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悪役令嬢、時々本気、のち聖女。  作者: もり


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「ダメよ。それは絶対にダメ。いくらなんでも賛成できないわ」


 昼食後、いつものラウンジではなく自習室に入って、リザベルにわたしの計画を打ち明けると返ってきた反対表明。

 だけどこれは想定内だわ。


「別に、最後まで付き合ってほしいと言っているわけじゃないのよ? ただ一緒に離宮までは行って口裏を合わせてほしいだけなの」

「それはわかっているわよ。でもそんなことを問題にしているんじゃないの。エリカが森へ行こうとしていることが問題なのよ。そんな危険なことに協力なんてできないわ」


 今までにないリザベルの厳しい口調につい怯んでしまう。

 ここで弱気になってはダメなのに。協力は無理でもちゃんと理解してもらわないと。

 だからぐっと両手を握りしめて、リザベルに視線を戻す。


「何日も色々調べて考え出した結論なの。リザベルも一緒にコレットさんから聞いたでしょう? 採掘師になりたい人達が村にはよくやって来るって。その人達を無下に追い払ったりはしないで、適性検査して合格すれば簡単な採掘から始めさせるって」

「それで、エリカは採掘師を目指すつもりなの? アンドール侯爵令嬢のあなたが? もちろん採掘師を馬鹿にしているわけじゃないのよ。ただエリカには無理ってだけ」

「どうして? 採掘師にとって一番大切な光魔法を扱えるのよ? サムエル先生のお陰で他の魔法だって簡単なものは扱えるようになったわ。炎魔法はできないけど、森では必要ないもの」

「でもコレットさんが言っていたわよね。女性の採掘師はいないって。コレットさんも本当はなりたかったけれど、お父様に反対されたって。光魔法も扱えるのに。それがどういうことかわかる? それに離宮からはどうやって行くつもりなの? エリカ一人じゃ自分の髪だって結えないじゃない」

「そんなこと……パーティーに行くわけじゃないもの。体育の時のように一本の三つ編みにすればいいのよ。それくらいなら自分でできるわ」

「あら、今のはものの例えよ。そもそもお金はどうするつもり?」

「……お金?」

「そうよ。だけどその反応を見るところ、お金なんて持っていないどころか考えてもいなかったみたいね。それで旅なんてできるわけがないじゃない。内緒なんだから、ご両親に用意して頂くわけにもいかないでしょう?」

「それは……宝石を売れば……」

「どこに? どのお店で宝石を買い取ってくれるかわかるの? たとえお店を見つけて持ち込んだとしても、買い叩かれるのがおちよ。エリカは一般社会での常識がないんだから」

「そんな……」


 何もそこまで言わなくてもいいのに。

 だけど、そこまで言わせているのはわたしのせい。

 もっとわたしがしっかりしていれば、リザベルだって少しは協力してくれようとしたかもしれない。


「確かに、わたしの考えは甘いし、馬鹿だと思うわ。それでも、わたしにできることはこれしかないの。だから諦めない」

「エリカが頑張るのは自由よ。でもね、それでみんなにどれだけ心配と迷惑をかけると思うの? そんなのギデオン様だって望んでいらっしゃらないわ。エリカがしようとしていることは、ただの自己満足で我が儘よ」


 まっすぐわたしに向けられたリザベルの言葉が胸に刺さる。

 その全てが正論で何も言い返せない。

 それでも、このまま日々を無為に過ごすなんてできないのに。どうしてわかってくれないの?


「リザベルは……好きな人がいないから、大切な人が死に直面していないから、そんなことが言えるんだわ。頭も良くて何でも知っていて、いつも冷静なリザベルにわたしの気持ちなんてわからないのよ。もうわかってほしいとも思わない。だから相談もしないわ。わたしはわたしで考えて行動する。たとえ、我が儘だって言われてもね!」

「――エリカ!」


 こんなことが言いたかったわけじゃないのに。

 溢れる感情を抑えることができなくて、自習室を出て行こうとしたわたしの腕をリザベルが掴んで止める。

 何もかもに否定して反対するリザベルに腹を立てているのに、こうして引き止められるとどこかでほっとしている自分が情けないわ。


「何?」


 それなのにこんな冷たい言い方をしてしまうなんて。

 自分の態度に辟易しながら、それでもつんと澄ましたままリザベルを見つめる。


「わたしはエリカの計画は無謀だと思うし、今も反対よ」

「それなら――」

「でも、その計画にはわたしよりももっと重要な協力者が必要でしょう? その方をエリカが説得できたなら、わたしも少しは安心できるし協力するわ」


 確かにリザベルの言う通りだわ。

 一番重要な協力者――殿下への説得を後回しにしたのは、自信がなかったから。

 その気持ちをしっかりリザベルには見透かされていたみたい。


「……わかったわ」


 たとえ一人で森まで行くことになっても諦めるつもりはないもの。

 それにコレットさんは驚きながらも了承してくれたし、お父様にも確認するべきことはちゃんとした。

 だから大丈夫。きっと納得してもらえる。

 この計画は殿下にだって好都合のはずだから。


 殿下とは数日前にお見舞いのお礼を言って以来会話はなかったけれど、放課後に時間を頂けるようにお願いするとすぐに了承してもらえた。

 なぜかマティアスも同席すると言うので、リザベルにもお願いして。

 こういうことは公明正大にしないと。


「――それで、相談って何かな?」


 いつもの爽やかな笑みを浮かべながらも、殿下の声は皮肉げに聞こえる。

 今日は自習室ではなく空き教室を利用しているから、会話ばかりか姿も人目にはつかないのに、三人の視線が自分に向けられているとなかなか言い出せない。


「その……先日の殿下のお申し出をお受けしようかと思いまして……」

「先日の申し出って?」


 覚悟を決めて口にした言葉も殿下には通じない。

 いいえ。本当はわかっているのに意地悪をしているだけに決まってるわ。

 それにいつもなら助けてくれるリザベルも沈黙したまま。

 でも当然よね。自分一人で説得しないと意味がないもの。


「その、婚約のお話です。殿下とわたしの」

「ああ、あれね。でも、恋も愛も大切にしたいんじゃなかった? それとも考えを変えたの?」

「い、いいえ。考えは変えていません。でも、必要なことですから」

「……へえ?」


 そうよ。これは愛のためだもの。

 ギデオン様のためなら、わたしは命だって惜しくないんだから。

 もちろんリザベルに言われなくたって、ギデオン様がそんなことを望まないことも家族を悲しませることもわかっているわ。 

 だからこそ、みんなの協力が必要なのよ。


「先日、殿下は国政のためにわたしとの婚約が必要だとおっしゃいました。そして父も本音では望んでいるようです。それでわたしも考えて、殿下がわたしの名前を必要とされるのなら、お貸ししようと思ったんです」

「貸す?」

「ええ。他に適任者がいないから、殿下はわたしで妥協なされるのでしょう? ですから、卒業までには状況を改善して、わたし達は適当な言い訳を作り上げて解消すればいいのではないでしょうか」

「……なるほどね。それで交換条件は?」

「え?」

「今回の婚約劇を演じるにあたって、条件があるんだろう?」


 色々と考えて出したわたしの言葉から、殿下はあっさり本音を読み取ってしまった。

 何だか悔しいけれど、手間が省けたと思えばいいわ。


「では、はっきり申します。もうすぐ始まる長期休暇の間、殿下のご領地――モットベルにある離宮に滞在させて頂きたいのです」

「アーグレイ離宮に?」

「はい」

「……誰と過ごすつもりか、聞いてもいいかな?」

「それは……」


 まさかそんなにはっきり訊かれるとは思っていなくてびっくり。

 ついリザベルに目をやって、慌てて逸らす。

 ここでリザベルを頼ってしまうなんて本当に馬鹿。


「あの、誰とというわけではなく、コレットさんが里帰りをされるそうですので、離宮までご一緒できればと思って……」

「ああ、彼女の故郷クラエイはアーグレイ離宮とわずかの距離だったね。それで、暗黒の森まで行くつもりなの? 無謀だな」


 我ながら上手く答えられたと思ったのに、どうしてわかったのかしら。また顔に出ていた?

 内心ではどきどきしながら笑顔で誤魔化しを試みる。


「な、何のことだかさっぱり……」

「――お前、馬鹿だろ?」


 はい? 何なの、急に。

 珍しく今まで黙っていたマティアスが口を開いたと思ったら、また馬鹿って言うなんて!


「ちょっと、馬鹿って失礼ね! そういうことは思ってても言わないのが礼儀でしょ!」

「お前は言わなきゃわからないだろ? 馬鹿なんだから」


 怒りのままにマティアスに反論するとさらに腹立つ言葉が返ってきた。

 馬鹿ってそんなに連呼しなくてもいいのに!


「わかっています! もうずっと前から!」

「わかってたら森に行くなんて馬鹿なことは考えねえよ」

「たとえ馬鹿でも光魔法は扱えるんです! 〝レンブル″だって、〝ルーベント″だって!」

「へえ。それはすごいね」

「エリカは補習を頑張っていたものね」


 どうだ! とばかりに胸を張って言うと、殿下はちょっと感心したようで、リザベルはわたしの努力を認めてくれた。

 えへへ。〝ルーベント″はこの学院の生徒でも数人しか扱えないって、サムエル先生はおっしゃっていたものね。

 それなのに、マティアスは大きく鼻を鳴らした。

 なんてお行儀の悪い態度かしら。


「だからお前は馬鹿なんだよ。たとえ〝ルーベント″が扱えたって、何にもならないんだから」

「あら、ご自分が〝ルーベント″を扱えないからって嫉妬ですか? お得意の炎魔法も森では無意味ですものね。でもお気になさる必要はありませんわ。この学院の生徒で〝ルーベント″が扱えるのは、殿下と、ノエル先輩と、まだわたしだけなんですから」


 ふふん、と鼻高々に告げると、マティアスの顔色がわずかに変わった。

 ひょっとして、気にしてた? 

 と思った瞬間――。


「うるさい、ブス!」


 ブ、ブス? 

 ブスって、わたしのこと?


 ああ、そんな……。せっかく少しは自信を持てるようになったのに。

 なんだかめまいがするわ。

 次代のブリュノー公爵閣下が、か弱き乙女に向かってブスって言うなんて!




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