歴史の勉強・その2.そして狼退治
ベルギオンは気を取り直し、次の項目について纏め始めた。
二つ目、失われた100年。
紀元元年の聖魔戦争により、モンスターの脅威が無くなり人類は発展を始めた。
そう記録の残っている聖暦101年から推測されている。
竜は101年の時点で表舞台から消えているようだ。
長老の話では、竜から変化した純粋な竜人はこの時居なくなっていたという。
(モンスターも居ないのに何故だ? 何があった?)
あらゆる文献でも101年までの記録は残っていない。そう音読してくれた少女は言っていた。
つまり子供でも知っている周知の事実なのだろう。
101年からはほぼ残っているにもかかわらず。
(作為的過ぎる。しかし隠蔽したにしては大規模すぎないか?)
日本語でベルギオンはメモを取るが、疑問ばかりで答えが出てこない。
しかし、なんらかの力が働いている可能性はあった。
(分からん)
ベルギオンはこの事を一度棚上げし、先に進める。
そうして発展を続けた人類は文明を築き始めた。
教会の設立もこの辺りだという。神が居たのだから出来たのも当然だろう。
そんな中、モンスターが再び現れたのは聖暦400年頃。
大陸の南の端から突然現れ、瞬く間に勢力を拡大する。
(ここも疑問だな。神が一掃したんじゃないのか? 400年もどこに隠れていたんだ?)
その当時既に大国となっていたティレ王国がこのモンスター達に対し防衛線を構築。
魔物が居なかったこともあり戦線は維持されるが、当時は止めるだけで精一杯だったようだ。
何度か押すものの、奥地に行くほど抵抗が強くなり戻されるといった拮抗が続く。
それから400年。現代でも今だこの防衛線は健在だという。
(400年も続いているのか……よく堪えたな)
それだけ続けば内部に強硬派が出てきてもおかしくない。
無理やり攻めて全滅してもおかしくなさそうなものだが、とベルギオンは思った。
南以外のモンスターは防衛線から漏れて大陸に根を張り、少しずつ増えていったという。
冒険者ギルド設立の背景はその辺りと関係があると書かれていた。
(国家は兵を出さずに済み、ギルド側は利益になる、か)
三つ目、これから行くシュテル連邦国。
連邦は複数の小さい国や、力のある地区が集まった時の名称だった筈だ。
西に巨大なティレ王国があるなら、そういう国が出来ても不思議ではない。
しかし連邦化したのは別の理由だった。
400年前。
モンスター達の侵攻があった際、東側はまだ集落ばかりで戦う力が無く、ティレ王国は兵を出さなかった。
(出せなかったんだろうな……、しかし当人たちは見捨てられたと思っただろう)
東側の人たちはそのまま全滅の可能性すらあった。
その際現れたのは、もう生まれないとされていた5人の英雄。
シュテル連邦国のある辺りでモンスターと戦い、勝ち残った後国を作ったという。
5人の英雄は聖魔戦争の英雄とは違い、生まれは普通の人間ではあったが旅の末に幻獣と出会い、力を借り受けていたという。
幻獣はそれぞれ獅子・蛇・狼・鷲・熊。
5人は王ではなく公爵となり、その5人を合わせてシュテル連邦国となったという。
一時はティレ王国に比肩するほど栄えたとされている。
(英雄によるカリスマか。幾らなんでも個人に依存しすぎじゃないか? やはりこの後は……)
英雄たちの死後、その子等が地位を引き継ぐ。だが次第に対立が起こり始める。
代を経るごとに経済は停滞し、国の運営は滞ることが度々起こったという。
幻獣もまた初代の英雄と共に消えてしまい、求心力も落ちた。
次第に国力が衰え、400年経った今。
付近にある二国と力をあわせて、ようやくティレ王国の東方方面軍と対等だという。
(夏草や兵どもが夢の跡、か)
ベルギオンはシュテル銀貨を取り出して眺める。
それには5体の動物が画かれていた。
今はこのシュテルという国はどうなっているのだろうか?
エルフのティルフはこの辺りの事を伝えたかったのだろう。
場合によっては国に入っても手早く出てしまう事も考えておく。
ベルギオンは其処まで考えた後、ペンを置く。
「ふぅー、久々に頭を使ったな」
ベルギオンは固まった肩を解すと、メモを紙を折りたたんで懐に仕舞う。
(触りは分かったが、シュテル連邦国が危ない事以外役に立つ情報は流石に無かったな)
知的好奇心は満たせたのでよしとした。
資料室から出ると、テーブルでキリアとラグルがお茶を飲んでいた。
手荷物は無いから宿によっていたのだろう。大分時間が経っていたようだ。
二人に声をかけると、キリアが思い出したように言う。
「そうそう、シュテル連邦までの馬車は金貨1枚だったわ。
頭割りだから相乗りか、出来れば商人の護衛か何かで付いて行きたい所よね」
「金貨一枚か……」
「モンスターが以前より増えてきて、値上げしたそうです」
「どうにもそういう話を良く耳にするな」
竜人の村やエルフの街も普段は来ないモンスターに襲われている。
(何かの前触れか? まさかそんな事は無いか)
浮かぶ疑問を無意識に破棄し、馬車の金額を考える。
金貨一枚という事は10万ペニー。
高い。馬車が一番の交通手段なのだから高くなる様子だ。
「とりあえずある程度貯めよう。
シュテル連邦国に行ける依頼があれば受ければいいし、溜めた分は無駄にはならないだろう」
そう言うと三人で受付へ行き依頼を探す。
「依頼ですか? 今あるのは引越しの手伝い、ペンダントの材料集めですね。
継続的に募集してるモンスター駆除もありますよ」
受付嬢から条件などを聞く。
その結果、キリアに引越しの手伝いを受けてもらう。
「じゃ、ぱぱっと行ってくるわ」
そう言ってキリアが出発する。
ベルギオンとラグルはモンスター駆除に参加する事にした。
引越しは普通の冒険者で受けても問題ないとの事だ。
モンスター駆除は平原に巣を作ったモンスター達の間引きが主だという。
間引くの依頼が来るのは繁殖力の高いモンスターだ。
巣穴潰しは割に合わないので、定期的に駆除するということらしい。
「今日の間引きはお二人を含めて4人で行います。
内容は先に登録した2名にお話していますので、其方から聞いてください。
来ましたね。彼らです」
受付嬢が右手を向けた方向から男女の二人が近づいてくる。
男はやや細身で飄々とした感じを受けた。
女はこげ茶色の短髪で、活発な印象だ。
どちらも軽装で素早く動ける装備をしている。
「あんたらが今日の仲間か? ハンス・ボークンや」
「レティア・クラッグス。危うく二人で間引きになるところだったわ」
二人はそう挨拶してきた。
「ベルギオンだ。今日はよろしく頼む」
「ラグル・ロティエです。宜しく御願いします」
「可愛い穣ちゃんやな。レティアとは大違い――いてぇ!」
ラグルに声をかけていたハンスは飛び上がった。
後ろでレティアが蹴っていたようだ。
「な、なにすんやこのアマ!」
「なんだいこのボンクラ」
ハンスはそう抗議するが、レティアに一瞥されると見る見るうちに小さくなる。
随分と仲がいいようだ。
「二人は元々組んでるのか?」
「そうよ。一応昔からの馴染みでね。これでも悪い奴じゃないよ」
「蹴らんでもええやろ……痛いわ」
「面白い人ですね」
ラグルはそんな様子の二人に笑う。
ハンスはそれで機嫌を大分良くした様で、元気を取り戻した。
「昼時はとうに過ぎとる。いこか」
「そうだな」
受付でラグルに名前を書き込んでもらうと、パーティーを申告し出発する。
ベルギオンは移動しながらハンスに尋ねた。
「ハンス。俺たちは詳しい事は二人に聞いてくれと言われたんだが」
「ああ、そうなんか。まあ話は簡単や。
今回は街近くのヌワバ平原で、片っ端からウルフを狩るのが仕事やな。
証拠として今回ならウルフの牙を持っていくことになる。特に大きい二本あるさかいな」
「依頼料は数量に応じる、だったか」
レティアは頷き、話を引き継ぐ。
「そうね。大抵一匹銅貨5枚位だけど、間引きの依頼が来るモンスターは数が多いのよ」
「一人20体狩れば銅貨100枚か。悪くないな」
「20じゃ済まないわよ。ギルドに間引きの依頼が来るようならね。でもその分儲けれるわ」
「そうなんですか」
扉を通り話していると、ヌワバ平原と呼ばれる場所に着く。
ここは交通に良く使われる道で、モンスターが増えると流通に影響するという。
4人が武器を構えると、狼達が次々と出てくる。
「唸り声が聞こえてくるな」
「きとるでぇ。大きい奴はサーウルフや。こいつは別計算で銅貨20枚! おいしいやっちゃ」
「ウルフは打たれ弱いモンスターだけど、噛まれるとやばいからね」
ウルフ達は様子を伺いながら間合いを詰めてくる。
それを警戒しながら、ベルギオンはハンス達に尋ねる。
「武器は何だ? こっちは剣と弓だが」
「短剣や。レティアが鞭。お似合いやろ?」
「何がお似合いよ。後で憶えてなさい」
そう言い合いながらも二人の息は合っている。心の中では信頼しているのだろう。
「よし、左右に分かれて戦うか。そっちも距離をとりたいだろ?」
「そやな。そっちのお穣ちゃん弓やしそうしようか」
「よし、そうしよう。近づいてきた敵は叩く。ラグルは兎に角撃て。掛かった矢代は俺と割り勘だ」
「分かりました。……割り勘ってなんです?」
「あ――後で説明する」
「ほらほら、あいつ等着てるよ。フォローできる時はするけど、離れるし期待はしないでね!」
そうして二手に分かれる。
すると群れのボスらしき、一番大きいサー・ウルフが雄たけびを上げた。
「GuRaa!!」
「WaOoo――――!」
その声に釣られるように次々とウルフたちが雄たけびを上げていく。
「来るぞ! なぎ倒せ!」
ウルフ達がそれぞれに飛び掛ってきた。




