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第20話

ぐう、とお腹が鳴る。

4時間目終了後の昼休み。

今日はまつりが休みで、話し相手もいないし、

お昼ご飯を食べるお金もない。

何もすることがない私は、机に突っ伏して寝たふりをしていた。

そして、昨日のお兄ちゃんとのやり取りを思い浮かべては

暗い気持ちになっていた。

プレゼント作戦は失敗に終わった。

お兄ちゃんが私に募らせている不信感が相当なものだということも分かった。

かなり悲しい気持ちになったけれど、

それで、仲直りするのを諦めるわけにはいかなかった。

私はまだ、1回挑戦しただけなのだ。

まだ、きっと何かやれることがあるはずだ。

それに、あんなに不信感を持っているのに、お兄ちゃんは

やっぱり私と付き合うのをやめるとは言わないのだ。

それはまだ私のことが好きだからじゃないだろうか。

きっとまだ希望があるはずだ。

私は次にお兄ちゃんに何をするか、頑張って考えることにした。


(あはは。涼風さん1人じゃん。かわいそう)


(ほんとだ。なんで学校来てるんだろうね。

あの子がいたって邪魔なだけなのに)


(私かわいそうですーっていうアピールじゃない?

あーすれば男が寄ってくるって知ってるんでしょ)


真剣に考えている間、周りからそんなひそひそ話が聞こえてきた。

私は胃の底が重くなるのを感じた。

入学当初、いつも遅刻ばかりしていて浮いていたことや

まつり以外の女子と全然関われなかったことが原因で、

最近、私にこういう陰口を言ってくる女子が多いのだ。

私だって1人で寂しいのは嫌だし、

他の女子と仲良くできたらいいなと思うけれど、

こんなに敵意むき出しにされると、なかなか話しかける勇気も出てこなかった。

とりあえず、居心地が悪くて考え事ができそうになかった私は、

教室を出て、人気の少ない体育館裏へと逃げた。

体育館裏に着くと、私ははあとため息をついた。

結局1人になってからも陰口を言われたショックが尾を引いて

考え事を続けることができなかった。

私はふと、自分が今までちゃんと関りを持つことができた人の数を数えてみた。

お兄ちゃん。

お母さん。

お父さん。

まつり。

‥‥‥それだけ。

他に頭に思い浮かぶ人が私にはいなかった。

お父さんとお母さんは海外勤務になって、

もう久しく帰ってきてないし、

まつりはただ顔が広いだけだ。

実はちゃんとまともに関わり合いがあるのって、

お兄ちゃんだけなんじゃないか、と私は思った。

そのお兄ちゃんとの関係も今は冷え切っている。

もし、今後お兄ちゃんに付き合うのやっぱりやめようとかって言われたら、

私はどうするんだろう。

想像して、体がぞっと寒くなった。

変に後ろ向きなことを考えるのはやめよう。

私は今、ちゃんとお兄ちゃんの彼女なのだ。

とりあえず、お兄ちゃんと仲直りする方法を考えないと。

そう思い至って、私はまた1人でアイデアを練り始めた。

私の足りない頭で思い浮かんだのは

結局、積極的に話しかけることくらいしかなかった。



昼休みの終わり、

教室へ戻ろうとしたときにたまたま私はお兄ちゃんと廊下ですれ違った。

精一杯の笑顔を作ってお兄ちゃんに手を振ってみたけれど、

お兄ちゃんは私が笑顔を作った瞬間にすぐ顔をそらした。

私はまたとても悲しい気持ちになった。




「ねえ、お兄ちゃん。一緒にバイオハザードやらない?」


学校が終わり、家に帰ってくると私はニコニコした顔で言った。

ソファに座ってテレビを見ていたお兄ちゃんは

こちらに顔を向けて、困ったように眉を下げた。


「悪い。今日は学校で出された課題をやるよ。

もうそろそろテストも近いし」


と言ってテレビを消して、ソファから立ち上がる。


「う、うん。わかった」


と私は言った。

お兄ちゃんはこちらに見向きもしないままリビングを出ていった。

私はお兄ちゃんが閉めていった扉を見つめながら、

多分、課題をやるというのは口実だろうなと思った。

きっと単純に私を避けたかっただけだろう。

お兄ちゃんがまとっていた雰囲気や態度から、

悲しいほどそれが読み取れてしまった。

もしかしたら、お兄ちゃんは私に話しかけられるのすら

うっとうしく思っているのかもしれない。

でも、もうやめることはできそうになかった。

これ以上この状況が続くのは私には苦しすぎて耐えられる気がしないのだ。



その後も私はお兄ちゃんに話しかけ続けた。

話しかける用事なんて私には何もないから、

無理やり話題をでっち上げたり、

すっごくどうでもいいことで声を掛けたりした。

1週間くらい話しかけ続けても、

お兄ちゃんは一向に私に心を開いてくれなかった。

そして、私はある日、ついに我慢できなくなって、


「ねえお兄ちゃん。私ってそんなにひどいことをしたの?」


と聞いてしまった。

それは夕方、家でいつものように話しかけて、

お兄ちゃんに逃げられそうになった時のことだ。

お兄ちゃんが私の言葉に足を止めたので、私はそのまま続けた。


「前も言ったけれど、私と優太はただ妥協で付き合っただけなんだよ?

お兄ちゃんに彼女がいるのが耐えられなくてそうしただけなの。

それってこんなに苦しめられなきゃいけないほどひどいことだったの?

お兄ちゃん、あの後私の首を思いっきり絞めたよね?

あれ、すっごく痛かったんだよ。

死ぬかと思うくらい。

それでおあいこじゃ駄目なの?

何で駄目なの?

私、お兄ちゃんの彼女じゃないの?

お兄ちゃんは私のこと愛してくれてるんじゃないの?

もう嫌だよ。

お兄ちゃんに避けられるの。

私、お兄ちゃんがいないと1人ぼっちなんだよ。

知ってた?

お願いだからもう避けないでよ。

もう苦しいのも悲しいのも嫌。

ねえ、お兄ちゃん。

何か言って。

何でずっと黙ってるの?

寂しいよ。

何か話して。

お願い」


色々爆発して長く話してしまった私に、

お兄ちゃんは驚いたように目を見開いていた。

また、いつもと同じように困った表情で眉を下げ、

それから頭を掻いた。


「ごめん。そうだよな。

俺たち、こんなんで彼氏彼女っておかしいよな」


そう言ったあと、お兄ちゃんは疲れ切ったようにうつむいた。


「なあ花火」


と名前を呼ばれた。

すごく、嫌な予感がした。

私は何故か、これから何を言われるのか

予測がついてしまった。

お兄ちゃんが口を開く。

涙がまつ毛の手前まで来て、私の視界が揺らいだ。


「ずっと考えてたんだけどさ、

俺たち別れないか? 」


「嫌だ!」


私は間髪入れずに喚くように言った。

両手で自分の顔を覆う。


「嫌だ嫌だ嫌だ!

なんでそんなこと言うの?

もうやめてよ。

これ以上悲しいこと言わないでよ。

さっき言ったことが嫌だったなら謝るから」


私は泣きながら言った。

そんな私を見て、お兄ちゃんは頭を抱えていた。


「頼む。お前と一緒にいると苦しくて仕方ないんだ。

お前とどう接したらいいのか、俺もうわかんないんだよ。

お願いだからもう解放させてくれないか」


「嫌だ!絶対別れないから!」


と言って私はさらに泣いた。

お兄ちゃんも泣いていた。

私たち2人はその夜、ずっと泣き合った。

数十分とも数時間とも思えるほど長い時間泣いて、

先に泣き止んだお兄ちゃんは、泣いている私を置いて、

1人自分の部屋へと入っていった。

結局別れる別れないの話はうやむやなまま、夜は更けていった。

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