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悪役令嬢、時々本気、のち聖女。  作者: もり


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「ごめんね、エリカさん。会議室の場所がわからないからって、一緒に行ってほしいというのはずうずうしかったみたいだ」

「い、いいえ。そのようなことはございません、ユリウス殿下。どうせついでですから」

「……ありがとう。そう言ってもらえると、僕も気を使わなくてすむよ」


 放課後、さっそく実行委員会が開かれることになって、会議室に向かう途中。

 一緒に向かうユリウス王子殿下から謝罪されて、とりあえず社交辞令として否定はしたけれどちょっと失敗。余計な一言を加えてしまったわ。

 反省するわたしにユリウス王子殿下は気にしていないとばかりに微笑んだ。


「ねえ、エリカさん。これから僕達は実行委員として一緒に行動することも多くなるんだから、堅苦しい呼び方はやめてほしいんだ。敬称はなしにして、ユリウスって呼んでくれないかな?」

「いえ、それはちょっと……」

「どうして? ここは学院で僕達はクラスメイトだよ? せっかく国を出たのに、いつまでも〝殿下〟が付きまとうのは僕としては不本意なんだ。ね?」

「……わかりました。では、お名前で呼ばせて頂きます」


 正直に言えば、わたしは初対面に近い男性にいきなり名前で呼ばれることにはちょっと抵抗があるんですが。

 殿下でさえ、それなりに親しくなるまではわたしを名前では呼ばなかったのに。

 あ、ノエル先輩は特例ね。あまりにも自然だったから。


 だけど明るい笑みを浮かべるユリウス…さんはとても人懐っこい感じがして、指摘もできない。

 同じ王子様でもヴィクトル殿下とは大違いだわ。

 殿下の笑顔は何か裏がありそうだものね。


「婚約者に会えなくて寂しい?」

「はい?」

「ヴィクトル殿下だよ。今日は欠席されていたね」

「殿下は……お忙しい方ですから、仕方ありませんわ」

「そうなんだ。僕は会えるのを期待していたんだけどな」

「まだお会いしていらっしゃらないのですか?」

「うん。叔母上――王太子妃殿下にご挨拶した時に会えるかと思ったけれど、エリカさんの言う通り忙しいんだろうね?」

「……そうですね」


 今回の旅でのことがあって、殿下と妃殿下の仲が悪くなったりしていないか実はかなり心配。

 一度殿下に訊いてみたけれど、「大丈夫だよ」としか返ってこなかったから、あまり深く踏み込むこともできなくて。

 殿下が欠席したことも相まって、色々心配になってくる。

 そこで気分を変えようと、話題を変えた。


「あの、ユリウスさんはバルエイセンでも学院に通われていたのですか?」

「ええ? 〝さん〟はいらないよ」

「では、やはりユリウス殿下と」

「ごめん。じゃあ、〝さん〟でいいよ」


 求めたものと違う返答にちょっと困惑。

 ユリウスさんはどうやらかなりのマイペースみたい。


「で、質問の件だけど、学院に通ったことはないよ。ずっと専属の教師がいたからね」

「……では今回、委員を引き受けられたのはどうしてなのですか? 慣れないことで大変でしょう?」

「まあ、面倒だとは思うけど、立候補した時に言ったように、早くこの学院に慣れたくてね。迷惑だったかな?」

「いえ……。わたしのほうこそ慣れないことでご迷惑をおかけするかもしれませんから」

「というかさ、エリカさんほどのご令嬢がどうしてこんな面倒なことを引き受けたの? 意外だな」

「わたしは……いつもたくさんの人にお世話になってばかりなので……何か少しでもできないかと思ったんです」

「へえ? さすがはアンドール侯爵令嬢、そして未来の王妃様だね。実に模範的で素晴らしいよ」

「……ありがとうございます」


 これは間違いなく馬鹿にされているわよね。

 確かにわたしは馬鹿だけれど、さすがに少しは成長しているんだから。

 この状況がおかしいことくらいはわかるわ。


「それでは、ユリウスさんはどうしてこの国に、この学院にいらっしゃったのですか?」

「もちろん、見聞を広げるためだよ」

「それはずいぶんご立派ですね」


 仕返しとばかりにちょっと嫌味っぽく返したけれど、子供っぽかったかしら。

 ユリウスさんは一瞬の間を置いて吹き出した。

 そして声を出して笑う。

 それはとても自然で屈託がないように見える。


「ごめんね、大声で笑ったりして。気分を害していないといいけど」

「どうぞお気になさらないでください」

「そう? ありがとう、エリカさん。正直、想像していた人と全然違って嬉しいよ」

「……そうですか?」

「そうだよ。まあ、とにかく改めてこれからよろしくね」


 立ち止ったユリウスさんはにっこり笑って右手を差し出した。

 反射でその手に触れたわたしの右手を、ユリウスさんはしっかり握る。


「仲直り成立。では入ろうか」


 いつの間にケンカしていたのかわからないけれど、どうやらわたしとユリウスさんは仲直りしたらしい。

 そして、わたしが何も言わないうちに会議室の扉を開けて入るよう促してくれる。


「……ありがとうございます」


 扉の上には教室名が掲げられているし、見当を付けただけかもしれないけれど、案内はいらなかったんじゃないかしら。

 会議室に入ると、すでに集まっていた人たちから視線を浴びた。

 わたしとユリウスさんが委員になったことは、もう知られていたのか驚きはないけれど興奮は伝わってくる。


 でもどうかみなさん普通に接してくださいね。そしてできれば色々と助けてください。

 その願いを込めて簡単な自己紹介。

 この日の委員会は自己紹介と委員長などの重要な役割を決めて終わった。

 文化祭までの流れや役割の説明、その他のプリントをもらって解散。

 次までに自分がどの役割を担当するか考えておかないとね。


「エリカさん、もう帰るんだよね?」

「え? ええ……」

「じゃあ、馬車寄せまで送るよ」

「いえ、それは――」

「まあまあ、遠慮しないで」


 遠慮ではなく本気でお断りしたいんですけど。

 でもこんなに注目されていては受け入れるしかないわ。

 とにかく、わたしが忘れてはいけないのが警戒心。

 そして大切なのが情報。

 よし。この際、できるだけユリウスさんから引き出せることを訊きましょう。


「ユリウスさんはどちらに滞在なされているのですか?」

「ああ、今は母方筋の……ブラディ伯爵の屋敷に滞在させてもらっているんだ。本当は寮に入りたかったんだけどね。それはさすがに無理だと言われたよ」

「そうなんですね」


 もし隣国の王子殿下が入寮するとなったら大変だものね。

 学生寮だから機密情報はないでしょうけれど、待遇とか色々と。


「寮と言えば、一般の女学生用に寮まであるって聞いてすごく驚いたよ。そもそもバルエイセンの学院では男女が一緒に学ぶことはないからね。貴族令嬢は家庭で教師について学ぶものだし、一般の女性に学院の門戸は開かれていないんだ」

「では、どうやって学ぶのですか?」

「残念ながらその機会はないね。まあ、家庭で少し必要なことを学ぶ程度かな。だからバルエイセンの一般女性の識字率はとても低い。そのことが国の発展を妨げているかもしれないね」

「まあ……」

「我が国の問題として、それを是正しなければいけないと僕は考えているんだけど、変えてはならないものもあると思うな」

「例えばどんなことを?」

「男女が一緒に学ぶことだよ。特にエリカさんのような高貴な身分の女性が学院に通うのはやめたほうがいい」

「そうでしょうか? わたしはこの学院で――」

「では、どうやって身を守るの?」

「え?」

「今、誰もいないこの場所で、エリカさんの身に何かあったとして、どうする?」

「何を言って……」

「さっきのエリカさんの質問。あれ、もう一つ、僕は大切な使命があってこの国へ来たんだ。エリカさんを誘惑するってね。だけどそんなのまどろっこしいよね」


 一瞬、聞き間違えたのかと思った。

 だけどユリウスさんの顔はとても真剣で、怖いくらいで、考える間もなくなぜかわたしは走り出した。

 それなのにすぐに追いつかれて腕を掴まれる。


「放してください! 大声を上げますよ!」

「もう上げているじゃないか。だけど、誰も来ないね?」

「いや……」

「心配しなくても、今ここで何かしようとは思わないよ。ただよく考えたほうがいい。自分の価値を。そして、自分の弱さを。僕は――いや、僕以外の誰でも、この学院内でエリカさんの名誉を傷つけることはとても簡単なんだ。今日は何もしない。だけどこの先はどうなるかな?」


 今までとは打って変わって冷たい笑みを浮かべたユリウスさんは、わたしの腕を掴んだまま放してくれない。

 怖い。本当に怖い。

 焦りばかりが募るわたしを、ユリウスさんが引き寄せる。

 はっと息を飲んだその時――。


「何してるんだ!?」


 突然聞こえた険しい声は思ってもいなかった助け。

 ユリウスさんの力が緩んだすきに、わたしは腕をふりほどいて声のした方へと駆け出した。

 



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