舞い込んできた依頼
ナイフを買い終わった後、通りで小麦粉を焼いた菓子を買う。
それを二人で食べながら移動した。
(あまり甘くは無いが、砂糖もあるんだな)
キリアにも買っていこうと思ったが、冷めると味が落ちると聞いたので止めておく。
言うと確実に文句が出てくるので二人の秘密とした。
ベルギオンはふと疑問に思ったことをラグルに聞く。
「水筒は持ってるのか?」
「持ってますよ?
こうして街にいる間はいいですけど、街から移動すると数日水源無しになりますし……」
「そういえばそうか」
ラグルの言葉で道中で飲めばいい、という考えが無くなった。現代とは全く違う事を思い出す。
村のときは森に囲まれて水場は幾らでもあったが、これからはそうはいかない。
「今のうちに気付いて助かった。依頼も受けたいし、水筒を買ったら一度戻ろう」
「姉さんも起きてるでしょうし、そうしましょうか」
道中で見つけた雑貨屋で水筒を見繕う。
竹や瓢箪の物も売っていたが、入る水が少ない。
畑仕事の合間や仕事で利用する事を目的としているとのことだ。
金属製の物は見当たらない。
水銀や銅では毒があるし、水筒に回す金属は現段階では無いのだろう。
金属でふと現代で使われていた金属を思い出す。
(アルミの精製が始まったのは何時頃だったか。
ボーキサイトがあるかも分からんし、電気がないから精製が無理か。
ステンレスは……どう作るのすらわからん)
ステンレスやアルミニウムは非常に便利な金属だが、普及したのは近年だったはずだ。
この世界にも原料はあると思うが、それらが加工されるまでにあとどれほど掛かるのだろう。
魔法の存在で科学に傾倒していないのなら、生まれないという可能性もあった。
(むしろ魔法で加工……、キリアの魔法を見る限り不可能ではないが――知識が無いな)
そんな事を思いながら大きめの布製水筒を購入する。
原価が安いのか銅貨30枚で買えた。
そうして水筒を買い、宿屋の部屋に戻る。
部屋に入ると、キリアにお菓子を買ったことがばれて奢る羽目になった。
何故分かったのか聞いてみる。
「だって匂いがしたもの」
と自信のある顔でキリアが告げた。
竜の血によるものだろうが、凄まじい嗅覚だ。
アリヤに頼んで水筒に少し水を入れた後、三人でギルドに顔を出す。
そうして受付嬢の処まで行くと先に話しかけられた。
「こんにちわ。昨日はお疲れ様でした」
「ああ。何か依頼は無いものかと思ってな」
そう言うと、受付嬢は一枚の紙を取り出す。
「支部長から良ければ、と聞いたものは有りますが。どうしますか?」
「……なんだ?」
「昨日の間引きの数を鑑みて判断した事ですが、良ければウルフの巣穴を潰してみませんか?」
その言葉に少し疑問があった。
受付嬢にそれを聞く。
「巣穴を潰すのは骨が折れると聞いたが」
「はい。ウルフは増える速度が速く、このギルドには余り腕利きも居ませんでした。
ですので巣穴が出来てから間引きを続けている状態です。しかし巣穴のボス自体はそこまで強いモンスターでは有りません」
「決め手に欠けていたということか」
そこに使えそうな冒険者が来たからやってみろ。ということだろう。
「条件は? どの位の仕事になる?」
「達成報酬で金貨二枚です。たとえ達成できない場合でも、倒した敵は間引きと同じだけ報酬が出ます」
金貨二枚。シュテル銀貨で30枚位か。そこに道中倒した分も加算される。
昨日の事を考えるとかなり大きい依頼だ。シュテル連邦国への移動費を引いてもお釣りが来る。
考える余地ありと判断し、続きを聞く。
「情報は何かあるのか?」
「場所は判明しています。
ヌワバ平原より更に南に南下すると穴が有ります。
その中がウルフ達の巣穴になっておりまして、その最深部に群れの長がいます」
「中の地図は?」
「残念ながら有りません……群れのボスはグレーターウルフの番です。
グレーターウルフの毛皮と牙は番合わせて金貨1枚で買取します」
(ロードゴブリンが率いるゴブリンの群れが金貨1枚くらいだとキリアが言ってたな。
それを考えると危険度は大分高いか。まてよ、それだけか?)
一つ仮説を思いついたのでベルギオンは受付嬢に尋ねる。
「報酬がいいのは危険度の所為か?」
「それも有りますが、ヌワバ平原は交通の要所なのでそれも影響してますね」
巣穴が潰れれば、喜ぶ人間がそれなりに居るということだ。
間引き分はその辺りから出るのかもしれない。
「なるほどな。期限はあるのか?」
「受ける場合本日より三日以内で、とのお話です。
倒したウルフ達の分をお支払いするといっても、それを稼ぎの元にされると困りますので」
ベルギオンも少しだけ考えていたが、流石にそれを許すほど寛容ではないのだろう。
(言い換えれば三日間はそれで稼げる。と言いたいが、疲労で無理だろうな)
「それは確かに。途中で無理だと判断した場合依頼から降りれるか?」
「構いませんが、その場合成功報酬は一切出ません」
あくまでやらないか? という様子だった。
ベルギオンは少し悩み、それを聞く。
「少し考えさせてくれ。サポートで人を増やすのはいいんだろう?」
「勿論です」
それから一度受付からはなれ、三人で相談する。
「どうする?」
「私としては文句は無いわ。暴れられそうだし」
「危険に見合うとは思います。ただ三人では囲まれると辛いと思います」
キリアは乗り気だ。元々参加したいと言っていたし当然だろう。
ラグルは其処まで積極的ではないが、否定するほどではない。
「だな。報酬は減るが、安全に行きたいところだ」
ベルギオンはそう言うと、頼めそうな人間が居ないか考える。
(クラゼル達は……死人が出るな。ハンスとレティアは乗るか?
ハンス達が断るなら偵察次第になるな)
そう思い周囲を見ると、ハンスとレティアが喋りながら食事を取っていた。
ベルギオンは二人を連れてハンス達の居るテーブルへ移動し、声をかける。
「よう」
ハンスはそれに気付くと挨拶を返した。
「ん? ベルギオンはんか。飯でも食いにきたんか?」
「まあな」
「昨日のお嬢さんと……始めてみる顔ね」
レティアの声にキリアが返事をする。
「キリアよ。妹が世話になったみたいね。ありがと」
「こっちも助けられたし、構わないわ」
そうレティアが笑った。
「嬢ちゃんの姉さんか。別嬪やなぁ――あいたっ!」
机が僅かに動く。
ハンスがレティアに蹴られた様子だ。
癖なのか、懲りない男だと思う。それが生き様なのかもしれない。
ハンスは蹴られた足を摩りながらベルギオンに質問する。
「で、どしたんや? わざわざ相席するからには用事があるんやろ?」
「さっき受付に顔を出したんだが、ウルフの巣穴を潰さないかといわれてな。
群れのボスの素材と合わせて、金貨3枚になるって話だ」
巣穴潰しと金貨の部分でハンスに反応があった。
頭の中で勘定をしているのだろう。
「えらい景気がええ話やな」
「私達も付き合わないかって事ね?」
レティアは乗り気だ。
ベルギオンはなるべく誇張を含まないよう気をつけて話す。
「ああ。途中で引いても倒した奴は間引き分もらえるという話だからな。
ボスまでとは言わないが、一稼ぎしないか?」
そう問うと、二人とも即答は避けるように考え込む。
少ししてハンスが口を開いた。
「んー……、ボスまで一緒なら成功報酬は山分け。危なくなったらこっちは撤退する。
怪我をした場合も一緒や。特に怪我した場合は入り口までは一緒に来てくれ。
帰りはアラーマの石つかうさかい。これが譲歩できる限界やが、それでもええか?」
ハンスは見た目や喋り方の割りに慎重だった。
だからこそ二人で上手くやってこれたのだと判断する。
慎重な人間は信用できる。ベルギオンはそう考え頷いた。
「それで十分だ。期限は三日間。今日準備して明日の朝出発する。いいか?」
「いいわよ。それだけあれば馬車代になるし」
馬車代の言葉にキリアが反応する。
此方も同じつもりだったので疑問に思ったようだ。
「どこかに行くの?」
ハンスはそれを聞くと、残っていたパンを飲み込み、話をする。
「ティレ王国に行く積もりや。
ここは採取系の依頼は多いんやけど、知識のある奴やないとイマイチ稼げん。
間引きもウルフの巣穴を潰すんなら他所の巣考えても大分頻度減るやろうし」
「行き先は違うんですね。私達はシュテル連邦国に行こうと思ってます」
ラグルがそう言うと、ハンスとレティアは僅かにぎょっとしたような顔をする。
「わざわざ今の時期にあそこいくんか。まあ荒れとるほうが儲け話は多いって聞くしな……」
荒れているとはどういうことか。ベルギオンは気になってハンスに聞く。
「荒れてる? そうなのか?」
それをレティアがやんわり抑えた。
「表面上はハンスが言うようなほどじゃないわ。だけど、なんていうのかしら。
私達はシュテルから来たんだけど、空気が痛いのよ。ピリピリしてるっていうか」
「ピリピリ、ねぇ」
要領を得ない言葉にキリアは少し不満げだ。
「行ってみれば分かると思う。あんた達なら腕っ節があるから稼げるかもだし」
「治安が悪いんでしょうか?」
ラグルは少し心配そうだった。
ハンスはベルギオン達が悩んでいる事に気付くと、陽気に笑い飛ばす。
「勘、言うたらアレやけどな。
危ないと思ったらさっさと出た方がええとしか言えん。ま、今はそれより明日の仕事や。
きっちり準備して、門で集合でええか?」
「ああ、それで構わない」
現地に居た二人の言葉だ。
シュテルに行くとしたら気をつけたほうが良いだろう。
とりあえず今は目先の事だ――




