4話:お前、誰だッ!!
「無事でよかったー」
「何であいつと戻ってきたの? もしかして助けられたの!?」
「そんなわけないだろ。あいつには、そんな度胸も力もねぇーよ」
雪乃の帰ってきた学校は、記者会見の会場のように騒がしくなった。そんな騒がしさの嫌いな高瀬羅 刹は、もちろん一人で廊下に出ていく。
「私ね。刹に助けられたの」
「刹って誰だ?」
「あの『いんきゃ』かッ!?」
「『いんきゃ』が助けてくれたの?」
「雪乃を保健室につれていけッ!! 高瀬羅に頭をやられてるッ!!」
「違うんだってばっ!!」
今までの行動からしてみれば、雪乃の証言は間違っていると言われても仕方ない。証明したくても、教室に高瀬羅 刹はいなかった。
「雪乃、一緒に帰らない?」
校門の前で、雪乃と友達は話しながら歩いていた。
「ごめん。今日は刹と帰るの」
「えぇ、あんな奴どうだっていいじゃん。前までそんなこと言ってなかったじゃん。早く帰ろうよ」
「え、でも……」
雪乃は友達二人に手を引かれて帰ってしまった。
「……まぁ、こうなるよな」
正門の柱の影で、静かに雪乃を待っていた高瀬羅 刹は、現実を見せつけられたような感じがした。
「この世界はもう、俺の存在を必要としない。一人離れた場所で生きていくのが、運命ってやつか……」
誰と友達になろうと、高瀬羅 刹の日常に変わりはなかった。生まれたときから決まってたかのように、どうにもならない。
「俺、何を期待してたんだよ」
机に向かって小説を書いていた高瀬羅 刹は、部屋の電気を消してベットに横になった。
「高瀬羅 刹……。10年前の先祖の契り、時満ちた今日、先祖の名において遂行する。貴君の願、申したまえ」
うとうとと眠ってしまった高瀬羅 刹の夢に、親指と同じくらいの大きさの妖精らしき奴が現れた。
「お前、誰だッ!! 10年前って……」
「10年前にも、こちらに来たはずだが」
高瀬羅 刹は、自分の記憶の奥底に封じ込めていたものを思い出した。
「父さん。母さん。トラック。知らない屋根。知らない家。消えた思い出。妖精の夢……」
小学一年生の入学祝いに遊園地に行く途中、高速道路の上で前から突っ込んできた逆走トラックに、高瀬羅 刹の両親は奪われた。それまでの幸せな家族の記憶は、その日以来思い出せない。友達の顔も、好きだった子の名前も顔も、どこに住んでいたのかも。全て、両親と共に消えていった。引き取ってくれた親戚も、学力が低い記憶障害の子供なんかにかまっている暇はないらしく、高瀬羅 刹に再び幸せが訪れることはなかった。
「この世界は……」
高瀬羅 刹は、今までのことを思い返してみた。
「『友達第一号。大切にしなさいよね』『あいつには、そんな度胸も力もねぇーよ』『あんな奴どうだっていいじゃん』」
「俺の存在を認めない世界なんて…………、どうにでもなっちまえッ!!」
「承知いたした。こちらの利益向上のため使わせていただく。その前に一つ、秘術書をいただいていく。ではまた」
「秘術書? ……!?」
高瀬羅 刹は、急いでベットから起き上がって、机の上を見た。
「ない……」
雪乃を行方不明にしたあの古いノートはなくなっていた。
「もうどうなったっていいよな。こんな世界……」




