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悪役令嬢、時々本気、のち聖女。  作者: もり


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コレットの後悔(前編)


 緊張しながら臨んだ高等科の入学式の日。

 一人で教室に入るのは心細くて、わたしは寮で仲良くなっていたルナと廊下で立ち話をしながら、同じ新入生たちを見ていた。

 王立学院正等科からの進級組と国立学院正等科からの編入組は同じ制服を着ていてもあきらかに違う。

 地方の士族であるルナも美人だけれど、王都の貴族令嬢たちは美しさに加えてとても華やかだから。

 まあ、これはルナには内緒だけど。

 その中でも際立って目を引かれたのがアンドール侯爵令嬢のエリカさんだった。


 アンドール侯爵家はわたしでも知っているほどの名門貴族。

 住む世界が違うから、同じクラスになってもわたしとは関わることはないわ。なんて考えていたから、入学式が終わって寮に帰ったときに、ルナに警告されても笑って受け流した。

 なんでもルナが得た情報によるとエリカさんはとんでもない悪女だとか。


「――だから気をつけなさい、コレット。エリカさんは女子には意地悪に決まっているんだから。わたしたちのような地方出身者は格好の餌食よ」

「でも……そんなのまだわからないわよ。それにわたしは目立たないし大丈夫だと思うわ」

「何を呑気なことを言っているのよ。コレットは甘いわ! とにかく気をつけるのよ?」

「うん……わかった」


 ルナはちょっと思い込みが激しいタイプみたい。

 だから話し半分に聞くのがいいと思う。

 とはいえ、次から次へと聞くエリカさんの噂には驚かずにはいられなかった。


 だって、入学式当日にまるでお芝居のような求愛をしていたブランショ伯爵家のご子息を弄んでいるだけでなく、あのノエル先輩と密会していたとか。

 しかも本物の王子様――ヴィクトル王子殿下の婚約者候補でもあるのに、その殿下からのお誘いは断っただなんて。

 これはさすがに誰でも興味を引かれてしまうわよね。


 それにわたしも見てしまったから。

 研究科棟でエリカさんが研究科生らしき大人の男性と歩く姿を。


「まあ! さすがエリカさん。研究科生ともお付き合いなさっているのね!」

「あら、本当だわ! お相手は誰かしら?……あー、影になっていて見えない。でもエリカさんは嬉しそう……?」

「ルナ、そんなに窓にべったりくっつくのはちょっと……」


 窓にぺたりと手をついて覗くルナを止めつつも、つい研究科棟へと目を向ける。

 確かに、今まで見たことのないようなエリカさんの笑顔。

 あの方がエリカさんの本命? うーん、気になるわ。

 その疑問を抱えたまま部活に行って、ついみんなに話してしまったものだから、次の日にはすごい噂になってしまっていた。


(どうしよう? エリカさんに迷惑をかけてしまったわ……)


 謝るべきかと悩んで、フェリシテに相談してみる。

 フェリシテは寮生ではないけれど、爵位も何もない同じ一般生で、クラスで唯一仲良くしている子。

 昨日もエリカさんを見かけたときに一緒にいたから事情はわかってくれるはず。


「……そうねえ。でも気にしなくていいんじゃない? だって、当のエリカさんが気にしていないみたいだもの」

「そうかな……」


 フェリシテにそう言われて実はほっとしていた。

 偽善的だと自分でも思うけど強くなれない。

 周りの意見を気にして、嫌われないようにおどおどしているだけ。

 わたしもエリカさんみたいにいつも凛としていられたら……。


 フェリシテもエリカさんにすごく憧れているみたい。

 エリカさんのことをよく見ていて「エリカさんがああしたこうした」って色々とおしゃべり。

 アンドール侯爵家のことまで調べているみたいで、一度はエリカさんのお兄様がいらっしゃる研究室まで一緒に行ったのよね。

 もちろん部屋の前までで、なんだかいけないことをしているみたいで、どきどきしながら急いで帰ってきたけれど。

 男子だけでなく女子にとってもエリカさんは〝高嶺の花〟だから。


「ねえ、コレット。このあとの魔法応用学の授業だけど、予習はした? 今日は光学よね?」

「ええ。魔法光学は一番興味あることだからすごく楽しみ」

「じゃあ、光源についてはどう思う?」

「それはね……」


 好きなことになるとつい饒舌になってしまう。

 あれこれフェリシテに話しているうちに予鈴が鳴ってしまった。

 それで慌てて教室移動。

 なんとか本鈴には間に合って、フェリシテと笑いながら席に着いた。

 だけど――。


(それ……さっき話したわたしの説じゃ……?)


 授業中、サムエル先生に当てられたフェリシテが発表した内容にはちょっと驚いた。

 それで気になって、授業後フェリシテに訊いてみる。


「あ、うん。ごめんね、コレット。いきなり先生に当てられてどうしていいかわからなくて……つい、聞いたばかりのこと言っちゃった。でも、レポートに書いたわけじゃないから、いいわよね?」

「う、うん。わたしも変なこと言い出して、ごめんね」

「いいの。わたしが悪かったんだもの。じゃあ、もう気にしていない?」

「ええ」


 放課後の教室はみんなさっさと帰ってしまって人もまばら。

 その中で勇気を出してフェリシテに訊いてみたけど、ケンカにならなくて良かった。

 悪気はなかったんだから仕方ないわよね。

 それじゃあ、と鞄を持ったところで、驚くべき人に声をかけられた。


「フェリシテ・ベッソンさん? もしよければ少し話ができるかな?」

「で、殿下!?」

「うん。いきなり声をかけてごめんね。先ほど魔法光学の授業で発表していたことを詳しく訊きたくて。大丈夫かな?」

「は、はい! もちろんです!」


 まさかヴィクトル王子殿下に話しかけられるなんて!

 ううん。話しかけられているのはフェリシテだけど。

 フェリシテは顔を赤くして頷くと、わたしに向かって申し訳なさそうに微笑んだ。


「コレットはこれから部活でしょ? 遅刻するわよ?」

「あ、うん……」


 確かにわたしは作法部で、フェリシテは帰宅部だけど、それじゃあ殿下と二人きりで話をするってこと?

 それはまずいんじゃ……。

 殿下もさすがに困ったような顔をしている。


「それでは、わたし喉が渇いているので、ラウンジでお話しませんか?」

「……そうだね。フェリシテさんがそれでいいなら、そうしようか」

「はい。――じゃあ、コレット。また明日ね!」

「……また明日ね、フェリシテ」

「さようなら、コレット・クレマンさん?」

「は、はい! し、失礼します。殿下」


 殿下に視線を向けられただけでなんだか恥ずかしくて、さよならの挨拶をすると逃げるように教室を出た。

 廊下を急ぎ足で進んで、それから少し冷静になる。

 本当に二人にしてよかったのかしら? ラウンジは確かに他にも人がいるけれど、逆にそれだけ人目につくってことよね。

 大丈夫なのかしら?

 心配になったもののどうしようもないので、わたしは真っ直ぐ部活へ向かった。




お読み頂きありがとうございます。

この度、この「悪役令嬢、時々本気、のち聖女。」が主婦と生活社様の「PASH!ブックス」より書籍化されることになりました。

発売日は7月31日(金)です。

これもひとえに皆様のおかげです。ありがとうございます。

詳しくは活動報告に書かせて頂いております。

よろしくお願いいたします。


   もり

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