2 老人は話が長い。
「神…様…ですか…」
まあ、そうだろうなと思いはしていたが、大事な事なので言葉に出す。
「そうじゃ…テンプレじゃろ?」
いや、確かにテンプレだが何か違う。俺の知るテンプレなら、ここで出てくる存在は美少女か美女だ…。眉間に皺を寄せてそう思ってしまう。…いい歳した健全な成人男子なら当然だろ?…美少女を期待する時点で健全なのか疑わしいが…。
「何やら不服そうじゃが、仕方がなかろ?…まあええわい。…時に、高梨 透、お主が召喚魔法に引っ掛かったのはな…魔力を持っとるからじゃ。」
サラリと重要な語句を言う神に、
「え?…魔力?俺、魔力持ってんの…ですか?」
少しテンションを戻して聞く。…言葉が丁寧になるのは仕方ない。…相手は神だもの。…TPOは弁えている社会人だ。…死んだけど…。
「…日本人は魔力やら魔法が好きじゃのう。…じゃが、魔力は誰でも持っとるぞ?…まあ微々たるものじゃが。」
少し引き気味の神が説明してくれる。
「なら、俺じゃない可能性もあったわけか…なら何故俺なんだ?」更に疑問が生まれ口にする。…言葉使いが戻ったのは、今更に神を敬っても意味がない事に気付いたからだ。どうせなら敬うのは異世界の神にだろう。
「…お主の魔力は他の者より多く強い。…異世界でも超強力といわれるくらいにの…じゃから召喚に引っ掛かったのじゃ…」
事典に目を通し、俺の口調が戻った事を気にすること無く説明を続け、
「魔力が強いのはな…お主は魔力使っておったからじゃ…。筋肉は使うと鍛えられると同様にの…。まあ、道理じゃのう。」
その論理は理解できるが、別の事が理解できない。
「いやいや…じいさん…。さっき魔法は行使出来ない世界と言ってただろ!おかしいだろう!」
尤もな反論を告げると、神は、
「魔法と魔力は違う。…魔力を利用してイメージを具現化させたモノが魔法じゃ…。儂の世界では規制を掛けておったが、稀に具現化させる者がおる。…神さえも預かり知らぬ…正に奇跡の力じゃな…。お主もそういう側の者じゃ。」
今度は、じいさんが眉を寄せて言う。どうやら魔法が好きではないらしい。
「俺は火とか水とか出した事ないぞ?」
そんなの出せたら引き籠っている。
「お主は、魔力を使って脳のリミッターを外す事があった…。頻繁にの。…知り合いから言われたじゃろ。『緊急時や切迫した状況に置いてて頼りになるのはお前だ。』とな。」
神は事典の文字を指差し、目を離して読み上げる。…老眼か。
「それは所謂、『火事場のクソ力』とか『ゾーン』というやつだろう?それは普通に普通の人も使ってるぞ?」
「お主は魔力を使った『火事場のクソ力』や『ゾーン』という名の『無属性魔法』じゃ。普通の者の場合は 『極限状態の無意識下による普通の力』じゃ。…お主は意識的に引き出しておったから違う。別の代物じゃ。」
違いが解らないが、神がそう言うなら、そうなのだろう。…心と頭の安定の為に無理に納得する。
「さて、まだお主に伝えなければいけない事がある。」
まだ、あんのか…。起きてから死ぬまでの時間よりも滞在時間長いぞ…。
肩を落としゲンナリしながら手を差し出し続きを促す。
『…お主を召喚したのは異世界の神じゃが、何かして欲しいワケではない。…敢えて言うなら『異世界で生きて欲しい』そうじゃ。…お主は好きな様に生きよ。」
「召喚魔法を行使してまで望む事じゃないよな!」
思わず突っ込むと、手で制しながら
「神なんてモンは気紛れの極致の存在じゃ…。どうせ、『つまんない!…なんか面白い事を起こそう!』くらいのノリじゃ…。」
呆れながら言う。
「…まあ、いいか。…で、俺は身体がないワケだがそれはどうなる?」
「…意外と淡白じゃの…。身体は向こうの神が用意しておる。若くはなっとるが生前と身長等の身体的特徴は変わらん。若返ってラッキーくらいに思え。」
「…わかった。…無属性魔法は使えるのか?」
「安心せい。魔力は精神に依存しておるから使える。…他にはないかの?」
互いに淡々と会話を続ける。じいさんも疲れてきた結果だろう。
俺の後ろの方で扉が静かに出現し、じいさんがそれを指差す。
俺は振り返り、扉に向かって歩みを進めながら不意に立ち止まり、じいさんに向かって
「…チート能力の賦与は?」
最後にテンプレ宜しくな言葉を期待を込めて告げる。
「…ない。甘えんな。…行け。」
ちくしょう。…歩みを進め、扉をくぐる。
一人になった部屋で神はお茶を啜りながら
「…無属性魔法がすでにチートじゃろうが…」
そう独り愚痴た。
次回で異世界に入ります。