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悪役令嬢、時々本気、のち聖女。  作者: もり


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 翌朝、パルサットの街を発つ時には、また盛大な見送りがあった。

 手を振って笑顔で別れ、馬車に乗り込んでほっと息を吐く。

 みんなを騙している罪悪感が日に日に募っていて心が重い。

 これも偽の婚約なんて簡単に考えていた罰よね。

 だけど、くよくよしたって仕方ないもの。この役を演じる間は精いっぱい頑張るわ。


 そう決意してからの二日間はけっこう自然に振舞うことができた。

 たくさんの人達からのお祝の言葉も笑顔で受け入れられたし、殿下のあからさまな愛情表現も戸惑うことなく受け流せたもの。

 そして三日目、ようやくアーグレイ離宮に到着したわたし達は初めて目にするお城を見上げた。


「あら、思っていたよりは小綺麗ねえ」


 離宮を目にして誰よりも早く口を開いたのはユニス伯母様。

 その言葉にリザベルと顔を見合わせて小さく笑った。

 二百年程前まではこの地は国境を守る要衝だったために、アーグレイ離宮も元は砦だったものだから伯母様はもっと粗雑なお城を想像していたみたい。

 だけど国境がぐっと広がって、大陸一の強国になったのもずいぶん昔なのに。


 それでもこの地は伝統的に第一王位継承者が受け継ぐことになっているのよね。

 って、あら? それなら王太子殿下じゃない?


「エリカさん、この城の者達を紹介するよ」

「え? は、はい」


 ちょっとした疑問に捉われていたせいでぼんやりしてしまっていた。

 そんなわたしに殿下が申し訳なさそうに微笑む。


「疲れているだろうけど、あと少しだけ付き合ってくれるかな」

「もちろんです」


 わたしよりも殿下の方こそ疲れているんじゃないかしら。

 ご領地のモットベルに入ってからは殿下の人気は絶大で、アーグレイ離宮までの沿道には出迎えの人達がたくさん出ていたもの。

 それで殿下も専用の馬車からわざわざ馬に乗り換えて、頭を下げる人達にお姿を見せることで応えていたみたい。

 馬車の中まで聞こえてくる歓声で、殿下がどれほど慕われているのかがよくわかったわ。


「殿下もお疲れでしょう? わたしは大丈夫ですから、どうかご自分のことをお考えになって無理をなさらないで下さい」

「……うん、そうだね。ありがとう」


 励ましにもならない言葉だけれど、殿下は穏やかに微笑んで応えてくれたから、気持ちだけは伝わったみたい。

 それでも殿下は疲れを感じさせない朗らかな声で家令のブルーノを紹介してくれた。

 そしてブルーノからメイド頭などの主だった使用人の紹介が続く。

 これはわたしがただのお客様ではなく、殿下の婚約者だから。


 お母様を真似て未来の女主人らしく受け答えをして、ようやく部屋に通された時には立っていられないほどに疲れていた。

 本番はこれからなのになんて情けないの。

 出発は三日後で、そこからは侍女もいない生活が始まるのよ。自分のことは自分でしないといけないんだから。

 でもまずは、侍女達にどう説明して協力してもらうかよね。



 * * *



「絶対に無茶はしないで。殿下達のおっしゃる通りにするのよ」


 出発間際のリザベルの言葉に頷いて、強く握られた手を離して別れたのは今朝のこと。

 だけどもうずっと前のことに思えるのが不思議だわ。

 リザベルがいないのはすごく心細いけれど、コレットさんが故郷に近づくごとに馬車の中からあれこれ説明してくれてずいぶん気が紛れた。


 そして到着したクラエイの村は想像していたよりも賑やかでびっくり。

 わたし達は殿下の一行ではなく、コレットさんの友人が護衛を連れて遊びに来たという設定だから大々的な出迎えはない。

 だけどやっぱり村の人達は騎士や馬車を家から出て物珍しそうに見ている。

 そしてコレットさんのご自宅前に馬車が止まると、ご家族みんなで出迎えてくれた。


「初めまして、エリカ…アジャーニと申します。これからしばらくお世話になります。どうぞよろしくお願いいたします」

「いやいや、エリカさん。そんなに堅苦しくしないで下さい。コレットをここまで送って下さって、本当に感謝しております。助かりました。何のもてなしもできませんが、そのぶん気を使わずに私達を家族だと思って過ごして下さい。もちろんお兄さんも」

「ありがとうございます。私のことはどうぞレオンスと呼んで下さい。妹共々お世話になります」


 コレットさんのお父様の気取らない温かい言葉が嬉しい。

 本当の身分を隠したままなのは失礼だけれど、こんな大家族の一員にわずかの時間でもなれるのはわくわくするわ。

 まあ、しれっと挨拶しているお兄様にはちょっと腹が立つけれど。


 お兄様はわたしが森へ行こうとしていることは知らされていなかったみたいで、離宮では猛反対されたのよね。

 殿下は「レオンスを説得しないと森へは行けないね」なんて爽やかに笑うだけ。

 でもレオンスお兄様は障害にもならなかったわ。逆ギレからの泣き落としで結局許してくれたもの。


 コレットさんのご家族はお父様とお母様、弟さんが二人、妹さんが三人、そして一歳の弟さんと大人数で、夕食はびっくりするくらい賑やかで楽しかった。

 お兄様も馴染みすぎるくらい馴染んでいたし。

 ちなみにわたし達の護衛騎士に扮した殿下は村の旅亭に他の騎士二人と宿泊。

 明日はコレットさんのお父様から森について話を聞くことになっているのよね。


 ――さてと。

 一人で寝衣に着替えてベッドに入り、ちょっとした達成感を味わう。

 今日一日、自分のことは自分で全部できたわ。

 だから明日からもきっと大丈夫。




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