明日、愛があるなら
ここは、とある医者の大邸宅。
そこで、家政婦として勤める雛子。医者は、大学病院の外科医だ。俊介、御年42歳。厄年真っ盛りだ。
雛子は、大学を卒業したが、就職先が、見つからず、家政婦をしながら、また、来年、就職先を、探そうとしていた。御年22歳だ。
医者一家は、俊介の両親と、別れた妻との子ども、純一、10歳がいた。
純一は、雛子のことを、とても慕っていた。
姉の様に思っていたのだ。
俊介は、それを、微笑ましく、思っていた。
雛子には、大学時代からの、かなめ、という彼氏がいた。 同郷ということもあり、とても仲良くしていた。大学一年からの付き合いだ。
週末には、時間を作って、会っていた。
ある時、俊介の元の妻が、子どもを引き取りたいといってきた。もちろん、俊介の返事は、ノーだった。なら、週末に、あわせてほしい、と、言ってきたのだ。俊介は、母親の、愛情に飢えた純一を、不憫に思い、週末、母親と純一を会わせることにしたのだ。
息子のいない週末は、俊介にとって、つまらないものだった。その分、今まで、あまり話すことのなかった、雛子と、いろいろ、話しをするようになっていった。雛子も、雛子で、コワモテの俊介が、思いもかけず、話しかけてくるのに、嫌な気は、しなかった。話しをしていくうちに、2人は、打ち解けて、親子程も年が離れているのにも、かかわらず、盛り上がっていった。毎週末、俊介は、雛子との時間を、楽しみにするように、なっていた。雛子も、俊介と、いがいにも、話があうことに、驚きを隠せなかった。
時は、ながれ、俊介は、雛子に対して、淡い恋心を抱くようになっていた。でも、自分は、42歳。雛子は、22歳。自分には、子供もいる。そんな、自分を、雛子が、相手にするはずがない、と、諦めていた。このままの関係性でも、じゅうぶん、満足していたのだ。
雛子もまた、週末の俊介との楽しい時間が、好きだった。雛子は、俊介に、好意を抱きだしていた。でも、自分には、彼氏が、いる、と思い、気持ちは、出せないままだった。
2人は、お互いに、いいな、と、思いつつも、その先には、進めないでいたのだ。
そんな矢先、息子の純一が、俊介と雛子がいる前で、「雛子お姉ちゃんが、ママになってくれたらいいのに。」そう、いったのだ。俊介と、雛子は、顔を、見合わせた。気まずかった。俊介が、息子の純一に、「何を言い出すんだ。」と、とっさに、言った。
俊介の本心は、本当に、そうなってくれたら、いいのに、と、思っていた。雛子も、まんざらでは、なかった。
どんどん、2人の気持ちは、近づいていった。
そんな雛子の気持ちに、彼氏のかなめは、なんとなく気づき始めていた。かなめは、雛子に、「最近、俺との話に、上の空だけど、何かあった?」雛子は、悟られていた事に、ショックをうけたが、「何もないよ。」と、はぐらかした。実際、かなめとの関係は、2人とも、仕事をしてから、全く変わってしまっていたのだ。以前ほどの愛情を、かなめに、感じなくなっている雛子がいた。
それと、比例するように、俊介の方に、気持ちが、傾いていく、自分を、持て余していた。
俊介は、ある決意を固めていた。雛子に、一度、話して見ようと思い始めていた。
そして、いつものごとく、週末になった。俊介は、雛子のそばにいって、話し始めた。「もし、良かったら、純一の母親になってくれないか?もちろん、私も、君のことを、好きになってしまった。」続けて、「急がないから、よく、考えてみて。君はまだ、若い。」そう言って、雛子のそばを離れた。
雛子は、「わかりました。」とだけこたえた。
その日は、彼氏のかなめと、会う日だった。
かなめと食事をしながら、さっき言われたことを思い出していた。かなめは、なんとなく、2人は、ダメになるのではないか、と、直感した。かなめが聞いた。「誰か好きな人でもできた?」雛子は、首を横にふるだけだった。
「ごめんなさい」雛子は、そう言って、席を立った。かなめとの、これからのことも、いろいろ、考えたかった。
雛子は、悩んでいた。かなめと結婚すれば、何事もなく、スムーズに、いくような気がしていた。かたや、俊介となら、いきなり、母親になり、年の差も、親子程なのだ。俊介の両親が、どのように、言うのかも、わからなかった。
俊介は、両親に、打ち明けた。案の定、2人とも、大反対だった。年の差、子供の事、家柄、すべてに対して、反対だった。
それでも、俊介は、雛子への気持ちを、貫き通したかった。
雛子は、雛子で、もし、俊介と、結婚しても、うまくいくのだろうか、と、不安になっていた。
二股をかけたような感じでは、あったが、雛子は、決めかねていた。
そんなとき、息子の純一が、学校で、ケガをした、との、連絡が、入ったのだ。足を骨折したのだ。雛子は、すぐに、俊介の変わりに、学校に、かけつけて、純一と一緒に、病院に行った。しばらく、入院になることになったのだ。
両親は、怒って、俊介の姉のところに相談に行って、身を寄せるように、なったのだ。
家には、両親も、純一も、いなくなってしまった。
雛子は、俊介から、両親の反対があると聞いた。やはり、この結婚には、無理があるのだと、思っていた。
たとえ、お互いが、どんなに好きでも、しょうがいが、大きすぎると、思っていた。
俊介は、「俺はあきらめないから、俺についてきてほしい。」と、言った。
雛子は、首を横にふった。「どんなに、好きでも、結ばれない愛があると思うの。」と、言った。
俊介は、「雛子の人生、俺にかけてみてくれないか?」と言って、下を向いた。
もし、俊介が、独身で、年の差が、なかったら、雛子は、迷わず、俊介を、選んでいたと思った。でも、状況は、違っていた。
俊介は、言った。「俺のことが、少しでも、好きな気持ちがあるなら、明日、純一の病院に、一緒に行ってほしい。」
それは、俊介から、雛子への、プロポーズに、等しかった。これから、親子3人で、歩んでいくための、スタートにしたかったのだ。
俊介は、「明日まで考えてほしい。」そう言って、息をのんだ。雛子は、結論が、出るだろうか、と、思ったが、その場は、うなずいてしまった。
家に帰り、雛子は、考えに考えていた。俊介への愛は、止められない程になっている自分に、気づいたのだ。明日、病院に行くということは、大きな意味を持つことを、雛子も、理解していた。
まだ、かなめにも、気持ちを話していない。かなめには、早く話さないといけないと思っていた。かなめが、仕事が終わるのを待って、会うことにしたのだ。雛子は、言った。「話があるの。呼び出してごめん。」かなめは、少し不機嫌そうにしていた。「何かな?」とだけ、言った。雛子は、正直な気持ちを伝えた。「好きな人ができたの。」思い切って続けた。「だから、別れてほしいの。」かなめは、しばらく黙ったままだったが、「その人とは、幸せになれるの?」聞いてきた。雛子は、「わからない。」こたえた。かなめは、遠くを見つめて、「そうなんだ。」と、言った。「雛子が、何かあったら、俺、いつでも待ってるよ。」そう言って、かなめは、去っていった。
雛子は、これで明日、迷わず、俊介の胸に飛び込めると、思った。かなめには、悪かったが。
俊介は、俊介で、雛子に渡す、エンゲージリングを、用意していた。純一の前で、プロポーズをするつもりだ。でも、雛子が、来てくれるかは、わからなかった。
翌日、俊介の家に、雛子は、現れた。俊介は、「本当に、俺でいいのか?」とだけ聞いた。雛子は、迷わず、うなずいた。
その後、2人で、病院に、向かった。純一のけがは、だんだんと良くなってきていた。2人が、病室のドアをあけると、純一は、とても、喜んだ。
そして、俊介は、純一に、「雛子さんが、純一のママになってくれることになった。」と、報告したのだ。
そして、俊介は、雛子に、「俺と結婚してください。」と言って、指輪を渡した。雛子は、涙ぐみ、喜びをあらわにした。
2人に、愛がなければ、この日は、こなかったのだ。
2人は、どんな事があっても、このスタートの日を、忘れずにいようと、思っていた。




