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 次の日は案の定、朝から殿下とフェリシテさんの話題で持ちきりだった。

 だけど誰も本人達には直接訊ねたりしないみたいで、推測ばかりが流れてる。

 フェリシテさんが告白をしたとか、殿下が断り切れなかったとか、二人は付き合い始めたとか。

 普通にただクラスメイトとしてお茶を飲んでいたって選択はないのかしら。

 まあ、仕方ないのかも。みんなお年頃だから。


「ずいぶん荷物が多いのね?」

「ええ。ギデオン様に会いに行くってお母様に伝えたら、お土産にしなさいって、あれこれ持たされたの。昔はよく我が家に遊びにいらしてたから懐かしいみたい」


 この前のお兄様の時より多いんだからおかしいわよね。

 それに『また遊びにいらっしゃい』って言葉は絶対に伝えるわ。


「ところであのね、リザベル……お願いがあるの」

「何かしら?」

「ギデオン様はとっても素敵な人だけど、好きにならないでね? リザベルがライバルだなんてつらいから」


 そう言うと、リザベルは吹き出した。

 笑いごとじゃなく真剣なのに。

 もちろん自分がどんなにマヌケなことを言ってるのかはわかっているけどね。


「大丈夫よ、エリカ。安心して」


 楽しそうに笑うリザベルと一緒にわたしも笑う。

 だけど恋心ばかりは、自分ではどうにもならないから。


 そんな心配をしたけれど、どうやら余計なことだったみたい。

 ギデオン様に会ってもリザベルの瞳に星は輝かなかったし、ギデオン様も同じ。

 ほっとしつつも、わたしを見るギデオン様の瞳にも星はなくてがっかり。

 でも再会したばかりだもの。諦めないわ。

 二人の紹介が終わると、お母様から持たされたお土産をあれやこれやと袋から取り出して渡した。


「こんなに申し訳ないな。夫人には後でお礼の手紙を書くけど、エリカちゃんからも僕がとても感謝していたと伝えてもらえるかな?」

「はい、もちろんです。ただ、あまり気になさらないで下さいね。ジェラールお兄様の分もちゃんとこちらにありますから」


 ついでだから気にしないでと暗に伝えると、ギデオン様は微笑んでくれた。

 もちろんお兄様がついでなんだけど。

 それからは研究について簡単に教えてもらったりして辞去した。名残惜しいけど長居してこれ以上お邪魔するわけにはいかないもの。


「魔法石って光を灯したり、燃料になるくらいしか知らなかったけど、色々と使い道があるのねえ」

「ええ、わたしも最近まで全然知らなかったの。正直に言えば興味もなかったし」


 お兄様の研究室にもちょっとだけ寄ってその帰り、リザベルとのおしゃべりは魔法石について。

 魔法石があんなに可能性を秘めているなんて、思ってもみなかったわ。


「じゃあ、エリカ。また明日ね」

「ええ。今日は付き合ってくれて、ありがとう」

「どうってことないわよ。じゃあね」

「さようなら」


 部活に寄るリザベルと別れて馬車寄せに向かう。

 だけど、ふと明日提出の課題を机に忘れていたことを思い出す。

 大きくため息を吐いて引き返し、教室に到着。すると教室内から言い争うような声が聞こえた。

 入るのがためらわれて、思わずその場で立ち聞き。

 どうやら争っているわけじゃなくて、一方的に責めているみたい。


「だからどうして昨日、殿下と一緒にいたのか説明しなさいよ!」

「……」

「どうせ、あなたから誘ったんでしょ!? 卑しいわね!」

「違います! で、殿下から……」

「嘘おっしゃい! じゃあ、何のご用だったの?」

「それは……言えません」

「なんですって!?」


 こ、怖い。どうやら昨日のことでフェリシテさんが問い詰められているみたい。

 相手はたぶん……ロレーヌさんと仲が良いデボラさんね。

 士族の彼女とは正等科で同じクラスになったこともあったはずだけど、こんなに過激な人だとは知らなかったわ。

 フェリシテさん、大丈夫かしら? まさか多勢に無勢? 助けに入るべき? でも怖すぎる!


 わたしがうだうだ悩んでいるうちに、デボラさんのいっそう甲高い声が聞こえて、どんっと大きな音がした。

 考える間もなくドアを開けて入ると、フェリシテさんは不安定な体勢で壁に背中を預けていた。

 そんな彼女を少し離れた位置から取り囲むようにデボラさんと他の三人が立っている。


「何しているの!?」


 数歩進み出て間に割って入るように立ち、デボラさん達に目を向ける。

 暴力反対! そんなもので解決しようとするなんて最低の行為よ!

 つり目がちな奥二重のわたしが睨むと怖いのはちゃんと自覚しているわ。

 わずかに後ずさったデボラさん達以外にはもう教室には誰もいない。


「大丈夫?」

「は、はい。大丈夫です」


 振り返ってフェリシテさんを見ると、顔色は悪いものの怪我はなさそうだった。

 ほっと息を吐いてフェリシテさんへと近づく。

 首元に小さなペンダントが見えるのは勢いよく壁にぶつかったせいかもしれない。校則では禁止されていないけれど、みんな大抵は制服の下に着けているものね。


「エリカさん! どうしてそんな子を庇うのですか!?」

「どうしてって……」


 理不尽な怒りを一方的に向けているだけだからよ。

 だけど勢いに任せて割り込んだものの、冷静になると緊張して上手く言葉が出てこない。

 こんな場面は苦手なのよ。


「エリカさんは腹が立たないんですか? 殿下の第一のお妃候補とされているのに!」

「まさか! それは誤解よ! わたしが殿下のお妃様だなんて恐れ多いもの。あり得ません」

「そのようにご謙遜されなくても。あんなに素敵な方のお妃候補になれるなんて、羨ましいですわ」

「だから、それはあり得ませんの。むしろお断り。お妃様なんて、絶対にいや!」


 わたしの夢は田舎の小さな家で、旦那様と仲睦まじく暮らすこと。殿下となんて、いらない苦労するばかりだもの。殿下がたとえわたし好みの方だったとしても、ギデオン様という大切な心の恋人がいなくても、絶対無理よ。


 って、あら? ちょっと本音を出し過ぎてしまったかしら。あまりにしつこいから、過剰反応してしまったわ。

 みんなが信じられないとてもいうように驚いた顔をしていることに気付いた時、いきなりドアが開いて、香司のルイザ先生が入って来た。

 選択科目の香学をわたしは受講していないからルイザ先生のことはよくは知らない。

 その先生の後ろにはフェリシテさんとよく一緒にいる子が心配そうに覗いていた。

 確かコレットさんだったかしら? どこにいるのかと思ったけど、先生を呼びに行ってたのね。


「あなた達、何をしているの!? アンドールさん、答えなさい!」

「はい?」


 え? わたし? あら?

 そう言えばこの立ち位置は確かにわたしが主導者っぽいような?

 背後に四人を従えて、フェリシテさんを追い詰めるわたし。

 間違いない。先生は誤解しているわ。


「違います、先生。私は――」

「何が違うのですか! フェリシテさんが大変だと聞いて駆けつけてみれば、エリカ・アンドールさん、あなたがフェリシテさんに危害を加えていたのね?」


 何なの、この状況? いくらなんでも酷過ぎるわ。

 振り返って四人を見ても目を逸らされるだけで何も言わない。

 せめてフェリシテさんが否定してくれればと向き直っても、彼女まで目を逸らしてしまった。

 ひょっとして、怖くて口がきけないの? それでも頑張ってくれないと。


「フェリシテさん?」

「アンドールさん! これ以上その子を脅すのは止めなさい!」


 はあ? 何がどう脅したの? 思いこんでちっとも話が通じないルイザ先生相手にどうしろっていうの?

 このままだと、わたしが首謀者になってしまう。

 先生を呼んで来た子も何も言わずに怯えてる。

 静まり返った教室の中で、先生の苛立ちが大きく膨らんで、わたしを見据えた目がさらに厳しく細められた。


「あなたからはきちんと事情を聞かなければいけないようね。今から教務室へいらっしゃい」


 ありえないこの状況に、心臓が痛いくらいに速く打っている。

 どうしよう、どうすればいいの!?




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 香司のルイザ先生が入って来た。 講師では? というか誤字報告受け付けないんだな。 完結したからもう良いか、って事?
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