純情彦星 〜The Pure heart Altair〜
練習として書きました。
恋愛のジャンルは初めてなのでどこか絶対おかしいです。
※一度短編としてあげてしまい後編がつなげられなかったので連載であげなおしました。
「人を好きになる。とは、どういう気分なのか?
好きになってしまった人はその後どうなるのか?
そんなことをここの所、この薄暗い部屋でずっと考えていた。そんな経験なんて今の今まで一度もないから、的確な答えなんて出なかった。いや、そもそもそんなものに完全な答えなどないのだろう。よくよく考えればそれは所謂『心』の問題であり、複雑単純で自分でも理解の範疇外になったりするものでそこに『他人』のなんて入れば論外も良い所だ。他人の考えていることなんて、心なんて自分には一生わからないのだから。『心』ほどこの世でメンドくさい問題はないと思う。
「愛は全てを狂わせる」とどっかで聞いたことがある。最初は機械に心が宿った映画や漫画を見た者の戯言だと思った。しかし今ではなかなかどうして的を射ている言葉だと思った。狂った人間は何をやるか全く予想がつかない。それまでの人物像を180度回転させる。
そもそもそれがドラマで見るような常識の範囲内だったら僕はまだ戯言と捉えていただろう。でも非常識で範囲外だったから僕は現実の結果として受け止めた。
僕はその時から、愛は全てを狂わせる麻薬だと認識した。普通の人には(何をもって普通とするかはこの際省く)ただ恋する惚れ薬だが心に欠陥、行き過ぎた何かを持っている人には増長させる病み毒。人それぞれが同一ではなく個人差というものがあるように、それも例外ではなかった。
人は愛するためならどこまでが許されるのか?
愛されてしまった人はどうしたらいいのか?
彼女は許されるのか?
僕はどうすればいいんだ?
昨日から続く思考は、もう少しでまとまりそうだった。
窓から差す陽光で目が覚めてからどのくらいだっただろうか。この部屋に監禁されてこの日の光は四度目になる。
四日。僕が彼女によって閉じ込められて四日経った。ここに来る前の記憶では確か7月3日。という事は今日は7日か……
変わらなくて退屈な部屋を見回す。
間取りは正方形で、六畳ほどで牢屋のように鉄格子が付いている。家具は小さい丸テーブルに布団だけ、テレビやラジオは鉄格子の外でこっちを見ている。窓は北に付いているが高くて手が届かなく、しかも鉄格子をつけている念の入れよう。
そして僕の両手両足に嵌められた手錠。
変哲もない部屋の構造。最低限の家具。不可能な脱出経路。限られた腕と脚の可動域。
完璧だ。まさに手も足も出ない。ここまでされたら世紀の大泥棒でもない凡人な学生の僕に脱出は無理だ。
携帯は彼女に取り上げられてしまったし、金で買収するにしても「みーちゃんはちょっと浪費癖があるから私が管理します♪それに私たちの未来のために貯金しようね♡」と財布を取られてしまった。
手詰まり。それどころか八方塞がりだ。僕は一生ここで縛られたままなのだろうか?
答えは、否だ。
そんな結末断じて認めない。
こんな狂気の沙汰に淘汰される筋合いはない。
どうにかしてここを出る。そしてまた自分の日常に戻る。今はそれだけでいい、それだけが全てだ。
しかしどうやって出る?
出たい。
どうやって?
もう何もない。
諦める?
否だ、出たい。
だからどうやって?
同じ思考が頭の中を駆け巡る。そうしていると聞きなれた声が聞こえてきた。
聞き慣れすぎた元、凶、の声が……
「おはよういいデート日和だね!」
身の毛がよだつような何かが歪んだものを孕んだモーニングコール。
絶対に逃がさないといった独占欲に濁った目が微笑んでくる。
その瞬間、僕は悟った。
彼女には説得や懐柔なんて通用しない。僕は一生彼女に飼われていくのだと。
そして同時にずっと堂々巡りの思考にやっと答えが出た。
いや答えならずっと前に出ていた。
ただ踏み出せなかったのだ、自分の良心が悲鳴をあげるから。
躊躇っていたのだ。社会的に外れる行為だから。
でももうこれしか無い。何かが壊れた者にとって人間社会の常識は通用しない。だから外れた行為でしか
救えないし逃れられない。
未だこちらに微笑みかけている彼女を見ながら僕は決心した。
「………」
彼女を──
「〜〜♪」
殺、す、。
そうして港くんは甘い言葉で誘惑し檻から出て油断しきった私を内心雌豚やら尻デカ女やらと罵倒しながら近くの刃物で脈を切って腹部を滅多刺しにするのね。
さすがだわ港くんそしてその後に這い寄ってくるヤンデレ達をその知略と迫真の演技で騙しまくって排除していくのね史上最強のヤンデレスレイヤーの誕生よ。バッドエンドキラーとして鬱フラグクラッシャーズの仲間入りしたほうがいいんじゃない?」
「お前は何を言っているんだ?」
いろいろ言いたいことがありまくってゲシュタルト崩壊寸前だがこの返しが一番正しいだろう。
俺、自称平々凡々高校生港 堤 防は目の前の人物、自称:超完璧超絶美少女超天才女子高生(実際その通りだから腹立つ)金 喜 莉 奏 江に導入から1650文字、原稿用紙4枚分に渡る長い独白を話の中にあった檻の中で寝起きから聞かされていた。
もはやおふざけとしては度を越しているのは言うまでもない。
しかしこいつが話したこと(当然だが)全部が本当と言うわけではない。
一人称は『俺』だし、第一四日も監禁されてない。ちゃんと昨日は自分のベッドで寝た(なぜこんなとこにいるのかは不明だが十中八九目の前のこいつのせいだろう)。
「何って今の今まで需要がなかった襲いかかってくるヤンデレ達を可哀想に思えてくるぐらいガチクズ外道まっしぐらの方法で返り討ちにする残虐非道の栄えあるヤンデレスレイヤー第一号に任命してあげたのよ」
「むしろ不名誉だよ!つーかそもそもなんだよヤンデレスレイヤーって!?」
「昨今の主人公に求められるのはとてつもないインパクトと魅力なのよ。ヤンデレの一人や二人片手間とすまし顔で殺せなきゃこの先この業界生き残れないわよ?」
「主人公のハードル高けェ!?つーかどこの業界だよ!」
そこまでハイスペックにしなければ生き残れない業界なんぞ聞いたことない。
しかし金喜莉奏江はさも当然と答えるのだった。
「web小説界に決まってるじゃない」
それを聞いて数秒傾げたがやがてその意味を理解すると固まった。冷凍室の豚肉の様に俺はカッチコッチになった。
「ま、まさか!?」
「伏線や布石は思わずそんな事すら忘れるほど目立つモノの陰にさりげなく張り置いて目立たなくするものよ」
わざわざ同じように勝手に攫って手錠を嵌めた後檻に閉じ込めると言う小説の主人公と同じ状況にしたのは!
「ザ・凡人たるあなたにこの小説の感想を聞きたかったの」
「メンドくせえええええ!!?凝り性とかそんなレベルぶっちぎってメンドくせえええええええ!!!?」
「無駄なところに莫大な時間と労力をかける事で初めて笑いは生まれるのよ」
「間違ってる!それ絶対間違ってるよ!?つーかギャグ小説じゃねーだろどーみても!!?」
主人公がヒロインを真顔でぶっ殺すなんていうギャグ小説なんてあるわけがない。そもそもホラーやサスペンスの類の内容をギャグと言ってのけるこいつの神経は甚だ間違ってる。
「さっきから活き活きしているけどもしかして自分は今輝いているとでも思ってる?」
それまでの流れをぶった切って金喜莉奏江は非常に言いにくい事を聞いてきた。
「………正直」
自然と目線が外れる。はい、自覚してます。
やはりと言うべきか彼女の目は軽蔑と侮辱と最早いろいろ最底辺の扱いをする目をしていた。
「幻滅だわ。ケツの穴から毛が一本生えてたぐらい幻滅だわ」
「なんだその微妙にわかりにくい幻滅は……」
なんとなく言いたい事はわかるが……
「あら、あなたの事よ?」
まさかの俺!?
「なんで俺のケツの穴から毛が生えてるってわかるんだよ!つーかいつ見たんだ!?俺でも知らないぞ!っていうかマジで!?」
「昨日さらうついでに後ろの方もさらおうかと思ってらまさかのまさかよ」
「なについでにとんでもねえ事しようとしてんだ!普通後ろの穴を奪うとかそれは女性にするもんだろ!」
「セクハラよ言質とったからこれを突き出されたくなかったら私の言う事を大人しく聞く事ね」
そう言ってふふん、と笑う彼女の手にはレコーダーがあった。
『普通後ろの方を奪うとかそれは女性にするもんだろ!』
「ハメられた!?うまい感じに誘導されてハメられた!!?」
邪悪な笑みで何度も何度も再生するこいつの性格は頭の良さもあって本当に腹立つ。
「ま、ケツ毛の話は冗談よ」
できればそのレコーダーも冗談にして欲しかった。………でもちょっと安心した。
「そんな事より港くん。今日は何の日か知ってるかしら?」
金喜莉奏江は茶番は終わりとでもいうのか、檻の中に入って手錠を外しているといきなりそんな事を質問してきた。
今日は七月七日。考え付くのは一つしかないが……
「七夕……だよな?一応……」
他に考え付かないのでそれにしてみたが、それを聞いた奏江は予想通りと予想外が入り混じった微妙な顔つきになった。ぶっちゃけ憐れんでる。
「港くんはいつまで小中学生レベルで今日という日を認識してるわけ?」
そう言って立ち上がるとドアの前でくるりとそのロングの髪を翻して言った。
「食べ終わったらすぐにデートに行きましょ。言ったでしょ?伏線は布石は目立つモノの陰に目立たなく張り置くってね♪」
そうウィンクして出て行く彼女は可愛らしく美しいのだろうが、今の俺は液体窒素をぶっかけられたように固まっていた。
最後の伏線が〜の話、それは今までの会話の中でもあった。それは暗に会話の中に張ったという事に他ならない。
そう考えるとまさか今の今まであのヤンデレ云々の小説すらこの瞬間の前振りだとでも言うのか!?
そのために熟睡中の俺を拉致し、長々しく話をして、
「今日は私とデートする日でしょ?忘れるなんて三歩歩いて忘れるの鳥頭以下よ。七夕なんて小中学生が騒ぐもので、大人の手前たる高校生の私たちは七夕にデートするという風情ある日を失念する君は愚かを通り越して哀れに思えてくるわ。感謝しなさい、盛大にね♪」
と遠回しに言っていたとでもいうのか!?
そこまで気づいた俺は頭を抱えて絶叫した。
「ありえねえええええええええええええ!!!?」
ここまでしてなおかつ俺がここに至るまで予測できる彼女はやはり天才なのだろう。
ただ俺が抱く感情はただただ一つだけだった。
金喜莉奏江はメンドくさい。超がめちゃくちゃ付くほど……
ここまでくればお察しの通りだと思うが今一度確認しておこう。
俺、港堤防は金喜莉奏江と付き合っている。
そこで生まれてくる疑問は『なぜ平々凡々が3回回って「平熱!」と叫ぶ俺が、超メンドくさい腹黒インテリゲスインたる金喜莉奏江と交際しているのか?』という事だろう。
そのためにちょっとキッカケと言うべき回想を挟む。
──────────
あれは何の事はない、紫陽花が咲く真っ白な日だった。
何よりもまっさらな曇りが好きな俺は午後の降水予報など知らずに手ブラで登校していた。
「いやー今日の空は天国天国〜暑すぎず寒すぎない最高の気温だわ〜」
昨今温暖化が云々で熱い日続きで来た天気に舞い上がっていた俺はどっかの歌であった上を向いて歩こうを実践していた。
当然、人がいない事をいい事にやっていたのだから曲がり角なんて気づくはずがなく──
「おおっと!?」
犬も歩けば棒に当たる。人も歩けば何かに当たる。そこで最悪なモノに当たってしまったのだった。
「ああ、いやスマン!あまりにもいい天気だったからつい……大丈夫か!?」
すかさずその場で転んだ相手に手を伸ばす。
客観的に見ていい天気かはともかく、この時の俺の対応は模範と言ってしかるべきだがこの時ばかりは相手が悪かった。
「パンツよこしなさい」
「もしもし?救急車1台大至急、頭打ったみたいで大丈夫じゃない」
手を引きポケットの携帯に電話をかける俺の動作はものすごく滑らかですばやかったことだろう。
当たった後いきなりパンツよこせなんて絶対正気じゃないから俺の判断は正しい。
「安心しなさい私は正気よ。紙オムツが切れたからあなたので代用した言ってるだけよ」
「なんで紙オムツ!?色々誤解が生まれるしそれとなんで俺の使うんだよ!」
「なんの事はないわ。ただ古き少女漫画よろしく女子生徒に当たった男子生徒がパンチラを目撃するがまさかの紙オムツだったらどんな反応するか検証したかっただけよ。それにそろそろトランクスで試したかったから都合が良かったのよ」
「いやそれ完全に当たり屋じゃねーか!?っていうか見た奴ら全員微妙な気持ちになるわ!」
これが彼女、金喜莉奏江との出会いだった。
後に彼女が我が校における裏ミス一位の大天才にして変人筆頭であることを友人から知った。
彼女の奇行は一部の学生の間では伝説とまことしやかに囁かれており、
曰く、写真部の撮影と称して(変装したらしい)裸で抱き合う所とか見えそうで見えないチラリズムの至高を体現した写真など際どいものを撮ったとか
曰く、人体模型を市販の肉で再現し入れ替えたとか(腐った臭いでやっと気づかれたらしい)
曰く、学園の不良全員をケツの穴が狙われる恐怖に陥れ(絡まれた仕返しという説が有力)全員舎弟にし裏の総番に上り詰めたとか
曰く、アルコールランプから火炎放射器を作り上げ理科の坂本のヅラを誰にも見えない死角から消毒したとか
曰く、パンツ祭りと称して老若男女問わずパンツの花吹雪を打ち上げたとか
曰く、華麗なる指捌きで校長のパソコンにアクセスし何重にも隠した秘蔵フォルダから学校のスピーカーからリアルタイムでAVの山場を流したとか(コンピューター室は阿鼻叫喚の嵐、目覚めた者もいたとか)
etc……とキリがない。もう後半なんかインテリヤクザとかクラッカーの類だ。
そんな彼女には先の出会いでおさらばしたいものだが不幸か大不幸か、あの一件からやたら絡まれるようになった。
どうやら彼女曰く、
「私の行為を目の前にして何か行動に移した変態はあなたが初めてよ。無神経なのか図太いのかスッカスカの脳足りんなのか知りたくてね」
らしい。
なんともはた迷惑な話である。
それを期に友人たちからは厄介ごとを鎮めるための生贄にされ、従順な不良たちからは尊敬と畏怖と身代わりの念を込めてアニキと言われる始末。
ここまでわずか3日の出来事である。
それからというもの金喜莉奏江に振り回される日々が続いた。
トイレで用を足していたらケツに吹き矢を刺されたあとつながっていたワイヤーでバンジー。
靴箱には開いた瞬間ロケットとねずみ花火が着火する仕組みを施されてドンパチパーティ、締めに本場の花火玉を使用。
椅子には超強力鳥とり黐もちからのいつの間にかつけられたローラーと小型ブースターの高速回転で校舎内爆走。
終いには校舎上空1000mからピンポイント寝起きスカイダイビングからの上記フルコース。
と、最初からクライマックスレベルにエスカレートしていった。絶対に殺しにきてる。
当然ある程度騒がれはしたが主犯があの金喜莉奏江と知ると何事もなかったように鎮まるのだった。挙げ句の果てには「今日の港:◯◯◯」や「港がいつくたばるか予想」とされるぐらい日常に溶け込んでいった。ぶっちゃけ転落人生である。
さすがにここまですれば退学にされてもおかしくないだろと思って彼女に聞いてみたが、どうやら彼女の家は我が校と密接な関係にあるらしくある程度自由は聞くらしい。お前は自由の意味を絶対に間違っていると言ったのはよく覚えている。世の中理不尽なものだ。
そして数日後、そこには昔の見る影もない逞しき男がいたとかいないとか。
そして自分の気持ちに自覚したのも数日後。
最初はなぜこんなにもされて俺はブチ切れないのか考えたのが始まりで、ひょっとして俺はプロのドMなのかとも思ったがどうやら本当の理由は彼女、金喜莉奏江に惹かれたのていたのだった。
いつも周りから天才ながらも奇人変人と評価を受ける彼女。そんな彼女の顔はいつも崩す事はなくいつも無表情で口が開けば毒舌の機関銃。
しかしそんな彼女は時々、ほんの一瞬だが儚い顔をする。何か諦めているような、全てにおもしろさを見出せなくて、"つまらない"、そんな顔だ。
自分のキャラじゃないと分かっているのだが、それがなぜだか酷くほっとけなくて自然と彼女の隣にいるようになった。
そして分かったことが一つ。それは俺に仕掛ける時は心なしか楽しそうなのだ。理由は分からないが(もしかしたらただのドSかもしれないが)俺がいることで彼女が楽しめるなら別に吝かじゃない。
そしていつしか彼女と一緒いたいように思ってきて、その思いがもしかしたら恋なのでは?と気づき始めたのは出会って20日後のことだった。
毎日の大事件、そして彼女との微妙な距離でのふれあい、それは20日と言うには濃密すぎて彼女を見るには十分だった。
そして雨上がりを待つ玄関で失敗するかもしれないが言ってみたのだった。
「なぁ、金喜莉」
「何かしら、港くん」
それまで互いに無言で立っていたのだがいざ切り出してみるとなぜだか緊張する。
よくよく考えれば人生初の告白なのだから当たり前なのだが。
「一つ、お前に言いたいことがあるんだ」
「奇遇ね。私もあなたに言いたいことがあるの」
意外だった。もしかしたらこちらの考えを読んで先に潰しにかかるのかと思い始めた。
依然俺たちは顔を会わせようとせず降りしきる景色を見ているようで実際虚空を見ているだけだった。
「あなたは私に言いたいことがある。私もあなたに言いたいことがある。ここは間を取って趣向を凝らして同時に言うというのはどうかしら?」
どうせ嫌だと言っても無駄なので俺はそれを了承した。同時ならちょっと心が楽なるかもしれないというのもあったが。
そして俺たちは合わせるように一息で同時に言った。
「「実はお前/あなたの事が好きかもしれない」」
その瞬間たしか雨が上がった気がする。
あと後編ちょっと書いて終了。