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召喚は突然に(仮)  作者: abeL
1/15

1 神様に会いました。

 

 ――目の前の机の向こうで髭を生やした白髪ロン毛のご老人が、何かを見ながらお茶をすすっている…

よく見ると、それは『高梨 透』と書いてある百科事典のようなぶ厚さをしており、老人は時々、自分を一瞥してはその黒い事典のページを捲っている。

老人のページを捲るこすれ音以外には無音の状況の中で居たたまれなくなり辺りを見渡すが殺風景としか言い様のない部屋だった。

…いや、部屋と言うのもおこがましい、ただの黒い空間だ。

ただひたすらに読みふけっている老人がこの空間の主だと認識する事により、ようやく部屋だと思えるくらいに…

  パタン…

しばらくすると老人は本を閉じ、俺を見据えながら口を開く。

「さて…随分と待たした様じゃな…早速じゃが…事実を伝えよう。…高梨 透…お主、死んだぞ。」

「…は?」

 老人の言葉が飲み込めずキョトンとしながら答えると、

「まあ…大抵の奴はそうじゃな…まあ見てもらう方が早いの…」

 老人は俺のリアクションに興味を示さず、おもむろに手を上げるとそこの空間が歪み何やら映像が出てくる。

 当然、目の前で手を上げられると反射で目が追うもので自然と映像にも目がいくと、

 俺がアパート先の階段下で胸を掴みながら横たわっていた

「…死因は脳挫傷。…突然の心臓発作で階段から落ちたようじゃの…」

 茫然と映像を見ている俺に老人が淡々と伝えてくれた。

「待て待て!…俺は心臓に持病なんかないぞ?無遅刻無欠勤の健康優良児だ!」

 老人に対して些か荒い口調になるが仕方ない。

「まあ…確かにお主は健康そのものじゃ。これに書いてある通りの…」

 老人は気にする事もなく事典を持ち上げ、

「まあ…警察ならそう判断するしかないじゃろうが、原因は別にある。」

 老人の言葉に聞き捨てならない語句があり、

「原因は別?…どういう事だ!…心臓発作が原因じゃないのか!」

 思わず立ち上がる俺を手で制止ながら

「落ち着け…心臓発作は別の原因に起因した事象じゃ…原因はこことは別の世界による召喚魔法にお主が引っ掛かったからじゃよ。」

 と、更に老人は言葉の爆弾を落とす。

 俺は頭を抱えながら動揺していると老人は、お茶を再び啜り、

「お主…今日はいつもと何か違っとりゃせんかったかの?」

 その言葉で少しだけ動揺を抑えると、思い出そうと記憶を辿っていく。


 確かに今日は朝から『何か』がおかしかった。

 俺―高梨 透―は、朝いつも通りの時間に起き、鏡に映る凡庸な顔を洗う。いわゆる線対象の顔立ちでイケメンと言われる部類の顔だが、世を謳歌出来る程の絶世でもない。何故なら決定的に目付きが悪い。一重まぶたで目が細く、人には『何考えてるか解らない』そんな印象を与えてしまう顔立ちに成り下がっている。プチ整形を本気で考えながら洗面所を出る。

 いつもなら卵かけごはんで済ませるはずが、目玉焼きを作りご飯と味噌汁で頂く。

 たいして大きくもないテレビから流れている朝の情報番組は余計なお世話としか言い様のない星座占いをランキング形式で紹介していた。

 最下位を見ながら

「いつも思うが最下位に『ごめんなさ~い。』とつけるなら1位には『おめでとうございます』とつけろや。」と、俺以外に誰もいないのにテレビに向かって毒づく。


 ―ドクンッ―


 心臓が高鳴るが、『テレビに向かって独り言』の気恥ずかしさであろうと、ごはんをパクつきながら、ぼんやりとテレビを見ていると

「――、では、今日の1位はおめでとうございます。ー座の貴方!ラッキーアイテムは――…」と、

「俺と同じ事を思ってたやつがクレーム入れたのかな…」

 またもや、独り言を吐き出しテレビを消して家を出る。

  今日は愛読しているラノベの新刊発売日だ。会社帰りに買って帰ろうと、仕事終わりの予定を決め、ドアの鍵を閉め歩き出すと

 ―ドクンッ―

「がっ!…はっはっはっ…」

 途端に息苦しくなり胸を押さえる。意識が朦朧となりながらも手すりを掴み、足をもつれさせながらもヨタヨタと歩くが、階段前で意識が暗転する。


「…これか…」

 思い出す事に成功し、いつの間にか出されたお茶を口に運ぶ。

「そうじゃ。あの時心臓が高鳴ったのは召喚魔法に引っ掛かったからじゃよ。」

 同じ様にお茶を飲む老人。

「いやいや!…普通、召喚と言ったら魔方陣とか出てきて…それで王様やらお姫様やらが『ようこそ.勇者よ。よく私共の召喚に応じてくれた…』的な事じゃねえの!…そもそも召喚では死なないだろ!」

 知識を総動員して一気に疑問を捲し立てる。

「は?…確かにお主がよく読んどる物語ではそうじゃな。…しかし、お主、読む本が幼すぎはせんかの?確かお主は36歳じゃろ?」

 老人は呆れ顔で事典を開きながら言うと、

「うるせえよ!…好きなんだから仕方ねえだろ!…それにその言い方だと違うのか?」

「当たり前じゃろ…お主が好きな物語はフィクション。架空の話じゃろうが…それに、魔法が行使出来ない世界で魔方陣が知覚出来る訳ないじゃろ?…更に、召喚で呼び出されるのは器じゃなくて、精神じゃ。…まあ…召喚先で元の世界の身体(うつわ)を再構築するサービスバッチリの召喚魔法もあるがの。」

 分かりやすくはないが理解出来る範囲で教えてくれる老人の言葉に

「なるほど…理解出来た。…つまり俺を呼び出そうとした奴の魔法は質の悪い召喚って事か…」こりゃ、前途多難だな…

「いや…質の悪い召喚ではないぞ?…こっちの世界で失踪事件にしてくれんだけでもある意味サービスはバッチリじゃ♪」

 俺に対するサービスじゃねえだろ…と心の中で悪態をつきながらも、どうにか納得する。

「て、事は…展開的にここは死後の世界で、あんたは…」

 老人を見上げると、

「左様。儂は神じゃ…」


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