13話(最終話):新世界、小説世界、そして現実世界
「今何時だよ……」
朝の眩しい光を浴びて、高瀬羅 刹は久し振りに自分の部屋の天井を眺めた。いつもと何も変わらない天井に少しは安心したものの、自分の賭けたこれからの人生に不安が後を絶たない。
「行ってきます……」
もちろん帰ってくる声はない。でも、なぜか今日は寂しくなかった。
「今日の天気は……、快晴だ」
買ったばかりのスマホには、そう表示された。
「おはよう……」
クラスに声をかけても、いつも通り返事はない。
「高瀬羅君。また小説ですか?」
授業中だというのに、やはり高瀬羅 刹は小説を書くのを止めなかった。でも、書いてるのはもう、普通のノートだった。
「小説を書くことは……、現代文の勉強ですッ!!」
クラスに笑いが沸き上がった。そう、この時から高瀬羅 刹には二人の友達ができた。
「刹って言ったっけ? 俺、高見 悠。よろしく」
「俺は、こいつの相棒、山瀬 遼似。よろしくなッ!!」
「俺、いつからお前の相棒になったっけ?」
「今からですッ!!」
二人には、NovelーWorldでの記憶はなかった。でも、高瀬羅 刹はそれでもいいと思った。
「……戻ってきたんだな」
「えっ? どこから? あぁ、家からだね。不登校を卒業して今日から学校に戻ってきましたッ!!」
遼似はこっちでも何も変わっていなかった。高瀬羅 刹は一時的にぼっちを脱却したみたいだった。
「あいつ……、何か変わってない?」
「イヤホンは……、はめてない。前髪で眼は……、隠れてないッ!?」
高瀬羅 刹は、小説の中に行ったあの日と同じ日に戻ってきた。要するに、この世界で高瀬羅 刹は、一度も消えていなかった。だから、他から見れば高瀬羅 刹の変化は、一晩のできことだった。驚くのも不思議ではない。
「刹……。一緒に帰んない?」
鞄をもって教室を出た高瀬羅 刹の前に、雪乃が現れた。
「無事だったのか?」
高瀬羅 刹は口を滑らせた。
「無事って、何が?」
「なんでもない」
「あのさ。私のこと覚えてる? 幼稚園の時の……」
「えっ!?」
「ごめん。記憶……、ないんだよね。……今頃告白したって……、遅いもんね」
雪乃の呟きは、高瀬羅 刹には聞こえていなかった。小説に熱中しているのだろう、脇目もふらずにシャーペンを握っている。
「できた。一話完成だッ!! ごめん、さっき何か言ってなかった?」
やっと高瀬羅 刹はシャーペンを置いた。
「ふんっ、聞かない方が悪いのよ。もう二度と言わないからね」
二人は、学校の校門を出た。高瀬羅 刹は、まだ脇に小説を抱えている。でも、秘術書ではなかった。秘術書は、NovelーWorldに置いてきたのだ。自分の力で生きると決めた高瀬羅 刹には、必要なかった。
「私ね。……小説部、作ろうかなって」
「小説部!?」
急な宣言に、高瀬羅 刹は足を止めた。嬉しいのか、どうなのか、高瀬羅 刹は自分でも分からなかった。
「もう、止まんないでよ。それよりー……、その小説読ませてもらうわよッ!!」
雪乃が手を伸ばした。その先には、高瀬羅 刹の小説を書いているノートがある。
「おい、それは」
もう遅かった。高瀬羅 刹の小説は、雪乃の手に渡ってしまった。
「おい、返せぇーッ!!」
「やっだよー」
雪乃はスキップで走り出した。高瀬羅 刹は手を伸ばして追いかける。高瀬羅 刹の新しい人生が、今幕を開ける。




