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セピレム将軍

 

「キリアとラグルが付いてくる?」


 ベルギオンの言葉が室内に響く。


「以前道案内の約束をしていたじゃろう。それをキリアに話したらの。

 そのまま一緒に行きたいという事でな」


 そう長老は答えた。


「ではラグルは」

「世話になったから恩返しをしたい、とな。

 若い二人に広い世界を見せるいい機会でもある。どうかの」


 少し考えてみると、非常に助かる提案だ。

 ベルギオンにはこの世界の常識が無い。

 知らずにタブーを踏む可能性もある。

 しかし女二人と冒険者をやるというのは、大丈夫なのだろうか。


「正直、お勧めできない。苦労する事になるぞ」


 そうベルギオンは二人に問う。


「承知の上です」

「分かってるって」


 ベルギオンの言葉では意見は変えれない。

 ならば、一人で四苦八苦するよりは良いに決まっている。


「分かった。そういう事なら引き受ける」

「ベルギオン殿ならそう言ってくれると思っておりましたぞ」


 ベルギオンはその言葉に肩をすくめる。


「いきなりすぎて驚きましたが」

「それと、この地図を渡しておきます」


 長老から束ねた地図を貰う。


「ありがとうございます」


 近隣のみということだが、早く見てみたい。

 出来れば大陸の形も見てみたい。だが多分一介の冒険者では手に入らないだろう。

 何かコネでもあれば別だろうけど。


「用件はこれだけですか?」

「ほほ、そうなるかの。そうじゃ二人とも。皆に広場に来るよう言っておいてくれ」

「さっきの移住のことですね」

「うむ。頼んだぞ」

「はーい」


 そうして長老の家から出る。

 まだいくつか話があるようで、エルフの女性たちは残っていた。


「二人がついて来るというのは意外だった」


 その言葉にラグルはじっ、とこちらを見る。


「結局お世話になるだけでしたから。足手纏いにはならないつもりです」

「渡りに船、じゃないけどね。ラグルを置いて外にでるのは怖いし」

「そうか。俺は田舎から出て全然分からないからな。一緒に来るなら仲間だ、当てにしてるよ」


 その言葉に二人は笑みを浮かべながら頷いた。


 それから後、家へ戻ったベルギオンは小屋の中で横になる。

 ロティエ姉妹はいない。

 移住の事で広場に集まっている。

 ベルギオンにも声はかけられたが断った。

 余所者が口を出すべきではない。


(さて、ご開帳だ)


 ベルギオンは貰った地図を広げてみる。

 北の大森林と書かれた巨大な森が半分を占めていた。

 いくつか意図的に消してある部分がある。

 恐らくほかの亜人族の住処だろう。

 エルフの街とドワーフの里。そしてこの村だけが大まかに記されていた。


(詳細な地図を作ると色々情報が漏れるし、案内人前提か)


 地図の下側を見てみる。

 西のほうは何も無く道が途切れ、東には幾つかの街ある。

 ラグルが言っていたティレ王国は地図には載っていない。

 距離があるのだろう。


(王国か、栄えてそうだな。何れ足を運んでみたい)


 東を見ると一つの国の名前が書かれている。


<シュテル連邦国>


 一番近い国はここのようだ。

 縮尺が分からないので距離が掴めない。

 確か換金所やギルドがあるのは街からだった。

 始めに街によってロードゴブリンの歯を換金。

 路銀が出来たらこの国によってみよう。

 直ぐ出来る依頼があれば途中の街で受けてみるのもいい。


「こんなものか」


 余りに大雑把な方針を決める。

 一番大事な情報が少なすぎた。

 地図を仕舞うと、四肢を投げ出し目を瞑る。


(仲間、か)


 ベルギオンはある時期を境に、MMOで仲間を作る事をしなくなった。

 別段何かあったというわけではない。

 ただ、仮想での仲間というものを少し面倒に思っただけだ。

 今回は違う。共に来るといった女性二人。ベルギオンが守らなければならない。

 それが男の役目だろう。

 そう考えながら眠った。


 二人が戻ってくる頃、丁度目を冷ます。

 話を聞くと移住は決まったとのこと。

 エルフ側の受け入れ態勢が済み次第始まるようだ。

 とはいっても、いずれエルフの街付近を切り開いて其処に移るつもりだとか。

 全くもって逞しい。

 ベルギオン達の出発は明日。

 怪我の具合はキリアとラグルが万全。ベルギオンもほぼ完治していた事でそう決める。

 ベルギオンは疑問に思ったことをラグルに尋ねる。


「そういえば包帯から変わった匂いがするんだが」

「薬草をすり潰して、お湯に混ぜた物を包帯に浸したんです。

 軽い怪我や打ち身には良く効きますよ。匂いはきついですけど」

「確かに良く効いた。幾つかもって行きたいところだな」

「問題ありません。ほら」


 そういってラグルが瓶を見せる。

 緑のペースト状の液体が一杯まで入れられていた。


「これでしばらくは持ちますよ。街でも売ってると思いますし」

「準備がいいな。助かる」

「任せてください。姉さんは大雑把な部分がありますから。その分私がフォローします」


 その言葉に後ろのキリアが口を尖らせる。


「ちょっと。人が静かにしてたらその言い草はなによ」

「姉さん準備は終わったんですか?」

「えっ、ま、まだだけど……」

「明日ですよ? ほら早く準備してください」

「押さないでってば、あっ、ちょっと、ちょっとー!」


 キリアはそうして寝室に押し込まれた。

 ラグルが首だけ寝室から出す。


「姉さんの準備を手伝ってきます。ベルギオンさんも用意は終わらせて置いてくださいね」

「分かった」


 キリアの無事を祈りつつ、合間で用意されたお茶を飲み干して小屋へと戻る。

 準備といっても、もっていた物は剣と鎧意外は布袋に入れてある。

 小屋のシーツと毛布を畳んでおき、布袋から一度全てを出す。


 ポーションが三つ。

 攻撃力の増加する薬が一つ。

 着替え代わりの装備や手ぬぐいに使っていた絹の布。

 加えてバスターソードと鎧一式。

 ナイフはゴブリンを倒す時ダメにしてしまった。

 剣と鎧は暫くこのままでいいとして、色々買い揃える必要がありそうだ。


(状況だけ見れば完全にゲームなんだが)


 金を稼ぎ必要な物を買う。

 正しくはゲームが現実を模範しているに過ぎない。

 何にせよやる事は変わらなかった。


 広げた道具を再び仕舞う。

 眠気は無い。夕食まで時間がある。


(散歩でもするか)


 装備などは置いていき、軽装で小屋から出て川に向かう。

 緩やかな風と太陽に温められた空気。

 とても快適な気温だ。

 川までなら道を覚えている。

 道中、血の跡も無くなって落とし穴もふさがれている。

 しかし所々に罠の跡が残っていた。


 感慨深そうにベルギオンはそれを眺め、歩く。


 川までつくと、水の跳ねる音が聞こえる。


「誰かいるのか?」

「その声。冒険者の男か」


 そう言って出て来たのは三人のエルフだった。

 川で涼んでいたらしい。


「先客がいたか。邪魔なら戻るが」

「構わん。貴様も涼みに着たのか」

「いや、暇を潰しにな」

「そうか」


 ティルフも他の二人も武人という感じで余り口数は多くない。

 ベルギオンも余り喋るのは得意ではない。

 すぐに水の流れる音だけとなる。

 静寂の中、ティルフは口を開いた。


「貴様はキリアやラグルと共に森を出るんだったな。先ずは何処へ向かうつもりだ?」

「まず近くの街で必要な物を買って、シュテル連邦国にいこうと思ってる」

「シュテルか。あの辺りは洞窟も多い。冒険者の貴様ならうってつけか。

 あの国は最近少し騒がしい。気をつけることだ」


 足を川に浸していたティルフは、足を引き上げると手ぬぐいで拭いブーツを履く。

 部下の二人もそれにならう。


「あ、ああ。分かった。ありがとう」

「キリアは友人だからな。舵取りは貴様がやるのだからこれ位はする。ではさらばだ」


(出来る女って感じだな。かっこいい)


 去るティルフとその部下の後姿を眺め、ベルギオンはそう思った。

 川の水で顔を洗うと冷たさが染みる。

 少しの間そのまま座り、水の音に耳を傾けてた。

 水のせせらぎは変わらず聞こえる。

 何も考えず、そのまま過ごした。




 次の日。

 出発の時間手前にエルフの本隊が到着する。

 風の魔法を使って情報をやりとりしていたらしく、事情は全て伝わっているようだ。


「セピレム将軍。この男がベルギオン、村を守る指揮をした冒険者です」

「あら、始めまして。将を務めているセピレム・ヴァハトーラです。見事なご活躍だったそうですね」

「始めまして、ベルギオンです。皆のお陰ですよ」


 エルフは立場が上がるとより美人になるのだろうか?

 会ったセピレム将軍はとても可憐で、少しおっとりとしている。

 背はラグルより少し高いくらいだ。

 しかし、身に付けた装飾や雰囲気が人を従えさせるに足る威厳を持つ。


「陣形に罠。それに指揮。こういう事が出来る冒険者はそうはおりませんよ?」

「……昔の名残ですよ」

「ふぅん? 今回はそれで良いでしょう。推薦書はお渡しします。無くさないで下さいね?

 それとこれを」


 推薦書と共に、セピレムは四角くカットされた赤い宝石をベルギオンに渡す。


(これは……ガーネット? 文字が刻んである)


 読めないが、何か特殊な文字が刻み込まれていた。


「機会があればエルフの街に来られると良いでしょう。それがあれば私に取り次ぐ事が出来ますよ」


 それを見たティルフはセピレムに尋ねる。


「宜しいのですか将軍?」

「ええ。有能そうな人は唾をつけて置かないと。

 それに私も感謝しているのですよ? 本来我々がやるべき事でもあったのですから」


 セピレムはそう言ってベルギオンを見る。

 淡くなまめかしい視線だ。


(値踏みか)


 どう評価されているのかは分からないが、宝石をくれた事からも悪い印象は与えていないようだ。


「あ、宝石は売らないで下さいね? 

 ……盟友たる竜の恩人であっても、悲しい事になりますから」


 視線によからぬものが混ざる。

 将の肩書きは飾りではないのだろう。


「勿論。この宝石は貴方と思って大切にもっておきます」

「ありがとうございます。世辞でも嬉しいですよ」


 さらりと流される。

 そして後ろから殺気を感じた。

 下手に何か言うとぼろが出そうだ。これ位にしておこう。

 ラグルとキリアに目で合図をすると、セピレムに一礼する。


「それでは我々はこれで失礼します。また縁があれば」

「ええ、気をつけて。貴方達姉妹もね」

「はい。セピレムさん」

「じゃあね、将軍」


 二人はセピレムとも知り合いなのか、少し親しげな口調で別れの挨拶をつげる。

 そして森の中へと三人で入っていった。

 獣道を進むが、この道が一番早いとのことだ。


「さてと。道案内は私がするわね。

 地図を見てもいいけど、私達以外が見てもあんまり意味は無いし」


 そういってキリアが先頭に立つ。

 言うだけあってすいすいと進んでいく。

 ラグルも同じように進んでしまう。

 ベルギオンは今だ慣れない草道を懸命に付いていく。


 どれ位歩いただろうか。

 僅かに水の流れている水場に通りがかる。


「着いたか。思ったより早く来れたわね。ここで大体抜けるまで半分よ」

「地図を見たときも思ったが、割と近いな」

「直線で通れば大分ね。誰かさん見たく間違いなく迷う事になるけど」

「耳が痛いな……」

「もうしないで下さいね。水場も有りますし休憩にしましょう」


 ラグルは竹の箱を開ける。

 いつぞや食べたパンだ。

 キリアは近くの木々を集めて小さく焚き火をする。


「いいのか?」

「きちんと消せばね。それに見えないけど森の中は精霊も元気よ。広がりそうになれば消すでしょうね。

 そうなったら間違いなく怒られるけど」

「分かった。始末はきちんとしよう」


 お湯が沸き、乾燥した葉をポットにいれてお茶を入れる。

 日本茶のように味がする訳ではないが、苦味も無く芳しい香りも良い。


「今日中に街に着けるか?」

「それは無理。歩きだと二日。馬車なら数時間位かな」

「夜はどうするんだ?」

「でた所に休憩所があるのよ。小屋が幾つかあるだけなんだけど。そこで泊まる予定よ」


 出るにも入るにも、それは確かにありがたい。そう思うが疑問も合った。


「危険は無いのか?」

「一応私達亜人族と他の国家で協定があってね。

 森の入り口で悪さをするべからず。休憩所も含めて、ね」

「武器や装飾は北の大森林産が人気です。それにエルフの人達は強いですし、不義は許しません。

 国境の接している国もその辺りは気を使ってるときいてます」


 その辺は世界が違っても変わらないということか。

 暴力と金は無視できない。

 パンも食べ終えてしまった。


「ご馳走様。なるほどな、勉強になった」

「はい」

「どこまで田舎に居たのよ……」

「秘密だ」


 休憩を終え、再び歩き始めた。

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