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第23話


「花火ちゃん。ちょっといい?」


翌日の昼休み、私はさっそく蛍さんから呼び出された。

教室の扉の前で蛍さんはこちらに向かって手をひらひらさせている。


「は、はい」


昼ごはんがなくてぼーっとしていた私は、すぐに立ち上がって、

蛍さんのもとへと走っていった。


「ここじゃ話しづらいから、上の空き教室に行きましょう」


と言われ、私は蛍さんに手を引かれた。

階段を上って、空き教室に入るとさっそく蛍さんは本題に入った。


「私ね、今日楓に告白しようと思うの」


「え、今日ですか?ずいぶんいきなりですね」


と私は言った。


「うん。花火ちゃんと付き合っているって噂を聞いたときに、

私本当にすごい焦ったの。

今回は嘘だったからよかったけど、

やっぱり、早く告白した方がいいなって思うんだ。

それでね、放課後楓と2人きりになりたいんだけど、

協力してくれないかな」


「は、はあ」


と私は言った。

今の話で私に手伝えることって何かあるんだろうか。

と思っていると、蛍さんは申し訳なさそうな顔で、


「花火ちゃん、楓に電話とかできる?

それで待ち合わせ場所を伝えてもらえると嬉しいんだけど」


と言った。

私は少し考えてから


「別にいいですけど、

お兄ちゃん、私の電話に出てくれるかわからないですよ。

自分で待ち合わせ場所伝えた方が良いんじゃないですか?」


と言った。

もっともらしい言葉を並べたが、正直に話してしまうと、

私は電話するのが怖いだけだった。

昨日別れたばかりなのにいきなり電話なんてしたら

あっちになんて思われるかわかったものじゃない。


「‥‥‥そ、そうだよね。やっぱりそう思うよね」


蛍さんは私の提案を否定はしなかったけれど、

全く自分から電話する様子を見せなかった。


「‥‥‥」


最終的にうつむいて、無言になってしまう。

変に思った私は蛍さんの顔を覗き込んだ。

蛍さんは眉を八の字にして顔を赤らめていた。

別にこの部屋はそこまで暑くはないはずなのだけど、

何かに追い込まれているかのように汗を掻いている。


「‥‥‥電話かけるのそんなに嫌なんですか?」


と私が聞くと、蛍さんは頭を掻きながら困ったように笑った。


「あ、あはは~。何でだろうね。

誕生日の後も私、普通に楓に話しかけてたし、

楓も普通に会話してくれてたんだけどね。

それでもなんか、今日告白するんだって思ったら

ちょっと緊張しちゃって‥‥‥」


そこまで言うと、彼女はもう一度あはは~と笑って

それからすぐに疲れた様にため息をついた。

その余裕のない様子を見て、

私はだんだんと蛍さんが気の毒に思えてきた。


「‥‥‥分かりました。やっぱり私が電話します」


と言うと、


「う、うん!そうしてくれると助かる」


と蛍さんは救われたような顔をした。

私はスマホを起動させて、ラインを開いた。

そして一度深呼吸をしてから覚悟を決めて、

お兄ちゃんに電話を掛けた。

呼び出し音が10回鳴ったところでお兄ちゃんはやっと電話に出た。


「‥‥‥もしもし。どうした?」


若干不本意そうなお兄ちゃんの声がする。


「あ、もしもし?ご、ごめんね~。いきなり電話かけちゃって」


と私は言った。

電話がつながったことが分かった蛍さんは、

私と同じかそれ以上に緊張した面持ちでこちらを見つめていた。


「別に。何か用事があるんだろ?早く言えよ」


「え、えーっと‥‥‥。うん‥‥‥」


と私は返事をした。

電話は出てくれたけど、相変わらずお兄ちゃんは冷たい。

あんまり無駄な話をするとさらに傷つけられそうなので、

私は要望通り単刀直入に伝えることにした。


「今日の放課後、体育館裏に来てほしいの。

伝えたいことはそれだけ」


「なんで体育館裏なんて行かなきゃいけないんだよ。

やだよ。行きたくないよ」


とお兄ちゃんが言った。

私は少し考えてから


「理由は言えないけど蛍さんに頼まれたの。

話したいことがあるんだって」


と言った。

さすがに告白の話はできなかったけれど、

何も理由を言わないと来てくれない可能性もあるので、

蛍さんに頼まれたということだけ伝えることにした。

お兄ちゃんも蛍さんに気があるはずなので、

これで来ないわけにはいかなくなっただろう。

案の定お兄ちゃんは蛍さんの名前にすぐ食いついた。


「蛍?なんで蛍の名前がここで出てくるんだ?

もしかして今、蛍と一緒にいるのか?」


「うん。そうだよ。いろいろと理由があって一緒にいるの」


と私が言うと、

受話器越しにお兄ちゃんが椅子から立ち上がる音が聞こえてきた。


「そうなのか。それで今、どこにいるんだ?」


「え‥‥‥」


なんだか場所を教えたらここに来そうな勢いだったので、

私は答えを渋った。

お兄ちゃんがここに来たら蛍さんは流れで、

今告白をしてしまうかもしれない。

いくら何でもそんなところに居合わせるのは辛すぎるし

耐えられる気がしなかった。


「べ、別にどこでもいいでしょ?」


と言って私は答えをごまかした。


「なんで隠すんだよ。言ったっていいだろ?」


「お兄ちゃんこそなんでそんなに知りたいの?

直接会って話したいことでもあるの?」


「別に用がなくても会いにいっていいだろ」


「‥‥‥うーん」


いつになくお兄ちゃんが積極的で私は困った。

放課後にも会えるのに、それだけじゃ足りないんだろうか。

両想いでお熱いのは結構だけど、

昨日まで彼女だった私の気持ちも少しは汲んでほしいものである。

何はともあれ、これ以上話したらお兄ちゃんの熱意に押されて

言い負かされてしまいそうだった。

私はそうなる前に


「ごめんお兄ちゃん!それじゃ!」


と言って通話を切った。

私の今の境遇を思えば、これぐらいしたって罰は当たらないだろう。

スマホから耳を離すと、隣にいた蛍さんがあたふたしていることに気が付いた。

結構長めの会話になってしまったので、

話が難航したんじゃないかと心配しているんだろう。


「とりあえず、放課後には来てくれると思います」


と私が言うと、蛍さんはほっとしたような顔で


「そっか。良かった」


と言った。


「‥‥‥告白、応援してますね」


と私は言った。

もし、今日お兄ちゃんと蛍さんが付き合うことになったら、

ここまでお膳立てした私のことを、

お兄ちゃんは少しくらい感謝してくれるだろうか。

少しくらい、冷たい態度を改めてくれるだろうか。

どうせもう私の恋は成就しないけれど、

せめてそれくらいのご褒美が私にもあるといいな、と思った。

‥‥‥やっぱり無理かな。今電話切っちゃったし。


「他に何か手伝えること、ありますか?」


と私は聞いた。


「ううん。大丈夫。ありがとう」


と蛍さんは言った。

蛍さんはふふっと笑った。


「協力してくれる人がいるのって心強いものね。

花火ちゃんには本当に感謝だわ」


「そう言ってもらえてよかったです」


「うん。それじゃ戻ろっか」


と言って私と蛍さんは教室を出ようとした。

その時だった。

ガン!と大きな音を立てて、乱暴に教室の扉が開いた。

私も蛍さんもその音にびくっと体をすくませた。


「おお、蛍。こんなところにいたのかー」


と言ってガタイの良い180㎝くらいの男子生徒が教室の中に入ってくる。

彼は右手に10㎝ぐらいのナイフを持っていた。

一体何事だろうと思っていると蛍さんが


「や、大和!?」


と言った。


「話は聞いてたぜ。お前今日あいつに告白するんだってな。

俺がそれを許すと思ったか?

お前さ、あいつに振り向いてほしくて

俺を利用したんだろ。

‥‥‥ふざけやがって。

絶対に許さねえからな!

お前ら2人だけで幸せになれるとおもってんじゃねーぞ!!」


大和と呼ばれた男子が大声でそんなことを言ったものだから、

廊下の方が徐々にざわざわし始めた。

彼は蛍さんの方にナイフを向けた。

そしてさっきとは打って変わって静かな調子で言った。


「別れるって言ったの撤回しろよ。

そしたら殺さないでやる」


「‥‥‥え?」


と蛍さんは目を見開いた。

私はだんだんと状況を理解してきた。

なんとなく見覚えのある顔だなと思っていたけれど、

どうやらこの大和という人が蛍さんの偽本命彼氏だったようだ。

蛍さんが付き合ってすぐに彼に別れを切り出したから、

彼は逆上している、といったところだろうか。

もしそうだとしたら、蛍さんにも結構非があるような気がする。

それでも、蛍さんに何かあったらお兄ちゃんが悲しむだろうし、

ここで見捨てるわけにはいかないけれど。

蛍さんはどうしても復縁はしたくないようで、

びくびくしながら


「い、嫌」


と言い首を振った。

彼氏の方は思い通りに行かなかったことに腹を立てて

そばにある机を思いっきり蹴った。

そして、更に大きな声で


「撤回しろって言ってんだろ!!」


と叫んだ。


「嫌!」


と蛍さんも泣きながら叫んだ。

そこで彼の怒りは頂点に達して、


「ふざけんなくそが!!!」


と言いながら蛍さんに向かってナイフを振り上げた。



◇◇◇◇

涼風楓。15分前。


「はい。これで授業終わりー。にっちょーく」


と現国の先生が気だるげに言う。


「きりーつ。れーい。ありがとうございましたー」


日直が挨拶をすると、ざわざわとみんなおしゃべりを始めた。


「はあ、やっと終わった」


と独り言を言いながら、俺は背もたれに寄りかかる。

最近、何もする気が起きなくて困る。

今もお昼ご飯を買いに行かなきゃいけないのに、

全く席を立つに気になれない。

いっそ今日は昼ご飯を抜きにしてずっと昼寝していようか。

と考えていると、ふと廊下から男子たちの会話が聞こえてきた。


「‥‥‥だからさ、殺そうと思うんだよ」


急に物騒な言葉が聞こえて、俺は無意識のうちに廊下を歩いている

その男たちの会話に聞き耳を立てていた。


「え?い、今何て言った?」


「だから殺そうと思うって言ったんだよ。

舐め腐ってんだろ。ブスのくせに俺のこといいように利用しやがって。

ああいう女ってさ、バカだからわかんねーんだろうな。

自分がどれだけ下の存在なのかっていうのが。

俺の顔に泥を塗ったんだから

死んで詫びさせねーとだめだろ」


自分の席が廊下側だった俺は、ちらっとその会話の主が見えて驚いた。

それは蛍の彼氏、白銀大和だったのだ。


「お、おい大和。お前大丈夫か?

なんか目据わっててこえーよ。

ちょっといったん落ち着け。

な?

からかったことは謝るからさ」


隣にいた男子が苦笑いを浮かべながら

大和をたしなめる。

けれど、それすら癪に障ったのか、

大和は顔を歪めた。


「あ?俺は冷静だよ。

ずっと思ってたことを今口に出したってだけだ。

そんな目で見んなくそが。

どうせお前、まだ俺のこと馬鹿にしてんだろ。

殺す殺すって言っておきながらどうせ殺せねーんだろって思ってんだろ。

‥‥‥いいよ。これから殺してやるよ。

おら、お前も来い。今から蛍のところに行ってやる」


蛍という言葉が聞こえて俺ははっとした。


(ど、どういうことだ?蛍と大和は今付き合ってるんだろ?

何で殺すなんて物騒な話になってるんだ?)


と心の中だけで自問した。


「いやいや、別に馬鹿にしてねーから。

ホントにいったん落ち着いた方がいいよお前。

今日は早退してゆっくり休んだ方がいいんじゃねーか。

‥‥‥っておい、待てって。どこ行くんだよ。

俺はついていかないからな!

知らねーぞ!」


片方の男子が話している間に、大和はそのまま歩き去ってしまった。


「ったく。何なんだよあいつ」


と言いながら、置いてかれた男子は反対方向へと歩いていく。


「‥‥‥」


盗み聞きしていた俺は、なんとも言えない気持ちになった。

これ、本当に放っといて良いんだろうか。

大和が仮に蛍を見つけたら、何か問題が起きるんじゃなかろうか。

さすがに殺人事件とかにはならないと思うけど。

‥‥‥うん。さすがにね。

それでも念には念を入れて大和の後を追ったほうがいいんじゃないだろうか。

と思っていると、ポケットの中のスマホが急に震えた。

何だこの忙しい時にと思って画面を見る。

そこには着信 涼風花火と表示されていた。

ドクン、と心臓が跳ねるのを感じた。

一瞬にして、デートのときのあの絶望感やイライラや罪悪感に

頭が飲まれていくのを感じた。

さっきまでの蛍を心配していた気持ちが真っ黒に塗りつぶされていく。

ずしりと、体が重くなった。

俺は電話に出るか迷った。

今は大和を追いかけるのを優先した方が良いような気もする。

けれど、花火が俺に電話してくるのはかなり珍しいし、

何か用事があることは間違いなかった。

それが何の用事なのか正直かなり気になる。

しばらく悩んでから、用件だけ聞いてすぐに切ろう、と決め

電話に出ることにした。

はあ、と大きくため息をついてから、俺は通話ボタンを押した。


「‥‥‥もしもし。どうした?」


「あ、もしもし?ご、ごめんね~。いきなり電話かけちゃって」


と花火の声が聞こえてくる。

その声から首を絞めたときの花火のか細い声が連想されて、

罪悪感に押しつぶされそうになった。

同時に、俺は何も悪くないんだという必死の弁明を頭が無意識にし始める。

罪悪感とイライラがコマのように高速で回転して、

徐々に自分の感情が分からなくなっていった。

心だけが、知らないうちにどんどん消費されていく。

ああ、やっぱり駄目だ。と俺は思った。

こいつの声を聞いてると、体力をごっそり持っていかれる。

なるべく早く会話を終わらせないと、と思った。

俺は冷たい声で


「別に。何か用事があるんだろ?早く言えよ」


と言った。


「え、えーっと‥‥‥。うん‥‥‥」


花火が悲しそうな声を出す。

そして


「今日の放課後、体育館裏に来てほしいの。

伝えたいことはそれだけ」


と単刀直入すぎる返答をしてきた。


「なんで体育館裏なんて行かなきゃいけないんだよ。

やだよ。行きたくないよ」


と俺はとっさに答えた。

理由を言われなかったせいで、俺は変な想像をしてしまったのだ。

体育館裏で2人きりになって、こいつは一体何をするつもりなんだ、

と思っていると花火が


「理由は言えないけど蛍さんに頼まれたの。

話したいことがあるんだって」


と言った。

急に出てきた蛍という言葉に、俺は驚いた。

忘れかけていたさっきの大和の会話が意識にのぼる。


「蛍?なんで蛍の名前がここで出てくるんだ?

もしかして今、蛍と一緒にいるのか?」


「うん。そうだよ。いろいろと理由があって一緒にいるの」


俺はそこまで聞いて、反射的に立ち上がっていた。

花火が蛍と一緒にいる。

大和は蛍を殺すと言っていた。

もし大和が蛍と出会ったら、そばにいる花火はどうなるんだろう。


「‥‥‥そうなのか。それで今、どこにいるんだ?」


と俺は聞いた。


「え‥‥‥」


と困ったような花火の声が聞こえてくる。

そして


「べ、別にどこでもいいでしょ?」


と言った。


「なんで隠すんだよ。言ったっていいだろ?」


「お兄ちゃんこそなんでそんなに知りたいの?

直接会って話したいことでもあるの?」


「‥‥‥別に用がなくても会いにいっていいだろ?」


「‥‥‥うーん」


と花火があまり乗り気じゃない声を出す。

居場所を教えない理由がよくわからなくて、

俺はだんだんイライラしてきた。

この際怒ってでもいいから無理やり聞き出してしまおうか、と思っていると、


「ごめんお兄ちゃん!それじゃ!」


と言われて、通話を一方的に切られてしまった。


「は!?お、おいっ!!」


と俺は大声上げてしまう。

すると、周りの生徒たちが一斉にこちらを見た。


「あ、あはは‥‥‥」


と苦笑いを浮かべながら、俺は静かにまた椅子に座った。

くそ、花火のやつなんでいきなり切るんだよ。

心の中だけで悪態をつく。

まあ、いいか。

考えてみたら、そんなに心配することでもないだろう。

どうせ、何も事件なんて起こらないだろうし、

ここで変に探しにいったって、

俺の取り越し苦労で終わるのは目に見えている。

今は貴重な昼休み時間なのだ。

ゆっくり惰眠をむさぼろう。

俺は机に突っ伏した。

頭の中を空っぽにして、目を閉じる。

‥‥‥‥‥‥‥。

‥‥‥‥‥。

‥‥。

むくっと俺は顔を上げる。

駄目だ。やっぱり気になって眠れない。

あーくそ!

俺は立ち上がって、教室を出た。

スマホを取り出して、

今度はこちらから花火に電話をかけてみる。

10秒経っても出ないので、俺は諦めて走り出した。

蛍と花火がいそうな場所。

蛍と花火がいそうな場所。

と頭の中で考える。

考えている途中でふと、なんで俺はこんなに必死になっているんだろう、と思った。

答えは自分にもよくわからなかった。

2人の場所にたどり着いたら、その答えがわかるだろうか。

でも、今はそんなことどうでもいい。

2人を見つけるために全力で走る。

ただそれだけだ。

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