表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢、時々本気、のち聖女。  作者: もり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

119/124

114

 

 翌日、朝早くに村を出発したわたしたちは、かなりの強行軍で完全に日が落ちる前にガイナの街へ到着することができた。

 そして、そこで昨日からのふわふわ浮かれ気分に冷水を浴びせられるような知らせを受けた。


「謀反!?」

「安心していいよ、エリカさん。少々大げさな言い方になってしまったけれど、彼らの馬鹿な目論見はすぐに失敗に終わったから。そもそもこれは予想されていたことなんだ。それが少し早まっただけだよ。陛下が臥せっておられるのも彼らを欺くためだったしね」

「それがこうもまんまと引っかかるとはな。どうやら王太子殿下の退位の話が漏れたらしい。このままヴィクトル殿下が太子の位に就くとなると妃殿下派としては今までのようにはいかなくなる。それでヴィクトル殿下が留守にしている今だと思ったんだろう。しかし、まさか陛下のご寝所に兵を引き入れようとするとは、馬鹿にもほどがある」


 使者が退室するとすぐに呼ばれて告げられた話。

 王都から先ほど着いた早馬は、わたしたちを歓迎する騒ぎに何事かと注意を向けたおかげで危うく行違いにならずにすんだらしい。

 早馬と聞いた時点で嫌な予感はしていたけれど、まさか謀反だなんて。

 だけど怯えて震えている場合じゃない。


「……怪我人はいるのですか?」

「ああ、多少はね。近衛騎士が数名と驚いて逃げようとした官僚が数名、また妃殿下派の者たちの私兵が多数。今のところ死者の報告は聞いていない。ブリュノー公爵やアンドール侯爵の迅速な対応のおかげで、被害は最小限に抑えられたようだよ」

「そうですか……」


 そこでほっと息を吐いて、ふと思い当たる。

 思わず今まで黙っていたマティアスに視線を向けると、気付いたマティアスが肯定するように頷いた。


「俺たちが急きょ呼び戻されたのはそのためだろう。自棄を起こした奴ってのは、何をするかわからないからな。だが、俺は一度屋敷に戻って出かける旨は伝えているし、おま…ジェラール殿たちはトムだったかが伝えているだろうから、大丈夫だろう? 心配はかけているとは思うが」


 いつものように「お前」って言いかけて、お兄様たちがいることに気付いて言い直したマティアスがちょっとおかしい。

 そんなことに笑っている場合じゃないけれど。


「両親へは昨日、お兄様と一緒に手紙を出しましたので、明後日には届くはずです。ですからひとまずは安心してくれるでしょう」

「まあ、それよりも噂のほうが先に届くだろうけどね」


 くすりと笑って付け加えたジェラールお兄様の言葉に、その場が和む。

 どうして噂って本当に風よりも早いのかしら。

 それから少しだけお茶を飲んで休憩と取ると、これからのことをみんなで話し合った。

 内容は難しいことばかりだったけれど、わたしにはもう関係ないなんて思わない。

 とにかく必死に耳を傾けて理解する。


 時間をそれほど空けずに到着した次の使者から報告されたことによると、今回のことは予想されていたことだからか、前もって決めてあった通りに事は進められているみたい。

 ただ想定外の放火事件については、ユリウスさんが供述したことも合わせて、もう一度詳しく話し合いがなされた。

 その結果、フェリシテさんは放火教唆の共犯として手配されることになった。

 ユリウスさんはお母様の身分も低く、三番目の無用の王子として色々と葛藤があったみたい。

 二人には同情するべきじゃないけれど、やっぱり悲しくて悔しい。


「エリカさん、大丈夫?」


 わたしの情けない気持ちが顔に表れていたのかもしれない。

 殿下に心配そうに問いかけられて、はっと顔を上げれば、みんながわたしを見ていた。

 慌てて笑顔で取り繕う。


「はい、大丈夫です。ちょっと難しい内容もありましたが、ちゃんと理解できましたから」

「そうか……。でも、まだ無理しなくていいからね」

「そうだぞ、エリカ。お前は頑張りすぎるところがあるからな」

「ああ、そういえばそうだよね。昔、母さんがエリカに――」

「ジェラールお兄様、昔話はやめてください!」

「ええ? おもしろいのに」

「なおさらダメです!」


 だからどうして身内って、小さいころの恥ずかしい話を披露したがるのかしら。

 殿下だってギデオン様だっているのに。

 でもまあ、恥ずかしい思い出話は避けられたし、みんな笑っているからいいわ。


 みんなの笑顔を見ていると、ふとギデオン様と目が合ってしまった。

 さらに優しい笑顔を向けられて、わたしも微笑み返す。

 まさかこんなに穏やかな気持ちでギデオン様の笑顔を受け止めることができるなんて。愛って不思議。


 そう思うと胸がもぞもぞとして、ちらりと殿下に視線を向けた。

 するとばっちり目が合ってしまって、慌てて殿下から目を逸らす。

 ああ、どうしよう。失敗してしまったわ。

 だって昨日のことを思い出してしまったんだもの。

 でも今のは失礼だったかなと、もう一度殿下に視線を向けると爽やかな笑顔が返ってきた。

 こっちの気も知らないで、またあんな顔で笑うなんて。

 ふんっと思いっきり殿下から顔を逸らすと、声には出さずに面白がって笑う気配が伝わってきた。

 やっぱり殿下は意地悪なんだから。

 一人ぷりぷり怒っていたわたしは、このときみんなが生暖かく見守っていたことに気付いていなかった。

 それであとになって、ジェラールお兄様にからかわれて一人悶えてしまったのは仕方ないわよね。



 そして、翌日からはゆっくりと王都へ向かった。

 通り過ぎる街や村で笑顔を振りまき、余裕を見せて、何も問題はないのだと知らせるために。

 たとえ国民に謀反のことが漏れていても、大丈夫なのだと。


 王太子妃殿下が王都近くにある離宮にて蟄居させられたことは国民にも広がりつつあるみたい。

 またベッソン商会が国内における全ての権利を取り上げられ、財産を差し押さえられたことも動揺させるには十分な知らせだと思う。

 ただ大きな混乱がないのは、ベッソン商会に変わる流通経路を前もって確保していたかららしい。


「ヴィクトル王子殿下万歳!」

「エリカ様!」

「ヴィクトル王子殿下、エリカ様、ご結婚を楽しみにしております!」


 沿道からたくさんの歓声が上がる。

 その声に応えて窓から顔を出して笑顔で手を振った。

 腕も頬も痛いけれど、もう片側から同じように手を振る殿下が座面に置いた私の手に手を重ねてくれているから大丈夫。頑張れる。


「聖女様!」

「聖女エリカ様!」


 誰かの呼びかけをきっかけに、みんながわたしを「聖女」と呼び始めた。

 この王都に帰ってくるまでにもう何度もあったこと。

 それでも慣れなくて体が震えてしまう。わたしはそんなに崇高な人物なんかじゃないのに。

 だけどみんながそれを望むなら、わたしは〝聖女〟を受け入れてみせる。


「エリカさん……」

「大丈夫です、殿下。わたしはもう決心したんですから。この国の人たちが幸せになれるように努力していくって。そして殿下のためになるのなら、わたしは〝悪役〟でも〝聖女〟でも何だって演じてみせます。わたしが一番に幸せになってほしいのは殿下ですから」


 薄暗い車内で精いっぱいの笑顔を殿下に向ける。

 だけどあまり殿下を見てはいられない。

 沿道でたくさんの人が手を振ってくれているから。

 そう思って、沿道へと向き直ろうとした瞬間、強く手を引かれて気が付けば殿下の腕の中にいた。


「で、殿下……」

「ヴィクトルだよ。もういい加減、そう呼んでくれてもいいよね?」

「……ヴィー?」

「それじゃ、少し子供っぽいかな?」

「ヴィ…ヴィクトル……」

「うん」


 嬉しそうに微笑む殿下を見て、途中で合流したマイアや殿下の侍従をどうして一緒に乗せなかったのか、今さらながらわかってしまった。

 だけど今のわたしはどうしようもなく心臓がどきどきして、体温がこれ以上ないほど上昇して、みっともないくらい情けない顔をしていると思う。

 それなのに殿下は涼し気な顔をして、わたしに近づいて、触れて、さらに触れて、意地悪だわ。


 沿道からの歓声がぼんやりとしか聞こえない。

 馬車と並走しているはずのレオンスお兄様の大きな咳払いが聞こえた気がする。

 でも、わたしたち、今まですごく頑張ったから、これからもすごく頑張るから、もう少しだけこのままで。






ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。

これにて『悪役令嬢、時々本気、のち聖女。』は完結です。

本当にありがとうございました。

                    もり

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ