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ゴブリン達との交戦

 

 ゴブリンの集団より手前に、見張り二人が走ってきているのが見える。

 足の速い者に行ってもらったので、ゴブリン達に追いつかれる様子は無い。

 加えて罠の位置を完全に暗記してもらっていた。が、罠地帯ではどうしても足が鈍るだろう。

 一手打つ必要がある。


「ラグル。見張りに当てないようにゴブリン達へ撃てるか? 当てなくても驚かせれば良い」

「いけます。……すぅ」


 ラグルは息を吸い、矢を番えて弓の弦を引く。

 ラグルが使っているのは長弓(ロングボウ)という弓だ。

 弓の上手さから、特別に村の職人がラグルへ作成したらしい。

 大きさは140センチはあり、ラグルの力では連射は出来ない。

 他の者が使っているのは、それに比べて小さい複合弓コンポジットボウだ。


「二人ともそのまま真っ直ぐ走れ! 下手に横に動くと当たるぞっ」


 見張り達は辛うじて声が聞こえたようで、走りながら小さく頷いている。


 限界まで引き絞られた弦は一切の緩みが無くなり、綺麗な姿勢でラグルはその弦を放した。

 動いたのは矢と弦を持っていた指先だけ。動作に一切のぶれが無い。


 放たれた矢は静かに風を切り、見張り二人の間をすり抜けていく。

 そして一番正面にいたゴブリンの頭へと、吸い込まれるように中る( あたる)

 ゴブリン達は突然の攻撃に動揺し、勢いが緩む。

 その間に見張りは罠地帯を抜け、一気に加速して此方へと合流する。


(100メートルは離れていたんだが、よく当たるな)


 長弓(ロングボウ)の射程は50メートル程度と聞いたことがあるが、見事な腕前だった。


「GuRaa―――!!」


 ラグルの一撃で気勢がそがれたように見えたゴブリンだが、雄たけびを繰り返すと再び勢いを取り戻す。

 地響きのような音を鳴らし、固まりとなって此方に向かってきた。

 その先頭が最初の落とし穴へと到達する。

 数匹が盛大な音を立てて、落とし穴へと落下していく。

 勢いを止まれず後続も何匹か落ちた。

 落とし穴の中には竹で作った剣山がある。

 最初に落ちたやつ等は仕留めただろう。


「矢を放て! 落とし穴に落ちなかったやつを狙え!」


 落とし穴に驚き、止まったやつから弓で討ち取る。

 ラグル以外は百歩穿楊とはいかないが、10人が続けて撃つ事で敵の数が減っていく。

 罠を迂回しようとしたやつらがトラバサミやくくり罠に掛かるが、それでも強引に突っ切るやつが出てくる。


「想定内だ。2番目の落とし穴に掛かるまで1班は先頭を減らし続けろ! 2班は罠に掛かった奴だ!」


 間を空けず雨のように降り注ぐ矢、はゴブリンを容易くハリネズミに変える。

 それでもゴブリン達は此方へと進む。

 飢えか、欲か。モンスターとはいえ、凄まじいまでの執念といえる。


「……ロードゴブリンはまだ来てないのか? ラグル、見えるか」


 見る限り普通のゴブリンばかり。

 ラグルは一矢放ち敵を仕留めた後、矢を番えながら返事をする。


「居ませんね……、しかしゴブリン達の速度が緩んでいませんから、後方には居ると思います。

 この弓の数を見て、森を盾に移動してきてるのかもしれません」

「っ、やはり少しは頭が回るのか」


 ゴブリン達が2番目の落とし穴に差し掛かる頃、1班と2班の矢筒が空になり、すぐさま後ろに控えていた3班、4班と入れ替わる。

 このペースなら3番目の落とし穴に来る頃には、ゴブリンは半分も残っていない。

 3番目の落とし穴を過ぎればくくり罠が一気に増える。集団で接近される事は無いだろう。

 そうしていると、森が僅かに揺れているのが見えた。


「GuRuu……」


 森右方向から僅かにゴブリンの声が漏れる。

 それにキリアが反応し、一気に走り寄ってハルバートの先端を声の方向へと突き刺した。

 悲鳴と共にゴブリンが倒れこむ。


「森から抜けてきたか、俺とキリアが抜けてきた奴らを潰す。5班も武器を持て!」


 少数ではあるが、森からやって来るゴブリンを倒す為にベルギオンも前に進む。


 既にキリアはハルバートを振り回し、4体目を倒していた。

 凄まじい勢いに血風が撒き散っている。

 キリアの赤い髪と合わせ、此処が戦場でなければ幻想的といっても良い。

 あれなら右は抜かれない。


 弓の射線上に出ないように道から逸れて左へと進むと、やはり此方からもゴブリンが抜けてきた。

 振り下ろしてきた棍棒を避け、膝蹴りで敵の腹を打って吹き飛ばす。

 すぐに来た次のゴブリンを、両手で構えたバスターソードで袈裟切りにした。

 血が手を濡らす。生き物を切る生理的嫌悪を、歯を食いしばり噛み殺す。

 刃についた血を除ける為振りぬくと、血が地面に叩きつけられる音が響く。


「来い! 逃げないならいくらでも叩き切るぞ!」


 そうしてベルギオンもゴブリン達を倒していく。


 やがて三つ目の落とし穴が発動し、矢の少なくなった3.4班が下がり1.2班が前に出てくる。

 この段階になれば3.4班も補充が済み次第戦列に加わる。

 ロードゴブリンがこのまま出てこないか、もしも居ないならこのままゴブリンを倒しきれば此方の勝ちだ。

 数が無ければロードゴブリンもこの火力だけで押し切れる筈……!


「――! 来ました、ロードゴブリンです!」


 ラグルが大声を出して指を指すと、明らかに大きいゴブリンが此方へと向かってきている。

 普通のゴブリンは背丈が80センチほどだが、ロードゴブリンは140センチはある。

 筋肉は一目で分かるほど盛り上がっており、右手に持っている石斧で打ち付けられれば鎧の上からでもダメージを受けるだろう。

 周囲には普通より体の一回り大きいゴブリンが5体。

 違うのは大きさだけではない。


「盾に鎧だと……」


 ロードゴブリンは胴体・足・肩に石の鎧を着ている。

 周りのゴブリンが持っているのは分厚い木の盾だ。

 重量からか歩く速度こそ遅いものの、あれでは矢が通らない。

 ロードゴブリンには鎧以外の部分は効くだろうが、あの筋肉では痛みを与える程度。

 それも木の盾で防がれる。

 ラグルの鋭い射撃で盾を持つゴブリンを一体倒すが、次から警戒されて盾に防がれてしまう。


「奴らは打っても無駄だ、こっちに来るまでに普通のゴブリンを――」


 そうベルギオンが言いかけた所で、甲高い笛の音が響いてくる。


「笛の音……このタイミングで襲撃だと!?」


 村からの笛に弓部隊が動揺し、矢の勢いが弱まる。


(阿呆か俺は! 一番最初に取り乱してどうする。こういうときの事も考えていただろうが!)


 動揺して叫んだ自身を叱り、ベルギオンは迷いを振り切る。


「怯むな、大丈夫だ! 笛が鳴ったならまだ大事になってない。俺が向かうから此処の敵を始末してくれ!」

「ここで一体でも多く倒す事が私達の役目です。後ろは任せて矢を撃ってください」


 ベルギオンに続き、ラグルが皆に激励を飛ばす。

 その声が効いたのか、弓部隊の動揺は収まって勢いを取り戻した。


 それを見届けたベルギオンは近寄ってきたゴブリンを切り倒し、キリアへ近づいて声をかける。


「キリア、村には俺が行くから此処は任す。魔法を使う裁量は任せる」

「分かった。とっとと片して帰ってこないと、こっちは全部やっちゃうわよ?」

「それならそれで楽でいいが。無理はするな、最悪下がってくれ」


 キリアはそれに手を上げる事で反応し、再びハルバートでの蹂躙へ戻る。


 ベルギオンは柵まで戻ると、バスターソードを鞘に戻して予備の弓を持って声をかける。


「予備の弓を一つ借りる。頼んだぞ」

「あんたこそ。村には女房が居るからな。頼むぜ」

「分かってる。死人は出さないさ」


 そしてベルギオンは村の中心へと向かい、走り出す。

 後ろではロードゴブリンが三番目の落とし穴のあった場所を越え、くくり罠を力で強引に破り進んでいる。

 戦っている皆を信じ、ベルギオンは笛の鳴った倉庫へと一心不乱に走った。


 5分も経たないうちに、ベルギオンは倉庫へと着く。

 そこにはゴブリンと揉み合う男たちの姿があった。

 死人こそ出ていないようだが、怪我人が数人隅で治療を受けている。

 ゴブリン達の数は15匹。男達も踏ん張っているが劣勢だった。


 やや離れた所に居るゴブリンに向かって走りながら矢を放つ。

 走っている衝撃で少し狙いはそれたが、うまく足に当たる。これでは動けまい。

 他は誤射の可能性があり、ベルギオンは止む無く弓を地面に落としてナイフを装備する。


 男に攻撃しようと背を見せているゴブリンを、後ろから首を狙って突き刺す。


「GuOo!?」


 悲鳴が上がるが、ナイフをより深く刺すとそれも無くなる。

 ナイフを引き抜き、次のゴブリンへとナイフを走らせた。

 その一撃を受けたゴブリンは鮮血を撒き散らしす。


「来たぞ! 良く耐えた!」


 男たちは駆けつけてきたベルギオンの姿に安堵を浮かべる。

 近くで肩で息をしていた男に状況を聞いておく。


「重体の奴はいるか!?」

「足や腕を殴られた奴は居るが、悪くても骨にヒビくらいで済んでる」

「上出来だ、後は俺が叩く。ゴブリンの気をそらし続けてくれ」

「分かった!」


 近づいてきた敵を更にナイフで倒す。

 ナイフなら身軽な分、バスターソードよりも相手をしやすい。

 感触の悪さはバスターソードとは比較にならなかったが。

 とはいえ安物のナイフだ。もう血と脂肪がこびりつき始めている。後2.3体で使い物にならなくなるだろう。


 やがてナイフが切れなくなれば、バスタソードを引き抜く。


「離れろ! 巻き添えを食うぞ!」


 バスターソードの長さは1メートルを超えている。

 小さいゴブリン相手では、近くに人がいれば勢い余って当たる可能性が高い。

 男たちが引いた事で、ゴブリン達の標的がベルギオンへと変わる。

 ベルギオンを見るゴブリン達はよだれを垂らし、獰猛な目をしている。


「やらせるかよ。ここはお前らの楽園じゃあ無いんだ」


 切れなくなったナイフを左手で投擲し、近くに居たゴブリンの右目に突き刺さる。

 それと同時に周りを囲み始めていたゴブリンが襲い掛かってくるが、ベルギオンは両手でしっかりとバスターソードを握り、

 右足を軸にバスター・ソードに重心を傾けて回転(・・)する。

 バスターソードは見事に円を描いてゴブリン達をなぎ払い、残ったゴブリンは4匹。

 獰猛さは影を見せ、ベルギオンに恐れをなしている様子だ。

 ベルギオンが一歩足を進めると、ゴブリンはその分後ろへと下がる。


 既に状況は決定していた。

 ゴブリン達の後ろから、もう一匹のロードゴブリンが出てくるまでは――

 森を抜けてきたのか葉を纏い、ゆっくりと此方へ寄ってくる。

 ベルギオンの後ろに居た男達が息を呑む声が聞こえた。


「伏兵ときたか。本能か経験か知らんが、畜生にしてはよくやる」


 現れたロードゴブリンは幸い材料が足りなかったのか、石斧以外は普通のゴブリンと大差の無い装備だ。

 しかし此処には弓の援護は無く、正面から戦うしかなかった。

 普通のゴブリンを含め5対1。

 入り口から援軍は、あちらがロードゴブリンを倒す合図が来るまで呼べない。


(嫌な汗が流れてるのが分かるな)


 後ろに居た男たちが加勢しようと此方に来るが、ベルギオンはそれを止める。


「いいから下がっていろ! あれで殴られれば助からんぞ」


 ロードゴブリンの武器に当たればベルギオン以外はお仕舞いだ。

 ベルギオンは武器を構えながら、焦っていく心臓を宥める為にゆっくりと深呼吸する。


「RuAa――――!!」


 対してロードゴブリンは高らかに吼え、殺意を漲らせた目で睨んできた。

 そして、笑った。明らかにベルギオンを、他の男達を嘲笑する笑いだった。

 それに釣られるように周りのゴブリン達も笑い出す。

 上から見下ろすような、不快極まる笑い声だ。


「眼中に無い、そう言いたいのか。良い事を教えてやる。

 戦いは調子に乗った奴から死ぬんだよ!」


 ベルギオンはゴブリン達にそう叫び、咄嗟に地面に落ちていた斧を蹴り上げる。

 それを右手で持って、回転するように手首にしなりを効かせて放り投げた。

 斧は勢い良く回転し、二体のゴブリンを仕留めて地面に突き刺さる。

 ロードゴブリンがそれに気を取られた僅かな合間で、ベルギオンは間合いを詰めて斬りかかった――



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