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おまけ 花火が入院中の出来事 蛍の告白


放課後。私は体育館裏である男子を待っていた。

私に初めて告白してくれた人。

それでいて多分、私がずっと片思いしていた人。


「‥‥‥楓、まだかな」


なんとなく空を見上げながら私はつぶやく。

梅雨が明けて、だいぶ夏らしくなってきたせいか、

地平線の向こうには入道雲が見えた。

それを見ていると何故か胸がぎゅっと切なくなる。

まだ告白もしてないし、

返事だってどうなるのかわからない。

それなのに私は既にちょっと気持ちがふさがっていた。

べし、べし、と軽く自分の頬を両手で叩く。

しっかりしろ、私。

弱気になるな、私。

と自分に言い聞かせる。

そうこうしていると、

向こうの曲がり角から見覚えのある男子生徒が現れた。

私の心臓がドクンと跳ねる。

緊張して震えてしまうのをどうにか悟られないように、

私はなるべく落ち着いた調子で


「待ちくたびれたよ。楓」


と言った。


「ああ、ごめん。帰りのホームルームが長引いちゃって。

で、用事って何?」


楓は少し困ったように笑って、頭を掻いている。

いつもと変わららない楓だった。

ついこの間、すごく酷いことしたばかりだというのに、

私を恨んでいる様子は全く見受けられない。

本当は怒っているけれど、表に出さないようにしてくれてるんだろう。

楓は、優しいから。

ねえ。そういうことなんだよね。楓。


「話したかったのは、この前のこと。

私、誕生日にデートすっぽかして大和とデートに行ったでしょ?

それを謝りたかったの」


「あー‥‥‥。あれね」


と楓が苦い顔をする。

私はすぐに頭を下げた。


「あの時はごめんなさい。

あれ、全部演技だったの。

キスしたのも、楓に別れてほしいって言ったのも」


ちゃんと心を込めて謝るはずが、

プライドが邪魔をして棒読みになってしまう。

それでも、ごめんなさいと言った瞬間、

私の心のうちは炎が燃え上がるように

怒りでいっぱいになった。


「‥‥‥へ?

いやいや、さすがに嘘だろ?

あそこまでやって演技はさすがに信じられねーよ。

また今度は何を企んでるんだ?」


相変わらず楓は困った表情で笑っている。

その反応で、私のイライラは少し鎮まった。

おかしいな。

演技だってことをちゃんと信じてほしいはずなのに、

何で疑われてほっとしているんだろう。


「何も企んでないよ。

私、本当は今も楓のことが好きなの。

本当に、本当だよ。

信じて。

私たちさ、もう一度よりを戻せたりしないかな?」


と私は言った。

やっぱり悔しい気持ちが先行してしまって、

ちゃんと言葉に気持ちを込めることができない。

楓は私の告白に対して悩ましげな顔をする。

そしてややあってから


「‥‥‥仮に、蛍の言っていることが本気だったとして、

それでも、ちょっともう復縁はできないかな」


と言った。

そう言われた瞬間、私は楓に体を接近させた。

彼の右手を掴んでキスができそうなくらい顔を近づけ、

目をうるうるさせる。


「どうして?私、楓になら何でもしてあげられるよ。

もしよりを戻してくれるなら、

私の体、好きに使わせてあげるんだけどな。

私ね、これでも女子の中では発育がいい方なんだよ。

胸だって結構大きいの。

ほら触ってみてもいいよ」


そう言って、私は彼の右手を自分の胸の方へと寄せた。

楓の顔が赤くなるのが見える。

よし、これで私の胸に触れたら、楓はもう私の体から離れられなくなるはずだ。

それでこの後エッチでもすれば、あとはなし崩し的によりを戻せるだろう。

‥‥‥けれど、想定通りにはいかず、結局私の手は振り払われてしまった。

警戒するように楓が私から後ずさる。


「び、びっくりしたぁ。

急に何するんだよ」


目論見が上手くいかなかったことに私はまたイラっとした。

でも私はそれを悟られないように笑顔を作った。


「別にそんなよけなくてもいいでしょ?

楓、私の体触りたくないの?」


「いや、触りたくないわけじゃないけど、

多分、触ったら花火が傷つく気がして」


花火、という言葉が出てきて、私の胸の内にまた炎が燃え上がった。

気づいたら私は、楓に思いっきり平手打ちしていた。

ぱしん、と小気味よい音が響く。

叩かれた楓は呆気にとられた顔で頬を押さえていた。


「な、なんで?」


と楓が言う。

私はそれを無視して、楓のことをまた叩いたり引っかいたりした。


「いてててて。おい、痛いって、やめろよ」


と言って楓が私の両手首を掴む。

いくら乱暴に振り回そうとしても、

私の力では楓の手を振りほどくことはできなかった。

何故か涙がぽろぽろと溢れてくる。

何もかもどうでもよくなった私は

恥も体裁も捨てて


「好きじゃないなら、最初から私に告白なんてするな!馬鹿!」


と喚いた。

楓が「は?」と驚いた顔をする。

それから怒った顔で楓は言った。


「何言ってんだお前。俺はちゃんと蛍が好きで告白したよ。

た、確かに今は、花火のことの方が気になってるけど、

それも全部、蛍が浮気したからそうなったんだ。

何で俺が責められなきゃいけないんだよ」


「嘘つかないで!口を開けばいつも妹の話ばかりだったくせに。

デートに誘ってきたのも、

妹とケンカして寂しくなった時だけでしょ?

私わかってるんだからね。

しかもそのデートで何回私のこと花火って呼び間違えた?

どこにあんなに妹に執着する兄がいるのよ!

私は‥‥‥私は、告白さえされなければ、

楓のことが好きだって気づかずにいられたのに。

全部全部楓が悪いんだ!

無責任なことしないでよ馬鹿!!」


楓は私の言葉に何も言い返せなかったのか、

口をぱくぱくさせた。

そして、怯えるように首を横に振る。


「ち、違う!

俺はその時はまだ、花火を好きじゃなかった。

そのはずだよ。

俺はちゃんと蛍が好きだった。

全部蛍の勘違いだ」


楓の言葉に私はもう、ただ笑うしかなかった。


「やっぱり自覚なかったんだね。

悪気ないのが一番たち悪い。

‥‥‥もういい。手離して」


と私は言った。

楓がゆっくり私から手を離す。

私は楓に背を向けて、歩き出す。


「お、おい待てよ。話まだ終わってないだろ。

どこ行くつもりだよ」


と楓が私を引き留めた。


「私は言いたいこと全部言ったけど。

楓、まだ私と話すことあるの?」


と私は言った。


「‥‥‥」


と楓が無言になる。

けれど、いまだに楓はどこか不満そうな表情だった。

私はそんな彼に向かって、一つだけ忠告することにした。


「楓、いくら怖くても、自分の都合の悪い感情から逃げちゃだめだと思うよ。

ちゃんと向き合わなくちゃ。そうしないと何もわからないままだよ」


「‥‥‥お前は向き合えてるのかよ」


「‥‥‥そうだね。私も全然向き合えてないかも。

どうしたら向き合えるんだろうね」


「‥‥‥」


私の言葉を最後に、楓はもう何も言わなくなった。

私はまた彼に背を向けて歩き出した。

はあ、とため息をつく。

泣きたい気分だったけど、私は泣くのを我慢した。

全く腑に落ちないけれど、今回の件に関しては

私も加害者だから。

でもどうしても、手放しに自分が悪いとは思えない。

どうしたら、自分が悪いって心から思えるようになるんだろう。


「とりあえず、大和にはちゃんと謝らなくちゃ」


とつぶやいて、私はうんとうなづいた。

楓には全く謝る気にならないけれど、

とりあえずそのことは後回しにしよう。

私はまた歩き出した。


ここまで読んでくださりありがとうございます。

皆さんに何かとても良いことが起こりますよう

心から祈っています。

               

秋桜空間より

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