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VSロードゴブリン

 

 川から村へと続く道は、至る所にゴブリンの死体が広がっている。

 それでもまだ脅威は無くなってはいない。


 キリアはハルバートの先端に付いた血糊を、横へ振りぬく事で剥がす。

 村の事はベルギオンに任せるしかなく、どうにかしようと思うなら此方を片付けてからになる。

 弓の攻撃により、ロードゴブリンと護衛以外は完全に後ろへと下がっている。

 しかしその弓部隊が敗走すれば、すぐさま勢いづくのは確実だろう。


 キリアは柄を地面に叩きつけ、仁王立ちする。


(どうしたものかな。

 あの親玉を何とか引きずり出したい所だけど、あんなにガチガチじゃ食いついて来なさそう)


 護衛はロードゴブリンを囲むように移動しており乱れが無い。

 無理に前に立てば弓の攻撃が止まってしまい本末転倒だ。

 こうしている間にも、弓部隊へとゆっくりと接近されている。


(ここが使いどころね)


 キリアは目を瞑り息を吸い上げ、ロードゴブリンを見据える。

 そして詠唱を始めた。


「<火は怒りにして生命の輝き。なればその力はあらゆる物を燃やす力である。火炎(フレイム)>」


 キリアの前方に火球が出現する。

 ベルギオンに見せたものよりも一回り大きい。

 魔法による消耗は目に見えない精神力を大きく削るが、かなり楽な戦いが出来ていた分力は余っている。

 とはいえ二発目は流石に持ちそうには無い。


 狙いを護衛ゴブリン達に定めて火球を操作する。

 振りかぶる右手に火球も付いていき、右手が一気に振り下ろされると火球は勢い良く飛び出す。

 突然の炎に敵は動揺し纏めて火炎(フレイム)の餌食となる。


(これでやれたならいいんだけど、そうはいかないわよねぇ)


 見た感じ護衛のゴブリン達は全滅した様子だが、火の中で見えたロードゴブリンは煩わしげに顔を顰める。

 ゆっくりと石斧を振りかぶり、勢い良く振り下ろした。

 重い風圧が音を立てて地面へと叩きつけられ、火炎(フレイム)が風圧だけでかき消される。


 その風はキリアにも届き、赤い髪がたなびいた。


「火に耐性ありか。嫌になるなぁ」


 その上魔法を力技で掻き消す芸当付きだ。

 これでもモンスターの中では最下層なのだから、堪ったものではない。


 しかし意図した成果は十分にある。

 盾は無くなり、後はちまちまと矢でいたぶれば……


「っげ!」


 なんとロードゴブリンは今さっきまで燃えていた護衛の死体から、使える盾を見つけると左手に装備してしまった。

 あれでは体を丸められては殆ど当たらなくなる。

 一対一に持ち込むしか無さそうだ。


「弓を止めて! あいつは直接私がやる」

「姉さん……分かりました。皆さん今のうちに矢の補給を。すぐ撃てる体勢で待機してください」


 ラグルが皆を制止して弓を止めつつも、臨戦態勢でこっちを見ている。

 ハルバートを構えキリアは息を吐く。

 先ほどの攻撃でロードゴブリンもキリアを標的と決めたようだ。

 体ごと此方を向け荒い息を吐く。


「GuRuRuu……」


 ロードゴブリンの目は明らかに欲情の念もあった。


(もてる女は辛いっていうけど、もてるならもう少しマシなのがいいっての)


 キリアは心の中で毒付くと、足に力を込めて駆け出す。

 元々早さには自信がある。

 あのような重い装備を付けた木偶が相手なら押し切る。

 ハルバートを巧みに動かし連撃を放つ。

 素早い攻撃にキリアの膂力が加わった一撃だ。


 ロードゴブリンは木の盾では防がず、器用に体を逸らして全ての攻撃を石の鎧にぶつけられた。

 そのお返しとばかりに石斧を繰り出し、キリアはそれをハルバートの中心で受ける。


「うっわ!」


 僅かだがキリアの足が地面から浮く。

 すぐに地面に足を着けて強引に勢いを殺すが、受けきる積もりで腰を落としていたのに吹き飛びそうになった。

 力を甘く見ていたわけではないが、押し切れると思っていた考えを修正する。

 加えて鎧の隙間を狙って撃ったつもりだったのだが、思ったより器用だ。


 体力勝負で勝てるとも思えない。

 長引くと不利になる。


(頭を使わないとダメね。そういうのはあいつの方が得意そうなんだけど)


 舌なめずりしながらキリアはハルバートを握りなおす。


(ベルギオンならどうするか? ラグルならこういう時どう攻める?)


 キリアは考えながらロードゴブリンの攻撃を受け流す。

 受け流しは我流の為か、完全には殺せず少し手が痺れる。

 直撃よりはマシだと無視した。


「頭が痛くなってきた。考えるのはやっぱり人に任せたほうが良いわ。

 斬るのも突くのも防ぐなら、もう叩きつけるしかないじゃない」


 キリアは迷いを吹っ切ると、ハルバートを両手で掲げ円を描くように回す。

 ロードゴブリンはその攻撃に危険を感じ取ったのか、石斧を振ってくるがキリアは重心を後ろに傾けて紙一重でかわす。

 前に体を戻す勢いと共に、回転させたハルバートをロードゴブリンの頭を目掛け担ぎ下ろす。

 ロードゴブリンは首を横へ傾ける事で攻撃を肩に逃がすが、強い衝撃にたたらを踏む。

 キリアは防がれる事を予測しており、当たる瞬間に強引に腕をしならせハルバートを引き戻す。

 その勢いのままくるりと右回りに回転し、ハルバートの刃をロードゴブリンの腕目掛けて切りつける。


「AaGaa!?」


 勢いの残っていた一撃はロードゴブリンの右腕を切り落とした。

 キリアはその後軽く飛んで間合いを開ける。


 ロードゴブリンは痛みと驚きで喚きながらキリアへと突進してきた。

 武器の石斧は切り落とした右手が握ったまま。

 左肩を前面にし石の鎧で体当たりをするようだ。

 キリアは正面から敵を見据え右手でハルバートの底近くを持ち、左手で突起手前を持つ。

 そのまま力を溜める。

 突進してきているロードゴブリンは更に勢いを増してくるが、それでもキリアはまだ動かない。


「これで終わり!」


 力の込められていく四肢の筋肉が少しだけ盛り上がりを見せ、キリアが右腕を突き出すと共に引き絞られた。

 キリアの全力が込められた突きは、先ほど叩きつけた肩の鎧部分目掛けて直進する。

 お互いの勢いさえ加わった結果石の鎧は砕け、ハルバートはロードゴブリンの体を貫通した。


「――っかはぁ、きっつぅ」


 力を出し切ったキリアは、立つ事も難しくそのまま脱力して崩れ落ちる。


 その隙に近づこうとしたゴブリンはラグルの矢により始末される。

 それらを見ていたゴブリン達は、少しばかり名残惜しそうにたむろしていたものの、ゆっくりと下がっていく。

 ラグル達は弓を構えて居たが、その姿が見えなくなるとキリアへと駆け寄り、膝の上に抱く。


「姉さん! 生きてますか!?」

「いや生きてるって。疲れたっていうか力は入んないけど」

「良かった。攻撃を受けてる様子は有りませんでしたけど、嫌な倒れ方でしたから」

「あんな力入れたの久々だったわよ。……こうしてる場合じゃないんだった」


 力の入らぬ足に手を添えて踏ん張る。


「無茶です!」


 ハルバートとラグルの助けでようやく立ち上がれた。

 しかし、足が痙攣して歩こうとすると力が抜ける。



「足が震えてるじゃないですか……無理です。休んでください」

「――全然力は入らないか」


(これは戦うのは無理かな)


 キリアは一つため息をつくと、ラグルの方を向いて目を合わせた。


「ラグル、ベルギオンを助けに行きなさい」

「でも姉さんを置いては……」

「一人になるわけじゃないし、ここはもう大丈夫。それより折角守れたのにあっちで何かあったんじゃ台無しになる」

「――そう言われたら行くしかないじゃないですか。家に帰ったら看病しますから、ここで待っててください」


 ラグルは笛を二回吹くと、村へと弓を抱えて走る。

 まだ元気な何人かの男たちもそれに付いていく。

 補給で付いてきた二人も村へと向かった。

 残った者たちは心労や疲れで座り込んだ。


「生きてるよな俺たち」

「ああ生きてるよ。生きてる」

「勝ったんだな……」

「だな。あいつ等が居なくなった今は足が震えやがっていけねぇ」


 皆生きている安堵をお互い確かめ合っている。




 ――――――――――――――――





 硬質な音が響く。


「剣が欠けそうだな……」


 ベルギオンは相手の石斧と何度か打ち合うが、いずれも力負けする。

 バスターソードの材質が石よりはるかに優っているのか、未だ刃こぼれは無い。

 しかしこの調子で押され続ければどうなるかは予想できなかった。

 手数は此方が上だ。

 合間合間で斬りつけるものの、石斧の範囲に入りきれず浅いダメージしか与えられない。


(くそ、最悪を考えちまって踏み込めん)


 現状でも綱渡りに近い。圧倒的な経験不足が状況をより不利にしている。

 後ろへステップし少し間合いを取る。

 重い足音を鳴らしながら、ロードゴブリンはゆっくりと此方へ近づく。

 そのまま間合いを詰めると思っていると、突然右肩を前にしてベルギオンに向かって突進してくる。

 いきなりの事に驚くが好機と判断し、それに合わせるように首を狙ってバスターソードを振る。


「Gihihihi!」


 ロードゴブリンはそれをしゃがむ事で回避し、引っかかったベルギオンを笑う。


(フェイク!?……やばい)


 それを見た瞬間ベルギオンの心は焦りと後悔で満ち、反射的にバスターソードを前に構えて剣の背に左手を添える。

 ロードゴブリンは突進の勢いを載せた石斧を、ベルギオンに向けて振り上げた。

 石斧が体に当たる事だけは何とか防ぐ。

 しかし体勢も完全ではない状態ではもとより凌げる筈も無く、敵の力に吹き飛ばされる。

 そしてすぐに背中から叩きつけられた。後ろに家があったのだ。


「――ゲホッ」


 叩きつけられた衝撃で息が肺から搾り出される。


(これを見越して突撃してきたのなら相当手馴れている)


 立ち上がろうとするが、腰の感覚が無い。

 衝撃のせいか少し麻痺しているようだ。

 ポーションを取り出そうとするも、ロードゴブリンは止めを刺そうと石斧を振りかぶっている。

 止む無く先ほどのように剣の腹で受ける。

 受けた瞬間逃げ場の無い衝撃に両肩が抜けそうになった。

 敵がこのまま押し切ろうと力を入れているのか、より重くなる。

 その力に抗えず、少しずつ支えている剣がベルギオンに迫ってくる。


(力が強すぎて逸らそうにも剣が動かん……!)


 その時入り口から二度笛の音が聞こえる。

 あちらの戦いは勝利したようだ。


「聞いたかお前。仲間はみんなやられたとよ」


 危機的状況でありながら、ベルギオンはロードゴブリンに挑発するかのように笑いながら言う。


「GuRaRaa!!」


 言葉は分からなくとも侮辱された事は分かるのか、此れまで以上の圧力になった。

 周りの男達もなんとかしようと見ていたが、彼らではロードゴブリンにダメージを与えれない。

 何人かが石を投げるも、ロードゴブリンはそれを相手にしなかった。

 とうとう剣が眼前まで迫り、上手く腕の力が入りにくいところまで来た。

 石斧の刃が鈍い光沢を放っている。

 それが否応にも死を連想させていく。


(死にたくない。こいつに殺されるなんてごめんだ!)


 明確な死の恐怖。

 生きていて初めて感じる感情が、粘りつくようにベルギオンの心に染み付き始める。

 それでも、だからこそベルギオンは力を込める。


「俺は……生きたいんだよ。生きていたいんだ!」


 この世界に来るまで生きる楽しみは仮想にしかなかった。

 しかしこの世界にはそれがあるかもしれない。

 ベルギオンはそう考えるようになったのだ。

 懇親の力を込めた両腕は、僅かな間だが刃の押し合いを拮抗させる。

 この力が維持できなくなれば、そのまま石斧が顔に振り下ろされてしまう。


(力が……抜ける……!?)


 もう一秒とて持たぬ状況になったとき。一本の矢がロードゴブリンの手を打ち抜く。


「GaAa!?」


 ロードゴブリンは痛みからか数歩後ろへ下がり、そして矢の来た方向を見る。

 ベルギオンも同じく見ると、ラグルと何人かの男達が弓を構えていた。

 撃たれたのは一矢だけ。ラグルが気を逸らす為に撃ったのだろう。

 邪魔をされた怒りかロードゴブリンはベルギオンから完全に興味を無くし、ラグルを睨み付けている。


(まずい!――くそ、立てない!)


 ベルギオンの腰はまだ回復できておらず、力が入らない。

 ロードゴブリンはラグル目掛けて石斧を構えて走る。

 それを前に動じずラグルは撃つ。

 迫り来る敵を前に一切の怯えなく、矢を番えて更に撃つ。

 堂々たる振る舞い。数日前にゴブリンに追われて逃げていた女の子と同じ人間とは、とても思えない。

 周りの男達も覚悟を決めたのか、ありったけの矢を打ち込んでいる。


 心臓・頭・腹・肺。


 ラグルは迫り来るロードゴブリンの急所を、洗練された動作で打ち抜く。

 走ってくる速度こそ衰えるものの、急所を受けてもまだ敵は走る。

 もう一度頭に矢が打ち込まれたとき、ようやくロードゴブリンの意識が無くなり転げ落ちるように倒れこむ。

 しかし、最後の矢が刺さる寸前に奴は石斧をラグルへ向け投擲していた。

 ラグルは弓に集中しきっていて、回避が間に合わない。


 石斧がラグルの右肩を切り裂いた。


「ラグル!?」




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