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ジェネラルの男と竜人の娘~戦いの果て~  作者: HATI
シュテル連邦国編
28/28

艱難辛苦(かんなんしんく)の激突

「WhOo――!!」


 怒りの咆哮がベルギオンへ叩きつけられる。

 それだけで走る勢いを殺された。

 しかしベルギオンは足を止めず、剣まで一気に駆け抜ける。

 それを見た狼は、ベルギオンとの20mはあった距離を飛ぶように二歩で進めた。


「Ga――!」

「あれだけの距離を!」


 そしてベルギオンが剣を手に取った瞬間、右腕を振り上げ尖った鉤爪ごとベルギオンへ向けて叩きつける。

 ベルギオンは剣を取り体勢が硬直していた為回避を切り捨て、剣を握り締めて鉤爪を受ける。

 斜めに振り下ろされた一撃を受けた瞬間、足から地面が離れる感覚がする。

 体ごと持っていかれそうになったのだ。


「おぁ!?」


 それだけの力に対抗できず、全身が吹き飛ばされる前に手から剣が弾き飛ばされた。

 飛ばされた剣は壁に深く突き刺さる。

 後ろに飛ばされたベルギオンは、衝撃で痺れる腕を見ながら忌々しさに強く奥歯を噛む。


「笑えない」


 辛うじて握力のある左手でナイフを握りなおす。

 するとすぐに狼は口を開け、食い殺ろさんと追撃してきた。

 ベルギオンは咄嗟に後ろへ飛び、わざと転んでそのまま転がる。

 その間ガキン、と甲高い牙の噛み合わさる音が間近で何度も聞こえる。

 それを紙一重で回避できたようだ。

 しかし、少し牙にふれた鎧が削り取られている。

 骨より硬い鎧がまるでバターのようだ。

 圧倒的暴力。生物としての絶対的な格差。

 立ち上がったベルギオンと狼の視線が交差する。

 瞬間背筋に虫が這うような感覚が走った。


「それでも、死んでやれんな」


 口が引き攣りながら笑みの形を作る。

 果たしてベルギオンの目に戦う意思を感じ取ったのか。

 狼は飛んでくる矢を避けるのを止め、ベルギオンだけを睨む。

 そうしている間に鋭く放たれるラグルの矢は狼に刺さるが、狼は一切揺らがない。

 ただ、ベルギオンを睨みつける。

 狼が狩りをやめて、闘争へ移行した事を肌で感じ取る。

 獲物ではなく、敵。


「ははっ」


 恐怖からか、つい笑いが零れた。

 腕に力が戻る。

 ナイフを構え、笑みのまま狼を見据えると――


「来いよ、犬!」

「Aa――――――!!」


 ベルギオンの言葉が嘲笑だと分かったのか、更なる怒りを迸らせる。

 それに真っ向から挑むベルギオン。

 もはや自棄ですらない、自滅の如き暴挙。

 だが防御を捨てた事が幸いしたのか、ラグルの援護が虚をついていたのか。

 降りかかる暴風の如き攻撃を掻い潜り、その度に狼に小さい切り傷を刻んでいく。

 ミスの許されない命がけの綱渡り。

 6度狼の腕を刻んだ時。

 狼はベルギオンではなく、直ぐ横の地面を叩き伏せる。

 爆発的な膂力により岩が砕け沈む音と、周囲に僅かな”地震"が引き起こされた。


「なっ!?」


 その揺れに足をとられ、僅かに無防備になる。

 そして見た。

 揺れと同時に狼の体毛が、火花が散るような鋭い音を立てて帯電するのを。

 狼は、口を大きく開き雷を収束する。


「……マジか」


 直後、大砲のような音と共にそれは放たれた。

 雷の大きさは直径30cm。速さは光速。

 ベルギオンが出来たのは、放たれる寸前に左に体を逸らす事だけ。

 結果それに触れた右腕が"蒸発"した。

 そのまま雷は洞窟を突き抜け、穴を作る。

 ベルギオンは尻餅をついて唖然とした。

 それが右腕が無くなったことか、今の電砲を見たショックなのかは分からない。

 呆けたいたのはほんの少し。直後、感じたことの無い痛みが脳内を駆けずり回った。


「ッ――――――!!」


 激痛が脳内を支配して声が出ない。そもそも体が衝撃で動かない。

 先の無くなった右肩を押さえ込む。無くなった先は焦げて血は出ていない。

 転んだ拍子に落ちたポーションを急いで掴もうとし、焦って何度か掴み損ねた。

 痛みと焦りで汗が滝のように溢れてくる。それでもポーションを掴み、口で蓋を開けて飲み干す。

 やがてポーションの力か、右腕に何かが生えてくるような気色の悪い感覚を感じる。

 しかし痛みは引かず、それを堪えながら顔を狼へ向ける。


「Ha、ha、ha――」


 今の攻撃は狼にとっても負担が大きかったのか、舌を出して激しい呼吸をしている。

 しかし、狼の目はこちらを見下ろしていた。殺意に満ちた目だ。

 後数秒もすれば呼吸を整え、前足で踏み砕いて終わり。

 もしこの場にベルギオンが一人ならば、確実にそうなった。


「<それは何よりも早く――何よりも輝いている>」


 それは雷撃の呪文スペルだった。

 僅かに生まれた狼の致命的な隙。その隙をラグルは決して見逃しはしなかった。

 ラグルに魔術の才は無い。竜人としての血が薄く、常人より多少多い程度の魔力しかないからだ。

 その魔力を振り絞り、この一矢に一縷の望みを託す。


雷の矢(ライトニングアロー)


 ラグルから弓へ、そして矢へと雷が集い、そして放たれた。

 雷を帯びた矢は音速を超え、一直線に狼の足へと突き刺さる。

 そのまま壁へと突き抜けて狼の足を縫いつけた。


「Oo――――!!」


 狼は縫い付けられた腕を剥がそうと、即座に暴れ始めた。


「姉さん!」


 ラグルの隣。そこには槍を構え、今まさに投擲せんとするキリアの姿が見える。

 迸る凄まじい気迫。敵を倒す為だけに練り上げられた力が殺意となって狼を威嚇する。

 槍には炎が纏われ、そこにキリアの膂力が余すことなく込められた。

 狼はその一撃が致命傷である事を悟ったのか。

 身動ぎするものの、四肢の一本が完全に縫い付けられて満足に移動出来ない。

 キリアは全身の筋肉を流れるようにゆっくりと動かし、癒えきらぬ体の苦痛があるのか僅かに顔を顰める。


「飛べ――!」


 しかし、彼女はそれを飲み込んで槍を放った。

 槍はゆっくりとした動作からは考えられない加速を見せ、一直線に狼の頭蓋へと向かう。

 キリアの手を離れて瞬息しゅんそくの如き速さで狼へ迫る。

 次の無い必殺の乾坤一擲。足を止められ受ければ死は免れない。


 それでもこの雷狼は並外れていた。


 放たれた瞬間目前に迫った槍を視認し、頭を逸らす事で即死である一撃を右目だけに止めた。

 槍はそのまま壁へと激突し、大きなヒビを作り上げる。


「GHa――――!!?」


 奥まで削がれる右目。ダメージはその奥まで届いている。

 即死を回避しただけで生物として致命傷に等しい。

 だがまだ狼は生きており、続く攻撃が無ければ今此処に居る人間を食らって血肉とし、生きながらえるだろう。

 キリアもラグルも座り込み、立てるだけの体力が残ってない。

 ベルギオンは痛みに喘ぎながら、壁にヒビが入った所為で抜け落ちていた剣を残った腕で拾う。

 痛みは電気のように走り回って存在を主張している。

 ポーションに痛み止めの効果は無かったらしい。


(痛い痛い、痛いな。おい)


 気を抜けば気絶しそうだった。その方が後々楽なのは明白だろう。きっと食われるのは頭からだ。

 痛すぎてそんな愚にもつかない事を考える。

 気が付くと剣を支えに立ち上がっていた。痛いのに動ける。

 きっとアドレナリンが出ているとはこういう事を言うのだろう。

 体は剣を構えた。

 左手だけでは支えれない。柄を口まで持っていき、歯で咥えて剣を固定する。

 右腕はまだ欠けたまま、ぶら下がり血を垂れ流していた。


 狼は暴れ叫んでいる。

 深く刺さった矢も、もうじき抜けそうだ。


 時間が無いな――。


 ずり、ずり、と引きずるように移動する。

 目前まで移動する。そこでようやく狼がこちらに気付く。

 そして同時に、ベルギオンは倒れるように剣を狼に向けて振り下ろす。

 果実に包丁を叩きつけた時のような鈍い音と、血飛沫が飛び散った。

 剣は狼の右目を更に抉る様に突き刺さり、その奥へと打ち込まれていた。


「aa――――!」


 今までとは全く違う咆哮、悲鳴の如き叫びが狼から漏れ出し、少しずつ静かになっていく。

 それでも狼は倒れず、最後の力を立つ事に費やしている様子だ。

 やがて、狼から一切の気配が消えた。


 ベルギオンの意識はそれと同時に消え、横に倒れこんだ。



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