++


「お願い!あなたが人間でもいいから、お母さんを助けて、お願い!」


切羽詰まった様に願いを訴えてくる黒髪にまだ幼い外見の少女。その頭には髪の色と同じ黒の兎の様な耳が存在していた。

そしてその少女の傍には大小の、恐らく石なんかをぶつけられて出来た傷を負い血を流している女性が倒れている。その女性も少女同様に色は違うが白いウサギ耳があった。少女が「お母さん」と言っているのでこの女性がこの黒ウサ少女の母と分かる。


御願いをされている当人である惶真は倒れている女性に視線を向けていた。

その視線には懐かしさと驚きを帯びていた。


(他人の空似と言う奴なのだろうな。この人、美柑さんにそっくりだ)


倒れている女性の顔を見て惶真が最初に思ったのがそれだった。

従姉であり惶真が唯一人間嫌いから外れていた女性に似通っていたのだ。


物思いに耽っていると自分を揺らす存在に意識を戻す。

黒兎の少女は惶真の上着の服を掴み必死に御願いしていた。


「お願い!あなたは助けてくれる人っ!だから、おねがい!」

「いきなり、助けてくれる人って言われても意味わからないんだが、取り敢えず服から手を離せ、馴れ馴れしいぞ」


惶真は眼の前の黒兎の少女に強めの言葉で離れるように促せた。

惶真の言葉にビクッとなった少女は惶真の服から手を離した。

手を離したが、少女は哀願する様に惶真を見つめていた。


(……助ける義理もないけど、美柑さんに似ているこの人を無視するのも気が引けるか…ん?)


助けるか否か、従姉に似通っていると言う理由だけで助けるべきか検討していた時だった。惶真の名を呼ぶ二人の少女の声が届いた。


「オウマぁ!あっ、いた!カナあそこだよ」

「えっ?あっ本当なの、御主人様ぁ!」

「んっ、やっと来たのか……まあ、丁度いいか。迷宮前に一つ試してみるか」

「えっ?…(私よりも小さい女の子が二人?)」


黒兎の少女は新たに現れた2人の少女に視線を向け驚いた。自分よりも幼いであろう外見に、いかにも旅人とは思えないドレスや奉仕服を纏っていたからだ。

マナとカナが惶真の傍に来ると、マナが代表として惶真に自分達を置いて行ったことに対する文句とこの村人虐殺と言う惨劇の経緯を問い詰めた。

惶真は簡潔に説明した。


「まあ、そんな所だ。置いていた事については特に想う事はない。俺は付いて来いと言ったんだからな。それよりもだ、一つ試したい事があるんだよ」


置いて行ったことに対して悪びれることなく、惶真はカナを呼んだ。

そして負傷している白兎の女性の傍に付いた。

カナも惶真の傍に着くと、女性に目を向け怪我をしているのに気付く。


「この人、酷い怪我してるの、…御主人様?もしかして、私が“再生”を使って治すの?」

「はっ!助けて、お願い!」

「煩いぞ、少し静かにしてろ。カナにはあとでやってもらいたい事があるからな、今は“再生”を使う必要は無いよ」


そう言った惶真は傍にいるカナの手を取った。


「え、えっ!?///」

「あぁ!…(いいなぁ、カナぁ…)」

「…むぅ」


急に手を取られたカナは頬を赤くしながら恥ずかしそうに困惑していた。

マナはそんな繋ぐ手を羨ましそうに見つめていた。

黒髪の兎少女、ヴァニラは切って捨てるような惶真に不満顔だった。

惶真はそんな三者の様子を気にせずこれから行う事に集中した。


惶真は”感覚共鳴“を発動した。

発動と共に惶真とカナの体が共鳴するかのように淡い白と黒の光を放つ。

突然の変化に驚くカナ。

不思議そうに光を見詰めるマナ。

母の心配で一杯で祈る黒兎の少女。


惶真は共鳴による“再生”を発動した。

発動と共に淡い黒白の光が、傷つき倒れている白兎の女性を包み込んでいく。


「綺麗ぇ~」

「綺麗なの~」


その光景に魅入られるマナとカナ。黒兎の少女は「母が助かる様に」と只々祈る。

そして数秒後、包まれていた光が消失した。

そこには怪我の痕もなく、元の綺麗な状態となって横になっている白兎の女性の姿だった。


「ふぅ~、もう問題はないな」

「…何をしたのか、ちゃんと教えてよね、惶真!」

「…御主人様もマナもちょっと離れておくの。2人にしてあげるの…」

「ん?…あぁ」

「うん」


惶真、マナ、カナはそっと少しその場をあけた。

そして、白兎の女性は意識を取り戻したのかゆっくりと瞼を上げていく。


「うっ、ここは?……私は、確か……はっ!あの子は!?」

「お母さぁん!うう、よかったよぉ~」

「ヴァニラ!無事、何処も怪我は無い!」

「うん。お母さんが守ってくれたから!」

「そう、よかったわ…」


泣きじゃくる黒兎少女ことヴァニラを、母である女性は優しく抱き留める。

暫く親子の抱擁は続いたのだった。


「俺達の事絶対忘れてるよな、コイツら」

「今いい所だから邪魔は駄目だよ!」

「そうなの。感動な一面なの!」

「はいはい……」


++


「その、助けて頂いたそうでありがとうございました。私はリムル・ノームと申しますわ。この子は娘のヴァニラと言います…」


落ち着いた後、白兎の女性―名前はリムルと言うらしい―は俺達の存在に気付いたのか初めは警戒した様子だったが、娘であるヴァニラから説明を受けた。

自分達を救ってくれた事、自分の怪我を治癒してくれた事等を教えられると、リムルは惶真達に頭を下げ感謝の言葉を述べた。


「気にするな。俺は試してみたいから試した。アンタ達の為にしたわけじゃないからな」

「それでもです。例えどの様な理由でありましょうが、貴方の行動が私達を救った事には変わりありませんから」

「わ、私からも、お礼を言うわ。ありがとう、お母さんを助けてくれて」

「…勝手に言ってろ」


リムルとヴァニラからの純粋な感謝から顔を背ける惶真。

そんな様子の惶真をマナはからかいの含んだ、カナは微笑ましそうな笑みを向けるのだった。


「…ふん。まあいいか。…さてっと、こっちを片付けるか」


惶真は周囲の死に絶えた村人達に視線を向けた。

他の者も惶真につられる様に視線を向ける。

虐げられた2人、その血みどろの様子にリムルは悲痛そうな表情を浮かべた。

逆にヴァニラは負の感情が入り混じった複雑そうな表情をしていた。


「どうするの、オウマ?こんな事したら問題になっちゃうよね?」


マナが惶真に困った様な顔をしながらこの後について質問する。

惶真は何でも無い様に答える。


「ん、なに、そんな事実隠してしまえば問題はない。…という事で、本命を行うか。見せてもらうぞ、カナの力をな!」

「えっ!?私の力?」

「ああ、本当の“再生”の力をな。俺が使った借物でなく本当の”恩恵“の力をだ。その為にも、まずは、”覚醒”してくれ。今のままだと能力を発揮出来ないだろうからな」

「分かったの、御主人様の言うとおりに」

「…何の話しているんだろ?(…“覚醒”ってなんだろ?)」

「んー、判らないわねぇ。何かされるようですけど…」


惶真達が何の話をしているのか分からないヴァニラとリムルの親子。

カナは惶真に言われた通り”覚醒”する為に指輪に口付けた。

すると朱色の光と共に瞬く間にカナの姿が変化し始めた。

髪型や長さに変化はないが、身体つきが変化したのだ。

ヴァニラよりも小さかった幼女の体が、150cmくらいの身長に身体つきも大人の様に凹凸のある体に変化した。

そして変化し終えた時だった。

ヴァニラとリムルの親子はそのカナの変化に二つの意味で驚いた。

1つはカナの身体が急にその姿を変化させたことだ。

だが、2人にとっての驚き具合はもう1つの方が大きかった。

それはカナの真の姿だった。

先程までのカナには普通の人間の様に見えていた。しかし、今のカナの頬には人間の敵と言われている種族の特徴と言える紋様が浮かんでおり、耳は尖ったような耳。そしての瞳の色、それは、金色の瞳だった。

それは魔人族である姿だった。


「ま、まじん、ぞく!?」

「嘘、どうして!?」


ヴァニラとリムルは驚きの声を上げた。

驚いた理由は、魔人族は人間を嫌っている。いや、魔人族以外の全てを嫌っていると言うのが他の種族の者達の見解だった。

特に人間には嫌悪を交えてすらいたはずなのだ。

だが、このカナと言う魔人族の少女、そして恐らく、そっくりな点からマナも魔人族であると理解した上で、不思議に思うのだった。

惶真、マナ、カナ。3人の間に嫌悪の感情は全くない。寧ろマナとカナからは惶真に対し好意を含んですらいるのを感じていたのだ。


疑念と魔人族である事を理解したヴァニラとリムルは若干脅えた様子だった。

だが、その2人の様子が気に入らない人物がいた。

惶真だった。

惶真は2人を不愉快そうに睨むと告げる。


「なんだ、この2人が魔人族だと知って恐怖したのか?助けられた恩も忘れていい気なもんだな?…呆れ果てる。だからお前達獣人族は他種族から迫害されるだろうな」

「そ、それは…」

「……」

「まっ、いいか。お前達の感情なんて今はどうでも良い事だしな」


そう言うと、惶真は頭を切り替えると、複雑そうに伏せ気味になっているカナの頭を優しげに撫でた。

カナも惶真に撫でられた事で笑みを浮かべる。

それを見たマナも「カナだけズルい!」と撫でるのを強要した。

惶真は苦笑した後、マナの髪も仕方なく風に撫でた。

嬉しそうに目を細めるマナだった。


その様子を2人の親子は自分達がどんな価値観で見ていたのかと、複雑そうに見ているのだった。


「さて、カナ。これから行う事を説明するぞ」

「はいなの!」

「まあ簡単に説明するとだな、俺がさっきした事の逆版だ」

「さっきしたことの?」

「そうだ。それをこの村全体に真なる“再生”を掛けるんだ」

「えぇ!む、無理だよ!いくら“覚醒”しても、私の使える“再生”--」

「だから言ったろ?俺がさっきそこの(リムル)にした事を思い出したらわかるだろ?」

「さっき、なの?」


先程とはリムルを救う為に使った技法の事である。

惶真は自身の”恩恵“である”変成“の力を共鳴させる事で、カナの”恩恵“である”再生“の一部を借り使う事が出来たのだ。

無論共鳴させた側である惶真が殆ど魔力を消費する結果だった。

今回試すのはその逆なのだ。

つまり、カナ単体では“再生”を拡大行使できない。

そこで惶真がカナと共鳴させ、自身の魔力を回す事で、能力の底上げを行うと言うものである。


先程成功したので今回も問題はなく行使できると惶真は考えていた。

そして惶真の説明で先程の感覚を思い出したのかカナも理解できたようだ。


「分かった所で始めるか!」

「はいなの!」


やる気満々なカナ。

惶真は先と違いカナの背中に右手を当てた。

若干、手を握ってもらえるかも!なんて思っていたのか残念そうだったカナだが、背中から感じる惶真の温もりを嬉しそうに感じていた。

そして惶真から膨大な魔力の共鳴が行われ自分に流れてくるのが分かった。

膨大な魔力に驚くカナ。惶真には、普通の人の器にこれ程の魔力を有しているのかと驚きで一杯だったりする。


「っ行きますなの!“再生”!!」


マナも、カナも“恩恵”に関しては惶真同様に詠唱無しで発動する事が出来る。呪文名も言う必要もない。

カナは両手を空に向けると”再生”を発動した。

すると、空に白い大きな魔方陣が展開された。そして、展開された魔法陣より、まるで光の雨が降り注いでいった。

その光の雨は絶命し倒れている住人達に降り掛かる。降り掛かった光に住人達は光に包まれていった。

そして発動して暫くすると”再生”の発動も止まった。


「うまく、いったの?御主人様?」

「あ、ああ。どうやら思い通りの展開に持って行けたようだよ…くっ!?」

「オウマ!?」

「御主人様っ!?」


フラッとした惶真にマナとカナは心配そうな声を上げる。

惶真は若干顔色も悪いように見えた。

惶真は心配させない様に気を立たせると、大丈夫と言った。


「これは魔力酔いによる症状だ。少し休めばそこそこ回復できるからな」


そう、これは魔力酔いによる症状だったのだ。

魔力酔いとは自身の魔力を著しく消費し、枯渇に近い状態になった時の事を言うのだ。

惶真予想以上の魔力をこの数時間で消費した。

初めて使った大規模の“黒”魔法。

共鳴による借り受けの仮の“再生”。

そして、共鳴時にカナに供給した魔力。

惶真の魔力量はほとんど失っていたのだった。


惶真はウエストバッグから精神回復剤を取り出すと一気に口に含み飲み干した。

飲んだ事で多少は回復できたようで顔色も微々たるものではあるが回復した。


「本当に大丈夫なの?」

「大丈夫だ、心配過ぎだ」

「オウマが無茶をし過ぎるからだよ!」

「はは、……それよりもだ。あっちを見てみる方がいいぞ。奇跡の瞬間ってやつだからな」

「えっ?…どうして?」

「…こんな事も出来るの、わたしって?」

「……奇跡、だわ」

「……ん、凄い」


惶真が指差した方、つまり先程“再生”を掛けた息絶えた住人達の方だ。

その方に視線を向けたマナ、カナ、ヴァニラ、リムルは驚愕の声で呟いていた。

何故なら、息絶えていたはずの村人達が、損傷もなく、まるで何事もなかったかのように生き返り立ち上がったのだ。

そしてその住人達はそれぞれの家へと戻っていくのだった。


「生き返ったの?そんなのありえませんわ!?」

「ああ、生き返った。ただ、生きているって言うのとはちょっと違うな」

「どう言う事、オウマ?」


死者が甦ると言う不可思議な現象に何処かおっとりとした雰囲気であるリムルが叫ぶ。

リムルの叫びを気にせず惶真は答えた。

その答えによく解らないと首を傾げるマナに惶真は告げた。


「アレは言うなれば生ける屍ってやつだな。何故ならアレには魂がないからだ。云い方を変えれば、人形と言うのかもしれんな。今のアイツ等には魂と言うものがないからな、意思と言えるものがない。だからアレラにできるのは生前していた行動だけだろうな。勿論今度死ねばその場でサヨナラだろ。強力な”恩恵“である”再生“でも死した魂までは復元出来なかったようだ。もしかしたら”魂“に関する”恩恵“があれば最強と言えるかもしれないな。ほとんど不死になれるという事だしな」


“恩恵:再生”

その魔法の本質は存在の復元と停止だ。

死の瞬間であれば、魂も含めて復元する事が可能だろう。今回は流石時間が経っていたので無理だったようだ。


所有者でないはずの惶真がカナの”恩恵・再生”をほぼ理解できていたのは感覚共有による副産物だ。


惶真の説明に所有者であるカナはフムフムと理解しようとしているようだ。因みにカナは既に少女モードから幼女の姿に戻っている。

マナは「いいなあ」と羨ましそうに呟いていた。

そして兎親子は「神様ですこの人達は」と惶真達を只々見つめるのだった。




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